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幻獣使いでも精霊使いでも無い令嬢は平穏に過ごしたいのです!  作者: 豪月 万紘
第二章 公爵令嬢とお仕事
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仕事、仕事

 エミル殿下からのお手紙が届き、アグリジェントへ再び赴くことになった私は慌ただしく旅路の支度をしていた。今回は少しばかり長期の滞在となりそうで、前回より荷物が多い。

そして長期滞在ということで従者も増えた。

侍女のリリアンナは勿論、私の専属騎士となったユリス・ランベール。そしてクラレンス様だ。


「クラレンス様、あの…」


「クラレンスだ。俺はもう客人では無いのだからな」


 時は一週間ほど遡る。

医者にも体調に問題はないと診断されたクラレンス様は最近よく騎士たちの訓練所へ顔を出していた。本人は恐らく体力の回復を目的としていたようだが、どうやら家の騎士たちに気に入られたらしい。


私とぶつかって怪我をしていたあの頃のクラレンス様とは違い、服の上からでも以前と体格が違うのが分かる。


 本人曰く、魔力は僅かながら戻ったそうだ。

しかし操れるのは水を少し動かす程度だとか。魔法のことはよく分からないが、実際にクラレンス様に披露していただいた際、私は目の前で起こった不思議な現象に感動していた。

クラレンス様は微々たる魔力に溜息をついていたけれど。

もし彼の魔力が戻ったら…などと考えると私は内心ワクワクしていた。


 そんなクラレンス様はもう我が家に居る理由がないと、ここを出て記憶を取り戻す旅に出ようとしていた。特に当てもないので、行きた当たりばったりにと考えてたそう。

それを聞いたお父様が、どうせロレインが仕事で遠出すると思うから護衛として国を見て回るといい、と助言した。そうすれば我が家に居る理由もあるだろう?と。

ほんとお節介。


そうしてクラレンス様…いや、クラレンスは私と共にアグリジェントへ旅立つこととなった。


「クラレンス。ルートの最終確認するぞ」


「あぁ」


 私の専属騎士となったユリスは19とまだ若いが、我が家でも屈指の剣士だ。クラレンスよりも強いらしい。そりゃ幼い頃から剣術を齧って居るのだから差は出ると思うが。


グレーの瞳は一件クールに見えるが、彼は親しみやすい好青年だ。モカブラウンの髪色がいい具合に柔らかい雰囲気を生み出しているのか…。

リリアンナと同い年だから二人とも話しやすそうだし、いいバディだと私は思う。しかしそれがリリアンナへ思いを寄せるアルノーからしたら面白くない話しだ。私の専属騎士に決定した時も珍しくアルノーは表情に感情が出ていた。


私は別にリリアンナが選ぶ人なら誰でもいいいと考えているので、特段アルノーに肩入れはしていない。私はリリアンナの主人として公平に接するだけ。


 騎士の二人と他の使用人たちが最終確認を行う中、私はお父様お母様、そしてお兄様へご挨拶をしていた。


直ぐに帰る、と言っても一ヶ月ほどあちらに滞在する予定だ。こんなに家族と離れるのは初めてなので、少し不安はある。


「ロリィ、何かあったらきちんと殿下にご相談するんだよ?」


「…はい、お父様」


「ちゃんとするんだぞ?無理は禁物だ」


「お兄様、私にはリリアンナがおりますのでご安心を」


お兄様は私の頭を撫でながら、「分かってないな」と不安げに笑った。


「リリアンナ。ロレインを頼みますよ。ロレイン、無理はしないこと。分かりましたね?初めての長期遠出なのですから」


「はい、お母様」


「奥様、お任せ下さい」


 挨拶を終えると丁度皆準備が整ったようで、私はリリアンナと共に馬車へ乗り込んだ。

騎士の二人は馬で移動だ。いつの間にかクラレンスは馬にも乗れるようになっていた…。この短期間で天才なのでは?


「リリアンナ。私は出発したら直ぐに寝ちゃうから、二人のことよろしくね?特にクラレンスは慣れないのに無理すると思うから休憩は多めに取ること」


「承知致しました。ロレイン様、こちらお茶でございます。私がきちんと管理致しますので、ご安心してお休みください」


「頼んだわよ」


コクッとお茶を飲み干すと、私はいつも通り目を閉じて、目を開けるといつの間にかフロリエンス王城に到着していた。


「ロレイン様、おはようございます。到着致しました」


「んぅー、おはよう」


 リリアンナは私の髪とドレスを素早く整え、馬車を降りた。外に出ると丁度昼過ぎで、太陽が眩しい…と感じるよりも先にお腹が鳴った。


 今回は荷物も多く、アグリジェントへ向かう人員を削減したかったため国際会議等で使用する王専用ワープゲートを特別に利用することとなった。


ワープゲートは国の魔法塔にあり、厳重に警備されている。基本王のみが利用出来るのだが、今回はアグリジェント訪問予定人物を予め手紙で通知しており、対象人物のみがワープゲートを特別に利用可能となっている。

