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幻獣使いでも精霊使いでも無い令嬢は平穏に過ごしたいのです!  作者: 豪月 万紘
第二章 公爵令嬢とお仕事
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不信と信用

 アグリジェント城に到着したものの流石に怪我をした知り合ったばかりの男を他国の宮殿に入れる訳には行かないと、私は近くの宿にジノと彼の世話役としてクラレンスを置くことにした。


私とリリアンナ、ユリスは城に戻り、ユリスには街医者にジノを定期的に診てもらえるように手配してもらった。


私の護衛は一人減ってしまったが仕方がない。クラレンスの知り合いならば放っておけないもの。


「全く、あんなデカ犬拾ってどうするんですか」


「デカ犬って。確かに忠犬って感じだれど。私だって…いえ、クラレンスの知り合いなら仕方がないわ」


私だって殺されそうになった相手なんて助けたくないわよ!と言いそうになったがそれを言ってしまえばリリアンナがジノに何をするのか分からないので飲み込んだ。


「この件、勿論旦那様にお伝えさせていただきますからね」


「そうね。ジノの容態が良くなり次第クラレンスにはフロリエンスへ戻って貰おうかと思っているし」


お父様には定期的にリリアンナが私の近況を手紙で知らせるそうで、今回第一回目となる手紙にこの件が書かれるそうだ。


お父様とお母様が頭を抱えている未来が見えるわ…。でもお父様なら分かってくれるはず。

そもそも元凶はお父様なのだから。


「…その言い方ですと、あの犬も連れて戻るように聞こえますね」


「…」


「ソフィア様がまたお怒りになられますよ。そもそもユリスが警戒しているのが当たり前なのにロレイン様は何故こんなにも彼に気を許しているのですか」


「許してはないけれど、悪い人では無いもの。あんなにボロボロになるほどクラレンスを探していたのよ?クラレンスもジノのことは覚えていたし」


「はぁ。クラレンス様も記憶がないのですよ?あの犬と出会って全てを思い出したら何をするか分かりません。ロレイン様は無防備すぎます」


リリアンナが言っていることに間違いはない。

だけれど…


「いい?リリアンナ。良い行いをすれば巡り巡って良いことが帰ってくるのですよ」


「…もう勝手に言っててください。エミル殿下にはご自分で報告しておいて下さいね。私は夕食の支度に行ってきますので」


「冷たい」


リリアンナは私の着替えを済ませると、さっさと次の仕事へ向かってしまった。


外を見ると夕日が沈みかけ、西日が部屋に充満していた。太陽の日差しで少し暑くなった部屋を覚まそうと窓を開けると、爽やかな風が私を通り過ぎた。

何だか一日があっという間だったな。


私はゴソゴソと隠していたヴァンちゃんのカゴを取り出し、カゴから解放してあげた。


まだフラつくが最近やっと歩けるようになってきたらしく、転びながらもゆっくりと床をペタペタ歩いていた。羽は大分完治してきており、もう少ししたら完全に空を飛べるようになりそうだ。


「かっっわ、いい!元気になって良かったわ」


ヴァンちゃんの頭を撫でると私の手に頬擦りしてきた。


「ふふっ。貴方みたいに可愛い子を拾えばリリアンナも許してくれるかもしれないわね」


「キュー?」


私が話している言葉に反応して、鳴いたヴァンちゃんに私は驚いた。


「鳴けるようにもなったのね!?凄いわ!」


私が褒めるとキューキューとまた鳴き返してくれた。凄いでしょ?と言っているような感じがする。


「クラレンスが私の護衛から外れること、エミル殿下とあとでイザイア殿下にも報告しなきゃいけないのか…。気が重い」



***


 夕食を取り終えた私は重い足を引きずってエミル殿下の部屋の前までやってきた。


「はぁ…嫌だなぁ…」


「ご自分の行動に責任をお取りください、ロレイン様」


「分かってるわよ」


部屋の前の衛兵に「殿下をお呼びいたしましょうか」という問に「いいえ、ちょっと時間を頂戴」と答えた私に疑問を浮かべた顔を向けられてから数分経った今でもノックを躊躇っている。


