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29 シェリルの影選抜会2

フィランダー→デリック→フィランダー視点






「シェリル様の影の件、お受けしたいと思います」

「え、もう?」


 もう少しかかると思っていたのに。


 目の前の男の顔が穏やかになっているのに気付いて、フィランダーは内心苦笑した。


「はい。シェリル様ならお仕えしがいがあります」

「ならサミーに決定だな。もう一人欲しいんだけど、推薦したい者はいるか?」

「……すみません。僕は外の仕事が多いもので……」

「あ、すまない。どうせなら相性がいい者同士の方がやりやすいと思っただけだから」


 そうだった。

 外の仕事は単独行動が多い。

 影と言ってもそんなに影同士仲がいいというのはない……か。

 あるとすればサミーの奥さんだ。

 彼女も影だから推薦したいところだけど、夫婦揃ってだと時間がすれ違う可能性が高いからなしだな。


 サミーが出ていくとトミーが口を開いた。


「サミーの奥方を推薦すればよかったのでは?」

「それだと仕事でしか会わなくならないか?」

「あ……そうですね。失念してました」

「どうしようかなぁ……」


 そうつぶやいたら突然執務室のドアが勢いよく開いた。






「よう! 人材探してるっていうから来たぞ」

「ノックしろノック!」

「突然開けないでくださいよ。人がいたらどうするんです!?」

「すまんすまん」

「バーナビー?」

「……すみませんでした」


 庭師長のバーナビーが丁寧にドアを閉めて中にはいると、ニカっと笑いかけてきた。


「影探してるって聞いたぞ。ちょうどいい人材がうちにいるんだ。推薦したい」

「誰だ?」

「デリック」

「デリック……あ。そういえば元は影だったっけ?」


 デリックといえばスラム街拾った人材の一人だ。

 最初は影の仕事をさせてたけど、別の仕事もさせてあげたいと思って庭師にしたんだった。


「本人から転属の話があったんだ。変えられるなら変えたいってさ。それにシェリル様に個人的に感謝してるみたいでな」

「個人的に?」

「まぁあとでここに寄越すから、話を聞いてやってくれや」






 なのでデリックを呼び出すと微笑みながらやってきた。


「シェリルの影になりたいそうだね」

「はい。探していると聞きましたので」

「……庭師の仕事はつまらなかったのか?」

「それはそれですね。楽しいですけど、やっぱり俺は影の方が性に合ってるなと」

「個人的な理由って聞いたけど」

「はい。魔力過多症の治療法を教えてくださったおかげで、親友の子どもが助かりました。ありがとうございます」

「あぁ。そういう理由だったか」

「あと妻にも後押しされまして」











「シェリル様ってすごいのね。あっという間に変えちゃって」

「何の話?」


 下女の妻の話に耳を傾けると、今日突然コリーンが下女から侍女に変わったのだという。


「前から不思議だったの。コリーンて侍女に向いてそうと思っていたけど。本当は侍女希望だったんだって」

「でも何で下女?」

「……イーディス様」

「あぁ……」


 あのワガママな若の妹様か。


「イーディス様がキレイな人しか目に入れたくないって言ったせいでなれなかったんだって。だから下女の仕事をしていたらしいの。そしたらね。今日突然コリーンの希望が通って侍女になったの。他にも転属希望者がいれば受け入れるって」

