2.転生者の名は
転生していることに気付いてから1年後…ようやく視界がクリアになりある程度の状況が分かってきた。まず、ここは使われている言語や家の作りからして日本ではなくまた、原始的な生活を送っていることから時代も現代的ではないと分かった。そして、最も元の世界と異なるのは日常生活の中で魔法が使われていることだ。自分の体を洗うときやおしめを取り換えるときなどにどこからともなく風が吹き自分の体が宙に浮いたり、汚れたおしめが輝きだし一瞬にして新品同様にまできれいになるといった現象が信じられないことに起こった。他にもありそうな気がするが、まだ自分では元の体のように自由に動けないので確かめに行けなかった。
…若返ったことには感謝したいが、赤ちゃんは自由がきかなくて不便だなぁ
しかもこれだけの情報を得るのにも相当の苦労を有し、1年のも歳月が経っていた。好奇心やもどかしい思う感情も完全ではないが抑制されていたため、何もできないことに地獄だとは思うことはなかった。
自我が取り戻されてからまず起こした行動は、言語を理解することから始まった。
「あー、あ、あぅ!(母親と父親かは分からないが何を話しているのか理解できん!)」
「あらあら、あなた見て!イアンが私たちに何か話してるわよ!」
「ああ、伝えるしぐさだけで可愛いな!」
「あ~、あぃ、あぅ、あー!(何言ってんだよ、頼むから俺にも分かるようにで話してくれ!)」
このように会話が成立しないまま月日が経っていくのだった。
それから、約3年後……体が自由に動くようになり、両親が使っていた言語をマスターしたことにより、自分のことや家族のこと、この世界のことなどを色々と知った。まず、自分の名前は、イアン・R・ウォーカー。Rの意味を知りたくて父親であるデオン・ウォーカーに聞いたところ母親の旧姓が含まれているとのことだがその名前を聞くといつもはぐらかされてしまう。そして、家族構成だが父親と母親の3人家族で木材建築の家に住んでいる。家の大きさは他に建っている建物とあまり変わりなく、家族3人が過ごすには少し手狭な感じを覚える程度であるが、この世界では一般的な広さとのことである。
この世界といえばやはり元居た世界ではなく、アルカディア世界といわれる地球とは全く違う世界に転生していたようだ。重力や風景、国が1つではなく色々な国から成り立っている所等は地球と変わりないが、人間以外の言葉を交わせる種族が他にもいたり、科学が進歩していない代わりに魔法が発達していたりと暮らしには大きな違いが生じている。しかも魔法は発達しているが使える者と使えない者が存在するらしい。異なる種族や魔法に適性の有無が存在するばかりに元の世界よりも、差別が日常的行われているらしい。さらには、ほとんどの国が民主主義社会ではなく、貴族主義社会で構成されていることからそこら辺の問題は殺伐とした空気が流れている。
恐ろしい世界だな。地球でも長生きできていない自分にこの世界を生きていていけるか心配だ…
勿論、自分たちが住んでいる国も貴族主義であり、貴族には必ず家名があるらしい。俺の名前にも家名があることから貴族なのかと思い聞いてみたが、どうも少し違うらしい。昔、父親と母親は貴族家庭にあった身だったが両家の反対により結婚ができず、強制的に距離を離されるところを貴族という地位を捨てて駆け落ちしてきた。そのため、平民と何も変わらない身分に分類されるらしい。これを話していた母親であるアリアンナ・R・ウォーカーは涙を流しながら俺に裕福な暮らしをさせてあげられないことを謝罪してきた。
貴族だから必ずしも幸せということではないと俺は理解しているため、
「母さん、俺はめんどくさい義務がある貴族よりも今の生活の方が幸せだよ?」
と諭した。
「ありがとうね。イアンがこの家に生まれてきてくれて幸せだわ。」
と力一杯抱きしめてこの問題は一件落着した。母さんは貴族のような威厳な雰囲気はなくただ優しく、一緒にいると安心する良い母に巡り合えたようだと強く思えた。