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幻獣使いでも精霊使いでも無い令嬢は平穏に過ごしたいのです!  作者: 豪月 万紘
第一章 公爵令嬢の平穏
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平穏は一瞬

クラレンス様がノヴェイル王国出身だと知ったお母様はやっとお父様と口を利くようになった。ノヴェイル王国であれば他国のような貴族社会はないし、彼に何があったかは分からないが差程面倒ごとにはならないだろうとお母様から暫く家に滞在することを許るされた。

因みに私がクラレンス様を突き飛ばした件についてお母様は知らない…。


「ソフィア様も大分落ち着かれたようですね」


「スワンがお母様のお話を聞いてくれたのと、お客様の出身地を知れたお陰でね。迷惑をかけてしまったわ。ごめんなさい」


視察から帰り、1日の休息を経て今日はスワンの授業。私のお部屋に来る途中、ご機嫌なお母様とばったりお会いしたそうだ。私には「貴族たるもの感情は表に出してはなりません」と仰ていたことをきっとお母様はお忘れなのだろう。


家全体に走っていたピリピリとした雰囲気も取り払われ、すっかり以前に戻っていた。使用人たちもやっとストレス環境から解放されたというのが分かりやすく、気がついているのか分からないが皆いつもよりも楽しそうだ。


「アグリジェントは如何でしたか」


「(やっぱりそのお話はするわよね)」


スワンには視察について話していない。私が「社会経験のため隣国のアグリジェント王国へ旅行しに行くからその間授業をお休みさせて欲しい」と伝えたのだ。


視察の件は、フェタリナーツェ家と王族のみが関与した特別な案件であり、普通なら未成年の、しかも側近や婚約者でもない私が殿下の視察に同行すること自体がおかしいものであるからだ。しかしそれを知らないスワンは目を輝かせて私が口を開くのを待っている。


とりあえず私はアグリジェント王国の多国家な部分や自由さに感動したことを伝えた。殆どをお城で過ごしたため観光は出来なかったが、次に訪れることがあれば街を歩いて色んな所を見て回りたいと思う。その時にお父様やお母様とご一緒出来たら楽しいのだろうけれど。


「国民や料理もだけれど建物も素敵だったわ。他国に足を向けるのも悪くないわね。移動の時の酔いさえ無ければだけれど」


スワンは自分の娘を見るかのように優しく微笑んだ。


「お嬢様が他国に目を向けられるのが嬉しいのです。私もアグリジェントには何度か足を運びましたがあの国だけで他の国をも旅した気分になります」


「私もそう思ったの。お料理も色んな国の特産物が使われていたわ」


「多くを体験するというのは知識を得るのと同等かそれ以上に大切です。その経験から学べることは大きいですから。…しかし知識がなければ出来ないこともありますので本日も頑張っていきましょう」


「はい、スワン先生」



お昼を挟み、午後もスワンの授業を受け、帰路につく彼女を見届けてから私は森へと向かった。暫く留守にしていたカティが昨日帰ってきたと風の精霊から聞いたからだ。ヴァンちゃんを預かって欲しいと言っておきながら自分はほぼ1週間姿をくらますなんて。


