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ワイルドライフ ユートピア  作者: 木木うえぽん
1/3

はじまりのおわり

人間のいないVRゲームーー


動物やモンスターが蔓延る世界。

ネコ

トカゲ


ワーム

クモ


ドラゴン

ワイバーン等々。



人型の生物が存在しない設定で、プレイヤー自身も選んだ種となり、ステ振りやスキルツリーによって様々な戦い方でモンスターなどを倒してレベル上げやドロップアイテム集めなどをする。

そう聞くと一般的なVRMMORPGのようだが、このゲームの特殊性はその設定にある。



NPCのセリフは全て理解のできない動物言語と言われるものになっており、プレイヤーは憶測で意味を考えながらゲームを進める必要がある。

人によっては、オリジナル言語であるセリフの一つ一つを研究して法則性があるのか確かめようとする、解読班と呼ばれるものも複数いて、このゲームの楽しみ方の一つになっているが、成果は滞っているようだ。

それもそのはずで、まず虫種や哺乳種などで話す言葉が違うだけでなく、おそらく同じ意味を持つ言葉でもその動物文字が異なっていたりする。要するにほぼデタラメ。絶対に理解させんとする意思を感じさせる。

アイテムを拾ってもその仕様は顕在で、インベントリは存在するもののアイテム名が出ることはない。ただ自分で仮の名前をつけておくことはできるので、人によって同じアイテムでも呼び名は様々だ。

なんにせよ、野生バンザイのゲーム性ということだ。


そして他にも、マイクラや不思議のダンジョンよろしく、新規でゲームを始める度にマップが自動生成される。

このゲームのウリの一つでもある色鮮やかな世界を何度でも新鮮な気持ちで遊べてしまうのだ。

その代償としてなのだろう、今時珍しくVRゲームでありながらオフラインゲーム。

マイクラのように友達のワールドに遊びにいく機能すら存在しない。完全に一人プレイ専用だ。

そのため、所謂大人気ゲームのメインストリームからは完全に外れているが、毛色の違ったゲーム性が密かな人気を獲得し続け、2055年現在、隠れた名作としてカルト的人気を持つタイトルとなった。


それもそのはず、開発中のデータ量の余白がオンラインゲームと比べて多かったためなのか、作り込みの細かさが尋常ではないのだ。

まずVRゲームで大切なのは自分の体の動きとゲーム内の動きがフィットするかどうかだ。

これが不快だとその時点でクソゲーと呼ばれてしまうことは避けられないだろう。没入感にも強く影響する。

ワイルドライフは、プレイヤーの姿が人ではないにも関わらず、思った通りに走れるし、攻撃できる。

ジャンプ一つとっても、種によって重量が異なるので、軽い生き物なら高く飛べるし、重いなら飛びづらい。といった具合で、違和感はほぼない。

筋肉の量によっても変わってくるから、筋肉のない虫種の場合はジャンプ力が低くされていたりする。

元々ジャンプが得意な種が特別に設定されていたりするし、ステ振りによっても更に細かく変わっていく。

それらにも、どうやってか体を動かすことに対する気持ち悪さは感じない作りのゲームになっているのだ。



それだけでなくゲームらしさとでもいうべき、ミソの部分は忘れていない。

例えばゲームの世界なら剣や他の武器はどうなのかというと、一応ちゃんと存在する。

アポカリプス系の世界を背景にしているような設定も一部あるため、ワールド各地に存在する宝箱や、遺跡などから見つかることがある。

犬や狼といった口のついた生き物なら咥えながら装備することもできるが、顎の力の方が強いことが殆どのため、ロマンの域を出ない。ただ、それ専用のステ振りやスキルビルドにすれば有用かもしれない。

普通は猿やゴリラなどの手先が器用な種が使うことで効果を発揮するのだろうが、人工物みたいなものを使うのはこのゲームの世界観としては好みが分かれるところだろう。しかも、そういう種は知性が高く設定されており、なおかつ成長率も高いため、魔法を覚えた方が手っ取り早かったりもする。



