17 ユーインの休日と子ども達2
ユーイン視点→ランドル視点→ユーイン視点→ヴィンス視点
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ランドルと騎士見習いの少年が食事を終えた頃。
ユーインは昔なじみの男と路地に置いてあった椅子に座り食事をとっていた。
「うまいだろ?」
「これは……ここで作られたもんじゃないな」
「当たり前だろ。広場で買ってきたんだよ」
手に持っているのは串が刺さった太い腸詰に切り込みを入れたもの。
魔獣の腸詰を焼いたものだそうでスパイシーな香辛料がかかっていた。
「これ、香辛料が合わない奴が多くてあまり繁盛してなかったんだよ。だから買えた様なものさ」
スラム街の者を嫌う街の住人もいるので繁盛店ではあまりいい顔されないらしい。
「ここにも料理屋はあるだろ」
「あるけどさ。たまには広場の屋台の味が恋しくなるってもんよ」
確かにスラム街の食事と比べたら雲泥の差があるだろう。
一度知ったら戻れないというやつだ。
「それで。今日は何用で?」
「……以前スラム街の子どもが誘拐された事件があっただろう」
「あれな」
「俺の耳に届かなかった理由は何だ?」
すると気まずい沈黙が流れる。
「……それはもう終わった話じゃねーか」
「お前が止めてたのか?」
「……違ぇよ」
聞けば話を止めていたのは今ここを仕切っている奴の一人だと明かした。
「あいつよそ者に厳しかったろ? 俺はユーインに報告しようとしたんだけどさ。……脅されて」
何でも彼の妹に手を上げると言われたらしい。
問題の奴は目の前のやつより強いらしく、自分の方が年上なのに強く出れない様だ。
「あいつ……またそんなくだらない事をやってるのか」
ユーインは食べ終わると少しため息をつきながら立ち上がった。
「行くのか?」
「当然だろ。今日来た理由はそれだ」
昔なじみの男にそいつの居場所を聞き出しその場をあとにした。
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ランドルはヴィンスの元へ行くと彼はバラの世話をしていた。
「ヴィンスさん」
「ランドル。今日は早いな」
「はい。やる事が少なかったので。妹は時間がかかる様ですが」
「なるほど。といっても今はやる事がないんだよな」
「なら見てていいですか?」
「それはもちろん」
ヴィンスはノートに何やら書いていた。
以前聞いたらそれは観察ノートらしい。
書き終えたのかノートを閉じたタイミングでランドルは例の事を打診してみた。
「あの、ヴィンスさん」
「ん? 何だ。改まって」
「実は今度魔道具屋に行こうと思ってるんです」
「へぇ」
「それで皆で行こうってなって。まだ何人になるか分からないのですが、誰か大人についてきてもらった方がいいかもしれなくて」
「それで俺についてきて欲しいと」
「はい」
なるほどなという顔をしたヴィンスは少し考え込んだ。
「俺、魔道具の事は詳しくないんだよな。店も知らないし」
「一応騎士団の先輩にも聞いてみるそうです」
「うん。騎士団の人がついているならいいよ。大人数じゃ大変だろうから」
「本当ですか! やった!」
ヴィンスの許可をもらったランドルは子どもらしくはしゃいだ。
その様子にまだまだ子どもだなとヴィンスは微笑ましく見ていた。
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ユーインは昔なじみから教えてもらった場所に着くと顔をしかめた。
「ずいぶん楽しそうだな」
「誰だ!」
昼間から女とお楽しみな男が叫ぶとユーインはフードを取った。
「あ……」
「話したい事がある」
「わ、分かった」
女性には出て行ってもらうとユーインはその男に向き合った。
「スラム街の子どもが誘拐されていた地域の管轄はお前だったんだな」
「そっ、それが何だよ。もう解決した話じゃねーか」
「また同じ事を起こしたくないんだよ。……降りてくれないか? 別の奴らに任せたい」
「……お前はとっくの昔にスラムを出て行ったよそもんじゃねぇか! そんな権限あるもんか」
「あるんだよ。そうか。お前は当時下っ端だったから知らないか」
「なっ何がだよ」
「ここを出て行った後、俺の主人はスラム街の解体をしようとしたんだ。それはやめてくれと訴えた代わりに、俺が任命した者達でスラム街の治安を守る事を約束させた。お前に任せた理由は他のやつからの推薦があったから決めただけ。いつでも辞めさせる事はできた。どうやら遅すぎたみたいだがな」
ユーインが殺気を放つと目の前の男が顔を青くし震えだした。
「お前は解任だ。以後任命する事はないだろう。スラム街に居着いたものはもううちの人間だ。誘拐された時点で探しもしないお前について行く者はいないだろう」
「……お、俺がここの頭だ。簡単に……渡せるかよ!」
男は大きく振り被りユーインの顔を目掛けて殴った。
しかし手は空を切った。
「あれ……」
すると男の視界が回転しいつの間にか床に転がされていた。
その上にユーインが座る。
「うっ……」
「そうか。なら選ばせてやろう。永遠に動かなくなるか、下っ端に戻るか」
「……ならここを出て……ぐ」
顔をユーインに押さえつけられ男は話せなくなった。
「出ていくという選択肢はない。出て行ってさらに害になって帰ってくる事があるかもしれないだろ? 皆に再教育してもらうのが一番平和的な道だと思うぞ。返事は」
「……わがりまじだ」
「よし。お前はしばらく謹慎だ。行くぞ」
男はユーインに引きづられながら他の頭の家へ引き渡された。
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ランドルがヴィンスから許可をもらって喜んでいるところに妹であるルシールがやってきた。
「何してるのお兄ちゃん」
「ルシール。実は皆で魔道具屋に行こうって話してたんだ。ルシールも来ない?」
「え……魔道具って私達じゃ使えないって……」
「魔力なしでも使えるんだってさ。だから……」
そういうとルシールのポケットから妖精がひょこっと顔を出した。
アゲハ蝶の羽を動かし飛び出してルシールの肩に腰をかける。
ルシールの妖精レモンだ。
黄色いバラを模した服を着ている女の子の妖精は口を尖らせた。
『レモンがいるのに魔道具に頼るの?』
「レモン……」
レモンもオレンジと同様魔道具に頼るのは我慢ならないらしい。
『僕もそう思うけど、複数の敵がきたら守れないかもしれないでしょ? だから僕が許可した魔道具しか買わないって約束したんだ』
『……ルシールもそれで約束できる? レモンが許可したものしか買っちゃダメだよ』
「うん、約束」
その様子を見ていたヴィンスは微笑ましい光景にうんうんとうなずいていた。
すると今度はヴィンスの胸ポケットから男の子の妖精が飛び出した。
ケープを着ているのはオレンジと変わらないが、彼は赤いバラのベレー帽がポイントらしい。
『ヴィンス。お前も一応買っとけ。俺が許可したものなら許す』
「お、俺も?」
『複数の敵と言われたら俺も守りきれる自信がないからな』
「買いましょう。ヴィンスさん」
「皆で買おう」
「あ、あぁ」
ヴィンスは内心焦っていた。
ヤバイ。
この前大量の図鑑買って結構使っちゃったんだよな。
「そうだな。給料日の後ならいいな。うん」
「そうですね。お金はいっぱいあった方がいいし」
何とかごまかせてほっとしたヴィンスだった。
その後はなぜかユーインの休日の話になり少し盛り上がった。




