打合せと
エミル殿下が夕食時に私の部屋まで迎えに来て下さり、殿下と同じ色のドレスを着て会場へと移動する。婚約者って(仮)でもこうしてエスコートされるのよね…。毎回、これが続くのかしら…。
「今日も綺麗だね、ロレイン」
「お褒めのお言葉ありがとう存じます。エミル殿下もお似合いです」
私がフォーマルな格好をする度に褒め言葉を頂いているが、それが逆に胡散臭く感じていると殿下はお気づきでないのかしら。
「ロレイン、僕は思ったことしか言わないよ」
「…そうですか」
どんなに甘い言葉を言われても絶対にこの人に恋愛的な好意を抱くことは無さそう。そもそも今後信用できるかどうかも怪しいのだから。頼れる人だとは分かっているけれど。
「エミル殿下、フェタリナーツェ様。お待ちしておりました、こちらへどうぞ」
「ローガン、こういうのは君が行う仕事では無いと思うのだけど」
「左様でございますね。ですが今回はお二人が入室されてからこの部屋に遮音魔法をかけるようにとイザイア殿下より承りまして」
「なるほど。では頼んだ」
私たちが入室すると、ローガンは杖を取り出し呪文を唱えた。エミル殿下はスタスタと私をエスコートして歩くが、私は後ろの光景が見たくて堪らなかった。横目で盗み見ると呪文を唱えた後魔法陣が浮かび上がり、扉に溶け込むように消えて行った。
「…ロレイン、余所見をして転ばないようにね」
「してませんよ。大丈夫です」
何故ローガンが遮音魔法を使ったのかというと、夕食を取りながら今後の精霊騎士団の方針を決めるからだ。そのためイザイア殿下、リアナ様、ローガン、リオ、そして私たちとで夕食を取る。
向かいの席にイザイア殿下、リアナ様、ローガン。こちらはエミル殿下と私、その隣にリオが座っている。ローガンの隣に座っても良かったのだが、それだとリオの意見が届きにくくなりそうだと、イザイア殿下が席順を変えたらしい。
リアナ様は私を見て小さく微笑んで下さった。
可愛らしい。私はそれに思わずニッコリと頬を緩めてしてしまい、ハッとして目線を逸らした。恥ずかしい…。
私気持ち悪く無かったでしょうか…。
「すみません、俺みたいなのがロレイン様の隣で食事を取るなんて…」
ローガンは何ともないように席に着いているが、王族や貴族と食事の席を囲む機会などないリオはガチガチに固まっていた。
緊張するのは分かりますわ…。私も最初王族と食事、と言われた時は全然喉に通らなかったですもの。
「リオ、貴方は優秀ですし、素晴らしい人です。そんな方と御一緒できるなんて光栄ですわ」
「…お優しいのですね。そう仰っていただいて嬉しいです。食事のマナーは教えて頂いたのですが粗相があるかもしれません。申し訳ございません」
「お気になさらないでください。リオはリオのままでいいのです。貴方の力が必要だからこの場に居るのですよ」
リオは少し肩の力が抜けたみたいだ。同い年でも天才でも、緊張は誰にでもあるもの。要は…慣れよ!
因みに食事の配膳は各々の侍女、従者など信頼が置ける数名で行う。
食事が配膳され始め、飲み物が全員注がれたのを確認したイザイア殿下は立ち上がった。
「皆食事を取りながらで申し訳ないが、精霊騎士団について今後の方針を決めていく。まずはローガンから詳細を話す」
「はい。まずはエミル殿下、フェタリナーツェ様。フロリエンス王国のご協力に感謝致します。本格的に始動し始める精霊騎士団の運営についてお話させていただきます」
ローガンは仕事モードなのか、いつもの雰囲気とは違い真面目に話し出した。そうね、当たり前と言えばこの場では当たり前なのだけれど。
「現状騎士団所属は二名。先日視察にてご紹介させていただきした、アッシュ・ウェルスとクリード・メイソンです。今後は騎士団として人数を増やしていきたいと思っているのですが…恐れながらエミル殿下、フェタリナーツェ様にはこちらに所属して頂ければと思っております」
「…そう来たか…。まぁ提携という肩書きで進めるつもりだし、フロリエンスとしてもそこは問題ない」
えぇ…待って下さい殿下。聞いてません…。
私、剣を握ったことも振るったこともないのに騎士団所属なのですか!?お父様やお母様がお聞きになったら…というか私の体裁は!!公爵令嬢ですよ!?
