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最初で最後の彼

作者: 波瀾万丈

谷神高校三年B組

相原真奈美あいはらまなみ


これといって何の取り柄もない卒業間近の普通の女子高生。


期末テストも無事終了し

もうすぐ冬休み。


「今日から教習所だ〜。免許取って早くこんな田舎脱出だー。」


そう、真奈美は憧れの<大阪>に就職内定。

特別に楽しい高校生活でもなかった為、社会人になるのが待ち遠しかった。


必要書類をかばんに入れて自転車で隣町の教習所まで約5キロ。

「やっと着いた。」真奈美は自転車を止め、中に入った。


(何?この異様な雰囲気…

動物園?)


真奈美は後退りしそうだった。


隣町の繁森高校の制服が、金髪頭であちこちたむろしている。

…(しかもうんこ座り )


人目も気にせずいちゃついてるカップル。


タバコ片手に化粧してる女子高生。


(…怖すぎる。本当にみんな同級生?)


真奈美の学校では考えられない光景だった。


恐る恐る中に入ってなんとか受付終了。


…授業開始。

……思った以上退屈な授業。

早く終わりたい一心で、眠いの我慢して終わりを待ってた所に

後ろの席のたむろしてた集団がうるさくて10分延長。

…くう……こいつらめ…

と心の中では思っても実際には怖くて言えない。

仕方ない。しばらくの辛抱だ。

真奈美は気持ちを切り替えて毎日通った。



やっとの思いで仮免許。

10時間もの補習のせいか、自信満々の真奈美であったが運悪く失格。


教習所のソファーで

一人ふて腐れて座っていた。


「何泣いてんのー。相原真奈美ちゃん」


真奈美の背後から誰かの声。

振り返るとびっくり。


金髪ではなかったものの

頭が三角(そりこみ)で、

たむろしていた繁森高校の一人だった。


真奈美は恐る恐る尋ねた。

「あのーなんで私の名前を?」


すると三角の男は軽々しく

「ワイ、最初の授業からずっと見とったんや。

何回も目合ってたやろ。連れにも言ってお前の学校の奴に名前教えてもらった。

ワイは西田丈二にしだじょうじや。

彼氏おるの?

ワイと付き合ってや。」


「えっ?」


強引に質問以上答えられたあげく

答えを聞く事もなく帰っていった。


…何?今の…ヤンキー猿?

