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幻獣使いでも精霊使いでも無い令嬢は平穏に過ごしたいのです!  作者: 豪月 万紘
第二章 公爵令嬢とお仕事
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お買い物

 お茶会から一週間。

私はいつも通りの生活を送っていた。

気候は雨が多くなり、ジメジメとした暑さが増している。この季節は外でのお茶会が出来ないので、お母様はお転婆娘が地面で寝転ばないことを喜んでいるのだ。

でもたまに。こっそり、自室の隅っこで皆とちょっとしたお茶会をしている。


 今日はジョエルとダンスレッスンを行っていた。今は一時間程で終わってしまうレッスンだが、昔は下手すぎて何時間も練習していた。


「ダンスレッスンは月一でいいのではないかしら」


「寂しいこと言うね、ロリィ」


ジョエルは明らかに悲しいです!という表情をしていたがそれも作り物だ。


「ジョエルはダンス以外何かできるの?」


「辛辣だな、お前。俺を何だと思ってるの」


「女性を侍らせて遊んでる人」


「おい!」


私がジョエルで遊んでいるとコホン、と誰かが咳払いをした。そこに居たのは例のお客様だ。今日も整った顔が素晴らしい。ジョエルなんかよりも全然カッコイイ。


「クラレンス様」


「すまない、君の授業が終わる頃だと思って」


「あー、君が噂の…僕はジョエル・シムズ。レッスンは丁度終わったところだよ」


クラレンス様は軽く会釈をして、ジョエルに自己紹介をした。その最中ジョエルはクラレンス様のつま先から頭まで値踏みをするように見ていた。私がセレリア王女とお会いした時と同じだ…。私はクラレンス様のように容姿が整っている訳では無いけれど。


「ジョエル、失礼ですよ。クラレンス様。私に何かご用でしょうか」


「あぁ…、少し歩けるようになったから一緒に散歩でもと」


驚いた。クラレンス様からお散歩の提案をされるとは。


「私は構いませんが…」


 クラレンス様がフロリエンスに来られて一ヶ月ほどが経った。しかし私がクラレンス様と関わったのは、彼にぶつかり怪我をさせてしまったということだけだ。お父様はこの件について笑っていたけれどお母様には秘密だ、と約束してくれた。


そんな私と散歩がしたいだなんてクラレンス様は変わっている。


 それから私たちはゆっくり、ゆっくりと庭園を散歩した。出会った頃よりも大分肉付きが戻ったのか、以前の見るからに細々とした腕は男性の腕という感じになっていた。


あ、腕を観察していた訳ではなくいつ転ぶか分からないクラレンス様を支えられるように私が彼の腕に引っ付いているから分かったという訳で決して下心などない。ないのだ。


「…ロレイン…、」


「初めて私の名を読んでくださいましたね!」


「そうか…ではなくて。腕を組まずとも私は歩けるのだが」


「前にぶつかってしまった事の謝罪を込めてのものですのでお気になさらず」


クラレンス様は口元を押さえそっぽを向いた。照れていらっしゃるのか。

だが申し訳ない。これはほぼ介護も同然なのだ。


「ふぅ。少し休憩いたしましょうか」


「そうしよう…」


 庭園のベンチに腰を下ろし、二人で庭の花を眺めていた。ふと見上げると少し遠目の空に灰色の雲が多い始めていて、こりゃまた一雨来そうだなぁと思っていると案の定風の精が『雫がくる、雫がくる』なんて的確な天気予報を流して行った。雫とはお察しの通り雨のこと。