そう、魔法も存在する世界なので、ステータスにintもある。

ただ魔法は敵に攻撃するためだけのものではなく、バフ系の魔法もあれば、地形に影響を与えることもある。

例えば炎を飛ばす魔法なら、周辺の植物を燃やして歩きやすくしたり、明かりの代わりにしたり、といったこともできる。

ワイルドライフにはマス目が設定されており、魔法を放つ場所を指定して発動させる。

これを利用して、格上のモンスターをハメて倒す狩り方もできる。

MMORPGによくあるように、レベル差がある強敵には攻撃が通じないが、燃焼ダメージなどの固定ダメージや割合ダメージを駆使することで、効率的にレベルを上げられる。

具体例を一つ言うと、火柱を立たせるとキャラクターはそのマスの中に入れなくなり、入ろうとするとダメージを受けてノックバックさせられる。

モンスターのAIにもよるが、スライム種など単細胞系のモンスターなら迂回するといった選択肢がないため、プレイヤーに近づこうとし続け、火柱のダメージを何度も食らうことになるのだ。



クオリティが高いながらも、そういった小技や裏技を用意してくれているこのゲームを、廃人プレイヤーである、ミミ太郎はこよなく愛していた。

人などいないこの世界に、最初に決める名前の意味なんかないのではと、適当につけた名前。

選んだ種がネコだったという理由のみで5秒で決めた名だ。

もう何回目になるだろうか。名前を入力すると、マップの自動生成が始まる。

恐らくは、つけた名前を手掛かりにしてマップを作っているのだろう。だからこそ、こんな必要のなさそうなことをさせるのだ。


『ーミミ太郎さま、ユートピアの世界にようこそー』


マップの自動生成が完了し、味気ないログが流れてこのゲームは始まる。

ネコという種は普通すぎて逆にプレイしようとしなかった。

結果、最後の最後まで後回しになってしまったのである。前回は犬だった。

このゲームは見た目のクリエイト機能も豊富なので、せめて一工夫しようと片目に古傷を付けてみた。

これによって歴戦の証という称号が獲得され、視力がマイナス補正されるが攻撃力にボーナスがつく。視力は高ければ高いほど遠くを見ることができるが、ネコはそもそも高めなのでマイナスされようとそんなに影響はない。

種としての特徴は、俊敏性の高さや、爪を使ったスキル、隠密行動などだ。落下衝撃耐性も高いはず。

木登りができたり、ジャンプも得意な種なので高く飛べる。

弱点としては、体の小ささによる体力の低さが上げられる。

とはいえ、虫系と比べたら遥かに安定しているのだが。


虫系の種は体力が非常に少なかったり、炎に特別に弱かったり、様々な弱点を持つため玄人向けといえる。

その代わりに、他にはない独自のスキルが多かったり、回避率が高かったり、落下ダメージがないなどの特典もあるのだが。大体は即死しないようにある程度VITに振ることになるため、巨大な見た目に変化していくことになる。