婚約者(仮)という身分はこういう時便利だ。でなければ普通使えない。


「ロレイン」


「エミル殿下、お出迎えいただきありがとう存じます」


「無事に着いて良かったよ。荷物は僕の従者たちが運ぶから、君たちは一度休むといい」


「ご配慮ありがとう存じます。今回私の専属騎士が二人付きまして、ユリス・ランベールとクラレンスです」


 私は騎士の二人を呼び、エミル殿下へ紹介した。ユリスは貴族なので問題ないと思うが、クラレンスは…殿下相手に大丈夫だろうか。


「お初にお目にかかります、エミル殿下。ユリス・ランベールにございます」


「クラレンスにございます。お目にかかれて光栄です、殿下」


あれ、普通に話せている…。ユリスに教えて貰ったのかしら。


「ユリスとクラレンス。二人ともよろしく。長い付き合いになりそうだね」


「いえ、一ヶ月は割とあっという間ですよ殿下」


おほほほ…と私は笑いながら返した。

長い付き合いなんて御免だ。早く解放して。


「それは分からないよ?とりあえず一旦客間へどうぞ」


 私たちは殿下にご用意していただいた客間で一息ついた。ユリスもクラレンスもソファーに腰をかけるのを渋ったが、私とリリアンナで強制的に座らせた。そしてお茶も飲ませた。


「二人ともいい?私が休めと言ったら休むこと。遠慮とか要らない。無駄なところで体力を消耗する必要はないから」


「承知致しました、ロレイン様」


「…分かった」


 二人は私に付いて今日が初めての仕事だ。

コミュニケーションや決め事もこうして少しずつ決めていかねばならない。二人の主としてしっかりしなければ。…リリアンナは私の侍女だから。甘えまくってしまっているけれど。


そうそう、リリアンナといえば、前回アグリジェントへ来た時はヴァンちゃんをペットホテルに預けて居たけれど、今回はカティに任せている。怪我も良くなり、食欲も出てきたから少しは安心かな。


なんて考えてお茶を飲んでいると、顔を曇らせ何か言いたげなユリスが口を開いた。


「…クラレンスさ、ロレイン様にその話し方はどうかと思うぞ?俺らの主なんだから」


なるほど。主従関係となった今、口の利き方はきちんとすべきだと考えているみたいだ。

それは確かにそうなのだけれど…でもクラレンスは恐らくずっと私の傍にいる訳じゃない。一時的なものだと思っている。

それにお客様として出会ってからもう三ヶ月以上が経つのに、今更って感じだ。


「いいのよ、ユリス。もう今更だし。でも公の場では控えてくださいね?」


「分かっている」


 クラレンスはバッチリな作法でお茶を飲み終えた。彼はそつなく物事をこなしていくタイプのようだが、コミュニケーションはもっと測っていかなければならないようだ。


 ユリスは騎士道なのか、規則は守るべき、主従という上下関係はしっかりすべきと決め事は守るタイプらしい。この二人が噛み合えばいいが。


シーンとした部屋にコンコン、と客間の扉が鳴った。


「ロレイン様失礼いたします。そろそろ出発の準備が整いますので、魔法塔へご案内させていただきたいと思いますがよろしいでしょうか」


「分かりました。さぁ、皆行こうか」


 エミル殿下の従者に連れられ、中々入ることの出来ない魔法塔へと移動した。

真っ直ぐに聳え立つ塔は外から侵入出来ないように窓も何も無く、入口も呪文を唱えないと出現しない形式になっていた。しかも扉に入るには認証が必要らしく、そこは詳しく話して貰えなかったがセキュリティは万全だ。


「き、綺麗…」


上を見あげると、夜空が広がっており、流れ星が度々流れていた。

時間の流れを感じさせないような、不思議な感覚。


「ロレイン様、逸れないようにお願いいたします。ここは魔術が掛けられており、見知らぬ誰かがここへ来た際は必ず迷子になってしまうのです」


「そうなのですね。夜空に見惚れている場合ではありませんね、気をつけます」


私はリリアンナの手を掴み、逸れないように歩いた。後ろを歩く騎士の二人にも目をやりつつ、解けない緊張感で歩いた。


「ここから階段になります。長くキツい階段は侵入者にとってその道を辿るしかありませんが、私たちはこの箱の中に乗り、上まで上がれるように手配していただきました」


「ほんと不思議ですね…この箱が頂上まで浮くのですか」


「これも魔術だそうです。詳しいことは私も分かりませんが」


箱がひとりでに開き、その中に乗ると開いた扉が閉じられ、ゆっくりと上昇し始めた。


「リリアンナ、私たち空を飛んでいるのよ」


コソッとリリアンナに耳打ちをすると、リリアンナは真っ青になった。


「…そうですね…これ、魔法が溶けたら私たち粉々ですね…」


「…なんて怖いことを言うの…楽しいねって話でしょ…」


リリアンナの発言により私たちは真っ青になりながら頂上へと辿り着いた。

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