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02 気まずい食事会1

第五章の新婚旅行編のボツです。


本編では、宿屋の女将から冒険者市場でスタートレット産のものを売っていると知り、騎士団へ確認に行く……という流れのシーン。


ボツの方では女将から話を聞いた後、ツーベルの街長に冒険者市場について話を聞きたいとトミー(フィランダーの侍従)を使いに出します。

するとちょうど街長、冒険者ギルド長、商業ギルド同盟長の三人の食事会があるので、その場で話すのはどうかと提案されます。


ボツ話はその食事会のシーンです。

本編とは設定が違うところがありますが、ボツなのであまり気にしないでください。

読めばどうしてボツにしたのかが分かるかもしれません。


シェリル視点









 今日は街長、冒険者ギルド長、商業ギルド同盟長との食事会だ。

 私はフィランダーの瞳の色と同じ、水色のワンピースを着て臨む。


「緊張してる?」

「当たり前でしょ。……食事会なんてした事ないわよ」


 お茶会も出た事ないのに……。


「大丈夫……と言いたいところだけど、ちょっと我慢してね」

「うん。私も反応見たいし。……明日、寝込んだらごめんなさい」

「終わったらありったけの魔力で回復するからね。今も軽くかけとこう」


 レストランに入る前に回復をかけられるがすぐ水は消えてしまった。


「そんなに疲れてなかったみたい。ありがと、フィランダー」

「どういたしまして。さぁ、行くよ」


 私はフィランダーのエスコートでレストランに入店した。






 入るともうお三方は中にいると店の従業員が教えてくれた。従業員に連れられ、一つの部屋へ通される。


「お連れ様がお見えになりました」

「どうぞ」


 中へ入ると、三人の男が一斉に私達を見つめた。


「お待たせして申し訳ない」

「いいえ。ついさっき来たばかりですから」

「お久しぶりです。フィランダー様」

「奥方様も初めまして」


 最初に挨拶してくれたのはこの街の街長だった。


「皆様、初めまして。シェリル・ヘインズと申します」

「私が街長です。よろしくお願い致します。それにしても……お可愛らしい方を娶られましたね、フィランダー様」

「そうだろう。皆にも紹介したくて連れて来たんだ。どうも私だけだとテナージャ人寄りの意見になってしまうからね。結婚してシランキオ人の意見も必要だと確信したよ。彼女のお陰で使用人達も生き生きしていてね」

「ほぅ。それは素晴らしいですな。あぁ。私はこの街の商業ギルド同盟長です」

「最後は私ですね。冒険者ギルド長をしております」


 街長は五十代くらい。

 商業ギルド長は四十半ばといったところ。

 冒険者ギルド長は一番若く、三十行くか行かないか。


 それぞれの第一印象は意外と好意的だった。いかにもシランキオ人が嫌いですオーラは出ていない。隠すのが上手いだけかもしれないけど、まだ嫌悪感は感じなかった。






 私達が席に着いてまもなく、食事が運ばれて来た。


「チーズ入りサラダでございます」


 一口食べると、新鮮な緑の野菜とチーズの塩気がマッチして美味しい。

 パーティー並みの美味しさに私は内心驚いていた。


「今回は新婚旅行で?」

「視察も兼ねているがな。妻はあまり身体が丈夫な方ではないんだ。領内ならすぐに領都に帰れるだろう?」

「なるほど。ちょうど良い距離ですな」

「……それで? 聞きたい事があるのでは?」


 そう急かすのは冒険者ギルド長だ。


「あぁ。……冒険者市場について聞きたい。……なぜか私がこの街にいる時はやってない様だが」


 すると冒険者ギルド長と商業ギルド同盟長が固まった。


「あぁ。私も不思議でしたなぁ。そうですか。確かにフィランダー様が来られる時はやってない事が多いですね」

「街長もよく利用を?」

「えぇ。この街にはあまりないものも売っておりますからなぁ。ついつい見てしまいます」

「それは楽しそうだな。ぜひ、私も行ってみたいものだ」






 すると冒険者ギルド長が口を開いた。


「……それを管轄しているのは副ギルド長だ。私はいつも任せきりで、たまに休みにする時は単に忙しいからだと思っていた」

「では、私が来る事を知らなかったと?」

「えぇ。私もギルド長になって三年になりますが、それには気づきませんでした」

「あの……失礼ですが、随分お若くしてギルド長をなさっているのですね」

「私は伯爵の三男坊でして、冒険者として活動しておりました。A級なのですが、貴族の令息で学もあるという事でギルド長を任されたのです」

「あら。副ギルド長がギルド長になるのではないのです?」

「平民だとA級かS級にならなければなれないのです。副ギルド長はB級ですが、学があります。ですので長年務めてくれています」

「そうだったのですね。商業ギルド同盟長はいかがです? ご存知でしたの?」

「……私も副同盟長に任せていたのです。休みの日は確かにまちまちで……もしかして報告義務違反ですか?」


 それには冒険者ギルド長も固まる。


「聞けば二十年ほど前から行われているというじゃないか。私はそんなに長い間知らなかったんだ」

「ですが副同盟長は報告したと……」

「私が今泊まっている宿屋の女将に聞いて気づいたんだ。部下にも確認したが管轄が違っていた。部下が冒険者市場で直接聞いた話では管轄は冒険者ギルド。しかし女将は商業ギルド同盟と言っていた。こんなにちぐはぐな事があるか?」

「わ……私は冒険者ギルドと共同でやると……」

「うちもだ」


 どうやら怪しいのは部下達だった様だ。






 ここでスープが運ばれて来た。


「じゃがいものポタージュでございます」


 従業員が出て行くと、皆固まって動かない。


「とりあえず料理も楽しみませんこと? 冷めては勿体無いですわ」

「そ……そうですね」

「では……」


 スープを飲むとじんわりと身体の中が温まる。素朴でホッとさせる味だった。


「ここの料理は本当に美味しいですな」

「いつもここで会うので?」

「いいえ。いつもは食堂です。……秋が一番忙しいですから、冬の始まりに集まって労うとでも言いましょうか……」

「つまり年に一度の慰労会ということですよ。ここを使うのは年に一度だけの贅沢です」

「まぁ……そんな時にお邪魔してしまって……」

「いいえ、運が良かったのですよ。次期領主夫妻をおもてなし出来る最高の場ですし、今分かって良かった事もありますし……。少し複雑な気分ではありますが、よく考えてみれば不審だなと思うところもありました」

「……正直、頼りきっていたところもありましたから、私としては不徳の致す次第です」

「まだ食事は始まったばかりです。……お互いの擦り合わせをしようではありませんか」


 皆は無言でうなづいた。




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