05 アストリー領にて1
今回はシェリルの兄、メレディスがどうして魔獣契約に至ったのかを書きました。
メレディスの魔獣は第七章26話に登場しています。
簡易登場人物
・メレディス・アストリー……シェリルの兄。元王城騎士団の騎士。
・アーサー……S級冒険者。メレディスとシェリルの剣の先生。
・イライアス・アストリー……シェリルの父でアストリー伯爵。
メレディス視点。
シェリルの実家であるアストリー領がスタンピードの被害にあったあとの話から始まります。
こんな事になるとは思わなかったな。
メレディスは心の中でため息をついた。
三日前までは冒険者ギルドの世話になるとは全く思わなかった。
なぜメレディスが冒険者ギルドにいるのか。
それは二日前に遡る。
アストリー伯爵の嫡男であるメレディスはこの日、ある調査をするため準備をしていた。
数日前、領内にあるダンジョンから魔獣が溢れ、いわゆるスタンピードが起こってしまったのだ。
人には幸いにも被害は少なかったが、これで元々の生態系が崩れてしまい、魔獣達の移動が問題となっていたのだ。
「だからってメレディス様がやる事ないでしょ?」
そう言ったのはアストリー家の騎士だった。
「今は人手不足だろう? 俺も王城で騎士だったんだし大丈夫だって」
今回メレディスが行うのはアストリー伯爵邸に近い山の調査。
厄介な魔獣が住み着いていないか確認するためだ。
「俺と交換した方がいいですって」
「君は門番なんだからここを守って。火事場泥棒も出てるみたいだしさ。一応アーサー先生にもらったポーションも持ったし。じゃ、行ってくる」
「お、お気をつけて」
メレディスは門番の心配をよそに山の中へと入って行った。
確かここにいたのは小型の狐の魔獣だった。
足跡は……これか?
見つけたのは狐の足跡。
しかし集団で動いている様だった。
おかしいな。
集団でって言うのは見た事がない。
大体ここらに出るのは単体が多い。
これは移動したと考えていいな。
足跡の方向は山の中に続いていた。
少し追ってみるか。
足跡を頼りにしばらく歩くとその足跡が散らばって見えた。
ん。
何かに襲われたか?
ここらに何か……。
周りを見渡すと白い毛が見えた。
おそらく尻尾だ。
まずい。
尻尾であの大きさは中型以上の魔獣だ。
おそらく動物で例えると大型の馬並み。
仕留めるべきか。
様子を見ようとメレディスはそろりと近づく。
すると目に飛び込んできたのはぐったりしている手負いの白い狼だった。
おいおい。
こんな大きいのに襲われたらひとたまりもないな。
どうしよう。
あ。
魔獣にポーション効くんだったな。
シェリルと一緒に授業受けて良かった。
よし。
ポーションかけたらすぐに下山しよう。
メレディスは思い切って手負いの狼に近づいた。
すると向こうも気づいた様だ。
こちらを見て唸っている。
すぐさまポーションを出し、傷になっているところ目掛けてかけた。
狼はびっくりした様子でキョトンとしている。
傷口を見ると血液の汚れは残ったものの、とりあえず治った様だ。
よし。
すぐに下山。
狼に背を向け振り向くと少し先のところに別の白い狼達がこちらに迫っていた。
うわ〜、最悪。
メレディスは狼達に囲まれてしまった。
そしてゆっくりと手負いの狼に近づいて行ったのは黒い狼だった。
これは……番だな。
黒い狼は手負いの狼の傷口があったところをペロペロ舐めている。
あれ。
何かおかしいな。
あ。
体毛が白なら光魔法が使えるはずだよな?
光魔法って回復もできたはず。
魔獣はできないのか?
そう思っていると黒い狼はこちらを見た。
明らかに威嚇の眼だった。
数秒睨み合ったところで、手負いの狼から声が上がった。
『ガウ。ガウガウ』
『……ガウ?』
手負いの狼を見てまた俺を見る。
すると手負いの狼が立ち上がり俺に近づいてきた。
そして頭を下げて身体をすり寄せる。
いいのかどうか分からなかったが、俺は思わず頭を撫でていた。
大きいのに何とも可愛らしい。
そして全体を観察していると、手負いの狼のお腹が膨れている事に気づいた。
「お前。妊娠してるのか?」
さっき傷があったところは腹に近かった。
もしかしたら中の赤ちゃんは傷ついていたのかもしれない。
ポーションはそこまで治してくれるのか?
