13 セリーナとバーナビー1
今回はセリーナ&バーナビー夫婦の馴れ初めと現在です。
ちょっと淡々としすぎていて甘さは足りない感じになってしまいました。
いうとすればじれじれなんですが、じれじれにもなってないかも。
簡易登場人物紹介
・セリーナ……シェリルの侍女。22歳。シェリルに忠誠を誓っている。今回の主人公
・バーナビー……ヘインズ領の邸の庭師長。30歳。セリーナの夫。元S級冒険者
・シェリル・ヘインズ……『前溺』の主人公。元アストリー伯爵令嬢。18歳
・フィランダー・ヘインズ……シェリルの夫。25歳。遊び人令息と呼ばれている
・ネル……シェリルの侍女。侍女長の娘。オペラと恋愛小説が好き
・ドウェイン……ヘインズ領の魔道具ギルド支部長。フィランダーの魔道具の師匠
基本セリーナ一人称視点。たまにバーナビー視点を挟みます。
たまにスラム街にいた時の夢を見る。
いつ来たのかは分からない。
気づいたらもう私はスラム街の一員だった。
両親はおらず私は子ども達の集団の中にいた。
そんな集団も大人達に囲われた。
そして私は選択を迫られた。
娼婦になるか、暗殺者になるか。
どちらも嫌だったけど娼婦になった人の表情がなくなるのを見て、私は暗殺者を選んだ。
でも暗殺者の才能はなかった。
なので密偵の仕事につく事になった。
素早さであれば子ども達の中では一番だったから。
数年経ち私も十六になり初めての任務が与えられた。
ヘインズ侯爵家というところに忍び込み、鍵を置いて来るだけの任務だ。
この鍵がなんなのかは分からないし、密偵なのにそれでいいのかという内容に私は若干戸惑った。
一応この依頼主の名前は聞けた。
恐らく何か重要な鍵で見つかるとまずいものなのだろう。
私は言われた通りヘインズ家に向かった。
正直初めての任務に若干緊張気味の私。
気づかれない様庭へと忍び込む事ができた。
さぁいざ邸へ……というところで私の目の前に大男が現れた。
「まだネズミが迷い込んだか」
かったるそうな声の男は私に向かって大剣を振りかざす。
私はすぐに逃げるふりをしてそのまま邸の中へ向かおうとした。
しかし私の前に突如土壁が現れた。
ぶつかりそうになる寸前で土壁を蹴って後ろにクルッと一回転をして着地する。
その途端私は急激に眠くなりそのまま目の前が暗くなってしまった。
気づくと私は椅子に座らされ手足を手錠で固定されていた。
「起きたか?」
目の前にさっきの大男がこちらを覗き込んだ。
「こっ、ここは?」
「ヘインズ家の拷問部屋だよ」
そう言ったのは美麗な少年だった。
「君の目的を聞きたくてね。でも君女の子だし。素直に言えば何もしないから心配しないで。良かったね。君、この人に気に入られて。本当は自白剤を飲ませても良かったんだよ?」
一番ヤバいのはこの美麗の少年という事に気づいた私は素直に答えた。
「鍵を置いて来いって言われた。右のズボンのポケットに入ってる」
「これ?」
私は目を見開くと美麗の少年がクスリと笑う。
「身体検査くらいするでしょ。安心して。侍女にやってもらったから」
なんだか少し複雑な気持ちになった。
「で、この鍵はなんだろうね?」
「厄介なものが入ってる鍵なんじゃね?」
「それは分かってるよ。この依頼をしたのは?」
私が答えると合点がいった様だ。
「あぁ。ここを乗っ取りたいと思ってる貴族の一人だ。きっとバックに大物がいるな。これをすぐにその貴族の元へ。たっぷりと脅してきて」
すると天井から私と同じ様な黒装束の男が降りてきて鍵を受け取り姿を消した。
「それで。君はどうされたい? 死にたい? それともここで働きたい?」
「……裏切るとは考えないの?」
「ここで働いている人は君程度一捻りだよ。それに裏切ったらその時点で切る。給金は当然定期的に出るし休みもあげるよ。仕事さえしてくれればね」
死という選択肢はなかった。
もしかしたら、ここはあそこよりもマシかもしれない。
そんな希望を持ってしまったから。
「君、名前は?」
「三十一番」
「本当の名前だよ。ないの?」
「……セリーナ」
それだけが私が小さい頃から唯一持っていたものだった。
※
深夜。
バーナビーは嫌な予感がしてヘインズ邸の庭を散歩していたらそれが的中した。
「またネズミが迷い込んだか」
この邸に勤め始めてから数えるのも面倒なほど他家からの侵入者が絶えなかった。
余程この家に恨みがあるのか。
それともこの家を乗っ取りたいのか。
バーナビーにとってそんな事はどうでもいい。
暴れる場所があるのは元冒険者のバーナビーにとって好都合。
しかしよく見ると侵入者は女。
女でも手練れなら楽しめるが彼女はそのタイプではない様だ。
ちょっとがっかりした気持ちでバーナビーは大剣を振るった。
予想通り彼女は避けて逃げようとした。
すかさず魔法を発動し土壁を作って妨害。
彼女はぶつかる直前でそれを蹴り宙に舞う。
そんな彼女の上に土魔法で出した蔓を伸ばした先に花を咲かせた。
その花から花粉を出し彼女の上に振りかける。
すぐ効果が出たのか彼女は脱力して膝をつき地面に倒れてしまった。
この花粉は眠り粉。
実はこの魔法は初めて使う。
若が土魔法ならこんな事ができると教えてくれたのだ。
もしかしたら学園で学んだのかもしれない。
「若の言う通りだったな。いつ起きるんだ?」
近づいて覆面を外すと胸の音が強く打った。
ヤバイ。
俺好みだ。
拷問部屋に連れて行くためいわゆるお姫様抱っこをするとなんだか守りたくなる様な気持ちになる。
敵に惚れるなんてまずいよな。
でも……。
とりあえず拷問部屋に連れて行き、看守に見張りを頼んでからフィランダーの元へ急いだ。
「へぇ。ネズミに惚れたんだ」
まだ二十歳にギリギリ届いていない若はニヤニヤしながらバーナビーを見ていた。
「バーナビーから懇願なんて珍しいね。女性と付き合うなんてなかった訳ないよね?」
「……本気なのはこれが初めてだ」
そんな自分に若干今も戸惑っている。
しかも彼女の顔を見るとまだ少し幼かった。
「うん。向こうに忠実な犬じゃなきゃいいよ。そうだといいね」
若いがもう立派な次期当主だ。
こういうところが甘い様で甘くない。
裏切ったらすっぱり切る。
こういうところもバーナビーは好感を持っていた。
結果、彼女は晴れて使用人になった。
キリッとした美人の彼女に男が寄り付かない様、影で牽制していたのは言うまでもない。




