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幻獣使いでも精霊使いでも無い令嬢は平穏に過ごしたいのです!  作者: 豪月 万紘
第二章 公爵令嬢とお仕事
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再会と

クラレンス視点


 こちら側に来て三月程。初めは記憶が残像の様に継ぎ接ぎで自分が何者かも曖昧だった。


そして自分の身分も兄や従者についての記憶を思い出した時、喉の奥が締め付けられるほどジノに再会出来たのが嬉しかった。


ジノについては記憶というよりも感情が先走ってしまったと言った方が良いだろう。


目の前で眠るジノは身体の傷を治すのに魔力を回しているのか今は本来の姿に戻っている。


医者もロレインが手配してくれたお陰で通ってくれてはいるが、正直あまり心配は入らない。寧ろ魔族だとバレないかのが心配だ。


ジノは人の姿になったり、本来のウルフ姿に戻ったりを繰り返しているからな。


それに回復も当たり前だが普通の人間よりは早い。あと数日もすればジノは復活するだろう。


「お前を一人にしてしまってすまなかった。その事実さえ俺は気が付かなかったんだ。悪い、ジノ」


激しくなってきた雨に俺の声は小さく掻き消されていく。


ジノの呼吸は荒いままだった。



 三日後。ジノはやっと目を覚ました。

思ったよりもジノは重症だったようだ。

大分傷も癒えていが完全回復まではあと二日は大人しくしてた方が良さそうだ。


「申し訳ございません、クラレンス様。私などのお世話など…」


「構わない。それより起きたなら食事を摂れ。持ってくる」


「そんな、自分で」


「いいから。大人しくしてろ」


今にも寝台から出そうなジノを止め、俺は宿の主人に食事を用意してもらった。


主人はこんなに肉だらけで本当にいいのか伺ってきたが、俺は「問題ない」と告げ部屋に戻った。


ウルフには肉を与えなければ。当たり前の思考なのか分からないがふとそう思ったのだ。


部屋に戻るとジノは匂いで既に腹の虫を鳴らしていた。


「ほら、沢山食べろ」


「ありがとうございます。いただきます」


ジノはナイフとフォークを使い肉を一口口に入れた。いつから食事をしていなかったのかは分からないが、俺と再開してから三日は何も食べていない状態だ。相当空腹のはず。


しかし俺が居るからか、マナー良くゆっくりと一口ずつ食べている。好きなように食べてほしいのだがな。


 魔物は基本魔力が多いほど食事量は少ない。魔力で補えてしまうからだ。しかし魔族という高貴な立場になればなるほど、その上下関係は魔力量で決まる。


役職があったり、俺のように貴族になると魔力量を下げることはしてはならない。周りが五月蝿いし、隙あらば殺しに来る輩も居るからだ。


故に食事を怠ることはそうない。


魔力量が多いジノは身体の修復に魔力の大部分を当てた。つまり魔力量的にも、身体的にも空腹な状態。補給したいと欲しているのを理性で抑えながら食べているのだろう。


「ジノ、俺は少し出る。喉に詰まらせないようにな」


「承知いたしました」


ジノが気を使わないように、俺は外へ出た。


 辺りはもう薄暗く、昼間よりも涼しい風が吹いていた。海の季節が近いとロレインは言っていたな。これからは気温が上がり、暑くなるそうだ。


「…後をつけるのは上手くないな、ユリス」


「…気づいていたのか」


物陰に隠れていたつもりでも、気配を消すのには慣れていないらしい。


ユリスは物陰から出てくると俺から一定の距離を取り、怪訝な顔で俺を見つめていた。


「ジノと何があったのかまだ本人からも詳しく聞けてないが…俺まで疑われているとはな」


「あいつは信用ならない。そして記憶喪失のお前があいつと再会して記憶を取り戻した時どう動くのか。俺はロレイン様をお守りする身として判断を見誤るわけにはいかない」


「そのロレインの護衛を放棄してここに来ているのは矛盾してないか。いつ何が起こるか分からない他国で目を離すなんて」


「エミル殿下が護衛を増やしてくれたんでな。問題ない」


 ユリスはまだ若く経験が浅い。その経験の浅さを真面目で慎重なユリスの性格が補っている。


ユリスの判断は間違ってはいない。

俺がユリスの立場でもそうする。小さな綻びはやがて大きな穴となる。綻びがないか慎重に見極めるのが重要なのだ。


記憶喪失の怪しい男が、怪しい男と再会した。

怪しい男が何を思い出し、どう行動するのかなど誰にも想像つかない。


「ユリス。信頼してくれなんて言わない。俺を怪しんでくれて構わない。だが俺はお前たちを何があっても傷つけたりはしないと約束しよう。俺はフェタリナーツェ公爵に助けられた恩を返さねばならない」