ただそうなると今度は、敵に見つかりにくい取り柄がなくなっていってしまうというジレンマが発生したりする。


それと比べると、ネコは総合的に見ても、扱いやすい種といえそうだ。

数百種類あったプレイアブルもこれで全てプレイ済み、か。


一応ゲームのエンディングは決められており、マップのどこかにいるボスを倒すというものだ。

そのボスの種もマップが生成される度に違うものになる。

倒したボスの種はアンロックされ、次の新規ゲーム開始時のキャラ選択画面に追加される。プレイヤーたちはそれを楽しみにクリアするわけだ。

運が良ければゲーム開始時から割と近くにいたりもするが、レベルが足りなくてステータス不足で魔法やスキルもない、といった事態になるので結局レベル上げは必須だ。

ただ、大体はどこにいるのか見当もつかないほどマップが広いので、NPCの動物言語や仕草などで予測しながらゲームを進めていくことになる。


しかし、それだけだとほとんどヒントがないままになってしまうので、このゲームにはゲーム内の主人公のようなキャラクターが設定されている。もちろん人間ではない。

銀の鎧を身にまとった緑色の虎で、翠玉の虎『エメラルドタイガー』と名付けられている。

世界にさまよっているそいつを見つけて、後を追うように進むといずれボスに辿り着くという、いわゆるお助けキャラなのだ。

設定上では世界に潜む悪の化身を討ち取りに歩いているということらしく、人と同じ思考を持つぐらい頭がいいらしい。とはいえ、喋ることはない。

道中で出会えたとしても会話らしい会話ができるわけでもなく、頼る場合はさりげなく後ろをつける感じになる。

ただもし共にボスを見つけた場合、ボスを倒すまでの間は一緒に戦ってくれる。

試したことはないが、そのキャラも倒せるようにできているのかもしれない。

その場合、倒した後でプレイアブル化されるのだろうか。エメラルドタイガーという種はキャラ選択画面にはいなかったはずだ。



ミミ太郎は、このゲームならば、もしオンラインになっても遊べそうだと思っていた。

彼がオフラインゲームばかりプレイする理由は、人との会話が怖くてできないためである。

友達はもちろん、親とでもそれは変わらない。

つまり、知らない人達との会話なんてまさにお話にならないのである。

コミュ障の意見の中に、

「VRみたいな現実とは違う姿なら問題なく話せるよ!」

というものがしばしば挙げられるが、ミミ太郎にとっては全くもって意味不明で、現実と変わりないのだ。

だからこそ、彼にとってこのゲームのシステムは画期的だった。

オンラインでもそれが変わらないのであれば、もしかしたらーーそう考えていた。


ミミ太郎は会話は苦手だが、オンラインゲーム上で他人が好き勝手に動いているのを見ること自体は好きだった。ゲームに活気がある感じがするからだ。噴水のある大広間に大量の露店が開かれているだけで、ワクワクしていた。

NPCの経営する小さな店に、チンピラのように集って居座る名も知らぬクランメンバーたちにビビりながらも、そのサーバー独自の文化を感じていた。楽しかった。

でも、時折知らない人に話しかけられるのが恐怖ですぐにやめてしまった。

ワイルドライフなら、少なくとも話しかけられることはないのではないだろうか?

話せないのなら、体でコミュニケーションを取ろうとしてくるだろうが、その経験なら既に小さな頃に遊んでいたVRSNSで通った道だ。

ボイスチャットがついておらず、そこにいた住人は皆、体を常に動かすことで意思を伝えていた。あまりの不便さからすぐにサービスを終了してしまったのだが、ミミ太郎が使うことのできた唯一のものだった。

それと変わらないのであれば、大量に冷や汗はかくだろうが、ずっと長い間絡まれなければ心臓がおかしくなることもないだろう。



そう考えているうちに、体はいつの間にか石や金属の大地に降り立っていた。

ゲーム開始からしばらくは、マップのグラフィックが完璧に表示されるまで霧がかったようなエフェクトで周りが見えないのだ。

ようやく晴れた景色をいざ見渡してみると、かなり起伏が激しい場所もあれば、あまりにも平坦な道もあり、まるで意図的に整備されているようだ。

(これは、遺跡か)


このゲームは人語を言葉に出すことはできない。心に留めておくのみである。

一昔前のレトロVRゲームなら、現実の体を起こしながらプレイするため、こんなことは起きないだろう。

寝ているわけでもないが、体を横にしながら脳波のみでプレイできる次世代ゲームの方が余計にストレスがかかったりするのだから面白いものだ。

まあ、それもこんな特殊なゲームだからこそ。普通のタイトルなら別にこんな制限はない。

これを許せないならこのゲームはプレイできない。メジャータイトルにはなれない大きな理由だ。


さて、遺跡マップは結構なレアマップに分類される。

なぜかといえば、普段手に入らないアイテムが大量に転がっているチャンスだからだ。

それは、動物たちの世界には似つかわしくない、文明の名残のような数々だ。

壊れた円盤や、割れたガラス、歯車の一部。それらを自分の手で組み合わせて元の形に戻したりもできる。この例でいうと時計だ。

勿論それらの使い方を知っているはずはないので、ただのフレーバーアイテムだったり、元の用途と違う使い方をしたりといった感じなのだが、そういう設定が好きな人はニヤリとできる仕様になっている。ミミ太郎としてもその仕様自体は嫌いではなかった。

そんなアイテムだらけなので、あまり価値は高くないものだらけなのだが、このゲームの背景を知る手助けになるというわけだ。まあ、動物という時点でアイテムの殆どは食べ物を指すのだが。遺跡だけがやや特殊なのだ。


そして、遺跡マップは緑が皆無というわけでもなく、植物が蔓延っていて、森のようになっている箇所とそうでない箇所が半々ぐらいの割合で、その生命と退廃のコントラストがミミ太郎にとってかなり美しく感じていた。

