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幻獣使いでも精霊使いでも無い令嬢は平穏に過ごしたいのです!  作者: 豪月 万紘
第二章 公爵令嬢とお仕事
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観光

 精霊騎士の実験や検証にドレスは危険性だということでリオに服を借りたが流石に毎回借りる訳には行かないので、手っ取り早くアグリジェントの街で服を買いに行くことにした。


服と靴、そして髪を結う壊れても良さそうなアクセサリーが必要だ。


何着か買って、後はオーダーメイドできちんとしたものを揃える。

一応国を代表する身なのでそこはきちんとしておかねばならない。


「今回はお忍びだから、身軽ね!」


「仕方がないですものね…。しかしこの格好をソフィア様が見たら何と仰るか…」


貴族として買い物をしても良いのだが、そうすると注目を集められてしまう。


アグリジェントは基本治安が悪くない様だが、余所者の私がフラフラと歩いていると事件に巻き込まれる可能性もある。


ということで、私は近くのお店で庶民風な服をリリアンナに調達してもらい、従者たちにも地味な服で当日来るようにとお願いした。


設定は、海外から観光に来た幼なじみたち!っていう感じで行こうと思う。


それを聞いた従者たちは溜息をついたが皆賛同してくれた。


ユリスとクラレンスも剣は携帯せず護衛してもらおうと思っていたのだが


「観光なのに剣を持つの?」


「ロレイン様、それは設定上の話ですよね?我々の仕事はロレイン様をお守りすることなので剣を携帯するのとは当然のことです」


苦笑いのユリスに私はハッとした。

そうね、観光じゃなくて目的は仕事で使う服を揃えることだものね。


…勿論忘れてないわよ、分かってるわ。

でも他国をこんな身軽に観光出来るなんてそうそうないじゃない。


出来る範囲で楽しませて貰うわ。


「裏門なら目立たずに城下へ出られるようなので、少し遠回りですがそちらから出ましょう」


ユリスとクラレンスはアグリジェントの城内を一通りマッピングしているらしく、そのお陰でスムーズにお城から城下へ目立つことなく出ることが出来た。


外へ出ると、そこは閑静な住宅街の道へと繋がっていた。人通りも少なく、細道を抜けると近くに大広場があるらしい。


私はいつもとは違う服装と状況にワクワクしていた。


誰かに監視されているとはつゆ知らずに。


「…ロレインから目を離すな」


「承知致しました」


*****


細道を抜けて広場へ出るとそこには多くの人が行き交っていた。


肌の色や服装が違う人々。平民から馬車で移動する貴族や箒で移動する魔女や魔法使いもチラホラ居た。


広場の噴水前では丁度パフォーマンスを披露しているらしく人集りができている。


「わぁ、凄いわね」


「皆逸れないように気をつけましょう」


「あ、ユリス。出る時に言ったでしょう?敬語も様付けも無し。私たちは今観光している幼なじみなんだから」


「…分かった」


渋々ユリスは承知したが話しにくそうだ。


「確かこの当たりの通りに仕立て屋があったはず」


「あそこじゃないか?」


リリアンナが探している店を身長の高いクラレンスが看板を指差す。


そんな二人をそっちのけに私は屋台のお肉の香りに誘惑されていた。


いい匂い…。


「こら、人通りが多いんだから逸れないようにって言ったろ」


「…ユリスの話し方、いつもと違って少しキュンとした…」


