パドリエスパ遺跡1
フールスの森から帰った翌日もその翌々日も、桃花達は休む事なく飛空艇に乗り、手がかりを探しに出ていた。
今訪れているパドリエスパ遺跡は序盤に登場するダンジョンの一つで、ゲームではアイトを狙ったトリエンシア社の追っ手から逃げる為に入り込んでしまった場所でもある。
青と白を基調としたその遺跡は廃墟に近い状態ではあるけれど、崩れた壁や床に貼られたタイルの模様は美しく、桃花は思わず吹き抜けの広場を見上げて感嘆の声を上げた。
広場の中央には倒れた柱やタイルの破片などが散らばっているが、崩れて抜けてしまった天井からは陽光が零れ、縦長にくり抜いたような窓は所々に青や黄色や赤などの硝子を埋め込まれていて、光が当たるときらきらと輝いている。
「トーカ」
後ろから声をかけられて振り返ると、亜麻色の長い髪を黒いリボンでポニーテールに結ったミーティアが、にこにこと笑みを浮かべていた。
彼女はアイト達と事業の引き継ぎをしていたのだけれど、漸くひと段落ついたという事で、今回から合流したのだ。
いつもは清楚なお嬢様のような格好をしていたが、今日は珍しくアクティブな服装である。
ベージュのニットワンピースに首元や袖口にフリルの付いたブラウスを合わせていて、下にはショートデニムと黒のサイハイソックスを履いている。
どちらの服装も似合ってはいるけれど、随分とテイストが違う服装が気になってつい桃花が聞くと、どうやらいつもの服はアイトが選んでいて、今回は自ら選んだ服を着ているらしい。
「此処、すごく綺麗だね」
「うん。ミーティアは来た事なかった?」
「ミーティアの〝舞台〟はもう少し後だから、此処に来るのは初めてだよ」
楽しそうに笑って辺りを楽しそうに見て回るミーティアは、子供のようなはしゃぎようだ。
入り口から直ぐのこの広場から先に続く通路が二つ分かれているのを見つけては、今にも奥に入って行きそうな彼女を、後からゆっくり歩いているヴァレンが嗜めるように声をかけている。
「ミーティア、あまり奥に行くなよ」
「はあい」
返事をしているものの、すぐに興味を天井に向けて見上げているミーティアに肩を竦めているヴァレンは、赤いジャケットにフードの付いた白いパーカーとジーンズにブーツ、といういつも通りラフな格好だ。
毎回気にはなってはいたが、矢張りいつも赤いものを身につけているらしい。
ヴァレンは〝舞台〟を大切に思っているようなので、そういった所も寄せているのかもしれない。
広場の中央にある、倒れた柱に勢いよく登っていくミーティアを見たリジェットは、慌てて片手を掴んで止めている。
彼はいつものように前髪をバンダナで上げ、蛍光色を散りばめたシャツと黒いスキニーパンツ、スニーカーも蛍光オレンジといういつもながらに派手な格好だが、今では彼らしいと桃花には思えてしまう。
「あーもう、大人しくしてろって。転ぶって言ってんだろ」
「だって、久しぶりの外だから」
「怪我したらまた弟がキレんだろ。マジでやめろよ」
真顔で注意しているリジェットの言葉に、桃花は不思議に思って首を傾げた。
ヴァレン達とシージェスが会った所に遭遇した事はないが、主人公達とラスボスという関係上、仲が悪いのだろうか。隣にいるヴァレンを見る限り、そういった様子には見えないのだけれど。
「シジェ様って皆に怒るの?」
問い掛けに、ヴァレンは口元に指を当てて考え込んでから、答える。
「そういえば前に〝舞台〟でミーティアが怪我をした時に乗り込んできたな」
「シーくんはね、とっても過保護なんだよ」
嬉しそうにそう言うミーティアに、シージェスが甲斐甲斐しく世話を焼いていた事を思い返してみても、確かにそう思えなくもないが、たった二人だけの肉親であり、ずっと離れ離れになっていた姉弟なのだ。多少過保護になってしまうのは仕方ないのかもしれない。
「さて、どうする?」
二つに分かれている通路の前に行き、ヴァレンがそう言うと、今まで楽しげにしていたミーティアも、怠そうにしていたリジェットも、表情を真剣なものに変えていた。
戦闘を交えての手がかり探しは三回目にもなるけれど、こうして皆が真剣になった途端に変わる空気はまだ、慣れていない。
そのままでいい、とロジクが言ってくれた言葉を思い返して深く息を吐き出すと、桃花は親指に人差し指の爪を一瞬だけ食い込ませて、頭を切り替えた。
「じゃあ、右手の法則で行こうか」
此処は単純なダンジョンだった筈だから、と言えば、ミーティアが不思議そうに眼を瞬かせて覗き込んでくる。
「なあに、それ?」
「壁に右手を当てたまま進む方法なんだけど、途中で落とし穴とかワープする所がなければ確実に行けるの。場合によっては時間がかかるかもしれないけど」
適当に行って覚えていられる程に記憶力があるわけではないので、ダンジョンを攻略するには確実な方法だ。
だが、それはあくまでも桃花のやり方であり、彼らまで巻き込んでいいものか、と迷ったものの、すんなりと皆は受け入れてくれたようで、素直に頷いている。
「時間はあるから良いんじゃね?」
「ああ、それでいこう」
皆の言葉にほっとして、桃花はこの場所に出るモンスターを鑑みて、皆に指示を出した。
今まで訪れた場所とは違い、パドリエスパ遺跡は偏った属性のモンスターがいる上にボスモンスターもいるので、戦闘についても事前に確認をしておいた方が良いと考えたからだ。
「ミーティア、此処は水属性のモンスターが多いから、土属性の魔法を使用してね」
ミーティアは主に魔法を使うキャラクターなので、今回からは魔法を使用した際の指示も考えなければならない。
ロジクも魔法は使えるが、指示をする側が慣れていない事を考慮して今まで魔法は使用してこなかった上に、武器もサーベルなのでダメージはそれなりに通るけれど、ミーティアの攻撃の主体は魔法であり、武器である杖の物理攻撃はほぼ効果がないのである。
「うん、わかった。どれぐらいの魔法使えばいいの?」
どれぐらい、の意味がわかりかねて首を傾げると、横で聞いていたヴァレンが補足してくれる。
「どれぐらい強い魔法か、という意味だと思う」
ミーティアの言葉の選びは独特なので時々理解が追い付かない時があるけれど、パーティメンバーには何となく理解出来るらしい。
「ああ、そういう……、ええと、最初は出来るだけ弱い魔法でお願い」
「わかった。もっと強い魔法の時は言ってね」
嬉しそうにそう言うミーティアを見ていると、アイトやシージェスが世話を焼いてしまうのも段々とわかってしまう気がする。
苦笑いを浮かべていると、大きく伸びをしているリジェットが、俺らはどうすんの、と問いかけてくるので、桃花は少し考えて口を開いた。
「なるべく通常攻撃にして欲しいな。術技の使用しなくても十分強いし、強い攻撃は面倒なモンスターとかボスに使った方が良いと思う」
頷いて、わかった、と短く答えたヴァレン達に頷くと、皆は右側の通路へと入って行った。