妖精や精霊たちの表現は私たちの表現とは違う。


「もう少ししたら戻ろう」


「雨が降りそうですものね。そういえばクラレンス様。ご体調の方はよろしいのですか」


「魔力はまだまだ使えそうにないが、それ以外はお陰で大分回復した」


「安心いたしました。これから蒸し暑くなるので水分補給はしっかりして下さいね」


「確かに最近は蒸し暑い」とクラレンス様は着ているシャツの胸元をパタパタと揺らした。

慣れない土地環境で体調を崩す人は居るはずだ。雪国出身のクラレンス様からしたらフロリエンスは今後灼熱に感じてしまうかも…。


「そうですわ。クラレンス様。もう少し体力が回復しましたらお買い物に行きましょう」


「買い物…?」


「はい。海の季節用の洋服を買いましょう。ついでにフロリエンスをご案内いたしますわ」


「いや、でも…」


「お金のことなら問題ありません。何分私は公爵家の人間ですので。全て私にお任せ下さい」


うーん、と悩んだ末クラレンス様は私のゴリ押しに負け今度お買い物へ出掛ける約束をしてくれた。


だってずっと我が家に居ても暇だろうし、クラレンス様が見知らぬ土地で肩身の狭い思いをされていると思うと少し可哀想になったのだ。

お父様はお仕事で家に居ることは少ないし、お母様は論外。お兄様も王城だし、残るは私一人。


 リリアンナにクラレンス様が回復したら一緒に買い物をする約束をしたと話すと、何とも言えない顔をされた。


「(旦那様とロレイン様はそっくりだなぁ)ロレイン様、一応クラレンス様はお客様ですのでその辺はもう少し弁えて下さいませ」


「ん?弁えてるけど何か…庇護欲というか母性本能というか…なんかヴァンちゃんに似てる感じがしてね」


リリアンナは私に聞こえるように溜息をついた。

聞こえてますよ〜。


「こちらエミル殿下からのお手紙です」


「げっ…」


「では、私は仕事に戻ります。何かありましたらお呼びください」


 リリアンナから手紙を受け取り、私は恐る恐る中身を開いた。今後のスケジュールを送ると仰っていたけれど…。


「…うっ…またアグリジェントへ行くのかぁ。リアナ様とお会い出来るのは嬉しいけれど、またあの道を辿るの…」


 ヴァンちゃんが私の隣にパタパタと小さな羽を広げながら飛んできた。最近は結構元気になってきたようで怪我も治りつつあり、食欲もある。安心した。

そんなヴァンちゃんの頭を撫でながらスケジュールを確認していく。


「うわ…嘘でしょ?いや、えぇ…」



***



 食事の時間になり私は広間へ足を運んだ。

今日はお父様もお母様もいらっしゃる。

 因みにクラレンス様はまだ指先などには力が入らないため自室でゆっくりと食事を取っている。回復したら私たちと食事を共にする予定だ。


「お父様、お母様。今月末に少しお時間を頂きたいのですが」


「どうしたのロリィ、改まって」


「エミル殿下…というよりはフロリエンス王から夕食会の招待状が届きましたの」


「…そう。私は大丈夫だけれど、貴方は?」


「僕も大丈夫だ。そう返事をしておいてくれ」


「…承知いたしました」


 あぁぁぁ、本当に?夕食会に参加するの?

いやでもうち公爵家だし。そういう機会があってもおかしくは無いのだろうけれど。お父様とフロリエンス王は仲が良いらしいし。


もしかしなくても今後のアグリジェントとの交友についてと、私の職務?について話すんだよね…。


「お父様。私はエミル殿下の婚約者(仮)ということはいつ知ったのですか」


「(仮)?えっと確か…エミル殿下がロリィのお見舞いにいらっしゃったすぐ後にだね」


「そうでしたか…」


「まぁロリィが同意したならいいかと思ってね…寂しいけど」


私同意した覚えなんてないし、何なら視察当日にそのことを知ったのですが。


「精霊騎士が話題になった時点でロリィが関与してしまうことは予想していたしね」


「できるだけ避けたかったのですが、エミル殿下は何かとタイミングが合ってしまいまして」


「ロレイン。貴方は私の娘よ。自信を持って職務を全うしなさい。貴方頭は悪く無いのだから」


お母様…。頭は悪くないけれど日頃の行動を改めろと仰っていらっしゃいますか…?


「とりあえず私とロリィはドレスを選びに行きましょう」


「お母様とお出かけなんて久しぶりですね」


日頃厳しいが、お母様は娘に甘い。

…そして、ドレス選びは壮絶なのだ…。


 二日後。私とお母様は街へ来ていた。

いつもならば我が家に職人を招いてドレスを決めたりするのだが、今回は割と時間が無い。

夕食会は今月末と言っておきながら、実はもう月の半ば。ドレスの調整にも時間がかかるので急がねばならない。時間は有限だ。


「いくつか私に合う紫色のドレスを見繕って。この子にも紫色のドレスを。多めに持ってきて頂戴」


「かしこまりました」


あぁ…始まる…。お母様の悪い癖だわ。


「じゃあ私はこれと、これを頂戴」


「承知いたしました。調整後、お送りさせていただきます」


お母様のご自分のお買い物はいつもすぐ終わる。直感でビビッと来たものを買うらしい。私もそんな感じで選びたいのだが…。


「うん、こっちもいいわ。あ、でもこっちの方が可愛らしいかしら」


「お、お母様…こんなにドレスはいりませんの」


「貴方に似合うのだからしたかないわ。あ、これも着てみて」


「うぅ…」


私の買い物が長い!自分のは十分もしないくせに!

試着って凄く大変なのです…。体力を凄く使うのです…。途中から頭が回らなくなってきますわ…。


私が解放されたのはそれから一時間後だ。


「じゃあ…ドレス三着、洋服五着。それと靴四足、アクセサリーを五つ頂くわ」


「かしこまりました、奥様」


結局頑張って頑張ってどうにかドレスは三着までに絞ってもらった。沢山買って頂いても着るタイミングなんてそんなに多くないもの。いえ、そんなに多くのタイミングなんて来させないわ。

しかし私服まで買って頂いた。これは恐く私が仕事で着る用なのだろう。フォーマルな感じがする。もう疲れすぎてどうでもいいのですが。


「お母様、ありがとうございました」


「いいのよ。これを着てきちんと淑女として振る舞いなさい」


「はい…」


そろそろ私も一人で買いに来たい。と言えばお母様を悲しませてしまうので、お母様の満足が行くまで付き合おうと決めている。親孝行になるかしら。

デビュタントを終えればもう子供の年齢では無いし、きっと一人で選びに来れるだろう…。きっと。


「さて。疲れてきたし、お茶でもして帰ろうかしら」


「本っ当に疲れました。もう、是非そうしましょう」


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