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幻獣使いでも精霊使いでも無い令嬢は平穏に過ごしたいのです!  作者: 豪月 万紘
第二章 公爵令嬢とお仕事
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適正と実験

 翌日。

朝食は各々部屋で取り、その後はリオと共に研究室へ向かった。その途中で偶然イザイア殿下にお会いしたのでついでに…ということで私たちは予定を変更して一先ず練習場へ足を運んだ。


「本日より精霊騎士団に所属するエミル・フロリエンスとロレイン・フェタリナーツェだ」


「…本気ですか、お二人とも…」


ウェルス様は呆れたように頭を抱えた。

他国の王族と上位貴族が騎士団入団となればそうなりますよね…私も昨夜そうでしたもの。


「よろしくね。ウェルスさんに、メイソンさん」


「エミル殿下、そしてフェタリナーツェ様…私共に敬称など必要ありません」


「そうか…じゃあアッシュとクリード?」


「はい、その方が心の安泰に繋がります…」


「では私も名前でお呼びください。家名では堅苦しいですわ」


「「承知いたしました」」


あぁ、もう既に堅苦しい。このお二人…私たちが居ることで本領発揮ができない状況、とか出来てしまわないかしら…。


「あとはリオ、頼むな」


「かしこまりました、イザイア殿下」


挨拶を済ませると、私とエミル殿下はリオと共に研究室へ向かった。


改めて見ると、壁一面に大量の本が並んでいる。本も高価なものなのに。リオが優秀だからこそイザイア殿下が揃えたものなのかしら。


「すみません、物が多くて」


「いえ、構いませんよ。でも凄い量の本ですね」


「ご自由にご覧下さい。と言っても妖精、精霊、魔術についての本ばかりですが」


興味本位に手に取ってみると、どうやら本と言うよりは文献のようで、妖精の種類や精霊の生息地域、特徴などが細かに書かれていた。


私の知っていることも多かったが、ここまで調べるのには骨が折れそうだ。


「凄いですね、こんな詳細書かれているなんて…あれ?この文献、リオの名前が書いてありますよ」


「お恥ずかしながら…」


照れているリオに私は衝撃が走っていた。

私と同い年の彼は私が脳天気に生活をしている間に文献を世に出していた、なんて。


「魔法学校に在学していたころ、何人かに手伝ってもらい研究していたのです。妖精や精霊を見れるのは魔法族の特権ですから。僕らが研究対象にしても何にもならないのですがね…」


「興味があることに熱中するのは凄いですよ」


私が尊敬の眼差しを送っていると、ふいっと目を逸らされた。見すぎましたわ…きっと気持ち悪かったのでしょう…。謝ろうとすると私の声に合わせてリオは


「その…あんまり見られると恥ずかしいので」


と、口元を隠しながら発した。


かっ、わいい…。


私は心の中でガッツポーズをした。何あれ、可愛い。男の子に言うような言葉では無いのだけれど。可愛い。


「…ロレイン、どうしたの」


「え、っと。いえ、コホン。何でもございませんわ」


「ふーん…」


エミル殿下が怪しげに私の顔を覗いてきたが、平常心を保った。これから先、リオと過ごす時間が長くなるはず。下心など微塵もございませんが…色々と楽しみだわ!


「では最初にお二人の周りにいる妖精から見てみましょう。ご自覚がある妖精はエミル殿下が"水の妖精"、ロレイン様が"風の妖精"でよろしいでしょうか」


「うん」


「はい」


「普段生活している中で触れ合いが多いものが基本その人に妖精が好意を寄せることが多いと、論文にありました。また魔法を付与した特別な水晶を通すことで微精霊も含め見やすくなります。これからお二人の適正を見ていきますね」