「え、それマジ?」

「マジって……庭師やめるの?」

「あー……ちょっと迷ってる」

「何。何になるの?」

「……影」

「あぁ! 前にちょっとやってたって言ってたね」

「……怒らないの?」

「どうして怒るの?」

「いや……影ってさ。その……」

「分かってるつもり。……そうだ。どうせ転属するならシェリル様の影はどう?」

「えぇ!?」

「だってシェリル様に恩があるんでしょ?」

「……うん」






 少し前。

 スラム街時代の悪ガキ仲間で兄貴分だった親友の悩みのタネが解決したのだ。


「助かったよデリック。お陰でガキはすっかり元気になって……」


 涙を流しながら礼をいう兄貴分にデリックは微笑んだ。


「よかったっすね。本当に」

「シェリル様様だよ。本当にもうすげぇ。魔法使えないのに解決するなんてすごくね?」

「俺らの考えが凝り固まってたんすよ。よく考えれば分かる事だったのに」

「だな。シランキオ人はすげぇな。俺らと違って発想ってもんが違う。お前、良い主人に出会えて幸せだな、おい」

「はい。邸の雰囲気も良いんすよ」

「いいじゃねぇか。……正直貴族の邸ってさ。ギスギスしてるもんだって周りは言うんだよ。テナージャ人のとこは特にな」

「そうなんすか? うちは意外とワガママお嬢様がいた時以外は良いですよ」

「若がいいんだろ若が。……騎士団には迷惑かけられてたけどよ。意外と手厚かったしな。うん。デリック。お前、絶対主人達を守れよ」

「え……」

「良い領主が治めるところっていうのは大体街の雰囲気もいいんだよ。急速にヘインズ領も良くなってるしな。……しかもさ。スラム街の雰囲気も良いんだよ。あんまないぞ。こんな事」

「……っすね」

「デリック。これ、受け取ってくれ」


 渡してきたのは兄貴分が働いているところの割引券だった。


「悪いな。これくらいしかできなくて……」

「ありがたいっすけど……木材っすか……」


 兄貴分が働いてるところは木材屋だ。


「これを持ってけば木材サービスしてやるからよっ」

「……ありがとうございます」


 ありがたく受け取ると、兄貴分の顔が晴れやかになっていた。






 兄貴分のそんな顔を思い出していると妻が口を開いた。


「主人を守る仕事なんてなかなかできないでしょ? ダメ元で言ってみなさい」


 そう言って妻はデリックの背中を叩いた。


「ってぇ」

「しゃんとしなさいしゃんと」

「……はい」


 妻の激励を受け取った次の日。

 庭師仲間からシェリル様の影を探している事を知り、すぐにバーナビーに伝えに行ったのだった。











「奥方からの後押しか。……うん。それなら候補に入れよう」

「ありがとうございます」

「クリフとサミーとの相性も見たいからしばらく二人と一緒に行動してくれ」


 しばらくの間三人で行動させてみると相性は良さそうだ。


「よし。シェリルの影はこの三人で決まりっと」

「デリックは意外でしたけど良さそうですね」

「うん。それにしても……」


 フィランダーが取り出したのは木材屋の割引券。

 デリックにお役立てくださいと言って押し付けられたものだ。


「これ、どうしよう?」

「……バーナビーにでも渡しておきます?」






 割引券の使い道に困っていたが、その一年後に使う事となる。

 このあと赤ちゃん魔獣のヒューを拾うのだが、急激に大きくなり、入ってはダメなところに木材で囲いを作る事に。

 デリックの兄貴分にダメ元で渡してみたところ、快く割り引いてくれたのだった。



簡易登場人物紹介



貴族ーーーーーーー


・シェリル・ヘインズ……『前溺』の主人公。元アストリー伯爵令嬢。18歳

・フィランダー・ヘインズ……シェリルの夫。遊び人令息と呼ばれている。25歳

・イーディス・ケネット……フィランダーの妹。元ヘインズ伯爵令嬢。20歳




平民ーーーーーーー



・トミー……フィランダーの侍従。童顔。25歳

・サミー……ヘインズ家の影。トミーの弟。イーディスが苦手。21歳

・クリフ……ヘインズ家の影。元執事。コリーンの夫。20歳

・バーナビー……ヘインズ家の庭師長。30歳

・デリック……ヘインズ家の影。元庭師。下女の妻がいる。23歳

・コリーン……ヘインズ家の侍女。元下女。クリフの妻。26歳

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