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幻獣使いでも精霊使いでも無い令嬢は平穏に過ごしたいのです!  作者: 豪月 万紘
第一章 公爵令嬢の平穏
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王女のお茶会

 エミル殿下から頂いた葉でリリアンナにお茶を入れてもらい、それをぐっと飲み干す。味は美味しくない。いつも通りだ。


「さぁ、行こうか。戦場へ!」


「勇ましいですね…」


王城へ着いたらもう少しお淑やかにして下さいね、とリリアンナは付け足した。


 今日私はセレリア王女が開催するお茶会へ参加するためフロリエンス王城へと向かった。馬車に乗って、目が覚めた頃には王城前へ到着。


…なんというか、時間をスキップしたように感じて本当にこれからお茶会なのかと若干実感が湧かない。気持ちは悪くないし、いいのかもしれないが…何とも言えない。そもそも寝起きのままセレリア王女にお会いするのはとてつもなく失礼だ。

だが吐き気や目眩でセレリア王女や他の皆様、王室のお医者様に迷惑をかけるくらいならば、と天秤にかけると眠り薬を服用することを選ぶしかないのだ。


馬車から降りる前に髪とドレスをリリアンナに整えてもらう。寝惚けた顔を引き締めるため、頬が赤くならない程度に自分の両手で顔をパチンと叩いた。


 衛兵からセレリア王女の専属メイドへと繋いでもらい、お茶会会場へと案内をしてもらった。今回会場となったのは、フロリエンス王国が誇示する"花"を保管・育成する温室。多種多様な種類は勿論、花の色も豊富らしい。

まさかここに来られるなんて…。

王族だけが利用でき、限られた人間のみが足を踏み入れられる場所だ。お兄様も数える程度だがセレリア王女の付き添いで来たことがあると仰っていた。それはとても美しい場所だと。


「し、心臓が出そうなくらいドキドキしてるんだけど、ど、どうしたらいいの…」


「……大丈夫ですよ。私も緊張してます…」


「大丈夫じゃないじゃない…」


 もう一度リリアンナに髪を直してもらい、深呼吸をする。ここから先足を踏み入れれば私は田舎の令嬢ではなく、フロリエンスを支える公爵令嬢として振る舞わなければならない。

私は意を決して温室へ踏み入れた。


「失礼いたします」


「待っていたわ、ロレイン。遠いところ御足労ありがとう」


「いえ、お招きいただき光栄でございます」


既に他の参加者様がセレリア王女とお茶をしていたようだ。女性が一人と、男性が一人…不思議な組み合わせだ。


「こちら私の文官でラミレス伯爵家のミア・ラミレスとベイリー侯爵家次男のセオドリク・ベイリーよ」


「ミア・ラミレスです。ロレイン様のお話はグヴェン様から聞いておりました。お会いできて光栄です」


「兄が…変なことを仰ってなければ良いのですが」


ラミレス様はお兄様と同じセレリア王女の文官らしい。お兄様よりお若く見えるので恐らく後輩なのだろう。柔らかなピンクの髪にグリーンの瞳が優しい雰囲気を醸し出している。


「私は…未だにここへ呼ばれた意味がよく分からなくて…不相応で申し訳ございません」


「いえ!男性がいらっしゃるお茶会は私初めてですので楽しみです」


「そう仰って頂き安心しました。セオドリク・ベイリーです。通関士をしておりまして、よくフェタリナーツェ公爵様にはお仕事でお世話になっています」


「まぁ、そうでしたか。こちらこそいつもお世話になっております」


私たちは簡単に挨拶を済ませ、席へ着いた。

リリアンナは私の後ろでセレリア王女の侍女と一緒にお茶を準備している。緊張していると先程言っていたが、仕事は完璧にこなしているようだ。


隣に座るベイリー様は落ち着かないのか深い青色の瞳をおどおどと揺らしていた。グレーの髪は少しお父様やお兄様と似ていて心做しか彼に安堵するのだが、彼の緊張が何となく伝わってきて私の緊張感が増す。


しかし、セレリア王女は何故この二人をお呼びしたのだろう。文官とお茶を飲む、というのはあるのかもしれないが、通関士のベイリー様は関わりも少なさそうなのに。

ベイリー様も男性お一人で心細そうだ。何しろ普通のご令嬢のお茶会ならまだしも、王女主催で公爵令嬢の私まで居たら肩身が狭そうだ。


「ミアとお茶会を始めようとした時に、丁度セオドリクが目に入って。仕事が一息着いたと耳にしたからそのままここへ参加してもらったの」


「そうだったのですね」


顔に出ていたのか、セレリア王女は私にそう話した。

丁度リリアンナがお茶を用意してくれたので、リリアンナに耳打ちをし、私は持ってきたお菓子を披露した。


「フロリエンスで最近人気のパテシエが作成したシフォンケーキをお持ちいたしました。皆様のお口に合えば良いのですが…」


「可愛らしいですね」


ラミレス様は以前お茶会をした時のキャメル様と同じく目を輝かせていた。私が今回持ち寄ったのもお茶会でカリーナ様が用意してくださった食べられるお花が乗った美しいシフォンケーキ。お店でも買えるとその時教えてもらったので早速利用させてもらった。


