世界について
皿洗いをするホエイルを手伝い、綺麗になった皿を乾いた布で拭いていると、ふとクトリアが顔を上げてホエイルに目配せをしてから玄関の方へと足を向けていたので、桃花はことりと頭を傾けた。
何か用事があるのか、と思ったが、手ぶらで行った辺り、客でも来たのだろうか。
ホエイルを見ると暫し黙り込み何かを考えている様子で、拭き終わった食器を重ねてカウンター後ろの食器棚に入れようと桃花が食器を抱えると、ホエイルはにっこりと笑って食器棚を開けている。
「お客さんでも来たの?」
「うん。アイト達」
「アイト、達?」
昨晩の事を振り返る限り、アイトと一緒に来たのはカマル達か、それともヴァレンか……、解らないけれど、ホエイルは桃花から預かった食器を手早くしまうと、新たに白地に小さな青い星が等間隔に描かれている、シンプルでモダンなデザインのカップとソーサーを取り出している。
食器棚の中には二人で使うには多過ぎる程の沢山の食器があるが、来客があった際、その来客に合わせて食器を選ぶそうで、そうした事で必要な量なのだろう。
桃花が感心して頷くと、丁度クトリア達が部屋に入って来ていて、淡いピンク色の髪を見た桃花はぱっと顔を上げた。
「アイト!」
「トーカ、元気そうで良かったわ」
今日のアイトはフリルがついたブラウスに紺色のAラインスカート、足元は甘さを抑える為か、チャコールグレーのシースルーソックスで、白いアンクルストラップのパンプスは細身のチェーンやパールが付いていて大人びた雰囲気だ。
髪型もトレードマークのツインテールではなく、前髪を斜めに流したダウンスタイルで、全体的に緩く巻いているので動く度にふわりと甘やかな香りを漂わせながら揺れている。
ゲームでは見慣れた服装とは印象も違うが、これはこれで今の彼女の性格にはぴったり合っていて可愛らしい、と桃花は思う。
「うん、ありがとう。クトリア達も良くしてくれて、本当にアイトのお陰だよ」
改めて礼を言うと、アイトは困ったように笑っている。
不思議に思っていると、彼女の背後から続けて歩いてくる人物が、桃花をじっと見つめていた。
「もしかしてシジェ達の世界と関係あるんじゃないかって、二人を連れてきたの」
「……、え?」
アイトの後ろから現れたのは、十七、八程の年齢に見える少年だが、桃花は思わず口に手を当てて、声にならない悲鳴を上げてしまう。
中性的で整った顔立ち、緩くウェーブがかった薄い琥珀色の髪、透き通る氷の様な青の眼、清潔そうな白いシャツはクラシックな装飾品を際立たせ、細く長い足はきっちりとした黒のスラックスに包まれている。
黒いロングコートは彼のトレードマークで、袖や襟元に付けた金色の細かい刺繍や肩章は煌びやかだが派手過ぎず、凛とした佇まいを感じさせる。
「シ、シジェ様?」
まさか、と思わずにはいられない。
彼——シージェスは〝グラーティア・ストーリア〟の最後に立ちはだかる敵、即ち、ラスボスだ。
彼は桃花にとって特別なキャラクターで、ゲームの中でも一番に愛着を持っているキャラクターである。
人気も高く、シージェスという名前から、ファンはこぞってシジェ様と呼んでいる程である。
ただ悪人からこそ悪を成し世界を狙っている、という悪役ではなく、見目麗しい少年でありながらヴァレン達とは別の世界の支配者であり、悲しい過去を持つ敵である。
今ではありがちな設定だが、彼には幼い頃に生き別れた姉がいて、その姉を探したくとも、一世界の王として守らねばならないものがある、という葛藤が描かれていくのだ。
幼いながらにそういった重圧や不安に耐えながらも、感情を抑え、立派に自らの世界を守ろうとする彼というキャラクターに、桃花は惹かれたのだ。
そして、その彼の隣には優しそうに微笑む女性がひとり。
年齢は二十代程で、柔らかそうに微笑む姿が印象的な大人の女性だ。