流水の音がすぐ側で聞こえると、その周辺は特に彩度の高い緑がありありと壁や空を覆うように主張して、息が漏れてしまうほどだ。

そんな環境なので、その周辺に生まれるNPCや(当たり前だが動物だ)、モンスターもそれに沿ったものになってくる。多くはない緑や水の中で生きられるのは、ある程度厳しい環境の中で生活している生き物たちだ。そうはいっても、砂漠ほど水が少ないわけではないし、気温設定自体は数ある環境の中でも割と標準的だ。

ただ、そもそもが遺跡なのでそこに住む数こそ少ない。実際周りに見えるのは、ミミ太郎の姿に気づいて物陰に逃げ込む小さなトカゲとクモぐらいだった。

近くを歩いていけば水の音の大元である泉が見つかった。その中には、小魚が数匹、水草の側で泳いでいるのが見えた。

その波紋に揺れる水に映る自身の姿を見て、思わず感嘆する。毛の一本一本まで綺麗に映し出されているのだ。

(今になって始まったことじゃないけど、どんな技術だよ)


そして、毎度思うがこの体で違和感がないのは驚愕の一言だ。

VRメーカーが人体以外のアバターを作りたがらないのは、体の違和感がどうしても拭いきれないからだ。

四足歩行は当然のこと、タコのように複雑な形態の生物もこのゲームには存在するわけで。いつもと違う歩き方ができるゲームは、他ではなかなかない。

公式のキャッチコピーが、『どこまでも自然を追求した。』なのだが、そういう意味まで含まれているとは買った当初は流石に思わなかった。開発メーカーのこだわりはもはや変態的といっていい。

VR全盛期と呼ばれる現在において、確実に脳波のコントロール技術が進んでいるのを感じる。


目線も選んだキャラ次第でころころ変わるため、人では分からなかった周囲の大きなものへの威圧感や小さいものの細かさに余計に敏感になったりして、色々気づかされることも多い。今の姿で言えば、葉っぱの一枚一枚が自分の顔ぐらいデカイ。葉の筋が血管のように見えて気持ち悪いぐらいだ。そしてこの背の低さだと、植物の多い場所にいってしまうと視界を遮られそうだ。宝箱を探しつつ、見晴らしのいい通路を優先して歩くことにする。

その間に、小さな虫などは倒しつつ経験値に変えておく。残骸はインベントリに入れておいて後で食べることもできるが、あまり気分のいいものではないので、とりあえず後回しだ。放っておけば数分で勝手に消える。


当たり前だがゲームを始めたばかりなので、レベルは1だ。多少は上げておかないと、不意の事故で死にかねない。

新規ゲームにした場合、以前使ったことのあるキャラを選択していた場合のみ、最初から始めるかそのままのレベルを引き継ぐか選べる。とはいえ、ミミ太郎は今までに引き継いだことはないが。

ただ、もしレベルを最大値の99にしたキャラで新規で始めた場合、最初から無双プレイもできたりする。


また、ボスを倒すとそのマップから解放されてしまうため、レベルを最大にした上で、あえて倒さずに放置して世界を見回り、理想の暮らしをすべくハウジングに励む、なんてプレイヤーも多いそうだ。

まあ、こういった情報はミミ太郎が見た四次元チャンネルの箱板での書き込みでしかないので、実際どれぐらいの人がそんなことをしているのかは定かではない。

このゲームにおいてのハウジングとはファンの愛称で、本来はマーキングシステムのことをいう。マス目で管理された地面にマーキングアイテムを配置していき、好きに縄張りのようなものを作る行為だ。とりあえず周囲を囲むだけでも縄張り判定が追加され、その中にいる間は攻撃や防御が上がる。広ければ広いほど、また高ければ高いほど恩恵は強くなるし、陣地内に他の生き物が入って来づらくなる。


本来はそういったものなのだが、そこからさらに発展して、マーキングされた陣地内に、実際にかき集めたものを建造物のように配置するというのが書き込みの内容で、もはや趣味の領域だ。特にシステム的な恩恵はない。手の使えるキャラ自体ほぼいないので、相当大変な作業なのは想像に難くない。


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