「この花は食べられるのかしら?」


「はい、セレリア王女。私のお友達のお家が開発されたようでして。以前いただいたことがあるんです。甘くて美味していですよ」


セレリア王女がそっとフォークでケーキを切ると、興味深そうに眺めてから口へ運んだ。


「…!美味しい」


「本当ですね!セレリア王女やご令嬢が食べているのはとても絵になりますが、私が食べていると違和感ですね」


「セオドリク様も可愛らしいですよ」


ベイリー様はラミレス様に可愛らしいと言われて、少し悲しそうに笑った。

男性はあまり甘いお菓子を食べる機会が少ないのもそうだが、やはり見た目が可愛らしすぎるとなると余計に躊躇うのだろう。


「あ、グヴェンは今日仕事で王宮にいるけれど、ミアの仕事を押し付けてきてしまったから今日は会えないかもしれないわ」


「皆様とお茶会をするためですから。兄も犠牲になれて本望でしょう」


「ふふっ。フェタリナーツェ公女様はグヴェン様の妹ですね」


よく似ていますと、ラミレス様に笑われてしまった。ベイリー様もうんうん、と頷いている。

そうか、お兄様はフェタリナーツェ家の次期当主でもあるからベイリー様とご面識があるのね。でも今のどこがお兄様に似ているのか分からないわ…。


それからミア様からはお兄様のこと、セオドリク様からは国内外の流行や情勢など色々な話をして頂いた。途中からお互いに名前で呼び合うようになったのは、家名はよそよそしく感じたためだ。あとはフェタリナーツェが言い難いから。


「では、私たちはそろそろ仕事に戻らせて頂きます」


「楽しい一時をご一緒できて光栄でした」


「はい。ミア様、セオドリク様。本日はありがとうございました」


 あっという間に一時間は経っていて。短い時間ではあったが、随分二人と仲良くなれた気がする。歳や身分は違うけれど、いつものお茶会とは違いとても新鮮だった。


お母様が私が何かやらかすかと思って(私もそう思うが)あまり交流を広げてこなかった。でも社交界デビュー後はもう少し視野を広げても良いかもしれない。

比例して面倒事も増えそうだけれど。


というか、あの二人が居なくなったら…セレリア王女と二人っきりですね…。


「あら、今更緊張しなくていいのよ」


「い、いえ、緊張など…」


流石に王女と一対一は緊張する。

以前バースデーパーティーでお会いした時は泣きそうになったけれど、今は視察やエミル殿下のお陰で緊張程度に収まるようになった。


エミル殿下と二人の時は最初こそ緊張したけれど今は全く緊張しなくなってしまったのは少し自重しよう。しかし脅かしたり、薬盛られたり、寝顔見られたりなんてしてるのだから致し方ないと思う。


「そういえば、バレッタ。付けてきてくれたのね。やっぱり似合ってるわ」


「ありがとう存じます、大切に使わせいただいております」


今日は誕生日に頂いたバレッタをしてきた。と言っても移動中は馬車で寝ていたので、馬車を降りる寸前に付けてもらった。


「あの日は突然訪問して悪かったわ」


「…失礼ですが、何故我が家のような辺境地へ?私などお呼びとあらば、すぐこちらへ赴きますのに」


 私はずっと疑問に思っていたことを恐る恐る尋ねてみた。危険を犯してまで来るなんて。王族が襲われ命を落とすなんて万が一の事があっては困る。

それに私としても突然王族が来られる恐怖はもう味わいたくないので、出来れば呼んで欲しい。事前告知、大事。


セレリア王女は飲んでいたカップをそっと手元へ置いた。


「…私、来月から他国へ花嫁修業をしに行くの」


「そうなのですか!?…失礼いたしました…」


「いいのよ。まだこれは非公開だしね。驚いて当然だわ。隣国のリッターオルデンの第一王子の元へ嫁ぐの。幼い頃から決められていたことよ」


「そうでしたか…」


18で婚姻が可能となるのだが、他国へ嫁ぐとなるとその国の帝王学や式たりなどを身につけるため婚姻の一年前から花嫁修業の期間を設けることになっている。どの国もそうだ。

セレリア王女は今年で17になるので、その対象になるそう。花嫁修業期間からはもうリッターオルデンへ嫁いだ身と見なされるため緊急時以外は殆ど自国へ戻れることは無い。


寂しそうな表情をするセレリア王女になんと言葉をかければ良いか分からない。恐らく政治的な政略結婚だ。

アグリジェントでお会いしたエリアーヌ王女は幸せそうだったけれど、彼女も政略結婚のはず。エリアーヌ王女を見ていれば政略結婚にも少しは前向きになれると思うのだが…。


「私、幼い頃からずっとグヴェンが好きだったの」


「ゴホゴホッ、お兄様をですか!?」


動揺が激しい。お兄様何していらっしゃるの。王女様をお射止めしたなんて。

確かお兄様がセレリア王女の文官になったのがお兄様が15の時で…セレリア様が11歳のころかしら…。お兄様が王宮へ召し上げられたのが10歳の時だから…セレリア王女が6歳のときにはもう出会っていたのか。


