表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/84

15 セリーナとバーナビー3











 次の休みも街へ出るとまたバーナビーと遭遇した。

 なのでお互いが休みの時は自然と一緒に街へ出た。

 セリーナも徐々に話し方が変わって自分の気持ちを素直に言えるように。

 遠乗りに行ったり食べ歩いたりする日々が楽しくてこのままこの時間がずっと続けばいいのにと思った頃。

 若が突然衝撃的な事を発した。


「好きな子ができたんだ。愛人がいると思われたくない。だから皆、結婚してくれ。できない者は残念だが紹介状を渡す」


 これには使用人全員が衝撃を受けた。


「ど、どうする?」

「どうしよう?」

「私、告白してくる!」

「あ、私も」


 動揺する侍女達をよそに、セリーナの頭にはバーナビーが浮かんでいた。

 でも、彼は特に若に頼りにされている使用人。

 自分は元敵方の密偵。

 釣り合う訳が無い。

 そう思い、私は紹介状をもらいに行こうとしたらバーナビーから呼び止められた。


「セリーナ。ちょっといいか?」

「何?」

「ちょっとついて来てくれ」






 なんだろうと思ってついて行くとバラの庭園に出た。

 庭園の中へ入るとバーナビーがようやくこちらを向いた。


「あのさ。その……好きな奴っているのか?」

「え」

「よければ……俺を選んで欲しいんだけど、ダメか?」


 ウソみたい。でも……。


「わっ。私は。バーナビーと違って出が出だし。釣り合わないんじゃ……」

「釣り合うってなんだよ」


 少し怒った口調で言うバーナビーに私は身体が硬直した。

 やだ。

 私、この人に嫌われたくない。


「だって。バーナビーは若にも信頼されてるでしょ? 私は元敵だから」

「だから?」

「好きになっちゃいけないと思って……」

「……そんな事思ってたのか」


 呆れた様に言うと真剣な眼差しでこちらを見た。


「あのな。もう俺は初めて会った時から惚れてたんだよ。あの時気に入ったって言ったのは……そういう事だっての」

「え。じゃあ」

「セリーナは俺の事どう思ってる?」

「す……好き……です」

「……良かったー」


 バーナビーはしゃがみ込んでしまった。

 私もしゃがんで彼の顔をのぞいた。


「俺、八つも上だからさ。ダメかと思ったー」

「……そんな事思ってたの?」

「俺だってそんな事思うんだよ。悪いか?」

「悪くない」


 二人で立ち上がると互いに優しくキスをした。

 ゆっくりと離すとバーナビーが口を開く。


「好きだ。俺の妻になってくれ、セリーナ」

「それ、キスする前のセリフじゃない?」

「……別に何回してもいいだろ。で、返事は?」

「はい。私のお婿さんになってください」

「……そうくると思わなかった」


 そうしてまたキスをした。

 周りのバラが祝福してくれるのかゆっくりと風に揺れていた。






 そして今、私はシェリル様について行く事になり王都に来ていた。

 今日は王都に来て初めてバーナビーとデートする予定だ。

 王都の噴水の前で待っていると遅れて夫がやってきた。


「悪い。待たせた」

「そんなに待ってないから大丈夫。むしろこっちに来てもらってごめんね」


 この日のためにわざわざヘインズ領から出てきてもらった。

 日帰りで帰れるとはいえやっぱり無理を言っているのはこちらだ。


「いや……ちょっと寝坊したんだよ。馬車には間に合ったけど」

「え、仕事?」

「……これ」


 渡してきたのは小さな箱だった。


「開けてみろよ」


 バーナビーにうながされ開けてみるとそこには指輪があった。

 その指輪をバーナビーがひょいと持ち上げ私の指へと入れる。


「……前に疲労回復のペンダントもらったろ? それで俺、セリーナに何も贈ってない事に気づいてさ。それでこれ、選んでみた」


 指輪には小さな茶色い石がついている。


「これ治癒の効果があるってさ」

「……ありがとう。よく指のサイズ分かったね」

「そっちかよ!」

「だって知らないでしょ?」

「勘だよ勘」

「それもすごい。……可愛いね。バーナビーの色だ」

「俺のも作った」


 バーナビーの指にあったのは暗めの赤い宝石がはめられた指輪だった。

 私の髪の色と同じ宝石。

 胸がだんだん熱くなるのを感じる。


「これで離れていても思い出せるだろ?」

「……遠話のアクセの方が良かったんじゃ……」

「あれバカ高いんだぞ! それに……すぐに会いたくなるだろ?」

「……それもそうだね」


 私達にはこれくらいがちょうど良い。


「さぁ。食べ歩きしよ。新しい屋台とか出てないかな?」


 二人でくっついて歩き出し、幸せを噛みしめた。











 デートの少し前。

 バーナビーはヘインズ領の魔道具店に来て悩んでいた。


「こっちの方が……いや、こっちもいいな。うわ〜わかんねぇ! どっちがいいんだ!?」

「困りましたね。奥様のために悩むのは微笑ましいですが、そろそろ退いていただかないと次のお客様が入れませんね」


 穏やかな口調でチクリと刺す言葉を言うのは、店主でフィランダーの魔道具の師匠でもあるドウェインだ。


「フィランダー様なら即決ですのに」

「値段があるだろ。若は値段見て決めないっての!」

「確かにそうですね。やはり一番良いのは奥様を連れてくる事だと思いますよ?」

「……サプライズで返したいんだよ」


 以前セリーナからの土産で疲労回復のペンダントをもらった時に衝撃が走った。

 そして自分はまだ妻にアクセサリーの一つも贈っていない事に気づいたのだ。


「それで失敗する人を山ほど見てきましたがね」

「……今回だけだ。次は一緒に来て決める」

「でしたら、これなんていかがでしょう? 治癒の付与が施してあります」


 自分の瞳の色によく似た茶色の石のリングだった。


「あ、いいな。これにする」

「ペアのリングも作れますがいかがいたしますか?」

「……妻の色の宝石があれば」


 暗めの赤い石を何点か出してもらい一番彼女の髪に似ているものを選んだ。


「これならすぐに加工できますよ」


 出来上がったリングと茶色のリングを並べると、まるで俺とセリーナの様だ。


「問題ない。二つとももらう」

「ありがとうございます」


 さりげなくドウェインに買わされた気がしたが、良い買い物だったので気分は良かった。


 デート前日。

 やっと手に入れた指輪を見て妄想しているうちに寝てしまったらしい。

 そして肝心のデートの日にバーナビーは寝坊というやらかしをしてしまったのだった。





長々と書いた割には思ったよりもコメディになりませんでしたね。

セリーナは元々無表情キャラという設定にしました。

スラム生まれというのは第四章で出てきましたしね。

(朱村は忘れていました)

それにしても、ネルはちょいちょい人の好みを外しますね。


多分本編では出てこないエピソードなので今回書きました。

急いで書いたとはいえ淡々としすぎたなぁと反省しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