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03 気まずい食事会2






「ホーンオレンジフィッシュのムニエルでございます」


 魚料理が運ばれ、皆はそれを口に運び微笑みを浮かべた。


「バターとよく合いますな」

「まろやかになって良いですね」

「魚はあまり食べないから新鮮ね」

「ここは内陸ですからな」

「やはり魔法で凍らせるのですか?」

「えぇ。シランキオの方には馴染みがありませんかな?」

「そうですね。魔法は使えませんから、氷を詰めるしかないかと」

「魔道具は使わないので?」

「……ついこの前まで、シランキオ人は魔道具を使えないという認識だったものですから……」

「あぁ……陛下も知らなかったアレですな」 

 

 アレとは、ハストン商会が意図的に「シランキオ人は魔道具を使えない」と吹聴した事で、関係者がごっそり処分された事件である。

 各地の新聞にも大々的に載り、陛下は当時の教育係によって隠蔽された事を公表。教育係だった前子爵が監獄行きになった事も明らかになった。


「今後はシランキオの方にも売り出しますからね。腕がなりますな」

「そうですね。普及されればどれだけの人が助かるか……」

「シランキオの良いところはたくさんありますからな。商業ギルド同盟としては人種関係なく密におつきあいしたいところです。酒も絶品なものが多いですし、食べ物も一級品が多いのはシランキオですからな」

「ですね。私は一度王都のシランキオ人のレストランに行った事があります。……あそこの料理は絶品でした。どれもこれも今までに食べた事がない美味しさで。ここも美味しいが、あの店にはとても……」

「そういえば、実家の領で作っているチーズが王都に卸されていると聞いた事がありますわ。あまりにも希少過ぎて領主ですら口には出来ませんの」

「なんと……」

「もしかしたら、私が食べたのはそのチーズかもしれませんね」






 会話が弾んだところで、すぐに次の料理が運ばれる。


「リンゴのソルベでございます」


 黄色い氷菓が出され、食べると口の中がさっぱりとした。ほんのりとした甘さが上品で何個でも食べたくなる。


「口の中がさっぱりしますな」

「えぇ、次は肉料理ですからな。口直しには最適な一品ですね」

「……フィランダー様。私としては冒険者ギルドの横で冒険者市場を開く事については賛成なのです。……報告しなかっただけがご不満で?」

「おい」

「はっきりと言っておこう。実は我が領に昔からちょっかいをかける敵がいる」


 皆の動きが止まった。


「確証はない。だが、俺はスタートレットが敵だと睨んでいる」


 冒険者ギルド長と商業ギルド同盟長が目を見開いた。


「まさか! あそことはずっと良い関係で……」

「この領にはスタートレットに頼っているものが多いみたいだな。……つい先日の話だ。領民達が魅了にかけられていた事件はご存知かな?」

「えぇ。思わず背筋が寒くなる事件で……」

「……まさか、それをスタートレットがやったとでも!?」

「実は二十年ほど前からうちの領を取り込めないか画策しているらしくてな。おかしな話ではないだろう? この領とスタートレット領は隣接しているし」

「だからと言って……」

「実は縁談も大分前から打診を受けていたんだ。もしシェリルがいなかったら、俺はスタートレットの令嬢と結婚していた可能性もあった。陛下に命令されたら受けるしかなかったよ」

「なぜ回避出来たので?」

「あの方は俺に負い目があったからだ。俺は小さい頃から母上と共に領主経営を任されていた。それを知らなかったのだろう。陛下は息子の友達候補として俺を王都に呼び寄せたんだ。……思った以上に王都に引きとめられてな。母上は内外から敵が多い中仕事をして、ついに身体を壊し天に召されてしまった。その事が負い目なんだよ」


 一瞬音が部屋から消えた。






 そこへ次の料理が運ばれてきた。


「ブルーバイソンのステーキでございます」


 焼きたての様でまだ湯気が昇っている。


「せっかくの肉料理。冷めてしまったら勿体ないだろう」


 フィランダーの言葉で目を覚ましたかの様に、皆が動き出した。


「あ……そ……そうですな。頂きましょう」


 ナイフでスッと切れるほど柔らかい。口に運ぶとソースとマッチして思わず笑みがこぼれた。


「うん。相変わらずの美味しさですな」

「希少部位ですからね」

「この感覚がたまらない」


 舌鼓を打ったところで、話に戻る。






「……領主夫人の事は……当時大変残念に思いました。常にこちらに耳をお傾けになった貴族はあまりおりません。テナージャ人としてはかなり珍しいお方だったと……」

「左様ですね。私のつまらない話にも嬉しそうに聞いてくれましたよ。……その、内外の敵というのは私達が聞いても?」

「あぁ。外の敵は言うまでもなくスタートレットだ。中は……母上の侍女達だ。母上は実家では浮いていてな。侍女もろくなのをつけてくれなかった。その侍女達が俺の妹を可愛がり過ぎ、我儘放題に育った訳だ。母上のお諌めも全く聞かなかった。心労が溜まったのだろうな。領主経営も当時は今ほど上手くはいっていなかったから……」

「……その様な事は……全く存じ上げませんでした」

「いつもこちらへ来る時についていた侍女は……?」

「それはヘインズ家の侍女だ。信用出来るのはヘインズ家に忠誠を誓っている使用人だけだったからな」


 すると冒険者ギルド長の顔つきがだんだん険しくなった。


「どうされましたか?」

「あ……いえ。……実は先程から二十年前というのが引っかかっておりまして」

「二十年前……あ。冒険者市場が始まったあたりですな」

「思い出しました! 副ギルド長はその頃うちの冒険者ギルドに来たはずです」

「……副同盟長もその頃に採用したのです。……これは偶然でしょうか?」


 嫌な予感が当たったとばかりに、皆苦い顔を浮かべる。






 すると、最後の料理が運ばれて来た。


「フルーツタルトでございます」


 新鮮なフルーツをふんだんに使ったタルトが目の前を彩る。


「この空気を変えるに値する一品だな。いただこう」


 私も含めた皆も一様に口に運ぶ。

 甘酸っぱい新鮮なフルーツが口の中を潤す。


「間違いなく嫌な空気を吹き飛ばす一品ですな」

「あぁ。もっと欲しいくらいだ」


 一瞬だけ皆に笑みが戻った。しかし、内容が内容なだけにすぐ真剣な顔に変わる。


「実は皆に言わなければならない事がある」


 そう言ってフィランダーは懐からあるものを出した。


「これは悪意に反応がある魔道具だ」

「つまり……私達を疑っていたと」

「当然ですな」

「反応はありましたかな?」

「いいや。全く。……これで私が信用出来るものが増えた。それは喜ばしい事だろう」

「そうですな。早急に調べる事が増えましたが……」

「私は冒険者市場自体は賛成なんだ。ただ、出入り業者は厳しくして欲しい。特にスタートレット領から来る商人には厳しく調査を。私が今した様に魔道具を使っても良い」

「承知致しました」

「これは上にも報告が必要ですね」

「もしかしたら上層部も怪しいかもしれない。注意して動いて欲しい」


 皆の目の色が変わり、覚悟を決めた目でうなずき合った。



いかがでしたか?

せっかくのコース料理が美味しくなさそうな空気感でしたね。

なのでこの話は丸々ボツになりました。

ちなみに第七章13話に出てくるコース料理の順番は、この話で使ったものを参考に書きました。


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