その時の真奈美の丈二への印象は、とにかく一言タイプと正反対。


天地がひっくり返っても絶対好きにならないタイプだった。


それからも顔会わす度毎日

「真奈美ちゃ〜ん」とか


「どっか行こ〜」


…決して告白めいた言葉を言う訳でもないが、

その言葉一言一言が

真奈美には正直心地よかった。


少しづつ好感を抱き始めた真奈美は

しだいに丈二の誘いを受けるようになり、

いつの間にかそれが日課となっていった。



丈二の誘いと言っても二人きりのデートはほとんどない。


大勢の友人の中に真奈美がグループの仲間入りしたような感じだろうか。


いつも丈二中心に何人かくっついていた。


見た目は、がらの悪そうな子達がこんなに思いやりがあってあったかいんだ…。


別世界で育った真奈美には経験のない大切な事をいっぱい教えてもらった。


しだいに真奈美は丈二達の虜になっていった。


…数日後…


無事免許も取れ、

あとは卒業式を待つばかり。卒業後の丈二も大阪の料理学校に行く予定だ。


真奈美にとっては丈二の

夢に対する目標など、

ちっとも興味は無く

ただ漠然と

同じ大阪で過ごせるという安易な考えだけだった。



卒業式当日。


お決まりの儀式。

同級生達の溢れんばかりの涙、

確かにみんないっぺんに会う事はないけど、そんな泣かなくてもいつでも会えるやん。

真奈美はやけに冷静だった。


(みんなこれから楽しい事いっぱいあるのに何がそんなに悲しいの?)とりあえず真奈美も人並みのお別れはして

人並みに花束もらって無事終了。


テレビで見るような

感動は味わえなかった。



家に帰ると母親が


「あんた最近毎日遊び過ぎなんじゃない?お父さん機嫌悪いよ」


ぎくっ!。


父親の怖さを知ってるだけに真奈美の顔はひきつった。


ピンポーン。


「真奈美ちゃーん、迎えに来たぞー。」


丈二だ。


真奈美はその声で一瞬にして母親の言葉は消え去った。「あれ?今日は丈ちゃん一人なの?」


「おう、たまには二人でどっか行こうや」


二人はどこ行くあてもなくドライブを楽しんだ。


あっという間に夜が更けていった。


辺りが寝静まった頃丈二は

「ワイの家寄ってく?」


真奈美は

「こんな時間に行ったら迷惑だよ。

丈ちゃんのお母さんに怒られるよ」


「大丈夫。もう寝てるよ」真奈美は恐る恐る

心の中でおじゃましまーすとつぶやきながら

丈二の部屋がある2階へと上がって行った。



部屋に入ると丈二のバスケの写真がでかでかと飾られていた。


「丈ちゃんてバスケしてたんだ〜。部活やるなんて意外〜。」


「ほっといてくれ。能ある鷹は爪隠す言うやろ?実は選抜クラスや」


真奈美は目が点。

「恐れ入りました〜。」


二人で卒業アルバム見ながら

丈二はいきいきと高校生活を話してた。


真奈美は丈二の話してる笑顔だけで幸せな気分だった。

時間も忘れて

いつの間にか日付が替わっていた。

そろそろ帰らないと…


頭の中に母親の言葉が蘇ってきた。


「丈ちゃん。そろそろ私帰…る……」


突然丈二は真奈美をベッドに押し倒した。


真奈美は戸惑いの中、

頭が真っ白になった。


お母さんごめんなさい。

今時ながら、結婚までは大切にしなさいと言う

母親の言葉が頭を過ぎった。


でも抵抗する事はなかった。

大好きな丈ちゃんの為。


でも…


(痛い!)