何の変哲もない丸っこい水晶。

私は何か見えるのかと水晶を覗いて見たが何も変わりは無い。


「水晶に魔法を付与したのもリオですか?」


「残念ながら。考案は私で高度技術が必要な付与魔法はローガンが行いました」


リオは不服そうだった。

ローガンはああ見えてやはり実力が十分ある魔法使いのようだ。


それにしても適正か…私は確かに"風の妖精"と仲が良いのだが…何せ妖精とコミュニケーションが取れる。

だからと言って好感度が比例する訳でもないと思うが少し不安だ。


まずはエミル殿下から水晶に触れた。ボソボソと魔法を唱えたリオはじっと水晶の中身を見ている。


「…エミル殿下ありがとうございました」


「どうだった?」


ギクッと肩を鳴らしたリオは頬を掻きながら


「…えっと、"水の妖精"には確かに好かれています」


「…というと?」


「適性がありそうなのは、"花の妖精"、です」


私は思わず笑いそうになったのを抑えた。

ここは絶対に笑わない。笑ってはいけない。


「…ロレイン、何か言いたげな顔だね」


「ふふっ、いえ、あの、花の国の名に恥じないご立派な王子様だと思いまして」


「笑ってるよね?」


近づけられた顔から逃げるように私はリオの横へ移動した。今殿下の顔を見たら笑ってしまうわ。


「い、いえ!そんなことは!リオ!私もお願いします」


先程と同じく私が水晶に触れ、リオは魔法を唱えてじっと水晶を見る。

だが少し見ている時間が殿下の時よりも長い。


「ロレイン様は、"風の妖精"、です…が、うーん…」


「如何されました?」


リオは水晶を見て考え込んでしまった。


「水晶を通して適性を見たのは先程のエミル殿下を含め三人と事例が少ないためハッキリとは申し上げられません。ロレイン様の場合は適性を広く見た方がいいかもしれませんね」


「うっ。そ、うなのですね…」


そうか…やはり私の適性は手広そうだ…。

人脈を広げるように、妖精にもコミュニケーションを取ることが大切なのね…。


普段より多く触れているものに適性が出やすい、と。

これは当人たちの話を聞いた方が良さそうね。

今後の参考になりそう。


「では、一旦外に出て実際に検証してみましょう」


「あぁ。だが、検証の際ロレインは着替えた方がいいかもしれない。動きにくいし、破れては困るだろう」


確かに動きやすい服を選んだとはいえ、軽いめのドレスに違いは無い。そもそもスカートは運動には向いていない。

…普通のお嬢様ならね…。私はこれで走りなれている。とりあえず体裁を保とう。


「そうですわね…リオ、動きやすいお洋服ってどこかで借りられるかしら」


「そうですね…ロレイン様の背丈に合うものでしたらうちの魔法塔の女性に借りられるか聞いてみても良いのですが…」


「でしたらリオのものを借りられますか?背丈も同じくらいですし」


「お、俺のですか!?ですが…」


リオは悩んだ後、チラリとエミル殿下の方に目線を移したが軽く息を吐いて承諾してくれた。


魔法塔の女性はきっと貸してくれるが、それは私のお願いだと聞くと貸す、のではなく献上に近くなってしまう。

他国で悪印象を与えたくないし、魔法塔の女性達にそんなことはしたくない。

エミル殿下のお召し物をお借りするなど以ての外ですが。


リオから着替えを渡され、書庫にある小部屋で着替えてみると、なんとサイズはジャストフィット。


なんか、いい匂いがしますわ…。


「ロレイン様、匂いを嗅ぐのははしたないですよ」


「でもねリリアンナ。すっごくいい匂いなの。サイズ感も愛おしいわ…」


「もうお止め下さい…」


袖はピッタリだったが、やはり腰周りは緩く感じた。ベルトも借りていたのでそこで調整する。


動きやすい服と靴は揃えないとダメね。

明日街で調達しよう。


「お二人共。お待たせ致しました」


「い、いえ!」


私が戻ると顔を赤らめたリオと、不機嫌オーラ満載のエミル殿下が椅子に座って待ってくれていた。


「サイズは丁度よさそうです」


「…そうですか…」


リオは少し複雑そうな顔をしていた。

十四じゃまだまだ成長期なのですから落ち込まなくてもいいのに。


「…では、行こうか」


不機嫌なエミル殿下は椅子から立ち上がるとスタスタ扉の方へ歩いて行ってしまった。


そんなエミル殿下の態度にリオは「やはり俺のじゃダメだよなぁ」と零していた。


一応私は婚約者(仮)な訳だけれど、私と違ってエミル殿下は婚約者のフリを徹底しているようだ。


設定としては、婚約者が他の男の服を着て良い気分がしない、といったところかしら。凄いわ!


