表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/49

ピティとリジェット

 クトリアが聖域に行ってから、三日が経過した。

 もうじき帰ってくる筈だから家の中をぴかぴかにして、お兄の好きなものを沢山作ろうね! とホエイルはいつも以上に張り切っていて、午前中に掃除や洗濯、食事の仕込みまで終え、クトリアの帰りまでゆっくりしている予定だったのだが、張り切り過ぎたのだろう、昼食後にうとうとし始めていた彼女を休ませている間に、桃花は雑貨品や調味料の不足しているものを買いに、外へ出ていた。

 海沿いの市場は賑やかだけれど晴れやかで、祭りの屋台のような雰囲気が心を躍らせてくれたけれど、配管が這うように取り付けられたビルの立ち並ぶ街中はどうもまだ慣れず、少しだけおっかなびっくりしてしまう。

 テーマパークよりもリアルで精巧な空気感は、知らない土地へ旅行に来た時にとてもよく似ている。

 入り組んだリーヴァの街中は相変わらず迷いやすく、以前一緒に街へ買い物に出ていたアイト達には、慣れないうちは大通りから絶対に外れては駄目だよ、と強く言われていた。

 年下のキャラクターではあるのだけれど、彼女達はどうも、自分を子供のように接してくる気がする、と桃花は思い、以前来た道を思い出しながらのんびりと足を進めた。

 ゲームをしていた頃は確かに彼女達より幼い子どもだったので、その頃の記憶が強く呼び起こされたが故、なのかもしれない。

 街の中心部には一際大きなビルが立っていて、太陽の光を弾き眩く見える。

 桃花が勤めていた職場の近くにも600メートル程の有名な電波塔が佇んでいて、それに比べたら大分低くはあるが、それにしても想像より遥かに大きい、と桃花は思う。

 アイトの父親の経営している会社のビルであり、物語に関わる建物なのだから当然ではあるけれど、ヴァレン達はこんな大きなものと戦っていたのか、と呆然としてしまう。

 クトリアはモンスターと戦う事に対して平然としていたけれど、桃花は今まで平穏に過ごしていた身であり、戦いに殉じる彼らを目の当たりにするのは、やはり、辛い。

 そもそも、ゲームプレイからして桃花は少々変わっている、と言われた事がある。

 キャラクター達が傷つくのがとにかく嫌で、防御を固め、回復ばかりを優先して行動してしまうのだ。

 幼い頃に仲良くしていた男の子から、攻撃力を上げて早く敵を倒してしまえばいい、と言われて初めて気がついたけれど、それでも、傷つけられ少しでも体力が減ってしまうと、慌てて回復ばかりを優先してしまう。

 回復魔法に特化しているアイトやミーティアは、きっと大変だったろうな、と今だからこそ桃花は思う。

 すれ違う人々の波に暫く揺られ、桃花は息を吐き出してその場を後にした。

 色々悩んでいても、不安に駆られてしまっていても、何かが変わるわけではない。

 それよりも、クトリアやホエイルにはいつも世話になっているから、少しでも彼らが喜んでくれるような何かを考えよう、と桃花は思う。

 家の事は手伝っていても、元々ホエイルがきっちりこなしてくれるのでこれ以上に何か出来る事は難しい。

 ならば、彼らの役に立つものを贈るのも良いかもしれない。

 そう考えて、桃花は大通りを歩きながら、通り沿いの店を歩いて物色する。

 以前ミーティア達と訪れた洋服店や製菓店を始め、入り口の辺りに厳つい顔をした男達が話し込んでいる武器屋や、落ち着いてはいるが格式が高級そうな外見で入りにくそうな防具屋等を眺めていると、ふと入り組んだ路地の奥に小さな立て看板が見えた。