清潔で清廉な印象の、ふんわりとした白いフィッシュテールワンピースを着て、レースのサイハイソックスを履いている。
胸元や袖に着けた柔らかな藤色のリボンや、編み込みをした亜麻色の髪の毛……、大人の女性というキャラクター故にセクシーなイメージがあるかもしれないが、変ないやらしさのようなものを感じられない神秘的な印象で、ふんわり笑えば誰もが微笑み返すだろうと思わずにはいられない。
その彼女こそ、彼が生き別れた姉であるミーティアなのだから、桃花も流石に口に手を当てて喜んでしまうのは、致し方ない事である。
「ミーティアとシジェ様が一緒にいる!」
「僕の事は兎も角、姉様を呼び捨てにするな」
「ひえ……シジェ様がミーティアを姉様呼びしてるの、破壊力が凄い!」
おっとりと笑うミーティアと、腕を組んですましているシージェス、アイトはその二人と桃花を見比べて、ことりと首を傾けていた。
桃花が彼等を知っていて、その関係性を知っているのを、きっと不思議に思っているのだろう。
収拾がつかない状態に、クトリアが珍しく、咳払いをしてリビングテーブルへと皆を押しやった。
「まず、座って話そう」
桃花は慌ててホエイルの手伝いを再開し、彼女が用意していたカップやソーサーを皆が座り始めたリビングテーブルに運んでいく。
キッチンカウンター側にはクトリアが座り、彼が持ってきた予備の椅子がその両側に、アイトがその一つに腰掛けると、クトリアの向かいにシージェスとミーティアが座っていた。
青色に小さな白い星が散りばめられた柄のポットに並々と入れたクラフトマーガレットティーをそれぞれのカップに注いでいると、皆からの痛い程の視線に、桃花は思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「あの、話の前に、〝合図〟と〝舞台〟が何なのか知りたいです」
「アイトには聞いていたが、本当に何も知らないのか?」
呆れたように言うシージェスに困り果てた視線を送ると、彼は深く長い溜息を吐き出しながらも教えてくれる。
「〝合図〟は〝舞台〟の合図。〝舞台〟は〝観客〟の望むように演技をする事だ」
「その、オーディ、エンス……? っていうのは?」
「そのままの意味だ。観客。何処からか僕達を見ている者達。話をする事は出来ないけれど、存在を感じ、声を聞く事は出来る」
彼の言葉を聞いて、桃花は唇に指を押し付けて、考える。ゲームの中の人達が、ゲームのシナリオを演じているのが〝舞台〟なのではないのだろうか? だとするなら、この世界にとって〝舞台〟はドラマの撮影みたいなもので、〝合図〟はその告知か何かなのだろう。
〝観客〟はそれを見ている人達……、つまり、テレビの前にいるプレイヤーという事だ。
意味は理解出来るけれど、彼等はそれを当たり前の事と認識している。その事に、押し寄せるような不安感を感じて、桃花は疑問を口にした。
「……ど、どうして、その観客の為にわざわざ〝舞台〟をするの?」
「それが私達の役目だからだよ?」
ホエイルが何の躊躇無くそう返答する事に、桃花は砂を噛むような酷い違和感を覚え、周囲を見回したが、誰一人としてその返答に意を唱えたりはしなかった。
見た事もない何かに望まれて演じる、という事が、おかしい、とは思わない。
それは、彼らが作られたものだから、なのだろうか。
緩く唇を噛むと、心配そうにホエイルが顔を覗き込んで来るので、桃花は力なく頷いて、飲み込めなかった息を吐き出した。
「本当に何も知らないなんて、お前、新手のモンスターなんじゃないか?」
カップを手に取ったシージェスは、添えられた陶器の小さなピッチャーからミルクを注ぎながら、そう呟いていた。
隣に座るミーティアはシュガーポットから角砂糖を五つほど入れた辺りでアイトに止められ、叱られた子供のように悲しそうな顔をしている。
