さきへ
三題噺もどき―ごじゅうよん。
お題:ブーツ・雨・指輪
ザアァァァァア―
雨音が世界を包んでいる。
私は独り、立ち尽くす。
指には、彼に貰った婚約指輪。
内側にはお互いのイニシャルが彫られており、小さなダイヤがきらりと申し訳程度に光っていた。
傘もささずに来たので、お気に入りのブーツも雨に濡れてグチャグチャになっていた。
(……何で、こんなことになったんだろ……)
彼と付き合い出して数年が経ち、結婚だって約束していた。
婚約指輪をくれたときの胸の高鳴りは、今でも鮮明に覚えている。
(それなのに……)
それなのに、彼は他の女と付き合っていたのだと告げた。
そして、その女性との結婚を決めたのだという。
私ではなく、全く知らない女。
今日は、それを伝えるために会いに来たそうだ。
(……バカみたい。)
結婚の話をするのかと思っていた、私が馬鹿らしかった。
ようやく、彼と私の新しい生活が始まるのだと、心待ちにしていたのに。
―まぁ、外で会うことを選んだ事は正解だっただろう。家に来て話されていれば、何をしていたか分かったものじゃない。
何故、あんな男をこんなにも愛してしまったのかと。
自分が、愚かしくて、嘆かわしくて、死にたくなってしまう。
(私は、何をしていたのかな……?)
自分がこれまでしていた事の意味が分からなくなった。
あの男の嘘に騙されていただけで、それだけで、愛されていると勘違いしていた。
そんな私は、傍から見ればどれだけ、滑稽に見えただろう。
(あぁ、でも……)
あんな男のことは忘れて、進まなければならない。
こんな事で死にたいだなんて、自分の存在意義を問おうだなんて、そんなことをする必要はない。
あいつより、幸せになって見返してやらなければならないのだから。