03 王太子訪問の裏側1
話は第七章でユーインが手紙を受け取ったところから始まります。
なので第七章から引用した文章がちょくちょく出てきます。
大した事はないけどR15?
全然見れる内容だと思います。
簡易登場人物紹介
シェリル:本作の主人公。身体が弱い次期ヘインズ伯爵夫人
フィランダー:主人公の旦那。遊び人令息と呼ばれている。使用人からは若
パトリック:フィランダーの父。ヘインズ侯爵。王国騎士団長
ユーイン:副執事長。ヘインズ領の邸を任されている
トミー:フィランダーの侍従
ジェレミー:トミーの兄で新聞記者
ハドリー:ヘインズ侯爵家の執事長。トミー、ジェレミーの父。
シンシア:フィランダーの侍女。光魔法使いで魅了が使える。元スタートレット侯爵家の影
メイジー:トレヴァーの影。元スタートレットの影
トレヴァー:ヘインズ家専属の吟遊詩人
王太子:フィランダーの敵。フィランダーを側近にしたい
スタートレット公爵家:ヘインズ侯爵家の敵
ユーイン視点→ハドリー視点→シンシア視点
ユーインは部下の執事に使用人を集める様指示した後、緊急通信用の魔導具が置いてある部屋に急ぐ。
それは執事長室の一角にある鏡だった。
鏡の前にユーインが立つと鏡の装飾にはめ込まれている魔石に手を当てた。
「緊急連絡先、ハドリー執事長」
そう言うと鏡が一瞬ゆがんだ。
すると鏡にはこの部屋の景色ではなく、違う景色が浮かび上がった。
しばらくすると鏡から声が聞こえてきた。
「ハドリーだ。そちらは?」
「ユーインです。執事長」
「どうした?」
「若のご友人から緊急連絡です。王太子が若の留守を狙い王都のヘインズ邸へ訪問すると。狙いはシェリル様との対談」
「若にその事は?」
「知らせないで欲しいと。その上で対策を講じて欲しいそうです」
「……テナージャ派閥の影が来てもおかしくないな。分かった。そちらも警戒レベルを最大に上げろ」
「はっ」
※
ハドリーは耳についているピアスの宝石を触り通信を切った。
ピアスの宝石は鏡に使われているものと同じ。
これを身につけていれば鏡の前にいなくとも通信する事が可能なのだ。
ただし周りに怪しまれる可能性があるため、隠れた場所で使用しなければならない。
話を聞いたハドリーはすぐに行動を起こした。
またピアスの宝石に触ると今度はヘインズ家の影を取り仕切る者に連絡した。
そして通常業務に戻り、たまたま近くにいた執事にこの話をして使用人のみに伝える様に指示。
するとその執事から頭が痛くなる事を聞いた。
「そういえば先程ジェレミーを見かけました。若のところに向かいましたよ」
ジェレミーとはハドリーの嫡男で一番の問題児。
自分の後継にするべく仕込んだのに彼は新聞記者になると家を飛び出して行ったのだ。
彼の気ままな行動にはいつも頭が痛かった。
ハドリーは渋々といった足取りでフィランダーのところへ急いだ。
「すみません。愚息を見かけたと使用人から報告がありまして……ジェレミー」
目的の部屋に入ると堂々と若の隣に座る愚息がいた。
「あ、父上。俺の彼女」
シンシアの肩を抱き寄せて言うと、ハドリーはシンシアに同情の目を向ける。
「すまないシンシア。迷惑をかける」
「い、いえ……」
「ちょっと失礼します」
「え? ちょっと……ちょっと!?」
ハドリーはジェレミーの後ろ襟を掴みながら、部屋をあとにした。
執事長室まで愚息を引きずりながら部屋に入る。
もういいかとハドリーが襟を離すとジェレミーはむせた。
「ゴホッ。もう。……苦しいですよ父上」
「このくらいでへばる貴様ではあるまい」
「そうですけど。ゴホッ」
「用件は?」
「……近々王太子がこの邸に来る」
「やはりな。お前にも届いていたか」
「あ、じゃあユーインのところにも?」
「今さっき連絡があった」
「なら話が早い。警戒レベルを最大に上げて欲しい」