 文字は掠れていて読めないが、看板に描かれているのはゲームでも馴染みある、道具屋のマークである。

 道具屋ならば桃花の馴染みある雑貨店にも近く、入りやすいだろう。

 けれど、細い路地の奥は昼間だと言うのに薄暗く、得体の知れない何かが息を潜め(うごめ)いていそうな、そんな不安を掻き立てられる。

 古今東西、狭い路地に入った時ほど何らかの騒動に巻き込まれるものだ。

 大好きなゲーム世界の道具屋にとても興味はそそられるが、誰かが一緒の時にでも来よう、と諦めて踵を返すと、その路地の奥で誰かの声がした。

 踏み出そうとしていた足を止め、桃花は静かに、深く長く息を吐き出す。

 ほんの少しだけ。ちょっと様子を見てみる程度ならば、きっと大丈夫だろう、と言い訳じみた事を考えながらそろそろと奥へ歩くと、路地の奥は少し広い空間になっている。

 道具屋の看板はその先にある店への案内板のようで、奥には道具屋のマークが描かれた小さな店舗があった。

 赤い(ひさし)が目立つ店先には籠に入れられた皿やカップが置かれてあり、きっとセールか見切り品として安く売っているのだろう。

 値段だけしか文字の意味がわからない桃花でも、それがお買い得品であるのは見てとれた。

 が、残念ながら先の声を聞いた通り、店の前には数人の男性が何やら話し込んでいる。

 幸いにも桃花に背を向けた状態なので、このまま後ろに下がれば何事もなく大通りに帰れるだろう。

 だが、その中央に小さな何かが見えて、桃花は思わず足を止めてしまった。


(え、子供? まさか、何か脅されてるとか?)


 大人達に囲まれているその子供は小学生くらいの男の子のようで、頭に被せた大きな帽子を両手で掴んで、まるで殴られるのを恐れているかのような様子である。

 誰か呼ばなくては、と慌てて口元に手を当て、大通りへ向かおうと路地の入り口へと素早く足を向けると、背後から大きな影が伸びてきた。

 声を上げかけて慌てて口を押さえ、どうにか大声を出さずにその場にしゃがみ込むと、頭の上から呆れたような、それでいて少し楽しんでいそうな声がして、いて。


「おい、何してんだよ」

「……っ、リジェット?」


 長めの前髪を上げているバンダナに手を当て、覗き込んでくるのはリジェットで、今日はシックな黒いジャケットを羽織っているが、インナーは相変わらず原色を散りばめたような派手なものを着ている。

 桃花が怯えている姿が滑稽なのか、にやにやと笑みを浮かべている。

 リジェットはパーティメンバーの中でも一番体力と防御力が高い上に、拳で戦う格闘家タイプのキャラクターだ。

 背も高いので、見た目だけでも威嚇には充分だろう。

 これ幸い、とばかりに桃花は彼のジャケットを掴んで引きずるように彼を路地の奥へと連れていった。

 何すんだよ、だとか、服が伸びる、だとか、騒ぐ言葉を無視し、路地の広場にいる男達に気づかれないよう影に隠れて小声でリジェットに説明をする。


「この先で、小さい子が大人に囲まれてるの。一緒に来て!」

「何で俺が」

「お願い! リジェットだけが頼りなの!」


 ひねくれている性格のリジェットは、きっとストレートに頼られる事を悪くは思わない筈だ。

 両手を合わせて懇願すれば、予想よりも素直に彼は口端を引き上げている。


「ふーん。あっそ。お前一人じゃ何も出来ないってなら、まあ、助けてやっても良いけどさ」

「流石、リジェット! 頼りになるよ。ありがとう!」


 更に褒めて持ち上げながら桃花は先の男達を見たが、隣のリジェットは不思議そうに首を傾げていて。


「つか、あれピティじゃねえ?」

「え?」


 中心にいる子供を指差して、リジェットは言う。

 ピティ——ピティ・ポピットはパーティメンバーの一人で、終盤の移動手段である飛空挺・バヴァルダージュ号の操縦士兼整備士の女の子だ。

 祖父から受け継いだ工房と飛空艇を大切にしていて、最年少ながら、明るく大らかで面倒見の良い性格をしている。

 ゲームでは幼い彼女にぴったりの、明るいオレンジ色のジャンバースカートにスパッツを合わせた姿が印象的な格好だったが、巻金髪の巻き毛を肩上に揃えて切った髪に被せているのは、犬の耳の様な飾りが付いた帽子、ロールアップしたオーバーオールは緑色のチェック柄で、見た目だけなら男の子のようだ。