私がそう言うとユリスは耳を赤くして私の手を引いた。


お兄様もよくこんな感じで私を注意するけれど、家族以外の男性から言われことはないから新鮮だ。


仕立て屋に着くと騎士向けの既製品が多く並んでいた。

動きやすければなんでも良いと言ったけれど、騎士製品となると私のような小娘に店主は売って下さらないのではないだろうか。


「店主、お店を一時的にお借りしたいのですが」


リリアンナは重たそうな袋をドサッと店主の目の前に置いた。

驚いた店主はたじろぎながら店の外の看板をCLOSEに翻す。


「これは…平民の買い物の仕方ではないのでは?」


「…そんなことありませんよ」


リリアンナは早速店主に女性騎士向けの既製品をいくつか見繕ってもらい、私はそれを試着していった。


「裾上げに二時間ほど時間を貰えれば今日中に渡せるよ」


「ではそれでお願いします」


リリアンナは先程とは別の袋を取り出し、支払いを済ませた。


「ねぇリリアンナ。私一着も自分で選んでないのだけれど」


「…分かりました。靴とアクセサリーは皆で選びましょう」


「私が選びたいのだけれど」


次の店では靴を選んだ。その時はお店を貸切にせず、他のお客さんがいる中でゆっくり選べたのだが


「この形よりもこっちの方が雨に濡れても浸透しにくい」


「いや、それだとロレインは慣れてないし動きにくいだろ」


「…私の意見は…?」


ここでも私の意見が通ることはなかった。


お店を移動し、髪を結うアクセサリーを選ぶ際にやっと私の意見が通った。


「この二つのうちどっちがいいかしら」


「あ…じゃあ黒のリボンで…」


これは意見が通ったとは言わないわね。二択まで絞ったのはリリアンナですもの。店内には沢山のアクセサリーがあるのに。


「もう!リリアンナ!いい加減私にも選ばせて!黒のリボンは買うけど!」


「分かったわ、機能性の高いものを選んでね」


「機能性と言われると難しいわ…。あ!これヴァンちゃんに似合いそう!」


「…はぁ…」


 無事に全ての買い出しが終わり、私たちはベンチに座って休憩をしていた。

私の従者達は皆何ともないようだが、私は体力的に限界を感じていた。


「飲み物と、食べ物でも買ってくるか?」


クラレンスの言葉に私は飛びついた。なんで気が利くのでしょう!


「お肉がいい!」


「分かったよ」


フッと珍しく笑ったクラレンスから私は目が離せなかった。

彼の容姿の良さはメイドたちから人気があったけれど、今の一瞬で周りの女性を惚けさせたのは分かった。


「クラレンスは金を持たずにどう買うというんだ」


「仕方がない、私が行ってくるから。ユリス、頼んだわよ」


だいぶ幼なじみ感が出てきたなぁ、なんて考えながら私は疲労で働かない頭でぼーっと考えていた。買い物は割と疲れる。


噴水の周りには子供が多くて、水遊びをしている。でも人が多いせいか、妖精の姿は見られない。


パン屋の菓子パンの匂いで私は釣られるのに、妖精は釣られていないようで、姿がない。


アグリジェントは思ったより街中に妖精が少ないのかも。


近くで遊んでいた子たちのものであろうボールがユリスの足元に転がってきた。子供がそれを投げろと催促し、ユリスはベンチから立ち上がってボールを投げる。


そんな一瞬の出来事。


私は目の前が真っ黒になり、気がつくとそこは路地だった。


壁に押し付けられ、暗くて顔が見えない男は私の首筋にひんやりと冷たいものを当てる。


だが男も相当疲労が溜まっているのか、呼吸は荒く辛そうだった。


「お前は、あの方のなんだ」


あの方?


