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パドリエスパ遺跡2


 この世界には魔法やモンスターにも属性というものがあり、火、水、風、土、光、闇、という六つの属性によって、有利・不利が決まってくる。

 基本的に場所によって偏っている時があり、パドリエスパ遺跡も水属性のモンスターが多い。

 水属性は土属性に弱いので土属性の魔法が効くが、このゲームでは基本的に、武器に属性が付与される以外で属性攻撃が可能なのは魔法だけだ。

 今回は魔法が得意なミーティアがいるので、そういった点ではとても楽に進められている、と桃花は思う。

 魔法を見るのは初めてだったので不安もあったが、ミーティアが使用した土属性の魔法は鋭い宝石を空中に幾つも出現させて敵に突き刺して攻撃するもので、崩れた壁や天井から溢れる陽光に当たって眩く光を弾いていた。

 綺麗、と思わず呟くと、戦闘を終えたミーティアが振り返って、にっこりと笑みを浮かべている。


「トーカは魔法見るのは初めて?」

「うん。すごく綺麗なんだね」


 その言葉を聞くと、彼女は背丈より少し小さいくらいの細身の杖を握り締め、奥が見通せてしまいそうな程に透明なアイスブルーの瞳を真っ直ぐに向けて桃花を見た。


「本当? 怖くなかった?」

「見るまでは少し怖かったけど、実際見たらすごく綺麗だったから、怖いの吹き飛んじゃったよ」


 彼女が持つ螺鈿らでん細工のような不思議な光沢がある杖は、フローライト・アステールという彼女の最強武器で、動かす度に、青や紫、薄い緑にも見え、不思議な色の変化がある。

 その杖を軽やかに操るミーティアは、使用する魔法の綺麗さも相まって、神々しく感じられる程だった。

 勿論、魔法で次々と吹き飛んでいくモンスターを見れば、確かに傷つけるだけの力があるものなのだ、と現実に引き戻されるので、気を引き締めなくてはいけないのだけれど。


「ミーティアは土と水と光の魔法が得意なの。シーくんにも良く褒められるよ」

「シジェ様も得意な魔法あるの?」

「うん。シーくんは反対の火と風と闇の魔法が得意」

「互いに補い合えているんだね」


 楽しそうに頷いているミーティアは、手を振って杖を消すと、桃花の側から離れず、歩調を合わせて一緒にヴァレン達の所へと歩いてくれる。

 アイトやシージェスの前では子供のような言動をしている事もあるが、彼女は人の事を良く見ている人だ、と桃花は思う。

 先程の質問が、一瞬、初めて会った時に投げかけられたものにも似ているように感じられた気がしたけれど、今もまだ抜けきらない不安な気持ちを見抜かれているのかもしれない。

 駄目だなあ、と桃花は苦笑いを浮かべてヴァレン達を先頭に迷路のように入り組んでいる道を暫く歩いていくと、突き当たりに少し開けた場所へと辿り着いた。

 開けた、といっても扉もない小さな部屋のようで、部屋の真ん中にはフールスの森で見たものと同じ、金属製の宝箱が置いてある。

 手がかりが中に入っていないのは桃花も理解しているが、皆が近づいてしまうと何かしらの影響があるかもしれないから、と桃花が慎重に宝箱を開けると、小さな丸い塊が入っていた。

 二、三センチ程の大きさで、ほんのりと黄色に発光している丸い塊は、掴んでみるとひんやりとしている。


「何だこれ?」


 リジェットが不思議そうに覗き込んでくるので、皆に影響はなさそうだ、と桃花はほっとして持っていた塊を上下に揺らすと、ゲームで起こった通りの、鉄琴のような澄んだ高い音が辺りに響いていた。


