06 アストリー領にて2
翌日。
冒険者ギルドの職員を連れてアーサー先生が帰ってきた。
「おかえりなさい、先生」
「ただいま。魔獣達の様子は?」
「ここにいる狼達はくつろいでますよ。半数は狩りに出かけました。うちの騎士達をつけてあるので大丈夫だと思うのですが」
「……できればここにいて欲しかったです」
「すみません。食料の事を考えると狩りしてくれた方が助かるので」
確かに人間がついているとはいえ、危険だったかもしれない。
「まぁ。騎士達がついているなら大丈夫でしょう」
「場所も領主所有の山ですから」
そこなら勝手に入る領民はいない。
「あの。魔獣契約したという魔獣も不在で?」
「いえ。ここにいますよ」
メレディスはブラックを冒険者ギルド職員に紹介した。
「ブラックです。ここの狼達の頭です」
『ガウ』
「あれ? 普通魔獣契約すると何も言わないのですが。……何か表情も豊かですね」
撫でているとブラックは気持ち良さそうに擦り寄る。
「本当に魔獣契約したのでしょうか?」
その言葉に反応したのはブラックだった。
『ガウガウ』
そう職員に吠えるとメレディスの身体が青く光った。
よく見るとブラックの宝石と同じ色だ。
「こっ、これは。確かに魔獣契約している証ですね。しかも魔獣の意思で? これはちょっと従魔魔法の定義が変わるかもしれません。それに魔獣契約したなら冒険者ギルドに登録もしなければなりませんし、他の魔獣を飼っているなら申請もしないと」
「え、冒険者ギルドに?」
「そうですよ。普通は魔獣契約したのであれば冒険者ギルドに登録しなくてはなりません。あの。本当に魔力ないんですよね?」
「ありませんよ。生粋のシランキオ人です」
「ですよね〜。いやー面白い。こんな事例は初めてだ」
職員と話していると、身重の狼に呼ばれた。
『ガーウ』
「ん? どうした」
『ガウガウ』
「えっと……」
何か言いたいみたいだったが分からない。
するとブラックが近づきメレディスの目を見た。
『ガウ』
するとブラックの気持ちが不思議と分かった。
「お前も名前をつけて欲しいのか」
『ガウ』
身重の狼は満足そうな顔でうなずいた。
「ここで新たな魔獣契約がみれるのですか?」
「名前をつけて欲しいみたいですね。でもこの狼は身重なんです。冒険者ギルドには連れて行けないかと」
「それならここで行ってしまいましょう。一頭分なら契約書を持っていますから」
すると身重の狼は自分の額の宝石を俺の方に向けた。
「……もしかして額の宝石に触れるのが条件なのか?」
『ガウ』
「なるほど、魔石に触れるのが条件っと」
魔獣の額にある宝石が魔石だとは知らなかった。
メレディスは身重の狼の青い魔石に触れ、名前をつけた。
「ホワイティ」
するとブラックの時と同じで青い光に包まれた。
「素晴らしい。魔力がなくても魔獣契約できる瞬間に立ち会えるとは! さぁ。早速ホワイティの登録だけでもしてしまいましょう」
職員はせっせと用意し、紙とペンを俺に渡した。
「こちらに貴方のサインとホワイティのお名前をお書きください」
すぐに書き終えるとホワイティが青白く光り、その光が紙の中へ吸い込まれた。
「はい。これで登録完了です。ブラックの方は明日、冒険者ギルドの方でお願いします」
「……あの、大丈夫なんですか? 冒険者ギルドにブラックを連れて行っても」
「迎えを寄越します。ブラックの護衛として。今日は魔獣が何頭いるかも数える予定だったのですが……」
そんな事を話していると狼達が帰ってきた。
『ガウガウ!』
「おかえり。どうだった?」
『ガウ』
「メレディス様。大量ですよ」
「本当か。良かったな」
撫でてやるとその狼の後ろに列ができていた。
どうやら撫でられ待ちらしい。
一頭一頭撫でてやると、ギルドの職員は数を数えていた。
「ブラックとホワイティも含めて全部で十頭ですね。……よく見ると若い個体ばかりみたいです。あ。ホワイティの子どもが生まれたらすぐに登録してくださいね」
「本当に来てくれた助かったよ。ギルド長」
アーサー先生の言葉にメレディスは硬直した。
え?
物腰低そうなこの人が……ギルド長!?
「すみません。ギルド長とは知らず……」
「ハハハ。らしくなくてすみません。私は研究が主だというのに皆に押し付けられてギルド長になってしまったのですよ。実務ができない人も多いんですよね。ではまた明日」
次の日。
言っていた通り迎えがきた。
彼らはベテラン冒険者だそうだ。
メレディスはアーサー先生とブラックとともに冒険者ギルドへ。
そこで待っていたのはギルド長による検査だった。
「次。これに触って」
何かの魔導具に触れたり尋ねられたりを繰り返されて、メレディスは周りに助けを求めた。
「アーサー先生……」
「すまない。俺は契約者ではないのでな」
「ブラックぅ」
『……ガウ』
とにかくがんばれと言われてしまい、俺は丸々三時間、ギルド長が満足するまでそれに付き合う事になった。
後日、他の領でも俺と同じシランキオ人が魔獣と契約したと報告があった。
何とその人物が実の妹と聞いた時は驚いた。
「アーサー先生。シェリルの魔獣はどんな子だと思います?」
「赤ちゃんと言ってましたからね。この子達と同じくらいじゃないですか?」
ホワイティの子どもも無事三頭生まれた。
どの子も元気いっぱい駆け回っている。
「いや。ここの魔獣は優秀ですね。害獣を捕まえてくれますから。この調子ならすぐに領も立て直すでしょう」
「だな。まさか動物とも話せて家畜達に信頼を寄せられるとは」
家畜達を食べられないか心配だったが、まさか家畜達と仲良くなるとは思わなかった。
ブラックによると怯えていた家畜達に『俺達がお前達を守ってやるからな』と言ったらすぐに打ち解けたのだという。
あの繊細な馬達ですらそうなのだから大したものだ。
「機会があったらヘインズ家に行ってみるか。シェリルの様子も気になるし」
「ですね」
本当にその機会が訪れるとはこの時誰も思っていなかった。




