14 セリーナとバーナビー2
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私は晴れてヘインズ家の使用人になった。
てっきり一番下の下女になると思っていたけど。
美麗の少年……フィランダーという若様がそれを否定した。
「実はさ。侍女は見目麗しい人じゃないとって妹がうるさいんだ。君、美人でしょ? だから見習い侍女ね」
美人かどうかなんて考えた事がなかった。
思えば大人が私に強く娼婦を勧めてきた。
だからかと少し納得した。
侍女という仕事が自分にできるのか不安だったが、慣れてしまえば案外悪くなかった。
こんな仕事もあるんだと感動もした。
そんな私に初めての給金が入った。
「セリーナは何に使うの? 初めての給料」
「……何に使えばいいと思う?」
「え」
「今までもらった事なかったから、分からなくて……」
「好きな事に使えばいいんじゃない? あ、服は買いなよ。皆のお古でしょ?」
「そっか。買わなきゃね」
「あ。セリーナってさ、食べるの好きじゃない? 食べ歩きとかどう?」
「食べ歩き」
「街の屋台で色んな食べ物買って立ったまま食べるのよ。行儀悪いけど。座りたかったらベンチがあるし」
「それやりたい」
初めての給料は食べ歩きに決定した。
給料をもらって初めての休みにセリーナは街へと歩き出した。
実はヘインズ家に来て初めて街に出る。
当然ここを忍び込む時にリサーチ済みなので道は知ってる。
街に入るとまずは教えてもらった屋台が集まる広場へと向かった。
広場に着くと大きな噴水の前で吟遊詩人が歌っていた。
その周りにはたくさんの屋台が食べ物を売っている。
セリーナはヘインズ家に来てからというもの、食べるという事に喜びを感じていた。
以前の食事はあくまでも栄養補給。
こんなに美味しいものがあるんだと知った時は感動して涙が出た。
以来食事の時間が楽しみになった。
ここの屋台にも美味しそうなものが並んでいるので吟味していると大男に気づいた。
あ。バーナビーって呼ばれてた人。
この人のお陰で助かったのに、どうしてかセリーナは苦手だった。
大きいから圧迫感があるからかもしれない。
見ているのに気づいたのかバーナビーが気まずそうに私の前にやってきた。
「ん。あー……休みか?」
「……はい」
「これ、食うか?」
彼は串に焼いた肉が刺さったものを指した。
美味しそう。
「はい。買います」
「いや待て」
そう言って店の店主に二人分を注文し支払ってしまった。
「やる。まぁ……使用人になった祝いってやつだ」
「あ……ありがとうございます」
お礼をしなきゃいけないのに、おごられてしまった。
でも冷めたらおいしくないので食べると口の中に幸せが広がった。
「美味しいです」
「そりゃ良かった」
肉が食べ終わると揚げ物の音が聞こえた。
あれは……芋揚げだ。
あぁやって作るんだ。
知らなかった。
食事にもたまに出てきて私のお気に入りだ。
その屋台に行き二人分買うとバーナビーに一つ渡した。
「お礼です。私が今ここにいるのは貴方のお陰ですから」
「おっ。そうか。もらう」
芋揚げを食べると外がカリカリ中がしっとりしていて美味しい。
「美味いな」
「はい」
「このあとどこか行くのか?」
「このあとは……あ。服買わなきゃ」
「服?」
「私の服、皆さんのお古なので」
「俺も行っていいか?」
「お願いします。どこに服があるのか分からないので」
「おう。こっちだ」
案内された店はバーナビーが紹介するにはらしくない、可愛らしい服が売っている店だった。
「……よく知ってましたね」
「……同僚に聞いたんだよ」
とりあえず中に入ると私には似合いそうにない服がたくさん置いてあった。
正直もっとシンプルで動きやすい服がいい。
少し見てからその店をあとにした。
「気に入らなかったか?」
「あの……私には似合いそうにないというか。もっと動きやすい服がいいので」
「冒険者用の服だったら知ってるんだけど」
「あ。そこ行きたいです」
「お前、休みは冒険者活動するつもりか?」
「いえ。動きやすい服があると思って」
「……馬には乗れるか?」
「はい。乗れます」
「なら遠乗りに行くか? ヘインズ家の馬借りてさ」
「え? いいんですか?」
「許可が下りれば借りれるんだよ。馬も運動不足解消できて一石二鳥だし」
「行きたいです」
「なら遠乗り用の服を買おう」
次に紹介された店はいかにもバーナビーらしい店だった。
彼にオススメされた服を買って店を出ると、近くに普段着に良さそうな服を売っている店を発見した。
「すみません。ここ入って良いですか?」
「あぁ」
中へ入るとシンプルなワンピースが目に入った。
「これ、着てみろよ」
「え」
「気に入ってたんだろ?」
「……はい」
私は年々胸が大きくなるのが悩みだった。
なのでサイズ調節できる服が欲しかった。
このワンピースはゆったりとした作りになっていて、腰回りには紐がついている。それで調節ができるのだ。
しかも裾が広がらずストンとしたちょっと大人っぽい落ち着いた印象になるものだった。
「どうですか?」
「……いいんじゃね?」
これの他にも良さげな服があったのでまとめて買う事にした。
「結構買ったな」
「はい。皆さんに服をお返ししなければならないので」
私は皆のお古を貸してもらっていたのだ。
だから返さなければならない。
「持つ」
「あ、ありがとうございます」
これがセリーナとバーナビーの初デートだった。
しかししばらくセリーナはそうは思っていなかった。
※
バーナビーはネルからセリーナについての情報を入手し、初めて街へ出る事を知った。
「食べ歩きするって言ってましたよ。あと服も買いに」
「服?」
「普段着持ってないから皆のお古を借りてる状態なんです」
「服屋か……知らないな」
「ここなら可愛い服が揃ってますよ」
こうしてバーナビーらしくない店を教えてもらえた。
休みに街へ出るという情報もありがたい。
誰かに捕まる前に見守らなくては。
でも……ぶっちゃけデートがしたい。
さりげなく会う方法はないだろうか。
だからあくまでさりげなく屋台のところで会うというところまで持って行くのに苦労した。
そして芋揚げをもらった時は一歩進んだと心の中で感動した。
しかも美味かったから良い思い出として残っている。
結果ぎこちなかったけど、これはデートでいいんじゃないか?
最も相手はそうは思ってなかった様だ。
なのでこの感じでじわじわと近づこう。
歳がまだ十六と聞いた時、八つも下だった事に衝撃を受けた。
だからとりあえず自分が隣にいるのが自然という状態に持って行く事にした。