雑誌などで

最初はめちゃくちゃ痛いと書かれたのは

見たことあったが…

その通りだ。


全くロマンチストとは縁がない丈二が


「二人が一つになった瞬間や」


と一言だけささやいた。


いつの間にか真奈美は

丈二の腕枕に抱かれ

安心したのか、すやすやと眠ってしまった。

……

………3時…


「丈ちゃん、どうしよ。

叱られる」


真奈美は父親の顔を浮かべ真っ青になった。

今にも泣きそうな顔で丈二に送ってもらった。


家での真奈美は日頃から

いい子を演じきっていた。

とっさの言い訳は特技と言えるほどのものだった。


でも、

この時ばかりは

大切な母親との約束を

破った事への良心からか、そんな能力は

発揮されなかった。



案の定……

帰ると同時に

隣三軒聞こえるほどの

怒鳴り声。


初めて真奈美は両親に素直に土下座した。


「ごめんなさい。もう二度としません。許して下さい。」


さすがの両親もそれ以上言う事はなかった。



いよいよ真奈美はひと足お先に入社のために大阪へ。

梅田、なんば、天王寺…

テレビでしか見たことないものがこんなに…

真奈美は感激でいっぱい。仕事の事なんか目標すらなかった。

早く丈ちゃんと遊びに行きたいなあ。

そんなことしか頭になかった。数日後の土曜日…新大阪

「丈ちゃ〜ん、こっちこっち。」

真奈美は大はしゃぎで丈二を迎えに行った。


「おう、真奈美。久しぶりやのー」

相変わらず都会に来ても

ジャージにスリッパ、がに股歩き、丈二のまんまだった。


「これから丈ちゃんのアパートやろ?行き方までちゃんと教えてよ」

真奈美はワクワクしながら丈二の一番小さい荷物を持って地下鉄に乗り込んだ。

しばらくして

「着いたぞ」と丈二のいつもと違う緊張の声。


「阿倍野って所なんだ。

学生ばっかりでいいとこだね」

「そうや、ワイはここから立派な板前になるんや」

丈二は力強く答えた。


少し歩いてアパートについた。真奈美は目が点になった。築50年?いやもっと?と思うような私ん家と替わらんだろと思うほどの二階建ての共同アパート。

中に入ると一階に三畳一間の部屋が二つとトイレと公衆電話。70センチ程の幅の階段を上ると同じく三畳一間の部屋が四つ。

階段上って左から二番目が丈二の部屋だ。一段落着いたところで

部屋の同僚とお互いを自己紹介。

九州から来たひとし福島から来た哲朗てつろう

同じく福島の敦史あつし

高知から来た祐一ゆういち

愛知から来た雅夫まさお

そして丈二の六人。ここは丈二の人徳。

すぐに打ち解け仲良くなった。


真奈美は仕事があるため

自分のアパートへと戻った。


半年ほど過ぎた頃だ。

お互いの生活リズムも異なった為だろうか…


会う回数も電話の回数も徐々に減って来た。

たまに会っても喧嘩したりひどい時には、ナンパした女の子連れ込んだり…


丈二は貴重な一年間の学生生活を有意義に暮らしたかったのだろう。


やりたい放題で別人になっていった。


真奈美はやりきれない気持ちでいっぱいだった。最後の電話でとうとう別れ話にまでなり丈二に一方的に切られた。

もちろんすぐにかけ直したが丈二が出ることはなかった。


「こんなんじゃいや!」

真奈美は通勤用の原付き乗って真夜中に人の迷惑も考えず丈二のアパート・天王寺の友人・住吉・なんばと心辺りのある所全部回った。

それでも見つける事はできなかった。

アパートに帰る頃には夜が明けていた。

とても会社に行く気力になれなかったので、同僚の未知江みちえに電話した。

電話の向こうで未知江が

「真奈美、ほんま大丈夫か?」

その言葉を聞いた真奈美は今まで張り詰めたものがぷつりと切れたかのように

電話口で号泣した。

「わかったから。今日仕事終わったら行ったるから待っとき。」

未知江の言葉がありがたかった。

それでも涙が次から次に出て止まろうとしてくれなかった。三日間何も食べずに泣きじゃくった。


四日目ようやく無理して仕事に行こうと原付きバイクに跨いだ途端全く目が見えなくなった。

何が起こったのか全くわからないがとにかく原付きバイクをそのままにして

手探りで部屋まで戻ると

ふらふらしてパターンと倒れてしまった。


幸い一時的なものでしばらくして意識も視力も元に戻った。

真奈美は初めて命の大切さを知った。

と同時に丈二に対する気持ちにも踏ん切りが着いた。


それからの真奈美は人間的に良くも悪くも大変身した。それからは毎日仕事場の友人を誘った。


仕事帰り居酒屋でもバイトした。


そこでも友人を作った。

とにかく楽しんだ。


週末になると誰かのアパートでドンチャン騒ぎ。

高校時代の真奈美の面影はなかった。


ほとんどは男の子だったが本当に同性の付き合いで接してくれた。


それでも真奈美の心の片隅には

どこか丈二の存在があった。



三ヶ月が過ぎた。


プルル、プルル…電話が鳴った。

「もしもし…」「ワイや、真奈美元気か?」丈二からだ。


真奈美は涙を必死で堪えて平静を装い

「久しぶりやなあ、元気やで、今更どないしたん?」


「真奈美、もう一回ワイとやり直そうや。

ワイお前がええんや。

今度こそ絶対不幸にせえへんて約束する」


相変わらず軽々しい口調に呆れもあったが

確かに真奈美の知ってる昔の丈二に戻っていた。


「丈ちゃん、私あの時どれだけ捜したか知ってる?

そんな簡単に許せると思う?」すると丈二は

「わかってる。今度こそ絶対幸せにする!

ワイなあ、梅田のホテルの中の【川柳】《せんりゅう》に就職決まったんや。

そこで修業して店出すんや。」


「川柳ってかの有名な料亭の?