「…あいつが良くなったら、話を聞け。そしてフロリエンスに戻るんだ。フェタリナーツェ公爵様にきちんとお話してケジメをつけろ」


「分かった。ありがとう」


ユリスは経験を積めばフェタリナーツェ公爵家の近衛兵で指揮を取るような人間になりそうだ。実力はこの若さでかなりあるからな。


またいずれ手合わせ願おう。



***



 部屋へ戻るとジノは食事を終えていた。

結構な量を用意したから、少しは残すと思ったが…。


「全部食べられたみたいだな」


「はい。ありがとうございました」


あとは魔力が回復するのを待つだけだ。


俺は傷が癒えても食事をしても、魔力が完全に戻る気配がない。親しい間柄だと大まかな魔力の気配で相手の魔力が分かる。


魔力探知に優れた者ならば誰が何処に居るか分かるらしいがそれは専門分野だ。大体の者は出来ない。


ジノは俺の魔力を辿ってここまで来たのだろうか。


「ジノ、俺の魔力を辿って来たのか?」


「…いえ。クラレンス様の魔力を探そうと思ったのですが探れず、その…匂いで辿って参りました」


「…匂いか。流石ウルフ族だな。俺の魔力は今も微量しか戻っていない。理由が分からないが、まずはお前と話をしなければな」


「はい、そうですね。今後についても考えなければなりませんしね」


俺はまずジノにロレインと出会った所から話を聞いた。ユリスがあんなに警戒していたのだ。

ジノが何か無礼を働いたのだろう。それについては俺の現主であるロレインに謝罪せねばならない。


ジノが申し訳無さそうに話す中、内容を聞いて俺はジノが取った行動に溜息をついた。出会ってそうそう魔法で路地に連れ込むなど、人攫いではないか。ロレインも怖かったに違いない。


「…なるほどな。それはユリスが警戒する訳だ」


「申し訳ございません。必死だったもので…」


「こちら側では魔力を持つものが珍しいのだ。軽はずみな行動を取ってしまったな」


「はい…。それに短剣をロレイン様や従者の方に向けてしまいました」


それを聞いて更に俺は頭を抱えた。

謝って済む問題だろうか。ロレインはそれでも自分の護衛である俺をジノに付けてくれたし、医者まで手配してくれた。


優しいのかお人好しなのか。それとも俺が怖くなって自分から遠ざけたのか。


ロレインの真意は分からないが俺たちはロレインに会うことなくフェタリナーツェ領へ戻ることとなるだろう。


そもそも戻っても良いのだろうか。


「…困ったな」


「本当に申し訳ございません。ロレイン様がクラレンス様の命の恩人だとは露知らず」


「ロレインの父が助けてくれたのだがな。それに俺は今記憶があまりない。行くあてもない俺に居場所を作ってくれたのだ」


ジノは顔を真っ青にして自分の取った行動を猛省していた。

だが突然はっ、としたような表情をして顔を勢いよく上げ正面の俺へ向けた。


「いや、あの。クラレンス様。今、記憶が無いと仰りましたか…?」


「あぁ。ジノについては少し思い出していたんだ。だが自分の立場と兄が居ること意外は覚えていない」


ジノは硬直した。自分の主が記憶が無いとなると当然の反応かもしれない。


「クラレンス様。あの日のことも、何故こちら側の大陸に居るかも覚えていらっしゃらないのですか…」


「…覚えていない」


なんて情けない顔をするのだ、ジノ。今にも泣きそうなジノは何と言葉にして良いのか分からないのか口を微かに動かし、グッと唇を噛み締めた。


「…クラレンス様。何からお話いたしましょう」


「…俺の、家族について、からだ」


「承知いたしました」


夜が更けたころ。俺は自分について、そして家族やこちら側に辿り着いた訳をジノの口からからゆっくり語られるのを静かに聞いていた。途中までは。


話を聞く中で、脳内では何度も警報が鳴った。これ以上は聞くなと。


あまりにも酷い現実に俺は夢でも見ているような感覚だった。


涙と嗚咽が止まらない。頭が痛い。


優しい兄の顔も、あの日流れた生暖かい鮮血もハッキリと思い出せる。


それが俺が記憶を無くした理由だった。



俺はそのまま意識を手放した。

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