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02 チェスター領へ帰る2






 詳しい人に伝手はなかったので、魔獣図鑑の作者に連絡を取れないか出版商会に連絡を取った。

 すると後日、五十代くらいの男性とその御夫人がうちを訪ねてきた。


「お初にお目にかかります。私は魔獣図鑑の作者、シドニー・リーコックと申します」

「その妻のアグネスと申します」


 男性は魔獣研究をしている学者だそう。

 ちなみに準男爵との事。

 奥様はその助手らしい。


「おぉ! これが……ファントムバードのヒナ」

「愛らしいわ」

『ピッ!』


 しかしヒナはそっぽ向いてチェスターから離れようとはしなかった。


「まぁ……嫌われちゃったわね」

「申し訳ございませんが、スケッチしても構いませんかな?」

「どうぞ」


 リーコック先生は素早くヒナを描いたのを見てチェスターは驚愕した。


「終わりました。ありがとうございます」

「もう終わったのですか!?」

「そこまで難しくありませんでしたからな」


 絵を見せてもらうと、そこにぷっくりと丸いヒナがいるかの様な出来。

 ヒナも目を丸くしていた。

 これをわずか二分程度で描いたとは思えないほどだ。


「魔獣はすぐ動いてしまいますからな。素早く描かねばならないのです」

「そうなのですね。あの……それで聞きたい事が……」

「はい。分かる事でしたらお答えしましょう」






 チェスターはファントムバードの生態について尋ねた。

 しかしリーコック先生は図鑑以上の事は知らなかった。


「何せファントムバードは見つける事が困難です。魔力を食べるというのも本当にたまたま分かった事なのですよ」


 この先生がファントムバードの発見者でもあった。

 彼は他の魔獣を研究中にたまたま遭遇したのだという。


「対象魔獣の死骸がありましてな。まだ魔石が残ったままのものでした。それを見つけると、その死骸に見た事がない鳥が何もないところから現れたのです」


 先生はすぐに隠れたため、その鳥には見つからなかった。

 鳥は死骸を食べる様子はなく、すぐに去って行ったらしい。


「そして死骸を覗くと魔石がただの石になっていたのです」

「魔石って魔獣の額にある宝石ですよね?」

「はい。どうやら魔力を吸い尽くしてしまうと魔石はただの石ころの様になってしまうのです。……私もその時初めて知りました。そしてあの鳥が魔力を吸い取ったのだろうと推測したのです」

「だから魔力を食べると」

「はい。たまにその鳥についての報告はありましたが、どれもすぐに見失ってしまったそうです。そこで私はその鳥をファントムバードと名付けました」


 幻の鳥。

 納得の名付けだ。


「なのでそれ以外の生態が全く分かっていないのですよ」

「そうですか。この子を親鳥が探しているかもと思ったのですが……」

「いるかもしれませんが、我々がいると姿を見せないでしょうな。元の場所に返して様子を……」


 先生がそう言った瞬間、鳥はチェスターの胸元に潜った。


「ちょ……くすぐったい。一体どうしたの?」

『ピッ!』


 鳥はここが自分の居場所とばかりに離れようとはしなかった。


「これは……懐かれましたな。チェスター様。契約してみてはいかがです?」

「でも……」

「この子はそうして欲しい様に見えますがね」


 鳥を見ると深い青のつぶらな瞳が輝いて見える。


「お祖母様はどう思います?」

「この子の食事は魔力だけなのでしょう? ならうちにはうってつけだわ。リーコック先生。ファントムバードというのは、成鳥だとどのくらいの大きさになるのかしら?」

「私が見たのが成鳥かどうかは分かりませんが、ワシくらいの大きさだったと思います。魔鳥で言うと中型の部類ですね。中型でも小さい方ですが」

「大きくなってもそのくらいならちょうど良いわ。アイリーン(チェスターの母)の了解を取り次第、契約しましょう」

「ありがとうございます!」

『ピィ!』


 鳥も嬉しそうな声をあげた。


「チェスター様。あの、大変申し訳ないお願いなのですが、是非、ファントムバードの研究にご協力頂けませんか?」

「……全てとは言えませんが、出来る限り協力しましょう」


 無理矢理な研究は絶対させたくない。


「乱暴な事は一切致しません。生態が一切わかっておりませんので、属性も全くわかっていないのですよ」

「なるほど。それは僕も知りたいので良いですよ」






 結果、ファントムバードは光、水、闇の属性をもっている事が判明。

 魔獣の属性は体毛や瞳の色、額にある魔石の色で分かる。

 白は光、青は水の特徴。

 そして闇は紫や黒。

 お腹のあたりをよく見ると白い毛の中に紫の毛が混じっていた事にチェスターが気づいたのだ。

 また、姿を消すとファントムバード自体の重みもなくなり、どこにいるのか分からなくなるという特性ももっている事が分かった。


「ウィル」

『ピッ』


 従魔になったウィルは常にチェスターの側を離れようとはしなかった。

 なぜこんなに懐いたのかは、その年の冬に分かる事となる。


 シェリルの通訳で「チェスターの魔力が美味しかったから」と聞き、チェスターは苦笑してしまった。


 可愛い従魔は意外と美食家だった様だ。






 ※






 ファントムバードはソディー領にあるソディー伯爵邸を覗いていた。

 先日、背中に乗っけていたヒナを天敵である猫の前に落としてしまったのだ。

 もちろんすぐに助けようとは思ったが、怖さで身体が動かない。

 ファントムバードは身体の大きさの割にかなり臆病な鳥なのだ。

 そこへ人間が来てヒナを助けてくれてホッとした。


 親鳥であるファントムバードも心配で外から邸を観察していたが、どうやらヒナはその場所に住みたい様だ。

 確かに助けてくれた人間の魔力は強そうだった。

 ファントムバードは強い魔力を好む魔鳥。

 どうせなら自分も置いて欲しいくらいだ。


 しかし成鳥になったファントムバードには繁殖という使命があった。

 ファントムバードは数が少ない。

 しかも生まれる数も少ない。

 そして食料となる魔力を探しているうちにヒナが力尽きる事も多いのだ。


 この子は運が良い。

 もしまた子が生まれて魔力に困ったらこの場所に来る事にしよう。


 ソディー伯爵邸の庭の木の幹を突っつき、穴が開いたところに魔力を込めた。

 するとそこには白く丸い魔石が現れた。


 マーキングしておけばまたここへ来れる。

 きっと番はまだ前にいた場所にいるだろう。


 そこを目指し、親鳥は羽を広げ飛び立って行った。





『前溺』の世界には動物と魔獣が混在しています。人の生活圏にいるのは大抵動物の方が多いです。

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