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幻獣使いでも精霊使いでも無い令嬢は平穏に過ごしたいのです!  作者: 豪月 万紘
第二章 公爵令嬢とお仕事
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失われた言語

ローガンが大きな声で私の罪、そしてイザイア殿下の判断を話したせいなのか、もしくはローガンやリオが説明して回ってくれたのかは分からないがエミル殿下と共に研究室へ戻った頃には研究員は何もなかったかのように振る舞っていた。


戻って来た私たちを見つけたローガンとやっと昨夜の事の重大さを知ったであろうリオが顔面蒼白のままこちらへ向かって来た。そんなリオを放置してローガンは話を進める。


「さて、ロレイン様。昨夜習得されていた精霊力の使用方法についてですが…一つ。疑問があります」


「なんでしょうか?何でもお答えします」


私は姿勢を伸ばし、ローガンと向き合う。


「昨夜ロレイン様はご自身の意思で風の精霊を扱い空中へ舞い、そっと地面へ下りる所を見せてくださいました。その際にロレイン様は精霊へ何と仰っていたのですか」


「普通に…風よ、舞え、と言いました」


「…そこなんですが…エミル殿下は聞かれていましたか?」


隣に立つエミル殿下は小さく息を吐き、残念そうな表情をした。


「私はその場へ駆けつけたところだったので聞いていない。ロレインが地面へ下りるタイミングだったから」


「そうですよね。だからその言葉は私とイザイア殿下、少数の騎士のみが聞きいただけ。少々距離もあったためハッキリとは聞き取れてはいないのですが…ロレイン様。何か違う言語を口にされていませんでしたか」


違う言語…?私が知っている言語は今話している世界共通語しかないのだが…。

きっとローガンの聞き間違いだろう。


「…分からないわ。魔族とは完全に言語が違うというのは知っているのだけれど」


そう答えるとローガンは昨夜のことを思い出しているのか顎に手を当て目を閉じた。しかし彼の中では核心があるようで揺るがない。


「ロレイン様、もう一度試してみてもらえませんか?昨夜のように」


 周囲の安全を考慮し皆で練習場へ移動した。

元々練習着を着ていたので私は何のためらいもなく、少し距離を取ってもらって昨夜のように再現する。


「なるべく大きな声でお願いしまーす!」


「分かったわ!」


小さな声でまずは精霊たちに協力をしてもらえるように「風の精霊よ力を貸して」と呟いた。


そして


"風よ、舞え"


大きな声で発したからか昨夜よりも高く空へ舞う。慌てるとバランスを崩すことも習得したので私はゆっくりと下ろすように命じた。


"ゆっくり戻して"


上手く行ったと安堵の息をついた。皆も凄いと褒めてくれるかと思い顔を見渡すと、周囲は怪訝な顔で私を見つめていた。


「…ロレイン。すまない、僕には君の言葉が理解できなかった」


エミル殿下は困った様子と焦りが混ざったような表情をされていた。ローガンとリオはハッとした表情でお互い顔を合わせている。


「私…また何かしてしまいましたか…?」


「ロレイン様。エミル殿下がご理解いただけなかった理由、そして昨夜の違和感。全て理由が分かりました」


ローガンは納得したと共に私への視線を強めた。これはまた何かやらかしたのだと悟る。


リオは続けて話した。


「今ロレイン様が口にしたのは一般の人には分からない言語で、ノヴェイル王国でも一部の学者しか知らない。しかもそれは何百年も前に失われた言語…魔語です」


「魔語…?」


「現在はギレヴァル王国、魔物のみが使用する言語です。王族はこちらとのコミュニケーションのため通常魔語は使用しませんが。数千年前勇者が魔王を打ち、二つの大陸ができてからこちら側の大陸では徐々に失われた言語のため今では数冊残る貴重な魔法の本のみに記してあるだけ」


「ロレイン様。アグリジェント王国の魔法塔筆頭魔術師として本件確認のためお尋ねしなければならない点がございます」


ローガンは私に近づき腕を引いた。

それをエミル殿下は振り払い、私とローガンの間に立つ。


「ロレインはフロリエンス王国第二王子、僕の婚約者だ。触るな」


「エミル殿下。もしかしたらロレイン様は国家反逆を目論んでいるかもしれないんですよ?」


「ロレインは単純で真っ直ぐなお転婆娘だと昨夜理解されたのでは?だからイザイア殿下も広いお心で許容された。それに国家反逆を目論む者がこんなボロを出すはずないでしょう」


「…」


ピリピリとした空気が漂い、私は自分のとった安易な行動に猛省する。ただリオが頑張っていた、皆が頑張ってきたことに少しでも力になれるのならばと思っていただけなのに。


「二人とも落ち着いてください…ロレイン様が魔語を話せるのには何か理由があるかもしれないじゃないですか」


リオは一触即発の二人を宥める。

今まで私と話していた妖精や精霊たちが面白がっていたのは、魔力も持たない人間が魔語を話していたから?