設定ではミーティアが一番年上の筈だが、アイトが甲斐甲斐しく世話をしている上に、落ち着いた話し方や立ち振る舞いで、彼女の方が年上に思える、と桃花は思う。
しかし、新手のモンスターとはこれ如何に。
けれど目の前のやり取りで先程の不安から意識が逸れたので、桃花は小さく笑って肩を竦めて見せた。
「モンスターならシジェ様の手下になるんだから、違うでしょう?」
ゲームの中では、一定の条件下以外で出てくるモンスターはほぼ全てシージェスの世界から送り込まれたもので、彼はその頂点にいたのだ、彼の命令一つで動かせる筈のものなら、彼の言う通りに動かせるものだろう。
そう思っていたのだが、ミーティアは口元を押さえてくすくすと笑い声を漏らしている。
「お姉さん、普通のモンスターはシーくんの言う事エオ聞いたりしないのよ?」
昔から見知ったキャラクター(と言っていいのかは定かではないけれども……)からのお姉さん呼びには多少なりとも傷付いたのだが、ミーティアは設定では二十歳だ。
三十間近の年齢である桃花をおばさんと呼ばないだけマシだろうし、何より弟であるシージェスを「シーくん」などという可愛らしいあだ名で呼んでいる事に感動してしまい、慌てて浮ついた思考を頭を振る事で掻き消しながら、桃花はミーティアの言葉を頭で反芻した。
「でも、モンスターはイズナグルから来るんでしょう?」
イズナグルというのはシージェス達が居た世界だ。
元は美しい自然溢れる世界であったが、次第にモンスターの蔓延る荒地に近い世界になっている。
シージェスはその中でモンスターさえもその力で従えていて、主人公達の世界を狙っている、という設定なのだが、それすらも設定での話なのだろうか。
「〝舞台〟には手懐けてる子を使うの」
「じゃあ、普通のモンスターは普通に襲ってくるんだ? なんか怖いね」
あれだけの角砂糖を入れたというのに、更にミルクを注ぎ、カップの中をスプーンで丹念に混ぜているミーティアを眺めてそう言うと、アイトは小さく溜息を吐き出しながら、そうね、と頷いている。
「けど、街の中に居れば大丈夫よ。街の近くにいて危険があるモンスターは報奨金が出るから、モンスターを倒すのを生業にしてる人もいるわ」
「お兄もモンスターを倒す仕事してるよ!」
「強いモンスターの方が報奨金も高いから、多分クトリアが一番稼いでるかもしれないわね」
クトリアがまさかリアルハンターだったとは。
そうでもない、と、告げるクトリアは視線を下げているので、照れているのかもしれない。
ゲームの中でも屈指の強さを誇るが、それは此処でも変わらないらしい。
一連の話を静かに聞き、ホエイルが出した茶菓子に手をつけているシージェスは、可愛らしい花型のクッキーをつまらなそうに眺めると、冷たいアイスブルーの瞳を桃花に向けていた。
「それで、お前は一体、何者なんだ?」
周囲の視線が一気に集まるのを感じて、桃花は俯いて机を眺める。じりじりと胸の底が焼け付くようで、息苦しい。
「……、私、多分〝観客〟だと思います」
「根拠は?」
「映像として見た事があるんです。私がいた所ではそれを見た人が沢山います」
少なくともコンベンションセンターのホールを簡単に一つ埋める程には、と心の中で付け足してそう言うと、皆は一斉に驚いた顔をしている。
そもそも表情が変わり難いクトリアと、さぞ甘ったるくなったであろうカップの中身を飲んでいるミーティア以外は、だけれど。
驚きを隠せずに口元へ指先を押し当ててそう呟くアイトに、眺めていたクッキーをミーティアに手渡したシージェスは小さく息を吐き出して桃花に顔を向けた。
「お前が知っている〝舞台〟の内容は?」
「シジェ様達はイズナグルから来た、とか?」
「それは先程も聞いたし、誰でも知っている」