「カティ、居るんでしょ?出てきて」


私が呼びかけると、近くの木がふわりと光を帯びた。そこからカティがひょっこり姿を表す。


『ロレイン、少し怒っているのかしら』


「そりゃそうよ!風の精霊が居なければ何をどうしたらいいのか分からなかったのだから」


『貴方なら大丈夫だと思ったのよ。あの子のこと調べに出かけていたの』


信頼されているのだと少々喜びを感じてしまったが、私は表情をグッと抑えた。


「それで?情報は得られたの?」


『収穫ゼロよ。何も分からなかったの』


1週間。風の精霊や木の精霊、妖精に植物。様々な情報手段を駆使して調査していたそうだが、何一つ情報を得られなかったそうだ。


「そもそもヴァンちゃんと何処で出会ったの?」


『あの子にそんな悲惨な名前を貴方は付けたの?壊滅的にセンスが無いことに同情するわ。あの子と出会ったのは海辺の近くよ』


「ヴァンちゃん!可愛い名前じゃない!というか、ドライアドが海辺に訪れるのが違和感でしかないわ」


『色々と事情があるのよ。それであの子があまりにも酷い怪我をしていたから連れて帰ったの』


話を聞く限り、どうすれば良いのか分からなかったのはカティも同じだったようだ。とりあえず私に預けるのならば感染症は避けなければとその対応はしたらしい。


「動物の種類はコウモリとイモリやヤモリ系の爬虫類との雑種なのかと思っていたわ」


『もし仮にそうだとすれば創ったのは人間ね』


「遺伝子配合…最近はペットを買う貴族が増えきたものね。可能性はあるけれど、そこまでの技術が今この世界にあるのかしら」


『分からないわ。それか魔術の研究対象とかね』


魔術についてはよく分からない。魔法というのはどのように使うのか、用いられているのか。それはノヴェイル出身のものに尋ねるしかない。

まだ医学がそれほど発達していない現状で遺伝子融合の可能性は低い。神によって作られたこの世界で人間が新たな種族を生み出すなんて恐れ多い話したが。そもそも遺伝子については仮想論でしか聞いたことがないし。そうなると魔術による生物融合の可能性が高い。

と、いうのが私の見解だ。


『少し疲れたわね…』


私もカティも頭を働かせたお陰で疲れてしまった。とりあえずお茶を一口飲んだ。


「憶測で話しをしても答えが出るわけじゃない。これから少しずつ調べていきましょう」


一番近いノヴェイル出身はクラレンス様ね。

お客様にお尋ねして良いお話かは分からないけれど。…まぁ、突き飛ばしてしまった無礼もあるし今更ね…。


『そうね。分かるまであの子のことはロレインに任せるわ』


「そう言うと思っていたわ。私もヴァンちゃんと一緒に居たいから問題無いわ」


『その名前、変更は可能かしら』


「不可能よ」


カティは残念そうに、または憐れむような眼差しを私へ向けた。難しい話を終えるとお茶とお菓子の香りに誘われ妖精や動物たちが集まってきた。先程まで姿を表さなかったのに何故だろう…と思っているとカティが私に片目を瞑って何やら合図してきた。なるほど、カティが誰も近づかないようにしていたわけか。どうやら知らぬ間に結界のようなものを張っていたらしい。抜け目ないな。


『お話終わった?』


「終わったよ〜、今日もお菓子持ってきたから食べようね」


私は皆にお菓子を配ると一旦その場にゴロンと横になった。風が気持ちいい。片手を伸ばしクッキーを手に取ると横になりながら私は一口齧った。お行儀が悪いと言われても今は一人の少女として過ごす時間だもの。こうしてぼーっと過ごす時間が一番大切なんだと私は思っている。しかしクッキーを喉に詰まらせたためすぐに座り直した。


もうすぐ汗ばむ季節がやってくる。

ここは森が近いからそこまで暑くはならないのだが、流石に外でお茶会は厳しい。


「はぁ…貴方たちに会えないと私息が詰まりそうだわ」


『ロレインまたお外に出られない季節だもんね』


『人間は弱いから大変』


「貴方たちだって雪の季節にはほとんど姿を見せないじゃない」


『僕たちも雪の季節は忙しいんだ』


フロリエンスは雪の季節でも暖かな陽気がつづく。反対に海の季節は太陽の照りつける光がジリジリと肌を焼くほど暑い。といってもメアマーレほどではないけれど。

そんな暖かな雪の季節でも彼らは姿を表さない。何でも次の季節の準備があるかららしい。


「何をしてるかは毎回お話してくれないのよね」


『秘密なの』


口に指を当てシーっと言う姿はずるいだろう。可愛い。

草花の上で空を見ながら、うつらうつらしているとリリアンナの可愛らしい声が遠くから聞こえ始めた。私のいる場所は分かっているけど、妖精や動物たちを驚かせないように声を発しながら少しずつこちらへと近づくようにしているらしい。彼女の優しさだ。