すごいやん、おめでとう」


「なあ、頑張りたいんや。戻ってくれよ。幸せにするから…」


真奈美の心は始めから一つだが

そう簡単には答えなかった。


「じゃあ幸せにしなかったら?」


「絶対する!」


丈二は自信満々に言い切った。

やっと真奈美は素直に丈二の気持ちに答えた。


それから二人の距離は以前にも増して縮まった。


間もなく成人式。

二人で一緒にフェリーで里帰り

朝早くに、丈二のお父さんが迎えに来てくれた。

初めて会ったお父さんが

真奈美に

「眠たいのー」と気さくに声かけてくれた。

丈二も

「彼女や」

と紹介してくれた。真奈美も実家に送ってもらい予約していた美容院で振袖に着替えて会場へ。「真奈美、元気そうやん」

懐かしい同級生達。

みんな見違える程綺麗になっていた。

「またみんなで御飯行こうね」


成人式は二時間程で終わった。

初めての振袖姿を見るついでに迎えに来てくれるはずの丈二がいくら待っても来なかった。


…仕方ない。丈二の町の方が遅いんだな。

じゃあ振袖姿はまた今度と言う事で…お先…。


真奈美は帰って早速着替えてゴロンと寝転がった。

「あー苦しかった。やっぱ普段着が一番だよねー」

「真奈美、お行儀が悪い」母親に叱られた。


ピンポーン


「真奈美、丈ちゃん来たよ」

「はいはーい。遅かったんやね。

着物脱いでもうたで」


丈二はがっかりした顔で


「真奈美の着物姿見たかったのに」


「残念でした。また今度見えるよ」

と真奈美は

次は丈二との結婚式を思い浮かべながら軽く答えた。

しかし真奈美の着物姿は

丈二が見る事は二度とないのだ。久しぶりに丈二の友人達とドンチャン騒ぎ。

お酒飲んでカラオケ歌って…

丈二は【関白宣言】を真奈美に向けて熱唱した。

…俺は浮気はしない…

…しないんじゃないかな…………絶対せえへんからなー。

歌いながら大勢の前で、

真奈美に誓った。

真奈美は

(この幸せがずーっと続けばいいのに)

と願っていた。



三ヶ月が過ぎた。

毎日の仕事帰りの丈二からの電話が今日も鳴る。

「もしもーし」

「おう、真奈美聞いてくれ。

今日は料理の飾り付けさせてもらったぞ」

毎日毎日幸せそうに語ってくれる。

真奈美には仕事に関する熱意が強く感じとれた。

修業するってどんな事でも喜びを感じながら、一つ一つものにしていくものなんだ。真奈美はそんな丈二を益々尊敬した。


お互い不定期な休みだったが月一回は必ず会ってゆっくり御飯作ったり買物したりと夫婦ごっこをした。


あるとき真奈美は丈二に提案した。

「ねえ丈ちゃん。私、花嫁修行する為一旦田舎帰ろうと思うんだけど…」

丈二は

「そうやなあ、またいつでも会えるし。ワイ毎月帰るわ」


「本当かなあ、まっ信じとくわ」



一ヶ月後真奈美は実家に戻った。とりあえず近所の小さな製造会社で働く事となり

生け花教室に行くようになった。

落ち着いたら着付け教室も行く予定に…


人当たりの悪くない真奈美はすぐに会社の人とも打ち解けた。丈二も約束通り毎月帰って来てくれた。


丈二は、こっちで真奈美一人心細くならないように


自分の両親に、

「おかん、今から真奈美はちょくちょくワイの代わりに遊びに来させてやってくれ、ええな。」


真奈美は嬉しかった。


それから毎週生け花教室の日は丈二の実家に通った。父も母もとても優しい人でどんな事でも同じ目線で

対応できる家庭的な人達だった。


真奈美は実の両親と会話する一週間分を丈二の家で話した。幸せ過ぎた真奈美に

神様は試練を与えたのだろうか…


真奈美はいままでもよく

男の友人とも遊んだり御飯行ったりした。


もちろんそれは丈二の彼女として何の気もなく。


幸い今まで悪い人に当たった事が無かった為

ある意味異性の恐さを知らなかった。


いつものように会社に行った。

一人の優しそうな社員に

ひょんな事からハンバーガーをご馳走してもらう事になった。

その社員は 佐々木洋一【ささきよういち】28歳

不倫が原因でのバツイチで対象外の存在だ。


その後もちょくちょく誘ってきたが何の悪気もなく

誘いに乗った。


居酒屋に行った真奈美は

酔っぱらった勢いもあり

洋一の誘われるまま家まで行った。

何も無いはずもなく、

丈二を裏切るような行動に出てしまった。真奈美は何故か後悔しなかった。

それは決して丈二から心代わりしたんじゃなく


もちろんいいことではないが、遊び相手と割り切ってたからだ。


ところがそんな単純に終わるような相手じゃなかった。

仕事中は毎日真奈美に近づいてきて、他の社員が来るとわざと二人の関係(過ち)を聞こえるように話し出す。

無視すると益々大声で叫び出す。

弱みを握ったかのように

お前は俺の事が好きなんやな!