「ヴァレンとアイトが出会って旅に出るとか?」
「それも誰でも知っている。そういう事じゃあない。他には?」
シージェスの問い掛けに、桃花は暫し視線を泳がせて、考える。
分厚い攻略本を擦り切れる程に読み込んでいるので、ゲームの設定通りならば、知っている事は多い。
けれど、姿の見えない何者かに演技をする、という事を疑問に思いもしない彼等に、この世界が「ゲーム」の中であり、「彼等自身がその登場人物」だ、という事を理解するのは難しいだろう。
理解出来ない事を無理を通してまで理解をしてもらおうとは思わない、が、何処まで話して良いかはまた別だ。
とっておきのものはあるにはあるが、その情報を提供する事で、彼等に余計な警戒心を与えてしまい、最悪の場合この世界から排除されたりしないか、混乱を巻き起こしてしまわないか……、考えれば考える程、行き詰まってしまう。
桃花はシージェスの眼を見て暫し逡巡したが、彼とミーティアが一緒にいるという事は、世界の危機に陥っている状態ではない可能性が高い。
二人が一緒にいられるのは、ゲームを隅々までクリアした後だからだ。
だとしたら彼等に正直に話しても、きっと大丈夫だろう(多分……、)、そう信じて、桃花はゆっくりと口を開いた。
「……、真の敵が、ディアヴルアルサー、とか?」
その瞬間、びり、と空気が震えるのを感じる。
この場にいる全員が緊張感を持っているのを理解した桃花の心臓は、突然ばくばくと早鐘を打つ。
ディアヴルアルサーは、このゲームの中での最大の敵、所謂隠しボスというものだ。
一周目のクリアではその存在は明かされず、二周目の終盤、シージェスと対峙する前にその存在を示唆される。
そして世界中で情報を収集し居場所を突き止め、倒さなければ一週目と同じエンディングを迎えるが、倒せば別のエンディングを見られるのだ。
但し隠しボスというだけあって、倒す為にはとてつもない時間と労力が必要なのだが、それはさておき。
一様に黙り込む一同に、桃花が心臓の辺りをぎゅうと握り締めて辺りをそっと身回すと、静かにカップを手に取ったミーティアがのんびりとお茶を飲み始めていた。
彼女自身、先程の発言に驚いてはいたけれど、それも一瞬だったようで、カップを置くと、今度は楽しげにクッキーを物色している。
その様子に、固まっていた皆は緊張を和らげたらしい、其々顔を見合わせると、息を吐き出しているので、どうやら最悪の状況ではないのだろうか。
アイトは桃花に向かって困ったように笑っていた。
「トーカ。貴方の言ったそれを知ってるのは、ごく一部の人だけなのよ」
「え?」
「それ以外の人達で知っているのは、〝観客〟だけ。だから、桃花が〝観客〟なのは、確定だわ」
単にヴァレン達の存在のように、主要人物だから周りには全て知られている、のだと思っていたが、まさか、それを知っているのはごく一部だけだなんて、と、桃花は驚いて周りを見るが、全員が頷いているので確かな事なのだろう。
「〝観客〟に求められて〝舞台〟は行われるけど、その〝観客〟がこの世界に来るなんて、初めての事だわ」
「僕と姉様は別の世界から来ているし、無くは無いのだろう」
前代未聞だ、という誰かの呟きが、胸の底をざわざわと震わせている。まるで逃げるようにシンプルな星柄のカップを手にすると、すっかりと冷たくなっていて、無様に指先が震えていた。
「ねえ、トーカがどうやったら帰れるのか、アイト達と話したらわかるかなって思ったんだけど」
「そうね、シジェ達も居るし、何か方法がないか探しましょう」
ホエイルが桃花を心配してそう言うと、面倒見の良いアイトは快く応じている。
どんどんと加速するように、自分を元居た場所へ帰そうという話が、自分を置いてきぼりにしたまま進んでしまって、いて。