海の季節に移り始めたことにより日が落ちるのが段々と遅くなってきたが、いつもリリアンナが迎えに来る(探しに来る)時間は同じだ。


「ロレイン様、護衛は…」


「もうそんな時間なのね」


私が服に付いた草を叩くと、リリアンナは不服そうな顔をした。また護衛も付けずにしかも地面へ横になったのかと。それを洗濯する身にもなれとも言っているように見える。


「コホン。それから、エミル殿下よりお手紙が届いております」


「はぁ…また厄介なことに巻き込まれなければ良いのだけれど…」


「そうですね。…あと、髪にも草が付いております」


私は慌てて髪から草を取った。えへへと微笑むとリリアンナは溜息をついた。


自室へ戻ると、リリアンナが言っていたエミル殿下からの手紙が机へ置かれていた。

あまり読みたくは無いけれど、致し方ない。

リリアンナに開封してもらい、手紙を読んでもらった。



***




拝啓

ロレイン・フェタリナーツェ様


だんだんと暖かくなり始めたこの頃ですが、お加減いかがでしょうか。

先日はアグリジェントへの視察を同行してくれてありがとう。君を送り届けることが出来ず申し訳ない。僕が先に出発したせいでお茶を飲まずに帰路につかせてしまったが、大丈夫だっただろうか。近衛兵たちからは話を聞いた限り、やはり君にはこれが必要だと思ってお茶の葉を送らせていただいた。

恐らくまた使うことになるだろうからね。


ということで別途招待状を送った。

また王城で会おう。


フロリエンス王国 第二王子

エミル・フロリエンス




「ちょ、ちょっと待って。リリアンナ。これはどういうこと」


「お手紙にありましたお茶の葉はこちらで、招待状はこちらになります」


手紙にはやはり面倒事になりそうな内容が書かれていた。送られてきたお茶の葉は眠り薬だし。普通令嬢に眠り薬を送る?しかもそれを使って王城に来いって?


「招待状の内容も確認しないと…」


私は頭を抱えながらもう1通届いた招待状を確認し、"お茶会へのご招待"と書かれた手紙を私はそっと閉じた。


「行かないわよ…なんでまた私が…」


「ロレイン様諦めてください。殿下からのお誘いを断るなんて無理ですよ」


「嫌よ、これリリアンナにあげる」


私は渡された手紙をリリアンナへ突き返した。

リリアンナは溜息をついてもう一度手紙に目を通している。

婚約者のフリまでして他国へ足を赴けただけで充分でしょう。これ以上王族と関わるとろくなことがない。


「私に渡されても…あ、ロレイン様これ最後まで読んでないですね?差出人はセレリア王女ですよ」


「セレリア王女から?え…ということはセレリア王女主催のお茶会にお呼ばれされたってこと…?…む、無理無理無理」


「良い経験になるのではないのですか」


「無理よ!だって私はまだ社交界デビューもしてないのにそんな、カースト上位のお茶会になんて…」


粗相のないようにと気を付けても、お姉様方に不愉快な思いをさせてしまえば社交界デビュー前に嫌な噂を流されそうで怖い。

セレリア王女はどのようなおつもりで私を招待したのだろうか。セレリア王女の文官であるお兄様に話が通ってない訳がないのに。


「私今から体調を崩そうかしら」


「ダメですよ。グヴェン様の御立場もお考え下さい」


「だからよ!私は行かない方がお兄様のためになると思うの」


それから2週間後。私はエミル殿下から頂いたお茶を飲み、セレリア王女のお茶会へと足を向けるのであった。

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