何度も何度も違うって行ってるのに思い通りの答えを言うまで大声で叫び続けた。


毎日の日課のように真奈美に気持ち確認をした。

あるときは胸倉掴んで


「お前の好きなのは俺やろ!

丈二と言う奴は嫌いなんやろ!」

制服破られ、あざだらけに

洋一の異常な行動はどんどんエスカレートした。



ある日の生け花教室の日だ。いつものように丈二の家にお花を持って遊びに行った。

もちろん真奈美は心の奥にしこりみたいなものを引っかけたまんま…


何も知らない両親は真奈美の為に

「いつもお花持って来てくれるからこれ。」


丈二の父がそう言って

花切りバサミをプレゼントした。


母親からは

「これ丈二の所行った時のお土産。衣類の問屋街みたいな所で似合いそうだったから…

それと下着もいっぱいあったから丈二にサイズ聞いたけどさすがに知らんわって言われた。

あとイヤリングも

買ってきたからよかったら使って。」


「ありがとうございます。」

涙が出るほど嬉しかった。何度も何度もお礼を言って玄関を後にした。


車に乗ろうとした瞬間

真奈美は目を疑った。

真奈美の車の屋根の上に洋一の姿が…


丈二の家の真ん前で

「おい!何しとんや、遅いやないか」


真奈美は怒鳴りたい気分だった。

でもここは丈二の家の前

丈二の両親にはいい子でいたい。


そう思った真奈美は自分を押し殺して車に乗った。

もちろん洋一は後を付けてくる。

家の近所の空き地に止まった。

話をつける為に車に乗った。何も無かったかのように迫ってくる洋一。「いい加減にして!何回も何回も言ってるやろ


私が好きなのは丈ちゃんだけ、確かに洋一とは遊んだり御飯食べたりは楽しい

でもそんな対象に見る事はできない。

お願いだからわかって」


真奈美は必死に頼んだ。

でも洋一に気持ちは受け入れられる事はなく

いつもの病気が始まった。大声で道のど真ん中に寝転んで

「俺の事好きなんやろ?好きでないんなら車に引かれて死んだらええわ」人目も気にせず異常な行動をする洋一に

人目を気にする真奈美は

その場しのぎで

「もうわかったから。

好きだから帰ろ。」

その後も毎日同じ事の繰り返し。

真奈美の精神状態も限界に達している。



なぜ真奈美はそこまでして洋一の相手をするのかとお思いだろう。


それはやはり丈二に対する罪悪感

丈二がいるくせにという

周りの軽蔑の目

とにかく世間にばれる事を恐れていた。

だから誰にも知られず

穏便に済ませたかったのだ。

その弱みを知っている洋一は

いざ真奈美が自分に振り向いてないと感じた時に、

行動を起こしアピールするのだ。


真奈美は耐え兼ねて

丈二に嫌われる覚悟で

洋一とのいきさつについて話した。


丈二は全てを受け入れた。

「もう一回一から頑張ったらええやないか」

真奈美は涙が止まらなかった。丈二だけでもわかってくれた。



後日丈二は里帰りした時に、スーツ姿で真奈美を迎えに来た。丈二の実家に入ると、

両親を座敷に呼んだ。

「ワイ、真奈美と結婚する。ええな!」


両親ももちろん歓迎してくれた。

「ただ弟が卒業するあと二年待ってくれ」

との条件付きとなった。


でも真奈美は大好きな丈二の両親を今まで騙した後ろめたさで、笑顔になることができなかった。



真奈美宅の方もまだ正式に婚約はしてなかったものの、結婚に向けての準備を少しづつ整えていった。

だが悪夢はまだまだ簡単には覚めなかった。


ある日、些細な事から

真奈美は姉と大喧嘩した。

あまりにひどい惨事に耐え兼ねて母親が止めに入った。

「真奈美が悪いんだから謝りなさい!