「フェタリナーツェ。何をしている」


「イザイア殿下。ごきけんよう」


私はドレスの裾を持ち上げ、軽く会釈した。

イザイア殿下が客室の方まで来られるとは思ってもいなかった。お城の中央部分からは少し離れているし。エミル殿下にご用事かしら。


「あぁ。で、君は婚約者の部屋の前で何を突っ立っていたんだ」


「…お部屋にお伺いしたくないのですけれど、お伺いしなければならない事情がございまして」


「ロレイン様、それでは何だか誤解を招きます」


「ん?何が?」


コホン、と咳払いをするとイザイア殿下は複雑そうに私を見ていた。リリアンナの言う通り何か誤解されていらっしゃるのかしら。


「君は、その…エミル殿下と…親しい関係なのか」


「いえ、親しい訳ではありませんね…あまりエミル様の事を知らないと言った方がいいかもしれませんが」


婚約者(仮)とまでは言わないが、大体婚約などこんなものだろう。親しいとか親しくないとか、関係ない。


けれど国を代表する方々は体裁が良い方が信頼も増すというか。だから仲が良い様に振舞って、と言った方が正しい。

我が家は別だが。


「…そうか。リアナもそう思っているのだろうか…」


「…それは…」


「…二人とも。僕の部屋の前で雑談かい?」


流石に私たちの声が聞こえたようで、エミル殿下がお部屋から出てきてしまった。あの黒い微笑みは何だろうか。


「エミル様。ごきげんよう」


「ロレイン、君とは色々話がしたいのだけれどいいかな」


「…はい…」


「では。私はこれで失礼する。フェタリナーツェ、後日改めて二人で話したいことがある」


「承知いたしました」


何かエミル殿下にご用事があったと思われるが、イザイア殿下は私たちのやり取りを見てその場を後にした。


確かに私はエミル殿下のお部屋に伺おうとしたが、こんな強制的にお部屋へ入ることになるとは思わなかった。

ソファーに着席すると、ウィル様がお茶を用意しくださり、それを飲んでホッとする。

ドス黒い笑みがこちらを向けるまでは。


「それで?」


「大したことではないのです。私の護衛が諸事情により一人離れることになったと、お伝えしたかっただけで」


「そう。分かった。それで?」


「…お話は以上ですが」


「僕とは親しくない、あまり僕の事を知らないと言っていたじゃないか」


き、聞こえていらっしゃった…。話し声はともかく、内容までは聞こえていないと思っていたのに。


「何やらイザイア殿下は誤解をされていたので、その誤解を解いただけでございます」


「そう。じゃあロレインが言っていることは誤解を解くために放った言葉ってことでいい?それにしてもその発言は軽率だと思うけど」


「…はい。申し訳ございません」


実際に親しくないのだけれど。確かに婚約者(仮)としての発言では無かったとは思うわ。


それにイザイア殿下も気にしてらっしゃった。

…余計なことを言ってしまいましたわ。二人の関係が更に拗れたら私のせいだわ。イザイア殿下に弁明しなければ。


「じゃあロレイン。折角だし夜の散歩がてら軽く城内をデートしよう」


「デート、ですか…?」


「僕の事、知らないんでしょ?だから、ね?」


「…承知いたしました」


殿下が何をお考えなのか分からない。私と親睦を深めたいってことかしら。それをわざわざデート、などと言い換えるのは殿下のイタズラ心だろう。


  外へ出ると月明かりが明るく夜を照らしていた。夜の空気は何だか澄んでいて、人や妖精たちも今は眠っているらしくこの世界が静かに時間を進めている感じが好き。


「ふふ。ロレインは全部顔に出るよね。貴族としてはどうかと思うけど」


「公式の場ではきちんと振る舞いますよ」


「そう?」


こうして夜に二人で話すのはフロリエンス城での夕食会以来かしら。


婚約者兼補佐という名で私は今ここに居るのだけれど、このままでは本当の婚約者になりそうで怖いわ。

私と婚約して公爵家をバックに付けたいのは分かるけれど、時が来たらきちんとお断りをしよう。正直お咎めもありそうで怖いし、お家にも申し訳無いけれど。


「ロレインはいつから妖精が見えてたの?」


「物心ついた時にはもう。エミル殿下はいつからですか?」


「僕は割と最近だよ」


「そうですか」


静かな外廊下を歩いているせいか、会話が止まると気まづい雰囲気が流れる。


何を話せばいいんだろうか。私の事を話しても面白くは無いし、かと言ってエミル殿下の何を知りたいって言われても分からないから話は振れない。


「ロレイン。先程イザイア殿下が二人で話がしたいと言っていたよね」


「そう仰っていましたね」


先に沈黙を破ったのはエミル殿下だった。

先程の話が蒸し返されるのは嫌なのでそれとなく話を逸らしていこう…。

それにイザイア殿下のお話というのは恐らくリアナ様のこと。余計なことを言ってしまった手前罪悪感から断るわけにもいかないわ。


「僕の目の前で僕の婚約者を誘うイザイア殿下には参ったな」


「当たり前ですが、決してやましいことはありませんよ」


「そうだね。そんなことがあっては困る」


殿下は突然立ち止まり、私を真っ直ぐに捉えていた。私も釣られて立ち止まる。


「…エミル殿下?」


「ロレインはイザイア殿下みたいなタイプが好み?」


「…何のお話ですか?」


「彼は冷静で優秀だし、整った見た目をしている」


本当に何の話をしているのだろうか。

私の好きな男性の好みを聞いていらっしゃるのかしら。

残念ながら、私はイザイア殿下は寧ろ苦手なタイプだ。リアナ様のことになると可愛らしい一面も見えるけれど、それは好みにはならない。好感度は上がるけれどね。


「強いていてば私はお兄様のような方が好きですね…」


「なるほどグヴェンなら納得だ。そうか、年上か…」


年上好きという訳ではないのですが…。まぁいいでしょう。しかし、私のことばかりでエミル殿下のことは何も聞けていない。私はこのデート?でエミル殿下を知りに来たのだ。…望んでではなかったけれど。


「エミル殿下こそ気になるご令嬢は居ないのですか?」


「…はぁ…。今までの会話って僕の一方通行だったのかな」


「この私の会話も一方通行になりそうですね」


私とエミル殿下は合わない。ということだけが分かった散歩となった。やはりエミル殿下のことはよく分からなかった。

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