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彼の親切心…それは…

私は深呼吸をし、段ボールの囲いから出て彼と話すことにした。


私『あの…今朝は…大変失礼…しました…


あの…それと…たくさん…パンとか…お茶…ありがとうございます。


ちゃんとお礼を言わなきゃって…思っていたのに…』


彼はそれを遮り


松橋『気にしないで下さい。僕の一方的な親切ですよ。

僕が勝手にしたことなんだから、あなたは謝る必要なんかありませんよ。

それよりあなたと話せて良かった。

凄く警戒されてたみたいだったから、あなたとお話しをすることは出来ないと思ってて…』


彼の優しい笑顔で穏やかな口調でそう言ってくれるのを見て不思議な感覚に襲われる。


なんというか、凄く落ち着くんだけどドキドキするような…このままずっとこの時間が続いて欲しいという自分でも信じられない気持ちで…


私は彼に一つの疑問をぶつけた。


私『あの…どうして…こんな私に…そんなに親切にしてくださるんでしょうか?


こんなみすぼらしい女に…


こんな…


汚い…


女に…』


私は徐々に自分が惨めに思えてどんどん小さく消え入りそうな声になっていった。


すると彼は


松橋『失礼ですがお名前伺ってもよろしいですか?』


彼にそう聞かれてとっさに嘘を付いてしまった。


私『和代(かずよ)…和代です…』


まだ自分をさらけ出すには時間が必要だった。

まだ彼のことも何も知らないし、自分のことを知られるのが恐いからだ。


自分の暗い過去や惨めな自分に触れられたくないから…


私は昔から人に心を開くことが得意ではなかった。


松橋『和代さんですね、ありがとうございます。


和代さん、僕はね、僕が高校2年の時に一つ上の兄を亡くしてるんです。


兄は些細なことで親父と喧嘩して家を飛び出してしまいましてね、警察に捜索願いも出していましたが、家を出てから約半年後に警察から電話が掛かってきましてね…







警察『もしもし、松橋さんのお宅で間違い無いでしょうか?』


親父『はい、松橋です。』


警察『あのぉ…急いで◯◯病院までお越し頂けないでしょうか?』


親父『………』


警察『実は…捜索願いを出されていた息子さんが見つかりまして…』


親父『…ほ…本当…ですか?


息子に何かあったんですか?


息子は怪我をしてるんですか?』


警察『いやぁ…実は…』


何とも煮え切らない警察の様子に親父は


親父『教えて下さい!一体息子に何があったんです!』


親父は興奮気味に詰め寄った。


電話を強く握りしめる手は震えていて、顔からみるみる血の気が引いていった。


そして電話が終わるとガクッと膝から崩れ落ちた…



それを僕はすぐ側で見ていました。


それで僕は全てを悟りました。


僕は兄と凄く仲が良かった。なのに何故兄は僕に何の連絡もしなかったんだろうと思いました。


親父と僕とそのときはまだ母には言わず二人で◯◯病院に車で向かいました。


いきなりその現実を母に突きつけて動揺されても僕らもどうしていいかわからなくなると思ったから…


だから先に二人で兄の姿を見に行くことにしたのです。


病院に着いたら警察の方が待っていて案内された先は霊安室でした。


兄は身長178センチくらいのわりと長身でしたが、発見された時には体重が30キロ台まで痩せ細っていて衰弱による死だったそうです。


発見されたのは河川敷の草むらの中で、たまたま通りかかった釣人が通報してくれたんだそうです。


兄は頑固な人だったから、誰にも頼らずに路上生活をしてたのでしょう…


変わり果てた兄を見てどんなに苦しく辛かったんだろうかと胸が張り裂けんばかりの切ない想いでした。


一旦僕らは気持ちを整理してから母を迎えに行きました。


母は最愛の息子の哀れな死に心を病み病気勝ちになって入院生活をすることになりました。


父も自分が兄を追い込んだという自責の念にとらわれ無口になってしまいました。


母は入退院を繰り返し認知症を煩い今はもう…


今はもう父が一人実家で暮らしていて、僕は独り暮らしの生活をしてます。


あのときに誰にも頼ることが出来なかった兄を助けて上げられなかったのが悔やまれてなりません…


だから…ここであなたが路上生活をしているのをたまたま見かけ応援したい気持ちになったもので…


ここにはずっと来ることが無かったんですよ。


兄が発見された当時は毎日食べ物を運んでお供えしてたんですが、就職して段々と忙しくなり足を運ぶ回数も減ってしまって。


僕には夢があるんです!


家を飛び出して誰にも頼ることも出来ずに人知れず苦しんでいる人達を無償で救ってあげられる大きな施設を作るという夢が!


そうだ!もし良かったら和代さんも僕の夢を協力してくれませんか!?』


私の汚い両手を彼の両手がしっかりと掴んでそう言ってきた。


私はあまりの衝撃にビクッと飛び上がってしまった。

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