08 それぞれの夢の中2
シェリル視点→フィランダー視点
※
私はフィランダーと一緒に学園に通う夢を見ていた。
「シェリル!」
「何?」
「何って。おはようって言おうとしただけじゃん」
学生服姿のフィランダーを見てここが夢だと悟った。
今は登校中の時間らしい。
周りを見るとちらほら生徒が歩いていた。
「あのね。何回も言ってるでしょ? 話しかけないでって」
自分の口から勝手に言葉が放たれる。
ずいぶんと迷惑そうな口調だ。
「そんなに人いないから平気だよ」
「平気って……どの口がいうの?」
「いつもうるさい令嬢達はいないからさ。それにしても、今日は結構早かったね」
「……フィランダーはいつからいるの?」
「いつ出てくるか分からないから食事が終わったらすぐ出てる」
「それなら先に教室行けばいいじゃない」
「え〜。シェリルと登校したい〜」
「それだと迷惑なの!」
私はフィランダーを無視して歩こうとすると彼はすぐに私にひっついてあとをついてくる。
そんな彼に一切目を向かずに私は教室を目指した。
どうして夢の中のフィランダーに自分がこんな対応なのかはすぐに分かった。
それは男女別授業のため、別教室で授業を受けたあと、すぐに教室に帰ろうとしたら令嬢達に阻まれたのだ。
「アストリー伯爵令嬢。今、お時間よろしくて?」
『はい』というしか私に選択肢は残されてはいなかった。
ついて行くとそこは校舎裏の人気のない場所だった。
「貴女、またフィランダー様と登校された様ね」
「前にご忠告した事をお忘れかしら?」
「忠告を聞かなかったって事でよろしい?」
「……私は断りました」
すると一人の令嬢が私を押して転ばせてきた。
「いっ……」
「口答えは聞かなくってよ。……そもそもこの学園に貴女の様な魔法も使えないシランキオ人がいる事がおかしいのです」
「特に美人でもないし……。どうしてこの方がフィランダー様のお気に入りなのか疑問ですわ」
「身体が弱いというのも嘘なのでは? この方といえばそれしかありませんもの。あぁ。もう一つありましたわね。……確か剣舞ができるとか。もしかして病弱なのに剣が扱えるというところに惹かれたのでは?」
「あぁ。そういう」
「でも……剣を振るのは野蛮ですわ。さすがシランキオ人」
クスクス笑う彼女達の声が非常に癇に障る。
立ち上がろうとすると、令嬢の一人が私に向かって魔法を使った。
すぐに尻餅をつき自分の足を見ると地面から出たツタがまとわりついていた。
「……魔法を使うのは犯罪では?」
「あら。私、傷つけておりませんわよ?」
「傷つけなければいいだけの話です」
いや。
そんな法律はない。
確かに危ない事をする人に対してそういう行動をするのはよしとされている。
しかし基本的に故意に魔法を使った時点でアウトだ。
「お昼休みの間、そこで反省していると良いですわ」
そう言い残して彼女達はその場を去ってしまった。
私はフィランダーに気に入られて付き纏われてから度々こういう行為を受けてきた。
友人も表向きには作れない。
「シェリル!」
助けに来てくれたのは現実でも友人のステイシーだ。
「ごめん。すぐに助けられなくて……」
「ううん。ありがと。貴女まで巻き込む訳にはいかないし」
「動かないでね。切ってあげる」
そういうとツタを剣で切ってくれた。
「助かった……ありがとね。ステイシー」
「お安い御用よ」
「それで。どうやって真剣を持ってきたの?」
「もうすぐ学園祭があるでしょう? だから木剣を持っている人はたくさんいるのよ。これ、剣用のカバン」
なるほど。
この中に入れてきたって事か。
本来真剣は基本的に禁止。
だけど隠れて持ってきている人は多い。
本当は注意しなきゃいけないけどそんな野暮な事は言わない。
「あとシェリル。これ」
「あ。パン。ありがとう」
学園には食堂があるけど、そこでは小腹が空いた人用にパンも売っている。
「お代はいつものところへ」
「分かった。本当にありがとう」
ステイシーとはそのまま別れた。
彼女は学園祭前の自主練をするらしい。
私は周りに誰もいないのを確認して、はしたないけどその場でパンにかぶりついた。
「……美味しい」
すると頬を涙がつたう。
どうしてこうなったの?
私は何もしてない。
ただ、付き纏われただけなのに。
私が悪いの?
「……悔しい」
何もできない自分が。
こんな学園生活を送っている自分が。
『シェリル』
私を呼ぶ声が聞こえて振り向くと同時に目が覚めた。
「大丈夫? うなされてたけど」
夢の元凶が私を心配そうに見ていた。
「うん。悪夢見てた」
「え……どんな?」
「フィランダーと学園生活を送ってる夢。フィランダーに付き纏われたせいで、テナージャ人の上位貴族の令嬢に嫌がらせを受けて、惨めな学園生活を過ごしてた」
「へ、へぇ」
「私、フィランダーと歳離れててよかった。そうじゃなきゃ友人もろくに作れないところだったもん」
ステイシーはいてくれたけど。
私の話を聞いて、フィランダーは悲しい顔で固まっていたけど無視する事にした。
夢の中の私を助けてくれなかったささやかな仕返しだった。
※
「おはようございます。……若、どうかなさいましたか?」
「……おはよう、トミー。実は……」
トミーに事情を話すと腹を抱えて笑い出した。
「そりゃそうですよ。シェリル様はシランキオ人ですし、何かと言われるでしょうね。隠れて魔法でいじめられてたかもしれません」
「魔法を使うのはありえないだろう。故意に向けるのは禁止だし」
「……若。忘れたのですか? スラムでは魔法使うのは当たり前。平民も隠れてやってますよ。外傷を残さない様に使う方法なんていくらでもありますし。貴族の意地悪令嬢なら使わない手はないです」
「そ、そんな……」
「……そう考えると、確かに若と学園生活を送るのは無理がありましたね。被らなくてよかったです」
その言葉を聞いてフィランダーは愕然とした。
「……俺はシェリルと一緒に学園生活を謳歌したかった」
「大変難しいと思いますよ。良い夢みれてよかったではありませんか」
トミーの言う事は悔しいけどそうかもしれない。
でも諦めきれない自分がいた。
「そうだ。俺の制服はどこにある?」
「探せばあると思いますけど」
「持ってきてくれ」
けげんな様子のトミーをせっついてとりにいかせ、久々に学園時代の制服を手にとった。
しかし……。
「……若。大きくなりましたね」
肩幅が合わず手が通せないジャケット。
スラックスからは足首が拳一つ分も出ている。
その様子を口と腹を押さえながら笑いをこらえるトミー。
学園生活を少しでも味わおうかととりにいかせた自分がバカだった。
鏡に映った自分にさらに愕然とし、その日は仕事が思う様に進まなかった。
正直フィランダーの夢部分は出来上がってから消そうかと思いました。
これは決して朱村の妄想ではございません。
あくまでもフィランダーだったらと思いながら書いたものです。
ちなみに最後のフィランダーの制服ネタは以前から考えていました。
ようやく日の目を見てよかったです。




