09 本の好みは千差万別1
今回は熱から回復したものの安静を余儀なくされたシェリルのためにネルが図書室から本を持ってくる話です。
場所はヘインズ領のヘインズ邸です。
簡易登場人物紹介
・シェリル・ヘインズ……『前溺』の主人公。元アストリー伯爵令嬢。18歳
・フィランダー・ヘインズ……シェリルの夫。25歳。遊び人令息と呼ばれている
・トミー……フィランダーの侍従。童顔だけどフィランダーと同じ25歳
・ネル……シェリルの侍女。侍女長の娘。オペラと恋愛小説が好き
・セリーナ……シェリルの侍女。シェリルに忠誠を誓っている
・ルース……シェリルの侍女兼護衛騎士。シェリルと感性が似ている
シェリル視点→トミー視点→ネル視点→シェリル視点
今回視点がコロコロ変わります。
私は今ベッドの上にいた。
理由はまた熱を出して寝込んでいたから。
まだ部屋から出る事を禁じられている。
なのでかなり暇を持て余していた。
「もう大丈夫だよ」
「ダメです。また振り返しますよ?」
「今日まで休めば許可がおりそうなのですから我慢しましょう?」
「あ、そうだ。本は読みますか? よろしければ図書室から本を持ってきますよ」
「……図書室ってあった?」
「あれ。シェリル様にご案内しませんでしたっけ?」
「あー……ちょっと距離があるからしてなかっただけですね」
「領主館の隣なのですよ。そこで働いている方々がよく利用するので」
この部屋から領主館までは私の足で十分から十五分くらい。
図書室には資料も保管されているためその配置なのだそう。
「小説はあるの?」
「ありますよ。……ただ、少し古いかもしれません」
「若のお母様はあまり読まない人だったので、前侯爵夫人が集めていたものならあるかもしれません」
前侯爵夫人というとフィランダーのお祖母様で元この国の王女様だ。
「元王女様が集めていた小説か……」
「本はお好きだったので若のお母様世代に人気だったものもあったはずです。お持ちしましょうか?」
「うーん……そうしようかな」
私は一番詳しそうなネルに頼んで、私が読みたい本とネルのおすすめをお願いした。
※
「あ。部屋に本忘れた」
「またですか?」
フィランダーの言葉に侍従のトミーはため息をついた。
「どこに置いてあるのです?」
「机。置いてあるの全部持ってきて。急ぎで」
今日は確か昼から会議があったはずだ。
おそらくその会議に必要な本なのだろう。
トミーは仕方なくフィランダーの部屋へ。
部屋に入り机に積んであった三冊の本を全て持って執務室へと急いだ。
※
ネルは図書館に来てシェリルのために本を選別していた。
シェリル様はあまり本を読まれない様だから王道で行こうかな。
頼まれた一冊の本とネルおすすめの本三冊を持って図書室を出ると、出会い頭誰かとぶつかってしまった。
ドン!
「わっ」
「きゃっ」
ドサドサと本を落とす音が響く。
「も、申し訳ございません」
「いえ……ってトミー?」
「え、ネル? どして……」
「部屋でこもってるシェリル様のために本を持っていくところだったの」
「そっか。ごめん。急いでてさ」
「珍しいわね。貴方がこんなミス」
ネルは散らばった本を渡すとトミーは肩を落とした。
「昼の会議に必要な本らしくてさ。つい」
「あぁ。分かる」
主人のため、急いで持って行きたい気持ちはよく分かった。
「闇魔法なら一瞬なのに……」
「多分トミーが闇魔法なら、若が空間に資料とか突っ込みまくるんじゃない?」
「うわぁ……それやだなぁ」
「それより時間は平気?」
「あ、やばっ。ありがとう」
そう言い残しトミーは執務室へと向かった。
※
やっとネルが図書室から戻ってきた。
「戻りました。遅くなり申し訳ございません」
「もしかして、何かあった?」
「急いでいたトミーとぶつかってしまいまして……」
「え。怪我は?」
「大丈夫です。それよりどれにしようか迷ってしまって」
時間がかかったのはそっちだったか。
「まずシェリル様のご希望の本です」
「ありがとう」
本の題名は『大陸の武器一覧』と書いてある。
「……恋愛小説ではなかったのですか?」
「セリーナ。剣を振る事が好きな私がそれに興味があるとでも?」
「わぁ。ワクワクする本ですね。図書室行けばよかった」
「ルース。貴女まで……」
「次はこれです」
題名は『無邪気なバラ』
「若のお祖母様が主人公の話ですよ」
「え? まさか……馴れ初め話?」
「端的に言えばそうですね」
おぉ。それは興味深い。
「ただ、世間ではもう若のお祖母様の話と知っている人は少ないですね。これ、かなり脚色された話なので」
「うーん。これって私でも題名だけなら知ってるかも」
「王女様が騎士と恋に落ちてしまうなんて、恋愛小説の王道と言える話ですから。いまだにオペラでも人気ですよ」
それはぜひとも読みたい。
ヘインズ家の歴史の一つでもあるし。
というか、フィランダーのお祖父様って騎士だったんだね。
後継だからそれはないと思ってたなぁ。
「次は若のお母様世代に流行った話です」
題名は『雨宿りの姫君』
「これは貴族学園の話ですね。ある令息が雨に降られ東屋に駆け込むと、令嬢も雨宿りをしていたのです。そこから恋が始まる物語です」
「え。これって学園にあるあの東屋?」
「今もあるのですか?」
「デートスポットなの。よくそこに婚約者同士が座ってるのを見たよ」
「まさか本当にあるなんて! ……この話を書いた人はやはり貴族なのですね」
「公表されてないの?」
「はい。実際この名前の貴族はおりません。おそらくペンネームでしょうね。元貴族の方かもしれませんから隠されているのでしょう」
「ネルはフィランダーに東屋があるか聞かなかったの?」
「はい。……学園時代の若はちょっと話しかけづらかったというか。最終学年の時から愛人と……あ」
なるほど。
フィランダーが遊び人なったのはその頃か。
確かに話しかけづらい。
「あ! 次はとっておきですよ……って、あれ?」
「どうしたの?」
「これ、私のおすすめではありません」
「何だろ?」
私はその本を受け取って開くと、どうやらフィランダーの仕事関係のものだった。
「あ、まさか。トミーとぶつかった時に」
「入れ替わったんだろうね。ルース。これを至急フィランダーの元へ」
「はっ!」
ルースは本を持って早歩きで執務室へと届けてくれた。