 リジェットは溜息を吐き出して男達の前へと堂々と歩いている。


「おい、てめーら。何してやがる」


 明らかに喧嘩腰な言葉に頭を抱えたくなるけれど、流石に何人もの男性に囲まれてた状況で文句を言える程に強くはないので、今は彼だけが頼りだ。

 少し離れながらもその後ろからついていくと、くすんだ橙色のツナギを着た男達の中心にいた子供が、驚いた顔でリジェットを見上げている。


「……、リジー?」

 

 大きな緑色の瞳はたっぷりと水分を含み、今にも滴がこぼれ落ちそうで、子供らしいふっくらした頰は赤く、泣き出す寸前の様だ。


「リジェットじゃないか! あんたからも言ってくれよ。お嬢のこの格好」


 困り果てた、といった具合の男達は、一様に眉を下げてリジェットに押しかけている。

 今までの状況を見ている限りピティを虐めていたわけではなさそうだ。そう考えた桃花は、慌ててリジェットの側に駆け寄って周囲を見回した。

 良く見てみれば、男達が着ているくすんだ橙色のツナギは、ピティの工房で働く人達の制服である。


「あの、どういう事ですか?」


 おずおずと近づいて問い掛けると、何だ誰だ、と喚く男達の向こうで、クトリアのとこの居候、と面倒臭そうにリジェットが言う。

 クトリアの名前を聞くと、男達は直ぐに納得がいったようで、桃花達に事の成り行きを話してくれた。

 ピティは此処でも工房の皆と飛空艇の修理や整備を行ったりしているのは変わらないようだが、彼女は何故か突然、男性になる、と言い出して、男の子のような格好をし始めたらしい。


「別に良いんじゃねえの。どうせチビだしどっちかわかんねえだろ」

「こ、こら、やめなさい」


 とんでもない言葉を吐くリジェットに、ヴァレンに言いつけるよ、と釘を刺せば渋面を浮かべながらも大人しくなっていた。


「そうは言っても、少し前までは、こう、ひらひらした可愛い服とか髪飾りとかが大好きだったんだよ」

「お嬢は繊細だから、何かあったんじゃないかって心配で心配で」


 彼らの言う通り、可愛らしい服が好きでいつもそんな服を着ていた子が、突然男性になりたいと言って男装するのは、何かあったのでは、と確かに心配になる事ではあるが、思春期にはありがちな事にも思える。

 かくいう桃花自身も、幼い頃、少女趣味の母親にフリルやリボンをたっぷりつけたピンクのスカートだの真っ白のドレスにも見えるようなワンピースだのを着させられた事がある。

 近所の子供達に笑われても母親に着用を強要されたので、生まれて初めて地面で両手足を振り回し泣き喚いてまで嫌がった挙句、とうとう高校生まで私服でスカートを履かなくなってしまったのだが、それはさておき。

 パーティメンバーの中で、主人公であるヴァレンや年上のキャラクター達は静かで穏やかなメンバーで纏まっていて、年下組の中でリジェットは今のピティのように内気だが、本来のゲームでのアイトやピティはその明るさや大らかさで皆を引っ張って行く役割を担っている。