あんたは昔から何もできないのに

優しさがなさすぎるのよ!」


真奈美は理性を失った。

「こんな家二度と帰らない。

どうもお世話になりました。」


財布だけ持って原付きバイクで飛び出した。


気が付けば駅にいた。本当はこのまま丈二の所に行きたかった為だろう。


でもいろんな事が頭をよぎった。


丈二は寮生活だ。

行ったら迷惑がかかる。

それに、いい年した大人が喧嘩して家出だなんて

丈二の両親に白い目で見られる。

結婚前にあんなこと…こんなこと………



もうどうなってもいい。

何もかもいや。


力尽きて一人呆然と歩いていたら後方から洋一の車。

「やっと見つけた。乗れや」やけになった真奈美は

洋一の言う通り車に乗った。


真奈美が何もかも投げ捨てた瞬間だった。


「なあ、そんなに私の事

好きなら一緒に家出できる?」


「わかった。どこ行くんや」


「大阪」


真奈美は嫌いな洋一を

家出の道具に使う事にした。


(もう何もかも終わった。この男は機嫌さえとれば無難に生活くらいはできる。丈ちゃん。さようなら。)


とは言うものの洋一の車の中で涙が止まらない。それでも洋一は

真奈美に容赦なく

丈二に対する思いを攻めつづけた。


丈二にもらったものも取り上げて

全て車内から放り出した。真奈美はもう洋一の奴隷だ。


もう行くあてもない。


二・三日大阪のホテルを転々とした。


少し友人と話がしたかったので洋一の機嫌をとりながら


「ちょっと豊中の千佳ちゃんがこの間結婚して新居においでって言われてたから乗せてってくれる?」洋一は

「わかった。そしたら外で待ってるわ」


「ありがとう。」


そう言うと、

真奈美は車から降り千佳のマンションへと向かった。


ピンポーン


「おお、真奈美か。とりあえず入りいや。」


千佳はバイト先で知り合った友人で

男っぽい性格で

本音を話してくれる真奈美のお気に入りの友人だ。


実は、洋一の目を盗んで

家出の事を連絡していたのだ。


中に入ると

かつて憧れてた

新婚家庭の部屋の

光景が眩しかった。


千佳は険しい顔で


「真奈美、

あんたなんで丈ちゃんに

連絡せえへんのや」


「洋一言う人がほんまに

好きなんか?」


真奈美は無言のまま何も応える気力がなかった。


誰にも真奈美のこんな複雑な思いわかってもらえるわけないからだ。


千佳は話を続けた。


「あんなあ、丈ちゃんなあうちのマンションにまで

あんたを捜しにきたんや。警察行っても相手にしてもらえへんかったいうてな。しかも大きなかばん肩にかけて…


思わず丈ちゃんに聞いてしもたわ。

『丈ちゃん何をそんな大きいかばん持ってんの?』って」


千佳の声は震えていた。


「丈ちゃんはなあ、

真奈美は着替えも持たずに飛び出したから、いつでも着替えが出来るように

下着や服詰め込んで持ち運んでるんや。大阪中タクシーで心あたり捜し回ってる言うてたわ。」「あんた、それでも目が覚めへんか?」




「いやーーーーーーっ」真奈美は泣き叫んだ。


丈ちゃんに会いに行く


丈ちゃんに会いに行く


丈ちゃんに会いに行く


…………………


たまらなくなり真奈美はマンションを飛び出した。



キキーッ……

…………ドーーーン。

…………

女の子が車にはねられたぞ救急車や!



……ピーポー…ピーポー……



…丈、…ちゃん……




真奈美ね、丈ちゃんと過ごした四年間で一生分の幸せ使っちゃったかな。



真奈美ね、馬鹿だ。

丈ちゃんの優しさ無駄にしちゃった。



今まで出会った人

みーんな呼んで盛大な結婚式したかったなあ。



丈ちゃん。日本一の板前さんになってね。


丈ちゃんのお父さん、お母さん。

お嫁さんのように大事にしてくれて本当にありがとうございました。



洋一、人の気持ちはお金でも力でも奪う事はできないの。ただ中途半端な気持ちで

接してしまった

真奈美が一番悪いんだ。

ごめんね。

でも洋一は優しいんだから必ず正面から洋一の事

受け入れてくれる相手が

見つかるからね。



お父さん、お母さん、

丈ちゃんに愛される

真奈美を産んでくれて

ありがとう。




真奈美は丈二に会う事なく旅立っていった。


人の人生は何年で終わるかなんて誰にもわからない。だからこそ

自分に正直に生きないと

必ず後悔するから…………

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