 練習場に移動すると、リオは色んなものを用意した。

テーブルを設置し、その上に美しい青い花が挿してある花瓶、桶に入った水、氷の塊、薪などが並べられている。


「さぁ、まずは実証実験で騎士の二人が行っていたことをお二人にはしてもらおうと思います。まずは先程の適性からエミル殿下には花を、ロレイン様には…自然な風をお渡し致します」


「…私自然な風をいただけるのかしら?」


私がくすりと笑うと、「言葉のあやです」とリオは照れていた。


「コツとかあるのかな」


「あの二人曰くですね…」


リオはエミル殿下に付いて、アッシュとクリードから聞いた情報を元にアドバイスをしている。


私はそっとその場から離れ、実証実験のことを思い出していた。


あの時、確かアッシュとクリードは適正の物を近くに置き、妖精が近づいてくるのを待っていた。


私の場合はなぁ…


「"風の妖精"たちよ、クッキーあげるから出てきてちょうだい」


リオやエミル殿下に聞こえないボリュームでそっと言うと彼らは直ぐに集まって来てくれた。


『ロレイン、珍しいところに居る』


『いつものところじゃないから慌てちゃった』


「ごめんなさいね」


私はリリアンナに預けていた私のおやつを彼らにあげていく。


「ロレインは本当に妖精に好かれているよね」


「きゅ、急に背後に立たれると驚きます、エミルさま」


「いや、君が離れたところで妖精に囲まれてたから気になって。どうやったの?」


「私の場合はクッキーを…」


「あぁ。あの時も確かに彼らはお菓子を好んでいたよね…なるほど」


あの時、というのは私のバースデーパーティ翌日の事を指しているのだろうか。


あの時はエミル殿下とお茶をするのも酷…だったのに、突然妖精たちにクッキーを渡し始めたと思ったら妖精が見える、と言い出したものだから体調がまた悪くなったのよね。


私、あの時よりも成長しているわね。


「ロレイン?僕にもそのクッキー少し分けてくれないか?」


「良いですけれど…」


私はエミル殿下にクッキーを渡すと、エミル殿下は以前と同様、妖精たちが持ちやすいように小さくクッキーを割った。


すると妖精たちはみるみる集まってくる。


「なるほど。妖精は適性のものを持つよりも甘いお菓子を好むのですね…参考になりました」


リオはポケットからメモ帳を取り出し、何やらメモをしていた。


「妖精たちが集まったことで微精霊も集まりだしましたね。このまま何か出来ると思うのですが」


「ふむ。何かか…私の適正では難しそうだな」


エミル殿下がそう仰った瞬間、花と一緒に着いていた小さなつぼみが大きくなり始め、ポンッと花開いた。


「んっふふ」


私はその光景に我慢できず、笑ってしまった。


「ローレーイーンー?」


「す、すみません、あまりにも突然可愛らしい現象が起こったもので我慢出来ませんでした」


エミル殿下はもしかしたら相当面白い方なのかもしれない。私は今やっと殿下に好感を抱いた。


花の精霊は随分とお可愛いらしい能力を貸してくださるみたいだ。


「コホン。では私も…風の精霊よ」


そう言うと少し強めの風が吹き、エミル殿下の持っていた花の花びらを攫っていった。


「申し訳ございません、折角エミル殿下が咲かせたお花が…」


「僕が意図して咲かせた訳じゃないからいいさ…」


そんな私たちのやり取りを見て、リオは顔を隠しているが体が揺れているため、笑っていることが分かる。

その後この状況を持ち直そうとしたのか咳払いをした。


「えっと、お二人とも初めてでここまで出来るのは凄いと思いますよ。騎士二人は前例が無かったとはいえ、なかなか手こずりましたから」


「なら良いのですが…毎回お菓子や小道具を用意するのは効率が悪いですわね」


「それが現在の課題です。妖精や精霊とコミュニケーションを取り、能力を制御出来るのが現状出来る取り組みですが、どちらも中々難しですね」


これは何とか打開策が必要だ。

もし風の精霊が言っていた魔族たちとの戦争が勃発した場合…なんて、半年に一度各国の王が会議をしていて情報が出てこないのであれば問題は無いはずよ…。


そもそも戦争になったら私のようなお嬢様お呼びでないはずですもの。


リアナ様の予言が何を示唆しているのかはまだ分からないけれど。


「調査と実験あるのみだな」


「そうですわね」


「ありがとうございます。今後は全員で知識を持ち合わせて行きたいと思いますので、改めてよろしくお願いします」

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