 しかし、この目の前で両手を握り締め俯いているピティは、どう考えても内向的で傷つきやすそうな印象だ。

 工房の人達が言うように、何か思うところがあって、こうした行動に出たのかもしれない。

 悟られないように静かに溜め込んでいた息を吐き出し切ってから、桃花は彼女の前でしゃがみ込み、にこりと笑って話しかけた。


「初めまして、私は桃花っていうの。良かったら、わけを教えてくれないかな? 皆、ピティの事が心配で色々言っちゃっただけだと思うんだ。皆の事を嫌いになったとかではないでしょう?」


 身内に幼い子供がいなかった事と、然程子供好きというわけではなかったので、職場に来る幼い子供客の相手はパートの女性達に任せきっていたのが、今更ながらに悔やまれる。

 親の言う事を聞かなかったりぐずったりする子供達も、不思議とパートさんたちの一言であっさり泣き止んだり笑っていたりしたものだ。

 ピティは大きな瞳を瞬かせて暫く見つめ返していたが、首を傾げながらもじっと言葉を待つと、震えた息を吐き出している。


「ぼく、みんなのこと、嫌いになんてならないよ」


 幼い子供特有の、あどけなくて少し舌足らずな声でそう彼女が言うと、周囲の男性達は感極まったように頷いたり、目頭を押さえているので、彼女は彼女が思うよりずっと皆に愛されているようだ。

 そんなピティは鼻をすんと鳴らし、唇を噛み締めると桃花を見上げ、再び口を開いた。


「ぼく、おじいさんが残した工房と皆を守らなきゃいけないから。だから、強くて格好いい、男のひとになりたいんだ」


 堪えきれずに緑色の瞳から透明な水玉が次から次へと零れ落ちていく。

 しゃくり上げて泣き出すピティの背中をさすりながら、桃花は小さく何度も頷いた。


「でも、どんなに頑張っても、ずっと泣き虫で、弱いままで、全然強くなれない、から……」


 だから、格好だけでもピティなりに考えた強い人——男性になりたくて、男装をしたのだろう。

 身近にいるホエイルがあまりにもしっかりしているので忘れがちだが、ピティの年齢は十二、三歳だった筈だ。

 そんな歳で大人の男性達に囲まれ飛空艇の整備の仕事やそれらの管理を行なうのは、普通に考えたらそう簡単な話ではないだろう。

 ゲームや漫画の中の世界は十代や二十代の子供達に世界の命運を懸けてしまいがちだが、今の年齢になって考えてみると、子供相手に無茶を言うな、と言いたくもなる。

 桃花がポケットからハンカチを取り出してそっと濡れた頬を拭うと、男性達もおろおろとピティの様子を伺っていて。


「そんな無理しなくたって良いんですよ」

「お嬢は先代が残した大事な跡取りなんですから、もっと好きな格好したって我儘言ったってバチは当たりませんって」


 彼らがそう言う通り、ピティが身につけている緑をベースにしたチェックのオーバーオール、犬の耳を模したような帽子には花の形をした飾り釦があしらわれているのを見ても、可愛いものが嫌になった、という訳でもなさそうだ。

 ゲーム内でもアイトやミーティアとお揃いのリボンを買う、というイベントがある程だし、本当はそういった格好もしたいのかもしれない。

 となれば、まずは本人の気持ちを認めてあげるのが先決だろう、と、桃花は男性達に向かって口を開いた。


「本人が成長するにつれて少しずつ色んな事が変化すると思うし、今はしたい格好をさせてあげたらいいんじゃないですか? 今のまま周囲が気持ちを押し付けたら、もっと頑なになりますよ」

「そ、それは、そうかもしれないけどなあ……」


 彼らは戸惑ったように互いを見合っていたり、意見を言い合っている。

 鼻をすんと鳴らし、先程より涙の勢いが落ち着いてきたピティは、周囲の様子を見ると、きっと困らせてしまっている、と思ってしまったのだろう、唇を噛み締めてぎゅうと身を竦めると、益々俯いてしまった。