それに……よく見るとこいつら、薄汚れているな。
もしかしたら上位の魔獣に縄張りを襲われたのかもしれない。
メレディスはあとで怒られる覚悟をしてから言った。
「うちに来るか?」
そう言うと黒の狼が近づき、頭を垂れた。
多分まだ安心して過ごせる土地が見つかってないんだな。
しかも身重の番もいる。
なら、少しの間なら預かろうじゃないか。
黒の狼が頭らしく、メレディスのあとに黒の狼が続くと皆が後ろからついてきた。
こうしてメレディスは狼の魔獣達を率いて邸に戻ってきてしまったのだ。
「お前馬鹿か!」
そう怒ったのはメレディスの父であるアストリー伯爵だった。
「申し訳ございません」
「とにかく空いている牛舎に入れるしかないな。入れてこい」
「はい」
狼達に指示を出して牛舎に入れると下っ端狼と思われる白い狼が率先して牛舎の中に入った。
下っ端狼が片足をトンと一回地面を蹴ると、牛舎の中全体に光が走る。
すると牛臭さがなくなっていた。
「なるほど。ごめんな。そこまで気づけなくて」
下っ端狼を撫でるとそれほどでもと得意げな顔をした。
魔獣でも他の生き物の匂いは嫌なのだろう。
消臭はできるのか。
回復はできないのかな?
そう思っていると、黒の狼に付き添われて身重の狼が入ってきた。そして奥の広いスペースに腰を下ろした。
他の狼達も各々のスペースが決まった様で腰を下ろしていた。
なかなか安心できなかったんだな。
とりあえず水も用意するか。
水とスタンピードの時に余った肉を一頭ずつ渡す。
「これは俺らの食料でもあるから次からは自分で探してくれな」
一頭ずつに言い聞かせると、素直に『ガウ』と嬉しそうに言った。
本当に理解してくれたのだろうか?
すると食べ終わった黒い狼がメレディスの元へきた。
「だから食料は……」
俺がそう言いかけると黒の狼は俺に頭を下げ、額にある宝石を見せた。
「綺麗だな。触っていいか?」
『ガウ』
良いみたいなので触ると宝石の様に冷たかった。
「へぇ。冷たいんだな」
触っているともっと触れと頭を軽く振った。
なので遠慮なく触っていると、突然誰かが牛舎の中に入ってきた。
「……メレディス様」
「あ。アーサー先生」
結局メレディスはアーサー先生にも怒られてしまった。
「全く。まさか狼の群れを連れてくるなんて」
「すみません」
「まぁ、言う事を聞いてくれる魔獣で助かりました。本来は魔獣使いでないと魔獣は素直に応じませんからね。その魔獣が頭ですか?」
「そうです」
アーサー先生はじっと黒い狼を見た。
「大人しいですね。仮に名前でもつけてみましょうか」
「え?」
「頭が言う事を聞けば他のも聞くでしょう。なら頭を特別扱いすると言う意味でもいいのでは?」
「……何がいいですかね。ブラック?」
黒い狼の青い宝石を撫でながら言うと、突然メレディスが青い光に包まれ消えた。
「な、何だ。今の……」
「今……魔力が動いた感じがしました」
「魔力?」
「もしかしたら……メレディス様に忠誠を誓ったのでは?」
「ちゅ……忠誠?」
「テナージャ人の忠誠は忠誠する人に魔力を渡すという行為をする事もあるのです。……それに似ているかと」
「じゃあ、俺に忠誠を誓ったという事は?」
「……メレディス様と魔獣契約した可能性が出てきましたね」
『ガウ』
そうだばかりに黒い狼はうなずいた。
いや。もうブラックと呼んだ方がいいだろうか。
「これは冒険者ギルドに相談しないといけない案件ですな」
アーサー先生はため息をつき、すぐに冒険者ギルドへと向かって行った。




