57 商会令息の本3
フィランダー視点
念のためR15
※
「……うん。内容はよかった」
「うん。内容はね」
「でも……この絵姿がなぁ……」
最後の絵姿は主人公に抱きついて胸を押し付けている姿だった。
それが主人公目線で描かれている。
顔より胸の方が気合が入っていた。
「他は……絵姿だけ見ようか」
「だね」
他のページをめくると、どれもこれも胸が強調されていた。
おっとりとしたクラスメイトは、抱きとめた時に主人公に胸が当たってしまった姿が。
本好きの物静かな友人の妹は、踏み台から落ちそうになったところ、下敷きになった主人公が誤って胸を掴んでしまった姿が。
クールな先輩は『一人でも大丈夫』と言った彼女に腹を立てた主人公によって、両手を壁に押し付けられた時にボタンが飛んでしまい、胸の谷間が見えてしまった姿が。
地味なメガネの後輩は、転びそうになった彼女を下敷きになって助けたところ、メガネがずれて美人な容姿とたわわな胸が目の前にあった姿が。
行き遅れの美人教師は、主人公が外のベンチで寝ていたところを起こし、主人公が彼女の顔と胸を下から見上げている姿が描かれていた。
「……アウトだね」
「うん。……令息も呼び出してみようかな」
「調子が良ければ私も同席してもいい?」
「構わないよ」
先に本だけを商会に返却し、後日商会長とその令息を呼び出すと、なんと令嬢も一緒だった。
「この度は大変ご迷惑をおかけしました」
そう言って商会長一家は頭を下げた。
「……まず、どういう事なのか説明してくれないか?」
「はい。まず私は息子が独自に作ったという本を見て呆れました。しかし息子は絶対に売れると譲らないのです。困り果てた時に息子が『絶対若様なら快諾くださる』と根拠のない事を言い出しまして……。それなら若様に見てもらおうと……」
「なるほどな」
そんな事に俺を巻き込むなよ。
そう思いながらフィランダーが令息に目を向けると、彼の目が泳いだ。
「まず言っておくが、この本を販売するのは反対だ。このまま出版すれば貴族のご夫人方の怒りが商会に向き、最悪潰れる恐れがある」
「え……」
令息はそれを聞いて顔が真っ青になる。
「問題は絵姿だ。絵姿が多い本は少ないからアイディアは良い。だが、胸を強調しすぎているところがよくない」
「申し訳ございません」
声を上げたのは令嬢だった。
「私はこの子の姉でございます。私は趣味で隠れて小説を書いておりました。それを……弟が勝手に持ち出し、今回の本に改変してしまったのです。私は胸を押し付けたり、胸を触るなどの事は一切書いておりませんのに……」
「まぁ……」
シェリルが呆れた目で令息を見ると、彼は小さくなった。
「なるほど。だから物語は女性でも読みやすかったのか」
「そうね。内容は一部を除けば問題がなかったから、絵姿を変えれば十分売れると思う。絵姿はご令息が?」
「は……はい……」
消えそうなこえで言う令息にシェリルが口を開いた。
「貴方が胸に興味がある事は十分分かったわ。でもね。これを見ると、女性はこう思ってしまうの。『貴方は私より胸が好みなのね』って。そう思われても良いという覚悟の上でこれを描いているの?」
すると令息は首を横に振った。
「いえ……理想の女性像を描いていたら……こんな事に……」
「どうしてこれが受けると思ったのかしら?」
「これを友人の商会令息に読んでもらったのです。そしたら興奮した様子でそう言われて……」
「これはね。成人前の男性には刺激が強すぎると思うの。それにおつき合いにも影響が出ると思うわ。これを知った女性から『こういう目で私を見ていたのね』って拒絶される事もあるかもしれない。政略結婚が多い貴族社会では特に注意すべき事なのよ」
「も……申し訳ございばぜん……」
令息は最後涙声になりながら謝罪の言葉を口にした。
「貴方には絵の才能がある事は私にも分かります」
「え……」
「胸の事に注意して描いてみて。お姉様に見てもらって。それで許可が下りたら、これをまた見せて頂戴。それなら推薦が出せるかもしれないから」
「……シェリル様?」
「シェリル。いいの?」
「いいも何も、胸があからさまで嫌だっただけよ。絵自体は綺麗だから売れると思う。商会長はどう思います?」
「えぇ。それなら。……少し内容を変える必要はあるかと思いますが……」
「では。文章をご令嬢が、絵姿をご令息が担当して共同で作ってみてはいかが? 今度は男性も描かれていると嬉しいわ」
「いいのですか?」
「それなら読みたいと思ったの。描いてくださる?」
「……はい! 頑張ります!」
彼らは晴れやかな表情になって帰って行った。
後日、その本がヘインズ侯爵邸に届けられた。
また二人で読むと、これなら推薦できると太鼓判を押した。
その本が出版されると、瞬く間に売れ、女性版の方も相乗して売れたそうだ。
女性版の作者も絵姿に惚れ込み、追加で売り出された小説の方には絵姿が追加されていた。
その後、正式に令嬢は作家になり、令息は絵師となった。
「まさかこういう結果になるとはね」
「ご令息には娼館からも話が来てるみたい」
「……どうしてシェリルが知ってるの?」
「前に個人的にお呼ばれしたのよね。フィランダーには内緒って。あ、他の人は知ってるから」
「あのアマ……」
頭に浮かぶのは桃色の髪と目を持つ女性だ。
「商会長も嬉しそうでよかったわ」
「でも二人は継がないのかな?」
「一番下にもう一人ご令息がいるそうよ。そちらの方が商売の才があるみたい」
「どうして知ってるの?」
「ユージェニー情報」
「あのアマぁ……」
何か負けた気がして嫌だ。
それにしてもシェリルには敵わない。
俺が切り捨てようとしたのを拾い上げたのだから。
やはりシェリルは俺の女神だ。
急いで描いたので元々少ない地の文がさらに少ない事に。
読みにくかったらすみません。
さらに描写力が元から低いので分かりにくかったらすみません。
簡易登場人物紹介
貴族ーーーーーーー
・シェリル・ヘインズ……『前溺』の主人公。元アストリー伯爵令嬢。
・フィランダー・ヘインズ……シェリルの夫。遊び人令息と呼ばれている。
平民ーーーーーーー
・ユージェニー……娼館の筆頭。シェリルに忠誠を誓っている。桃色の髪と瞳。




