表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/84

11 ドタバタのヘインズ領1

今回はドタバタメインです。

第7章の少し先の物語になります。

(本編に入れるかは検討中です)

久々に第6章で正式に仲間になった庭師のヴィンスが主人公の話です。

簡易登場人物紹介を見ても思い出せない人は第6章03をお読みください。





簡易登場人物紹介

・ヴィンス……ヘインズ領の邸の庭師。31歳の新人。第6章で使用人になる。

・バーナビー……ヘインズ領の邸の庭師長。30歳。セリーナの夫。元S級冒険者

・ユーイン……ヘインズ領の邸の副執事長。28歳。ネルの夫

・ランドル……ヘインズ領の邸の見習い執事。9歳のシランキオ人。ルシールの兄。第6章で事件に巻き込まれた末、使用人に。

・ルシール……ヘインズ領の邸の見習い侍女。7歳のシランキオ人。ランドルの妹。第6章で事件に巻き込まれた末、使用人に。


王都組

・シェリル・ヘインズ……『前溺』の主人公。元アストリー伯爵令嬢。18歳

・フィランダー・ヘインズ……シェリルの夫。25歳。遊び人令息と呼ばれている

・ネル……シェリルの侍女。侍女長の娘。オペラと恋愛小説が好き

・セリーナ……シェリルの侍女。シェリルに忠誠を誓っている

・ルース……シェリルの侍女兼護衛騎士。シェリルと感性が似ている


ヴィンス視点





 次期領主夫妻が王都に行ってからひと月半。

 いつも通りヴィンスは庭の世話に励んでいた。


「おう。ヴィンス」

「おはようございます、バーナビーさん」


 ヴィンスは一つ年下の上司、庭師長のバーナビーに挨拶した。


「花の調子はどうだ?」

「まずまずではないでしょうか。今は冬ですからそこまで華やかではありませんが」

「だな。そーいや、バラの方はどうだ?」


 バラとはヴィンスが今育てているものだ。

 以前バラ園だった庭に植えてあったものを裏に移動し、その管理をヴィンスが任されていた。

 世話がかかる花を育てる練習も兼ねて。


「元気ですよ。冬でも咲くのには驚きましたが」

「そういう種類もあるからな。本来は夏と冬は花を取っちまった方がいいんだよ。病気になる事もあるし」

「え。そうなんですか?」

「あぁ。本来は栄養を蓄えるために取っちまうんだ。春と秋が咲くのには良いらしい。前はさ。ここにいたワガママ令嬢が常に観れるようにしろってうるさかったからある程度は残して取ってたんだよ」


 ワガママ令嬢とは次期領主であるフィランダー様の妹様らしい。

 たびたび話に出てくるので会った事がないヴィンスでも知っていた。

 本当にワガママだったそうで、つくづく会わないで良かったと思う。


「分かりました。俺もある程度は花を取ろうと思います」

「半分は残しとけ。比較対象になるからな」

「はい」


 さりげなくアドバイスしてくれるバーナビーにはいつも頭が下がる。

 ヴィンスも本などで勉強はしているが、本によって様々な事が書かれていて、どれが本当なのかがよくわからなかったのだ。


 よし。

 今日、この仕事が終わったら取りに行くか。


 ヴィンスは作業を終了し、今世話をしている花壇を離れ、バラの花壇へ行く準備を始めた。






 バケツを持ってバラの花壇に向かう途中、可愛いらしい声が聞こえた。


「ヴィンスさん!」

「またバラのところへ行くのですか?」


 シランキオ人の兄妹、ランドルとルシールだ。


「あぁ、二人とも。仕事はどうした?」


 すると気まずそうな顔になった。


「もう終わっちゃったんですよ」

「やる事なくて……」


 九歳の男の子と七歳の女の子はこう見えて優秀だった。

 魔法が使えなくてもできる事は山の様にある。

 それをすぐに覚えてテキパキこなしてしまい、教えている方が頭が下がるほどだと他の使用人から聞いていた。


「ならまた観ていくか? 今日はバラの花を取るんだけど」

「え!?」

「取っちゃうの?」


 二人は最近は敬語で話しかけてくれるが、こういう時は子どもらしい一面を見せてくれる。


「俺も初めて聞いたんだよ。その方が良いみたいで早速実践したいんだ」

「あ。アドバイスもらうとすぐやりたくなりますよね」

「分かります。……ちょっと残念だけど」

「だよね。取るのは半分だけで後は残しておくよ」

「それならいいかもしれないです」


 三人でバラの花壇へ向かうとおかしな気配がした。






 ゴソゴソ。


 変な物音に三人は顔を見合わせた。

 そっと壁に寄って曲がり角の先にある花壇をのぞくと衝撃が走った。

 なんとヴィンスと同じくらいの大きさの芋虫がバラの花を食べていたのだ。

 三人はすぐに顔を引っ込め、目で合図しすぐにその場から離れる。


 あれは害虫か?