「ですがお兄様には…」


「えぇ。婚約者が居るのも、その方にしか目がないのも知っていたわ」


恋、というものはまだ私にはよく分からないけれど、きっととても辛い思いをしてきたに違いない。好きな人に好きな人がいるだなんて。

先程の悲しげな表情は政略結婚が嫌な訳ではなく、好きな人がいる、という理由だったみたいだ。


「結婚前に、好きな人の生まれ育った場所へ行ってみたかったのよ。でも全然ここから抜け出せなくて。ロレインのバースデーパーティーがあると聞いてそれを理由に行かせてもらったの」


「そうでしたか…。何もお見せできるような場所もなくて申し訳ないです」


「いいえ。フェタリナーツェ公爵夫妻と貴方に会えて良かったわ。二人が外で話していたのも実は上から見ていたの」


「そうでしたか…お恥ずかしい…」


会話は恐らく聞こえてないだろうけれど、見られていたとは。久々にお兄様に会えて嬉しかったから少しはしゃいでしまったと思う。見られているとは思わなかったから…。


「その時貴方が羨ましいと、ちょっと思ったわ。グヴェンの妹になりたい訳ではないけど。エミルや色んな人に迷惑を掛けてしまったけれど、あの時の行動に悔いは無いの」


「私たちは迷惑だとは思っていませんわ。事情もお話して下さりありがとうございます」


「そう言ってくれると嬉しいわ。私が嫁いだらきっと、グヴェンも婚約者にプロポーズするだろうし。グヴェンったら私が結婚するまで自分も結婚はしないって言っていたのよ?その間に想い人が誰かに取られてしまうのではないの?と言ったら"その心配はございません"って自信満々に言ったの」


クスクスと笑うセレリア王女は自分の中で踏ん切りがついているようだった。

セレリア王女は我儘で自由人で、意思がはっきりした強かな女性だと前まで思っていたけれど、目の前に今居るのは恋をした一人の女性だ。


「セレリア王女に好かれるなんて、お兄様は幸せ者ですね」


「逆ね、私の方が沢山、色々してきてもらったから。だから、私はグヴェンに幸せになって欲しいのよ」


「では、お兄様には頑張ってもらわないとですね」


セレリア王女とはそんなに年が離れている訳では無いのに、大人びて見えた。私にもそんな風に思えるような相手に出逢えるのだろうか。

恋をして女性は美しくなると聞いたことがあるけれど、きっとこういうことなのだろう。


「…そろそろかしら」


「?」


 恋話?が終わると、タイミングを見計らったようにエミル殿下とウィル様が顔を出した。

私は立ち上がり、ご挨拶をする。


「エミル殿下、お久しぶりでございます」


「久しぶり。お茶会は楽しめた?」


「はい。とても楽しい一時を過ごさせていただきました」


エミル殿下がさりげなくお茶会の席へ着席するのを見て、セレリア王女が入れ違うように立ち上がった。


「では、私はこれで失礼するわ。ロレイン、今日は楽しかったわ。エミルのことをよろしくね」


「はい。本日はお招きいただきありがとうございました」


私はセレリア王女にお辞儀をした。

セレリア王女は優しそうな笑みを私に向けた後、セレリア王女がエミル殿下へ耳打ちをする。何を言われたのかは知らないが、エミル殿下はセレリア王女へ「はい」と言い微笑んだ。それに対しセレリア王女は「食えない弟ね」と言い残し温室を後にした。


「お二人は仲がよろしいのですね」


「焼きもちかい?ロレイン」


「違いますよ」


「エミルをよろしくって姉上に言われた時、"はい。"と返してたではありませんか」


退席なされると仰ったセレリア王女への返答の意味で”はい”と答えたのだ。決してエミル殿下を頼まれた訳では無い。私は視察時婚約者のフリをしただけであって、従者でも婚約者でもない間柄だ。友人など恐れ多い。

それにこの人は私の反応を楽しみたいだけだろう。

リリアンナが私の空いたカップに紅茶を注ぎ、私はそれを口にした。


「姉様、結構楽しみになさってたんだ。紅茶の好みもウィルに聞いて。ウィルは姉様の侍女に入れ方を教えたりしてたんだ」


「どおりで。紅茶、とても美味しかったとお伝え頂けますか」


「任せて」


セレリア王女…何も言っていなかったけれど、楽しみになさっててくれたんだ。お茶会前日は憂鬱で、あまり乗り気ではなかったけれど来てよかった。恋話までしていただけるとは思わなかったけれど。


「そういえば視察の件、上手くお話が纏まったようですね」


「あぁ。その件はまた別途話そうと思っていたけど、まぁいいか」


 ウィル様がエミル殿下のお茶を用意されてから、殿下は陛下への視察報告について話し始めた。

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