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27 アンバーの憂鬱2

ちょっとR15 です。






 放課後になり帰ろうと思っていたところ、クラスメイトからプリントを押し付けられてしまった。


「私、これから用事があるの。悪いけれど職員室まで出しに行ってくれない?」


 相手は上位の侯爵令嬢。

 下位の伯爵令嬢が口答えできるはずもなかった。

 仕方なく職員室に行って担任を探すとなぜかそこにヘインズ侯爵令息がいた。


「お話し中、失礼します。こちら預かって参りました」

「ん。サイアーズか。ちょうどよかった」

「え」

「申し訳ないが、ヘインズに勉強を教えてもらえないか?」


 何でも補習で挽回しないと次の学年に行くのも厳しいらしい。

 担任は私にヘインズ侯爵令息を押し付け、会議があるからと職員室を追い出されてしまった。






「なんか……すまない」

「いえ……。とりあえず話せる場所に移りましょうか」


 私が選んだ場所は談話室だった。

 ここなら話していても不思議ではない。

 それに口頭で教えるには適した場所だ。


「実は……全ての筆記科目で赤点をとってしまった」

「すっ、全てですか?」

「あぁ。俺は頭に興味のない事は入らない。だから家庭教師を常に悩ませていたのだが学園入学までには間に合わなかった」


 それってよほど家庭教師が悪……あ。


 この人の家はしっかりとした貴族だ。

 本当に優秀な人でも難しかったのかもしれない。


 え?

 何?

 それを私にやれって事?


「……私にできますかね?」

「頼む。教師にも断られた」


 ウソでしょ!?


 私は不安になりながらもその話を受ける事にした。






 次の日に談話室で待ち合わせをし、試験の答案を持ってきてもらう事になった。

 それを見て愕然とした。

 解答は全て埋めてあるものの、皆適当に書いたのではないかという文字で埋まっていたから。


「これは……」

「ひどいだろう? 家庭教師はいつも俺のこれを見てやる気をなくして去っていった」

「え……教えてもらったのですよね?」

「結果を見るなりやる気をなくされた」

「え!? ならきちんと教わった事はないのですか?」

「一日目くらいしか……」


 これは……家庭教師にも問題があった様だ。


「分かりました。一つずつ潰して行きましょう」






 ヘインズ侯爵令息に教えると、必要最低限の知識は入ったくらいには成長した。

 おそらく家庭教師達は根気がない人が多かったに違いない。


「助かった。これなら何とかなると言われた」


 追試を受けて何とか及第点をもらったそうだ。


「よかったです。あ、忘れてました。これ、受け取ってください」


 私は今日が教えるのが最後だからと。ずっと渡しそびれていたハンカチを差し出した。


「……俺が礼をする事はあっても、礼をされる事はない」

「結構前に、泣いていた私の涙を袖で拭ってくれた事がありました。あの時は、本当に気持ちが沈んでいる時だったので、助かったのです。お礼がしたいと思ってずっと渡しそびれていました。受け取ってもらえますか?」


 そこまで言うと渋々とばかりにハンカチを受け取ってもらえた。


「俺も礼がしたい。何か欲しいものはあるか?」


 欲しいもの……そう考えるとつい、それが口からこぼれてしまった。


「婚約者」

「……は?」

「え……あ。すっすみません。私ったら……何を」

「婚約したいのか?」

「あ、まぁ……そう、です。父に言われてしまったのです。学園にいる間に探し出せなかったら父が決めると」


 私は言い訳の様に捲し立てる様に言ってしまった。






 あぁ……終わった。


 そう思った時、彼から思わぬ言葉が出た。


「……いいぞ。婚約するか」

「え」

「俺は頭が悪い。だから周りに頼らないとならないが、テナージャの女性でなかなか君の様に賢い人はいない。……正直誰でもいいと思っているが派閥的にそれは許せないらしい。だから俺にも都合が良い」

「分かりました。私が貴方の苦手な部分をカバーします。だから私を婚約者にしてください」

「あぁ。よろしく頼む」


 これは契約だ。

 愛情とかそういうものではない。

 互いの利害が一致しただけ。

 でもこの人なら……隣にいたい。


 例え愛されなくてもうまくやっていける。

 私は覚悟の上で差し出された手を握った。






 数年後、私はパトリックと結婚し、アンバー・ヘインズに名前が変わった。

 そして結婚して数日経ったある日のこと。


「今日は遅かったですね」

「あぁ」

「もし、女性の方なら言ってくださいね」

「は?」

「この結婚は契約ですもの。割り切っているつもりですから」

「……君は……私が浮気していると言いたいのか?」

「違うのですか?」

「単に仕事が遅くなっただけだ。……そういえば言っていなかったか」

「え?」

「俺は君の事を愛している」

「ふぇ? ……えぇ!?」

「君と初めて会った時、好ましく感じた。泣いている女性を見てもどうせ嘘泣きだろうと思っていたが、あの時は違ったな」

「……女性の涙は嘘泣きだと?」

「何もないのにすぐに泣くところが嫌いだった。俺に寄ってくる女は大体そうだ。だがアンバーは違った。初めて女性が綺麗だと思ったよ。勉強を教わった時もラッキーだった。近づく口実ができたからな」

「……つまり、最初から私の事を知っていたのですか?」


 勉強の時はもう忘れてると思ったのに。


「そうだ。それに、婚約自体も好きじゃなきゃ受けない」


 するとパトリックは私の前へ立った。


「君にはまだ、俺の愛が伝わっていない様だ」

「パ、パトリック?」


 どういう技を使ったのか分からない早さで私はお姫様抱っこをされてしまった。


「ひゃっ」


 そしてベッドに連れていかれようやく降ろされると、いきなりパトリックからキスをしてきた。

 軽いキスからどんどん深いものに変わっていく。

 私は訳が分からず受け止めるので精一杯だった。

 ようやく離してもらえた時には私の身体から力というものは抜けていた。


「アンバー。君には愛が足りない様だ。安心しろ。俺がたっぷり注いでやる」

「え」


 そしてたっぷりとパトリックの愛を感じた私はひたすら謝っていた。


「……ごめんなさい。もう言わないから……許して」

「だめだ。まだ分かっていないだろう」

「本当に、本当に分かったからー!」






 ……あとで聞いた話によると、私の声は一晩中部屋の外まで響いていたらしい。


「ちょっとホッとしたわ。貴方達ってまるで義務って感じだったから」


 義母の言葉に私の心はちくりと痛む。


「パトリックも淡白だと思っていたから意外だったぞ」


 当の本人は黙って紅茶を飲んでいた。

 会話は正直突っ込んで欲しくない内容だったけど、この空気感は好きだ。


 こうしてのんびり皆でお茶を飲む機会なんて初めてだし。


 実家でもありえない暖かな空気がここにはあった。

 本当にここに嫁いでよかった。

 隣に座っているパトリックと目が合うと、思わずお互い笑みが溢れた。




簡易登場人物紹介




・アンバー・サイアーズ……サイアーズ伯爵令嬢。水色の髪に茶色の瞳。フィランダーの母。

・パトリック・ヘインズ……フィランダーの父。ここでは侯爵令息。


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