どうして、私が帰りたい、という話になっているんだろう、と、まるで他人事のようにぼんやりと桃花は思う。
帰りたくない。
そう思ったから帰れない場所に来てしまったのではないのか。
帰れない程の場所まで逃げてしまったのだろうか。
それ程までに嫌になった場所に帰るとしたら、それは正しい事なのだろうか。
これが、自分の夢だとしても。
何故、自分の気持ちはいつも蔑ろにされてしまうのだろう。
震える喉では、上手く空気を吸い込めない。
すると、突然、目の前でずっと黙って飲み物を飲んでいたミーティアが、問い掛けてくる。
「ねえ、トーカ? トーカは、帰りたい、と一言も言ってないね?」
全員が弾けるように顔を上げて、ミーティアを見た。
彼女の言う通り、桃花は一度だって帰りたいとは言わなかった。
夢から覚めるかもしれない、とは思ったが、自主的に覚めるように行動した事も発言した事もなく、ましてや願ってもいなかった、のだ。
それを指摘されて、桃花は思わず肩を跳ね上げていた。
「トーカは、家に帰りたい? それとも、帰りたくない?」
波紋のように、柔らかく響く声。
透明な硝子みたいに、まっさらで透き通る瞳。
何を考えているのかわからないその眼は、ただ純粋で、それ以外の意図を持ち合わせないものだった。
だから、突然、怖くなる。
何処が自分の居場所なのか。
自分の本当の気持ちは何なのか。
全て見透かれている気がして。
「……、わ、から、ない」
どんなに考えても、きっとそれ以外の言葉は見つからない。
わからない、わからない、わからない。
此処に居たいのか、帰りたいのか、それとも他の何かに縋りたいのか。
その答え全てを放り投げて切り捨ててしまいたい。
耳を塞いで、目を逸らして、やめて、と大声で叫んでしまいたい程に。
「じゃあ、わかるまでは此処にいれば良いよ」
「え」
「ミーティア達がこの世界、案内してあげる」
悩んでも悩んでも一向に答えの出せなさそうな問題に、彼女は平然とそう言って、星形のクッキーを一口頬張った。
此処にいていい、と言われて、漸く、この場から追い出されるようで怖かったのだ、と思い知らされた。
一度優しくされてしまうと、関係を壊されてしまうのはやはり、怖い。
「姉様、」
口を挟もうとしたシジェを片手で制止し、ミーティアはただ真っ直ぐに眼を見つめてくる。
「そんな辛そうな顔で、重要な決断をしては、駄目。逃げられる時は逃げても良いの」
考えるのは、貴方なのだから。
そう静かに告げた彼女は、優しく眼を細めて、笑う。
「けど、そんなに怖がらないで。此処は、大丈夫。ゆっくり考えて」
漸く、ほう、と震えた息が唇から漏れ出て、桃花はテーブルへと視線を動かし、瞬きを繰り返した。
逃げた先の突き当たりが此処なら、本当に良かった、と思う。
大好きな世界と、大好きな人々、少し違った形ではあるけれど、此処は確かに、桃花が大好きでい続けた世界だ。
「ありがとう、ミーティア」
「うん」
顔を上げて笑いながらお礼を言うと、ミーティアは満足そうに笑って頷いていた。
すると突然隣から腕が伸びて、長い三つ編みが目の前で揺れている。
ホエイルに抱き締められたのだ、と分かったのは、肩越しに見えたクトリアが困ったように眉を寄せていたからだ。
「トーカ! ごめんね。ホエイルはてっきりトーカが帰りたいんだとばっかり思ってた!」
「ううん、私が曖昧にしてたから。ごめんね」
幼い子供特有の、しっとりしていて暖かいホエイルの体温に、桃花は思わず笑ってまあるい頭をそっと撫でた。
それを眺めたミーティアは、ニコニコと花の形をしたクッキーを皆の前に差し出している。
「そういう事なの。皆、協力してね?」
「姉様の頼みは断れないからな……」
シージェスが溜息を吐き出してそう言うと、アイトとクトリアは苦笑いを浮かべていた。




