49 流行りの少女小説3
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図書館に入ると彼は本を開いて座っていた。
主人公はその隣に座ると彼にたずねた。
『何読んでるの?』
『オススメしてくれた本。面白いね、これ』
『でしょ』
主人公が微笑むと、彼が気まずそうな顔をする。
『……聞かないのか?』
『え……』
『隠れてたろ?』
その言葉でさっき主人公が隠れて聞いていた事がバレてしまった。
『……ごめんなさい。それとありがとう。この前助けてくれたでしょ』
『あぁ。気にするな。あと謝らなくていい。逆の立場なら俺も観に行ってた』
『えー。それはうそでしょ。面倒な事に巻き込まれるよ』
『お前のためなら面倒事に巻き込まれてもいい』
『……どういう意味?』
すると彼は本を二人の顔が隠れる様に持って、キスをしてきた。
唇に彼の熱を感じて主人公は固まってしまう。
彼はゆっくり離すと口角を上げていった。
『こういう意味。……やっぱりメガネだとやりにくいな』
『……女は嫌いじゃないの?』
『香水臭くてこちらの気持ちを考えない女は嫌いなだけだ』
『……こんなに突然やらなくてもいいじゃない。……押し倒しそうになったんだけど』
『ふっ。それもいいな。やってみるか?』
『……それしたら図書館出禁になりそうだからやめとく』
幸い図書館にはたまたま二人しかいなかった。
受付担当の生徒や先生は今は席を外している。
『わざわざ本で隠す意味あったの?』
『窓があるだろ? 意外とあそこから中が見えるんだよ』
『あ……なるほど』
『それよりどうなんだよ。俺と結婚するのかしないのかはっきりしろ』
『けっ……結婚!?』
『婚約でもいいぞ』
そう言って彼はメガネを外していたずらっ子な顔で微笑んだ。 END
※
「やっぱりそうだったかぁ〜。それにしても唐突な展開だったね」
「ですね。まさか本越しにキスをするとは……よく主人公は叫びませんでしたね」
「そこは少女小説だからじゃないですか? あと令嬢だからはしたない声は出せませんよね」
「なるほど〜。これ、A選んでたらどうなってたんだろう?」
そのページまで戻りたかったが何ページか忘れてしまった。
「ネタバレになるので……」
ネルは教えてくれないので最初から初めて、最後の選択肢のAのページを開く。
※
主人公はその足で図書館へ。
すると彼が本を開いて座っていた。
『あ、あの』
『ん。何?』
『……この前助けてくれた……よね? ありがとう』
『……勘違いじゃない?』
『え』
『休み中は部屋から出てないし』
『そ、そうだったんだ』
『うん』
それから沈黙が続き、気まずい雰囲気のまま彼が用事を思い出したと部屋を後にした。
※
「えー、どうしてウソつくの!?」
「……彼はどうやら『何か見ても黙って接してくれる人』が良かったみたいです」
うわ〜、面倒臭い!
「……なかなか難しい人ですね。シェリル様は勘で正解してましたけど」
「なんかこのストーリー、王道の様でそうじゃないと思って……」
「そうなんですよ。それがこの本の魅力なんです。ちなみにそのルート。私は三周してようやく出したのですよ。これを一周でたどり着くなんて……シェリル様はこの本と相性が良いのかもしれません」
意外と簡単だった様な……でも人によっては難しいのかな?
「そうかな? まぁでも面白かったね」
「どうします? 別のルートもやりますか?」
「うーん。もうそろそろ夕食の時間だし……やめとく。これ、いつ返せばいい?」
「これは私の私物なのでいつでも良いですよ」
「本当? ならしばらくこれを読んで楽しもうかな」
「シェリル様。若と楽しんでもいいのですよ?」
「え」
「この本と同じシーンを再現したくありませんか?」
それって……本越しのキスとかをフィランダーとするって事?
「……ないわ」
「まぁ……若はやりそうですよね」
「なら、若が休みの日にこの本を一緒に読んではいかがです?」
「うーん。気が向いたらにしとく」
夕食の席で話をしていると話題は私がしていた事に移った。
「シェリルは今日何してたの?」
「皆で流行りの少女小説を読んでたよ」
するとフィランダーが苦い顔をした。
「少女小説か……」
「苦手?」
「イーディス……妹が昔、少女小説のヒーローのセリフを読めとうるさくて……」
「あぁ……」
「それからちょっと苦手なんだよ」
「意外。参考にしてそうだったのに」
「何の?」
「愛人さん達にいうセリフ」
「もういないからね!」
「でも言ってたんでしょ?」
私の問いに気まずそうに目をそらし、小さな声で答えた。
「……それは官能小説で補ってたんだよ」
「……へぇ」
「引くなよ!」
「私は官能小説の方が苦手だな。せっかく今読んでる小説一緒に読もうと思ってたんだけど……フィランダーの好みじゃないかも」
「あ、待って! 読む! 少女小説も読むから!」
「ううん。無理しないで。それより冒険小説の方が好きだからそっちでいいよ」
「読むー。読むから一緒に読もう!」
一緒に夫婦の寝室へ行ってネルの小説を開くとフィランダーが目を丸くした。
「今、こんなのあるんだ」
「私も初めて見たの。面白かったよ」
「へぇ……これなら男向けもありそうだな」
「……もしそれ買ったら一緒に読もうか。フィランダーがどんな女性を選ぶのか楽しみ」
私が微笑んで言うとフィランダーは固まってしまった。
「……俺はシェリル一筋だからね。小説の女性にも浮気しないから……そうだ。シェリルを攻略する本を書いてもらおう」
は?
「……そんなのフィランダー以外誰が読むの?」
需要がないよね?
「シェリルって難攻不落なところあるから、なかなか落とせない女性っていうので楽しめるかなって」
「あのね、フィランダー。私は案外かなり落としやすい人だと思う」
「うそだね。全然落ちないじゃん」
「フィランダーが誠実な人柄だったらすぐ落ちたよ」
その言葉にフィランダーは遊び人になった過去を後悔するのだった。
ちなみにメガネ男が剣技の授業を嫌がったのは、実力がありすぎて自分の正体がバレるからです。
このエピソードも入れたかったんですけどうまくいきませんでした。
今回この話を書いてて楽しかった反面、考える事が意外と多くて大変だと改めて思いました。
簡易登場人物紹介
貴族ーーーーーーー
・シェリル・ヘインズ……『前溺』の主人公。元アストリー伯爵令嬢。
・フィランダー・ヘインズ……シェリルの夫。遊び人令息と呼ばれている。
・イーディス・ケネット……お嫁に行ったフィランダーの妹。ワガママ。
平民ーーーーーーー
・ネル……シェリルの侍女。侍女長の娘。
・セリーナ……シェリルの侍女。シェリルに忠誠を誓っている。
・ルース……シェリルの侍女兼護衛騎士。