「それはもうやった。今は使用人にその話を広げている最中だ」
「若にバレない様にだもんね。むずいよ」
「シェリル様がいる事で気がそれている。若には悪いがこちらに任せてもらおう」
※
使用人室にいる者達に伝えたりするなどして拡散し、静かに使用人達に話が伝わった。
そして今開いているのは主人に秘密の使用人会議である。
「それ、陛下はご存知なのか? パトリック様に伝えた方が……」
「旦那様に伝えるのはやめた方が良い。こちらの使用人と若のご友人が繋がっている事を王太子はおそらく知らないだろう」
「それにさー。若のご友人も結構慌ててたみたいなんだ。かなり急に決まった事なんじゃないかな」
「とにかく。この件は我々で動こう。罰は私が責任を持って受ける。だから皆はシェリル様を守る事に全力を注いで欲しい」
それは皆一致していた様で力強くうなずいた。
「警備はどうなっている?」
ハドリーが天井に向かって言うと、声が降ってきた。
『指示通り警戒レベルを最大に上げた。影はほぼこの邸に集まっている。万が一のためヘインズ領の邸にもわずかだが配置した』
「それで良い。他に対策したい事があれば遠慮なくいってくれ」
するとシンシアが手をあげた。
「なら……万が一に備えてポーションも用意して欲しいです!」
「ポーション?」
「はい。皆様は私が元スタートレット公爵家の影であった事をご存知でしょうか?」
少しざわついたがすぐにシンシアに目が向いた。
「王太子はスタートレット公爵令息とも懇意にしておりました。おそらく魅了についての話を聞いている可能性があります」
「魅了……それを使う可能性があると?」
「はい。現在シェリル様には私ともう一人の光魔法使いの魔力が入っております。なのでシェリル様ご自身にはかかっても微量で済むと思うんです。ですが王太子の魅了の型だとシェリル様以外に影響が出る可能性もあります」
シンシアの言葉にジェレミーは待ったをかけた。
「ちょっと待って。魅了を使う自体犯罪でしょ? さすがにそんな事をするとは思えないけど」
「なので可能性の話として伝えています。何かあってからでは遅いんです。まず魅了について簡単に説明させてください」
シンシアが言うには王太子の魅了の型は拡散型らしい。
光魔法の特徴が髪に出るのがその理由だそう。
「私は瞳に光魔法の特徴が出ているので単体型です。瞳を合わせる事で魅了をかけられます。ですが王太子はある一定の範囲内にいる人全てに魅了をかける事ができるのです」
「そうだとすると……使用人や影にもかかる可能性があるという事か?」
「その通りです。そうなると知らない間に魅了にかかりシェリル様を襲う可能性が出てきます」
その言葉を聞いて、ようやく対策をした方が良いと皆が納得した。
しかしそれでも疑問に思ったジェレミーから手があがった。
「でもさー。僕達には魅了耐性のペンダントがあるし、それで対処できないの?」
「それはある程度の魅了に耐性があるだけです。強力なものに対しては防ぎ切れない可能性もあります。王太子は魔力大ですから。今回はシェリル様との対談が目的という事なのでそれ以上の事はしないと思いますが……。嫌な置き土産として魅了を使い、あとで指示を出して操るなんて可能性も十分考えられます」
「うわっ。それやったら嫌なやつ!」
「スタートレットの人間なら考えそうな事です」
『だね。王太子がスタートレットに入れ知恵されている可能性もあるかも』
話に割り込んできたのは声からしてメイジーだった。
彼女も元スタートレットの影だ。
「メイジー。いたの?」
『うん。今トレヴァーがここにお世話になってるから私にも話が回ってきた』
「元スタートレットの影の二人が言うなら間違いないかもね。父上」
「あぁ。この家全ての人間に回る様にポーションを購入しておこう」