とある少女の漂流譚
15年前に開発された「神の火」 あまりの破壊力から そう名付けられた兵器を用いた戦争により、世界は 破滅しかかった。 しかし、人は強い生き物だった。「火」を用いた2つ の超大国は、滅びの寸前で踏みとどまり戦争は終結。 人々は平和を喜び、それが続くと思っていた…… 西方自由共和連邦―15年前の戦争の当事者だったこの国にも夕暮れが差し迫っていた。 ここは国境近くの湖、一組の家族が遊びに来ていた。 少年が隣の妹に声をかける。 「せっかくここまでハイキングにきたのになあ……」 対岸を指差す。 「あの工場の灰のせいで煤だらけだ、はあ…」 対岸には大きな工場がモクモクと煙を吐き出している。 隣の白髪の妹は、笑顔で、少し残念そうに答える。 「仕方ないよ、地図にも載ってなかったし。それに……」 振り替えって車を動かそうとしている両親を眺める。 「ここでお父さんとお母さんは結婚式をしたんでし ょ?」 「その頃はここらも綺麗だったんだろうね。 あんだ け自慢するくらいだし」 そうこう話しているうちに、後ろから両親が呼ぶ声が 聞こえる。 「もう帰るよ~ 車が煤でやられちゃから~」 妹が立ち上がる。 「お母さんもああいってるし帰ろ!」 兄はまだ未練たらしく工場を見たあと立ち上がる。 その時だった。 大きな声が湖のほとりに響き渡る。 「なんだお前ら!!! 離せ!!」 「ナトール=ギルダー!! 国家反逆罪で逮捕する!!」 小柄な男を、警官....いや、(特務警察)の男たちが 押さえ込もうとしている。