「そうか、二人が騎士団に入団となれば心強い。無論他の騎士とは別格とするがな。二人には彼らと共にリオと研究を進めてほしいと思っている。フェタリナーツェ、君は特に。」
「はい、勿論です。ご尽力させていただきます」
なんか…リアナ様と仲良くしたからかな。イザイア殿下に目付けられてる?
「私とリアナは主に外交をメインで動くが…あまり期待しないでくれ。フロリエンス王国以外の国は興味を示してはくれなかったのでな」
「私たちが研究を進めることで何か変わるかもしれません」
「そうだな…。明日リオが研究室へ君たちを案内するので、研究については随時会議をしよう」
「ふむ。リオ、君は何かこの場で話しておきたいことはあるかい?」
エミル殿下の突然の振りで、リオがまたカチッと固まった。
「い、いえ。今は、まだ…」
「そうか。では明日はよろしく頼んだよ」
「はい、エミル殿下」
その後エミル殿下とイザイア殿下は予算や会議の日程を組むためのスケジュールを擦り合わせていた。
「さて、真面目なお話は殿下のお二人にお任せして…私たちは私たちで話しましょう!さぁさぁ、何から話しましょうか!そうだ!フェタリナーツェ様が本日アグリジェントの魔法塔をご覧になられましたが、リアナ様は今月ご覧になられましたか?私の自慢のあの壁です」
「あ、私はまだ…ごめんなさい。時間を作って見に行くわ」
「とても素敵でしたよ。フロリエンスとはまた違う感じで」
「ふふん。褒められると気持ちがいいですね」
「調子に乗るな。お前が話を振ったからだろう」
リオはやっと緊張から解けたのか、いつもの調子に戻ったみたいだ。
ローガンは意図的にそう仕向けた…訳ないか。
夕食を終え、私はエミル殿下に部屋まで送って頂いた。
この後は私たちの食事の配膳をしていた従者たちの食事の時間。どうやら従者同士で食事を取るようだ。
折角の機会だしゆっくり食べておいで、と言うとリリアンナは
「そうはいきません。私が居ないとロレイン様は何をされるか分からないじゃないですか」
「…他国で何もしないわよ」
「リリアンナはゆっくり食べてきてください。私たちは先程頂きましたので、ロレイン様のことはお任せ下さい」
「ふむ…頼みましたよ、二人とも」
「ちょっと貴方たち。従者同士で信頼関係を築くつもり!?主人を信じなさい」
全く。エミル殿下だけでなく、従者たちにまで私が他国でフラフラと歩き回るみたいに思われているなんて。心外だわ。
リリアンナが部屋を出ようとするタイマミングで部屋の扉がノックされた。
「ロレイン様、リアナです」
「はい、どうぞ」
私は座り直し、ユリスとクラレンスは私から離れた所に整列した。
「先程は夕食を御一緒出来て嬉しかったです。リリアンナさんがこれから夕食だと思うので、良かったら私と、お茶でもいかがでしょうか…もちろん、準備はこちらでさせていただきますので」
「それはとても嬉しいお話です。どうやら私の侍女は私から離れるのが心配だったようなので…。」
私は横目でリリアンナを見た。
リリアンナと目が合うとそっと目を逸らされる。
「あ、でもリアナ様の侍女さんはお食事されないのですか?」
「配膳してくれた侍女は食事を取りに行ってもらいましたので大丈夫です」
「そうなのですね。では、お言葉に甘えさせていただきます」
私はユリス、クラレンスと共にリアナ様のお部屋へと移動した。
既にお茶と軽めのお茶菓子が揃っており、侍女の他にリアナ様の部屋にはメイドが二人、そして部屋の外には騎士が二人護衛をしていた。
「やはりすぐにお会いする機会がありましたね」
「リアナ様はあの時すでにこうなると予想出来ていらっしゃったのですね」
「エミル殿下とロレイン様はとても妖精や精霊にお詳しかったので良いお返事が頂けるのでは、と思っていただけですよ」
エミル殿下も私も特に妖精や精霊について知識があると知ったのはお互いにその場で初めて聞いた感じになりましたが…。
「…お二人は仲が良ろしいですよね。羨ましいです」
切なそうに微笑む彼女に私は、いえいえ目の錯覚ですと言いたいところだったがグッと飲み込んだ。
「そんなことはないですよ。リアナ様はイザイア殿下とはいつご婚約されたのですか」
「丁度二年前…ロレイン様と同い年の頃です」
「その前からお知り合いだったのですか?」
「いいえ。婚約のお話をお受けした二年前に初めてお会いしました」
また悲しそうな表情…。
するとリアナ様は暫く二人きりにして欲しいと従者を下がらせた。