 あんな大きさだとは思わなかった。

 図鑑だから小さく書かれていたのかもしれない。

 大きさまで書いてなかったし。

 でもこれはまずいんじゃないか?

 あんな大きさの害虫がヘインズ邸から出たら大変な被害になるかもしれない。


「ルシール。君はこの事をユーインさんに伝えてくれ」

「はい」

「ランドル。君は騎士団に行って誰でもいいから伝えてくれ」

「分かりました」

「俺はバーナビーさんに伝えてくる」


 三人は一斉に走り出した。






「バーナビーさん!」

「どした?」

「が、害虫が出ました!」


 ヴィンスの慌てた様子にバーナビーはぷっと噴いた。


「なんだなんだ? お前虫苦手だっけか?」

「俺くらいの大きさの芋虫なんですよ。害虫があんなでかいと思わなくて……」


 するとバーナビーを含めた庭師達が手を止めた。


「お前、そりゃ害虫じゃなくて魔獣じゃねーか。他には伝えたか?」

「ランドルには騎士団に。ルシールにはユーインさんに伝えて欲しいと」

「なら俺らも戦闘準備だ! 得物持ってる奴は持ってバラの花壇へ」

「「「はっ!」」」


 バーナビー達と一緒に花壇へ向かうとまだ誰も来ていなかった。

 花壇を見るとまだでかい芋虫がバラの花を食べていた。


 あ。半分やられた。


「あれです」

「……あれはやべーな。皆、得物をしまえ。あれに手を出すとここら一体の植物が育たなくなるぞ」

「なんなんですか、その魔獣?」

「まだ詳しい生態が分かってない魔獣だ。前にあれを退治したら、そこら中にあった木が一気に腐っちまった。騎士団が到着してなくて良かった。あれに手を出したら植物が育たなくなるぞ」


 そう言っている間に一人の騎士が到着した。






「遅れました。他は後から参ります。それで芋虫と聞いていたのですが」


 騎士に芋虫を見せると、バーナビーはすかさず言った。


「地獄芋虫だ。あれに攻撃はするなよ」

「分かってます。……前あれに攻撃しちゃった事があって、すんごい叱られました」

「なんだ。お前元冒険者か」

「そうです」

「なるほどな。こりゃ、外に出ない様見守るしかないな」


 そこに最後の一人が到着した。


「すみません。大きい芋虫が出たと聞いたのですが」

「ユーイン。厄介な魔獣が出た」


 ユーインがバラの花壇をのぞくと少しだけ固まった。


「あんなの。どこから入ったのです?」

「知らねぇよ。俺も今来たところだ」


 そんな会話をしているのを聞き、ヴィンスはそっと花壇周辺を見回した。


「あの。奥の方に……」


 ヴィンスの言葉にバーナビーとユーインが花壇の奥を見る。


「……卵か」

「生み付けられたんですね」


 卵らしきものから何かが出たあとが残っていた。


「するってぇと、親が空から降りてきたのかね」

「あの魔獣の成虫は分かりますか?」

「知らねぇ。生態がまだよく分からない奴なんだよ」

「そうですか。あの姿だと蝶や蛾の可能性が高いですね」

「たしかにそうだな。だが、あの幼虫の近くにそんな奴を見た事がない」

「成虫になったら……怖いですね。何やるか分かりませんから」


 そんな話を横で聞きながら再度花壇を見ると、ヴィンスは「あ」っと声を上げてしまった。






「どした」

「芋虫が……サナギに」

「あ〜あ。作っちゃったよ」

「どうしましょう。今のうちに討伐してしまいます?」

「だめだ。この辺一帯腐ってもいいのか?」


 バーナビーの言葉に、誰も手を出す事はできなかった。

 芋虫は器用に口から糸の様なものを吐き出して、やがて大きなサナギがバラの花壇にドンと鎮座した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