「かわいい音だね」


 触れたそうにしているミーティアにそっと手渡すと、彼女は楽しそうに揺らして遊んでいる。

 からんころん、と鳴るそれに視線を向けながらのヴァレンは、何かに使うものなのか、と問いかけてくるので、桃花は頷いて皆に説明をした。


「一番奥に台座があって、これを振って鳴った音とそれに一致する台座に置いていけば奥の通路が開く、っていう仕掛けがあるの」


 確かあと三個くらい集めなきゃいけないけどね、と付け足せば、リジェットは顔を顰めている。


「すげー面倒」

「頑張ろ。後でホエイルが持たせてくれたクッキーあげるから」


 子供扱いすんな、と嫌そうな顔をしているリジェットの横で、甘いものが好きな二人は目を輝かせている。

 ホエイルが二人の為にとてつもなく甘いクッキーを作ってくれて正解だったな、と桃花は苦笑いを浮かべていた。


 ***


 集めた小さな塊は全部で四つあり、記憶通り、それぞれ降った時に鳴る音が違っている。

 最奥にある開けた広場は今までより大きく、四つの台座の向こうには重そうな石の扉が塞がっていた。

 腰程の高さのある台座の表面には小さな窪みがあり、台座に触れるとからころと塊を振った時と同じ音がする。

 それぞれ違う音がするのを聞き分けて塊をそっと台座に置くと、石が擦れているような大きな音を鳴らして、扉が開いていた。

 この先に、初めて戦うボスモンスターがいる。

 そう考えると、途端にばくばくと心臓が忙しなく動いていてしまう。


「トーカ?」

「ごめん、この奥に出るボスモンスターの事、思い出してた」


 ボスといっても、今のヴァレン達にとっては大した敵ではない筈だ。

 大丈夫、と何度も心の中で言い聞かせながら、桃花は深呼吸をして皆の顔を見ると、口を開いた。


「ダンジョン内は水属性のモンスターなんだけど、ボスだけは炎属性のモンスターなの。だから装備は気をつけてね」


 そう言うと、ミーティアは不思議そうに首を傾けている。


「トーカ、敵の属性の事まで全部知ってるの?」

「うん。此処はね。まんまと引っかかって物凄く悔しかったから、それだけはよく覚えてるんだよ……」


 言いながら、何もこんな意地の悪い事をしなくても良いのに、と泣きべそをかいてリトライしたのを思い出して、桃花は乾いた笑いを浮かべていた。

 おまけに直前でセーブしていなかったので、随分前からやり直さなければならなかったのだ。悔しさは倍増していて忘れたくても忘れられない。


「まあ、違う可能性もなくはないんだけどね」


 天空図書館から今いるパドリエスパ遺跡まで、出てくるモンスターやその強さ等はゲームを反映しているように、全く同じものしか出ては来なかった。

 フールスの森のように、場所によって広さや道らしい道がないといったような違っている箇所もあったけれど、基本的なダンジョンのギミックや宝箱の位置などは同じである。

 だとしても、それが絶対、とは言い切れない。

 此処はゲームの中とは明らかに違う点が幾つもある。

 それを見越して動かなかった事で、皆に危険があるのはどうしても耐えられない。

 実はディアヴルアルサーがとても弱かった、という違いならばどんなにか良いのだけれど、と内心で願いながら溜息を吐き出すと、リジェットは肩を竦めている。


「今までも大丈夫だったんだろ? 平気じゃねえ?」


 心配のし過ぎではないか、という事なのだろう。

 それは職場でもよく言われていた言葉だったので、桃花は思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 神経質、と影口を叩かれたとしても、大きな失敗をするよりはずっと良いものだ、と桃花はよく知っているのだ。


「最悪の可能性を考えて行動しちゃうのは悪い癖だと思うんだけど、念には念を入れておきたくて」


 慎重なのは悪い事ではないでしょう、と言えば、ヴァレンも同意するように頷いている。


「今回はミーティアがいる。もし違っていても属性が偏っているのなら魔法でカバー出来るだろう」

「そうだね。落ち着いて対処しよう」


 桃花が頷くと、扉の空いた暗い部屋の中へと、皆は慎重に歩いて行った。

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