 桃花はその様子に小さく笑って、彼女の背中を出来る限り優しく撫でた。


「ねえ、ピティはピティのペースで強くなれば良いんじゃないのかな」

「ぼくの、ペース?」


 桃花がそう言うと、ピティは大きな瞳にたっぷり水分を含みながら、不思議そうに見上げている。


「そう。例えば、簡単な目標を決めて、それをこなしてみるの。で、それが出来るようになったらまた別の目標。ちょっとずつ難しくしていけば、今は出来ない事もそのうち出来るんじゃないかな」


 それは仕事を始めたばかりの桃花が、先輩の社員に教えて貰った方法だ。

 何をして良いのか分からずに混乱し、とにかく目についた仕事を何でもこなさなければ、と一人で抱え込んで失敗した事があった時に、そうしてみたらいい、と教えて貰ったのだ。

 初めから何でも出来る人はいるのかもしれないが、大抵はそういった積み重ねがあってこそなのだ、と知れたのは暫く経ってからだったけれど、今では大事な事だったのだとしみじみ思う。


「大体、見た目だけで強くなれるわけねえだろ。それに、強くなるのに性別も格好も関係ねえよ」


 暫く黙り込んでいたリジェットは、ピティの頭から大きな帽子を奪い取って自分の頭に乗っけてそう面倒そうに言っていた。

 ゲームでのリジェットは特に、強さを求めて成長していくキャラクターだから、その意味を良く理解しているのかもしれない。

 視界が明るくなった事にピティは驚いていたが、大きく息を吐き出すと、先程よりしっかりと桃花やリジェットに視線を向けている。


「何か難しい事をする時は、皆に手伝って貰えば良いんじゃないかな。誰かに頼るっていう事も、強さの一つだよ」


 桃花は唇を噛み締めてから、自嘲気味に笑った。

 誰かを頼りたくても頼れない日が来る事を、大人になれば嫌でも理解するのだから、こうして頼れる誰かがいる間は、頼って欲しい、と思うのだ。

 その証拠に、周囲の男性達は、次々に申し訳なさそうにピティに謝っている。


「知らない間に色んな事を無理に押し付けちまったかもしれない」

「ごめんなあ、お嬢」


 その言葉に、ピティはゆっくりと首を振っていて。


「ううん。みんな、ぼくの事を考えてくれて、ありがとう。もっと頑張るから、みんなもついてきてくれる?」


 皆を見つめながらはっきりとした声でそう聞くと、男性達はわっと喜びの声を上げ、ピティを抱き上げている。

 その内に胴上げでもしかねないが、ピティがすっかり笑顔になっているので、桃花も笑いながら立ち上がった。

 きっと大変な事は多いだろうが、彼らがいれば大丈夫だろう。

 男性達の奥でリジェットが「うるせえ! 解決したならもう解散しろ! 大体、店の前で迷惑だろうが!」と怒っているので、男性達は笑って謝りながら大通りの方へと歩いて行くが、抱えられていたピティが何事かを言うとその場に降ろされる。

 慌てて桃花の側へと駆け寄って来るピティの帽子はリジェットが被っていたままだったので、取りに来たのだろうと思っていたが、彼女は桃花達の前で、少し照れ臭そうに見上げていて。


「あの、お姉ちゃん、リジー、ありがとう」


 眉を下げて笑う彼女の頰には、けれど、また大粒の涙が溢れている。

 泣き虫だと言っていたが、元々涙もろいところがあるのかもしれない。

 またハンカチで拭ってやると、リジェットが呆れたように溜息を吐き出して、頭に乗せていた帽子をピティの頭に被せている。


「良いから泣くな。鬱陶しいだろ」


 そうは言うけれど、と、桃花は肩を竦めて彼を見た。


「でも〝舞台(ステージ)〟ではリジェットの方が泣き虫なんじゃないの?」

「うるせー!」


 子供みたいに怒るリジェットに、ピティと桃花は顔を見合わせて笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