あれ…これは王族との婚約云々という重い話を聞くことになるのでは。
リアナ様はカップに入ったお茶を見つめながら、遠くを見るように過去のことを話し始めた。
「私はノヴェイル王国出身の言わば平民でした。勉強が好きだった私は魔法学校で成績優秀者として卒業後は魔法省へ務めるはずでした」
ノヴェイル王国には魔法学校があるという話は聞いたことがある。規模もどのような学力なのかも私は知らないが、優秀だったのだろう。
魔法省というのは魔法界全体を纏める組織だとざっくり授業で聞いた。
「陛下…アグリジェント王とイザイア殿下が外交でこちらに赴いた際、イザイア殿下と歳が近く学校代表を務めていた私は学校内を案内する役目を頂きました。その時からイザイア殿下は口数が少ない方ではいらっしゃいましたが、平民である私や他の生徒に差別的な目を向けることはありませんでした」
「その出会いから婚約、というお話が出たのですか」
「はい。私は最初なんのご冗談かと思いましたが、イザイア殿下のお母様、カミラ女王陛下もまたノヴェイル出身の方でしたので納得はいきました。しかし、あの時一度ご一緒した私よりもきちんとしたご令嬢の方があの方には相応しいと、今も思っています」
「…リアナ様。私恋愛については全くの未経験でありますが、少なくともイザイア殿下はリアナ様のことを大切に思われていると思いますよ」
リアナ様はカップへ向けていた顔を私へ戻した。少し頬を赤らめて。
「…イザイア殿下が私を気遣ってくれていることも分かっては…いるんです。でも私は自信が無い。神からお告げを貰える特別な能力があったから今こうして彼の隣に居れて、もしこの力が無くなったら私は…」
「リアナ様。神からお告げを頂けるというのは素晴らしい能力だと思います。ですが神様は人の感情や未来を、必ずしも決定する権力はないと思いますよ。いくらでも未来は変わります。だから精霊騎士団を設立されたのでは?」
ノヴェイル王国は貴族制度がないために、こちら側と合わせるならば自分は平民だろうと意識があるのだろう。リオもそう思っているのだろうが、違う。唯一の民主主義国家を私は平民だとは思わない。
だが恐らくリアナ様の周囲が彼女をそうだと指を指しているのかもしれない。アグリジェント王国は差別がないと聞いていたが、旧貴族に根付いている印象がそうさせているのかもしれない。
「…リアナ様。誰かに何か言われているのですか」
「いえ…」
「本当でございますか?」
「…デビュタントを終えてから、きちんと社交界に出るようにとメイド長から言われていて…そこで出会った方々とお茶会をした際に少し」
なるほど。イザイア殿下の婚約者として社交界での振る舞いが貴族たちからの評価。
リアナ様はエリアーヌ様と共にアグリジェント王国の社交界トップに君臨することになる。
それが気に入らない貴族がそう言っているのかもしれないわ。
「エリアーヌ様とはご一緒に出席なさらないのですか」
「するときもありますが、エリアーヌ様の足を引っ張らないよう、なるべく別行動をしています。最近魔族が出たという情報を耳にした貴族が、また魔法族を嫌悪し始めているそうなので」
お母様から社交界は厳しい世界と聞いたが、なんて面倒くさそうなのでしょう…。
大体魔族と魔法族は別の種族なのに、未だにごちゃごちゃ仰っている人が居るとは。
しかしまだデビュタントもしていない無責任な子供の私に助言する言葉などなさそう。
「すみません、デビュタントも終えていない私がリアナ様の助力にもなりませんね…」
「いえいえ。こうしてロレイン様は私と対等にお話くださっていますので、それだけで十分です」
「そんな…。リアナ様。私はまだ子供なので、こんなことしか言えませんが…リアナ様は素敵なお方です!魔法学校の生徒代表だなんて、リアナ様が努力をされ続けてきたことの証明です。だからイザイア殿下もリアナ様とご婚約されたのでしょう?自信を持ってください!誰にどう言われても気にしないでください。私は目の前でお話してくださるリアナ様を見ていますから」
「…ロレイン様は不思議な方ですね。何だか元気が湧いてきました」
「…私は一風変わった公爵令嬢と名高いですから。それに、イザイア殿下もリアナ様の笑顔が見たいはずですもの。無論私も」
ふふっと微笑んだリアナ様に私も釣られて笑った。やはり笑顔が素敵だ。こんな笑顔を私が独占しているからイザイア殿下はお気に召さないのかもしれない。