「んーんー」


口が塞がっていて話せないと目で伝えると男はそっと手を私の口から離した。


「あの方って誰のこと?貴方は誰?」


光が差し、やっと見えた男の顔はフードの下で赤く鋭い瞳を光らせていた。ノヴェイルの…。

一瞬でここに移動してきたのも男の魔法だろう。


「クラレンス様だ。お前はあの方の何だ!何をした!!」


男の大きな声に私は恐怖でビクッと身体を震わせた。

動いたせいで首筋に当たっていた物がチクリと私を刺し、温かなものが首を伝った。


「彼は今私の従者よ。怪我をしていたから助けたの」


恐怖で声が震えたが、目を逸らしてやるものかと男の赤眼からは目を離さなかった。


「そう、か…」


男はゆっくり私から離れ、その場にへたり込んだ。その隙に私は男と距離を取る。


「すまない」


「クラレンスの…お弟子さんとか、従者とかなの?貴方は」


「そうだ。ずっと、探していた」


「でも彼には記憶があまり無いみたいなの。貴方に会っても貴方の事を思い出せるかは分からないわ」


「なんてことだ…」


男は頭を抱えた。

どうやらもう敵意は無さそうだ。


「ロレイン!どこだ!」


私は近くに私を呼ぶ声が迫っている事への安堵と、皆に何と説明しようか考える時間が欲しい、と板挟みになっていた。


「とりあえず、クラレンスに会う?」


「…分かった」


会ったところでどうにかなるとは限らないけれど、こんなになるまでクラレンスのことを探していたのならば彼は悪い人では無さそうだ。


それに襲われても疲労した今の男の状態ではユリスにも勝てやしないだろう。


「立てる?」


「…あぁ」


私が手を差し伸べると、彼は私の手を掴み立ち上がった。

そこへ丁度息を切らしたユリスが到着し、私たちを見るなり腰に携えていた剣に手を伸ばした。


「ちょ、待った!」


私は慌てて男の前に出る。


「ロレイン様、コイツは誘拐犯でしょう?あんな一瞬で攫われるとは思いませんでした。相当なやり手ですよね」


今にも剣を抜きそうなユリス。

言っていることは合っているから頷きそうになった。


「この人は…クラレンスのお友達で!話は着いたし悪い人じゃないから、とりあえず剣から手を離して」


「…では武器を捨てて貰おう。身に付けているもの全てだ。その間にロレイン様はこちらへ」


男は大人しく腰に携えた剣や、先程私の首に当てていた小刀などをその場に捨てた。


「これでいいか」


あまりにも呆気なく男が武装を解いたのに対してユリスは少し驚いていたが、それが逆に挑発にも見えたみたいでより警戒を強めた。

相手は魔法族だ。


「あぁ。でもお前をロレイン様に近づける訳にはいかない。攫っておきながら、クラレンスの知り合いだ、なんて。なら直接クラレンスに声を掛けろよ。お前は信用ならない」


「…」


ユリスが言っていることは正しい。知り合いならば、師弟や主従関係ならより一層その行動を取るに違いない。

だが男がそれをしなかったのにはきっと理由がある筈だ。…なんて、そう考えてしまうのはお父様からの遺伝のせいだわ。このお人好しめ。


「はぁ…。ユリス、武装を解いた者に剣を向けるのは如何なものかしら。それに彼は疲労しきっているわ」


「ですが相手は魔法族です。武器や体力がなくたって」


「それは差別です。だから魔法族は自国から出てこようとしないのですよ。ユリス、貴方は仕事を全うしてくれた。今はもうその剣を収めなさい」


納得しない顔のユリスは、渋々剣を鞘へと戻した。

それを見て私は男に問いを投げる。


「では、まず貴方のお名前は?」


「ジノだ。…その、悪かった。気が動転していて」


ジノは頭を下げた。やっとの思いで探し人を見つけたのだ。彼の行動は許せるものでは無いけれど、気持ちは察してあげよう。


「ジノ、貴方も怪我をしているよね。そんな中クラレンスを探していたの?」


「主が消えた。俺が…傍に居たのに。こんな、知らない場所で一人になんてしておけるはずないだろ」


悲しそうな、でも強い意志を持った目で言われたら、私はジノを信じるしかないじゃないか。


「…なら、クラレンスたちと合流しなければだね!」


「ロレイン様!こんな危険なやつを「ユリス?私は今幼なじみのロレイン、だよ?」


ユリスは溜息を吐き、言いたいことを丸っと飲み込んで折れてくれた。頭を抱えていたけれど、見ないふり見ないふり。


「…全く…、後でリリアンナに全て報告するからな?」


「う、…はい」


絶対後で怒られる…。


ユリスは私に近づけさせまいと、自分の後ろへ私を隠し、ジノと距離を取りながら先程の広場へと戻って来た。


当たりを見回すと、丁度今買い物を終えたばかりのリリアンナとクラレンスがこちらへ向かって来ているのが見えた。


リリアンナが私に手を振る中、クラレンスは私と目が合うよりも先に呆然とした様子でジノを見つめていた。


リリアンナに自分の持ってた荷物を無理やり渡すとこちらへ走って向かってくる。


「クラレンス、あのね」


「ジノ!!お前、ジノか!?」


「クラレンス、様」


クラレンスはジノの肩を両手で強く掴んだ。

どうやらジノの事を覚えているみたいだ。記憶が戻ったのか、思い出していたのかは分からないが説明が省けた。


クラレンスがジノの知り合いだと分かって、ユリスはやっと警戒を解いた。


「あ、ユリス!リリアンナを手伝いに行って!なんか、凄い目でこっちを見てる」


「分かった」


ユリスはリリアンナの方へ走って行き、私はクラレンスに落ち着くよう宥めた。


「さっきそこで会ったの。街中でクラレンスを見掛けたそうよ。でも途中で見失って、貴方と一緒に居た私たちに声を掛けてきたの」


全て口からデマかせだ。リリアンナとユリス以外は事実を知らなければいいと思ったから。


ジノは私を見ると口パクでありがとう、と言った。


「クラレンス様、ずっと、ずっと探しておりました」


「悪かった、一人にして。ありがとう、探してくれて」


クラレンスはジノの肩を掴みながら下を向いていた。涙を流していたのかは分からないがクラレンスの声は震えていた。


「良かった!再会出来て!でもジノ。貴方傷だらけだけなのだから…」


「あ、すみません。ちょっと…限界…」


ドサッとジノが前に倒れ、それをクラレンスが受け止める。


「…安心しちゃって、限界を迎えたんだね」


「…ロレイン、この人誰?」


美味しそうな匂いを手にもつリリアンナがこちらへ到着した時、現場はカオスだった。

知らないボロボロ男がクラレンスに支えられているのだから。


「リリアンナ、これには深い事情があるのだけど、一旦…お城へ戻りましょうか…」


「…また拾い物ですか…」


リリアンナは溜息を吐き、ユリスもまたこの大量の買い物袋を一人で持つのかと溜息を吐いた。

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