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12 ドタバタのヘインズ領2

ヴィンス視点→シェリル視点






「いつ出て来るんでしょうか?」

「さぁな。俺もこんなの初めてだよ。そーいや若には伝えたんか?」

「いえ……被害がここだけなのと……本当にそんなものが出たのかと半信半疑で」


 ユーインがそういうと騎士達が続々とここへやって来た。


「遅れて申し訳ございません」

「遅い。何してたんだ?」

「虫嫌いの者が錯乱状態になり魔法を乱れ打ちしまして……。なんとか抑えてから参りました」

「……修繕が必要になりましたね。あとで騎士の予算から引かせて頂きます」

「申し訳ございません」

「虫ぐらいで……」

「虫ばかりのダンジョンに入った経験がある者でして。虫型魔獣に追いかけ回され鱗粉をかけられるわ、毒針を喰らいそうになるわで。全身にじんましんが出てかゆくなってしまいトラウマになってしまったそうです」

「あぁ! あのダンジョンか。なるほどな。きついのは分かる」


 ヴィンスは知らなかったがそのえげつないダンジョンはこの国にあるらしい。

 さぞかし人気のないダンジョンかと思いきや、妖精が出ると言われているのでそれなりににぎわっているところだそう。

 しかしかんじんの妖精の姿は今のところ誰も確認できてはいなかった。


「そういやあのダンジョンにもあいつが出るんだよな」


 バーナビーがサナギを見ながらいうと代表の騎士が首を傾げた。


「あれは……」

「地獄芋虫だよ」

「えっ。あれですか。ではまだ被害はなさそうですね」

「あぁ。だが何が起こるか分からんし、いつ出てくるかも分からねぇ。だから騎士達でここを見張らせ……」






「あ!」

「どしたヴィンス?」

「サナギが割れました」

「「は?」」


 すぐに確認すると割れたところから光がさしていた。


「なんだなんだ? 何が出てくんだよ」

「……なんだか神々しいですね」


 見ているとサナギの割れ目から人の足が出てきた。


「あ?」

「子どもの足?」


 サナギから出て来たのは人間の子どもくらい……七歳のルシールよりも小柄な女の子だった。

 バラの様なドレスをまとった可愛い令嬢の様な女の子は背中からシワシワのハネを出している。

 そのハネは一分もすると綺麗なアゲハ蝶の羽に変化した。

 彼女はこちらを振り向き、嬉しそうな顔をして飛んできた。






「わっ!」

『〜! 〜!』


 女の子は言葉にならない声でヴィンスに抱きついた。


「なっなっなんだ!?」

『〜?』


 その様子を見てバーナビーが面白がっている顔を浮かべる。


「懐かれてんな」

「え?」


 ヴィンスが間抜けな声を出すと、女の子は指からツルを出してそれをヴィンスの額につなげた。


『聞こえる?』

「あ。え……君の声?」

『そう。私は……うーんと。女神様の使いで来たよ』

「めっ女神の使い?」


 俺の言葉に皆が少女に集中した。


『うん。女神様がね。愛子が大変だから力になってあげて、だって』

「君は……誰なのかな?」

『私? 私はね。大妖精だよ。成長するとねー、精霊になるの!』

「だ……大妖精!?」

『うん。土属性のね。あ。バラごちそうさま。おいしかったよ。あなたが大事に育ててくれたってバラがあなたの事を自慢してたの。さすがね!』


 ……バラって自慢するんだ。


『本当はね。あなたと契約したいんだけど、女神様は愛子と契約しなさいっていうから〜、この子達をあげるね』


 そう言って大妖精はヴィンスに手のひらを向けた。

 すると三つのバラが現れて、それが三人の手のひらサイズの人間の子ども達に姿が変わった。


『あなたと子ども達にね。子ども達もバラがお世話になったって言ってたから』






 すると、しびれを切らしたバーナビーが口を開いた。


「おい、ヴィンス。説明しろ。何が何だか分からん」

「あ、はい」


 ヴィンスは彼女が大妖精で女神に言われて来た事。

 シェリル様と契約したいという事を伝えると周りは固まってしまった。


「なんか……シェリル様が来てから面白い事が次々起こるよな」

「えぇ。本当に」

『ちょっと〜。私の話聞いてよ!』

「あ、ごめん」


 すると妖精の男の子がヴィンスの前に来た。

 大妖精と同じくアゲハ蝶のハネを持っている。


『この子が契約するって』


 妖精の男の子は自分の額にある石に俺の指を乗せた。


『名前、つけてあげて』

「えっと……ジャレッド」


 すると妖精の男の子の魔力がヴィンスの中へと入った。

 そしてヴィンスの額についていた大妖精のツルが外れ、妖精の男の子が話し始めた。


『名前ありがとな、ヴィンス。これからよろしく。ここからは俺が通訳してやる』

「よ、よろしく」


 ちなみにもう一人の男の子の妖精『オレンジ』はランドルと、女の子の妖精『レモン』はルシールと契約した。






 地獄芋虫が実は大妖精の幼生だった事は世界に衝撃が走った。

 しかし誰一人として大妖精にする事はできなかった。

 それをジャレッドに言うと呆れた顔をした。


『当然だな。条件が整わないと無理だろ』

「条件?」

『まず最低条件として女神様の許可が必要だ』

「それは……難しいな」

『妖精なら簡単だぞ。気に入れば姿を現して契約を持ちかけるからな』

「そんな話、聞いた事ないぞ」

『伝わってるって。妖精がいるって噂のダンジョンには本当にいるんだよ。気に入る人が現れないだけ』


 話を聞くと妖精を育てようとするのは難しい事が分かった。

 余談だが大妖精の卵のからとサナギは、あのあと冒険者ギルドのオークションで高値で売れたそうだ。

 ただ、一部は若が持って行ったらしい。


 何に使うんだろう?


 あのあと、王都に向かう使用人と共に大妖精はここを離れた。

 シェリル様と契約するためらしい。

 早く行けばよかったのに、大妖精は『ここの庭から離れたくない』と言ってダラダラしていた。


『ここの庭は居心地がいいんだよ。俺もここで寝るのが気に入ってる』

「そんなに良いのか?」

『人間で言うと高級なベッド?』

「それは……離れたくないな」

『俺はここも居心地いいぞ。もう寝る』


 そう言ってジャレッドはヴィンスの腕輪に変わった。

 妖精は自由に姿を変えられるらしい。

 ジャレッドはこの方が一緒にいられて良いそうだ。


 ヴィンスは妖精を手に入れたからと言って慢心はしなかった。

 少しでもシェリル様の役に立つため、庭師の仕事に邁進した。











 大妖精が現れる前日。

 王都のヘインズ邸に教会にいる精霊の愛子から手紙が届いていた。


「呼び出しかな?」


 そう思いながら私は手紙を読んだ。

 そこには女神様から私へのプレゼントが近々届くから驚かないでくれと書いてあった。


「シェリル様、なんて書いてあったのです?」

「女神からプレゼントが届くって。……なんだろ?」

「きっと良いものですよ」


 それが届くのに半月も待つとは夢にも思わなかった。



バラの育て方に関しては自信がありませんのでこれを鵜呑みにしないでください。

(ネットの情報を拾ってきただけです。作者はバラを育てた事がありません)

ちなみにこのネタは以前から考えていましたが、本編に入れるかはまだ検討中です。



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