「…私は、何故魔語が話せるの…?」


はぁ、と深くため息をついたローガンは頭を抱えていた。それを本人が理解していないのであれば真相は誰にも分からないだろうと。


「ロレイン様、申し訳ございません。このままではフロリエンス王国との国際問題になりえませんので少々お時間いただけますか…」


ローガンは肩を落としたまま研究室をあとにした。リオはローガンを追いかけていき、私はエミル殿下に顔向け出来ずただ自分が何者なのか答えの出ない答えを探していた。


リオはローガンに追いつくとローガンのローブを強く掴み引き止める。無駄に長い足に追いつくためリオは小走りで来た。それに少し腹が立つ。しかしそれよりも長年自分が研究し行き詰まっていた課題が少しで動けそうなのに地団駄を踏んでいる状態が気に入らない。ロレインをこの研究から外せば目の前に現れた光が失われまた見えない光を模索しなければならなくなる。


「ローガン、このままロレイン様が協力してくれたら止まっていた研究が飛躍的に進む」


「それは分かっているが反逆の可能性は捨てきれないだろ。だから確かめるんだ、彼女の本性を」


落ち着けと言わんばかりにローガンはリオのおでこを軽く指でピンと跳ねた。いつもふざけてばかりなのに大人びた顔にまた腹が立ったのでリオはローガンの長い足に蹴りを入れた。


「…それで一体何をするの」


「彼女の記憶に触れる」


「…それって罪人を尋問するときに使う国家魔術制約レベルⅡの魔法じゃないか。エミル殿下が許すはずないだろう」


「だがやらねば。ロレイン様は私にとって今の所未知の生命体だ。昨夜で彼女は真っ直ぐで純粋な方であるのは分かっているんだ。しかし一般人が魔語を理解せず話すのは問題だ」


リオもロレインが他の貴族とは違い皆に平等で、好奇心が強いだけのお嬢様だということは短期間ではあるが一緒に過ごした中で重々承知している。確かに魔語は一朝一夕に取得できるようなものではない。もう誰一人としてこの大陸で魔語を話せるものはノヴェイルの民を含め、存在しないだろう。それでも…


「…魔語は古代文明だ。興味本位からもしかしたら図書室のあの本を読んだのかもしれない」


「あれは貴重すぎて国王からの許可無く読めるような類のものじゃないだろう。それにあの本は魔語のみが記載されているのだから読めやしないさ。…なぁ、お前が珍しく心を開いているのは分かっているが感情だけではどうにもならない問題だ」


「…ロレイン様は信頼できる。それだけは忘れるな」


「分かっているよ」


ローガンはリオの頭をぽんぽんと手で撫でると、足早にその場を去った。


 練習場に残された私とエミル殿下の間にも不穏な空気が流れていた。エミル殿下は焦りと不安の混ざったような表情で動かない。


「…殿下、申し訳ございません…」


「…君は本当に…考えてから行動して欲しい…ものだが今回は無自覚ということだしな」


余計に達が悪い、とエミル殿下は頭を抱えた。


「国家間の信用が揺らぐ問題だ。しかも大陸全体が関与する重大な。君は今自分の潔白を証明することだけを考えて」


潔白と言われても私は魔族ではないし、生まれも育てもフロリエンスだ。公爵家の娘で、反逆罪を目論むには理由もなければまだ若すぎて情勢に携わろうだなんて思ったりもしたことない。


「本当に私は皆さんのお役に立てると思っただけで…申し訳ございません…」


「いい。君は悪くない。君を連れてきた僕に責任はある」


やっと夜間練習について無罪放免となったのにも関わらずすぐにこの様な事態を招いてしまうとは。


「短期間でエミル殿下に多大なるご迷惑をお掛けしてしまったわ…。でも潔白を証明する方法なんて何も無いのよ…何もしてないんだもの」

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