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幻獣使いでも精霊使いでも無い令嬢は平穏に過ごしたいのです!  作者: 豪月 万紘
第一章 公爵令嬢の平穏
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実証実験

ローガンは精霊騎士二人に準備を始めるよう伝えた。当たり前に仕切るローガンに言われるがまま二人は準備を始め、リオはこの状況に「イザイア殿下、いいのですか」と殿下に伺っていたが、イザイア殿下は「もう好きにやらせろ」と近くの椅子に腰掛けた。

色々と話してはいたが、本当の意味でやっと視察が始められそうだ。これから始まるのはウェルス様、メイソン様でリオの研究を実験実証するというもの。お二人は再三その実験に付き合わされたらしい。


「どうぞこちらに。何かあれば私めが直ぐに対処いたしますので」


逞しいのか、なんなのか。ローガンに促され私とエミル殿下は練習場へと降りた。準備が整った二人はどこからか集めた薪に火をつける。パチパチと燃え始める木々は煙を上げながら小さな炎を宿した。


「この研究は"人が"精霊"を扱うことは可能であるのか"という精霊騎士団設立の目的として核心的部分を追求するためです。…お二人は"妖精"と"精霊"の大まかな区別はご存知でしょうか?」


リオはいつの間にか私の横に立ち、準備をする二人を見ていた。炎が徐々に大きくなるにつれ、その周りには赤い服を纏った"妖精"が集まり始める。"火の妖精"たちだろう。


「はい、存じております。"妖精"は今私たちが見えている…実態を持つもののこと。"精霊"は実態を有さないもののことですよね」


「はい、ロレイン様の仰る通りでございます。"妖精"が見えるということと"精霊"を扱うことについて因果関係は無さそうですが"妖精"、つまりは実態を持つ"精霊"を見ることが出来る非魔力保持者方にその可能性がないとは言いきれないと思いましてこの実験を始めました。"妖精"が見える非魔力保持者は殆どおりませんので、何らかの遺伝子、能力が備わっていることは間違いないでしょう」


「始まります」というローガンの声で私は視線をリオから二人へと戻した。先程よりも炎は大きくなり、近くにはメイソン様と"妖精"の姿があった。仰っていた通り…"妖精"はメイソン様に萎縮しているみたいだ。だが彼が気になるようで少しずつ距離を縮めている。

すると途端にメイソン様の身体は赤いベールのようなもので覆われた。次の瞬間目の前の炎は空を上り、丸く円を描いく。だがその炎の円は直ぐに消えてしまった。


「まだこれくらいしか出来ないのですが…」


「いえ、十分実証出来ていますよ」


すごい…"精霊"の力であんなことも出来るのか。

初めて見た光景に私はワクワクが止まらなかった。


「ウェルス様は…何やら目を瞑っておられますが…」


またこの人は眠っているのではないかと私はリオに訊ねた。その質問にリオは首を横に振り、ウェルス様は今集中しているのだと答えた。

少し待つとウェルス様の周囲にもメイソン様同様"妖精"が集まり始める。ウェルス様の場合は水色の"妖精"だった。水色のベールで身体を包まれると、身体が徐々に上昇し始め数十センチ身体を浮かせ、一分程浮遊していた。そのベールが消えるとそこから落下し、慌ててウェルス様が着地する。


「全く、これがあるからやりたくないんですよ」


ブツブツとウェルス様は文句を仰っていたが空中浮遊なんて…心がくすぐられる。


「お二人とも素晴らしいです」


「初めは何が何だか分からなかったんですけれどね」


メイソン様は照れたように頭の後ろに手を置きながら微笑んだ。


「"妖精"の色は種別ごとに違うのですね」


「そうみたいです。私も二人の実験を行うまでは知りませんでした」


エミル殿下の仰る通り、"妖精"にも種族がある。私はカティから聞いていたから知っていたけれどね!しかし"火の妖精"と…ウェルス様は"空の妖精"かしら?あと昨日出会った"水の妖精"は今回初めて出会った。それぞれ赤、水色、青と種別によって色が分かれているらしい。

まだ他にも聞きたいことが多かったのだが、実証実験が終了した今、立ち話はなんだしということで一旦練習場から客間へ移動することとなった。



客間には既にリアナ様も居らっしゃり、お茶とお菓子が用意されていた。今回はイザイア殿下、ローガン、リオ、エミル殿下、私とでお茶をしながら話すらしい。


「エミル殿下、フェタリナーツェ様。お二人共実証実験は如何でしたか?」


ローガンが先陣を切って話し始める。今思うとこのメンツでローガンが居なかったらと思うと…絶対気まづかっただろう…。エミル殿下が頑張ってお話をするという想像しかつかない。イザイア殿下もリアナ様もお話を好む方では無いという印象だからだ。


「"妖精"が見える人間がいるということ、その人間が"精霊"を扱えるということを目にして…とても意義のある視察が出来たと感じました

幾つか気になることもあります」


「…失礼ながらエミル殿下。先程お話して気がついたのですが…エミル殿下も"妖精"が見えますよね」


リオがエミル殿下との会話で気になっていたことを訊ねた。そういえば"妖精"の色が…とか話していらっしゃった。私は見えることを知っているので何も疑問には思わなかったがリオはそれが引っかかっていたようだ。


「はい。なので私はこの視察を心待ちにしておりました」


「…フェタリナーツェ、君も見えるな?」


イザイア殿下の言葉に肩を揺らした。隣に座るエミル殿下を横目で見ると、殿下がコクリと首を縦に揺す。それを確認した私は「はい」とイザイア殿下に返答した。

イザイア殿下は次の言葉を発そうとしたのか口を開けたが、すぐに口を噤んだ。イザイア殿下にバレるような行動はしていないはずなのだが…。


「コホン。君はリオに何か聞きたいことはあるか?」


「ご配慮痛み入ります。では…"妖精"には様々な種族が存在すると思うのですが、実証実験を見る限り対象となる人間…つまり扱う"精霊"は人間によって適性があるのでしょうか」


「そうですね、ウェルスやメイソンがまだ未熟なためそこは断言できませんが、恐らく適性はあるでしょう。エミル殿下とフェタリナーツェ様はどの種族が一番身近に感じますか」


リオの質問に殿下は「私は"水の妖精"ですね」と答えた。初耳です!と言わんばかりに視線を向けると、その視線に気付かないふりをする殿下。


「…私は"風の妖精"ですわ」


「ふむ…やはり適性検査を出来るようにはしたいな…」


顎に指を当てるリオは頭の中で何やら考えているようだ。

エミル殿下…私のことは色々と知っていそうなのに自分のことは全く話さない。知りたい訳では無いが視察に来た以上、"水の妖精"については話してくれても良かったのではないかと心がモヤつく。


「…なるほどな。二人が"妖精"が見えるなら話は早い」


イザイア殿下がニヤリと口角を上げた。笑顔を作りなれていないのか、とても怪しげに見える。それに気がついたローガンがコホンと咳払いをし、話を続ける。


「他にも何かございますか?」


「そうですね…魔力保持者が"妖精"が見えるにも関わらず、彼らの力を借りることが出来ないのは何故なのでしょう」


エミル殿下の質問に待ってました、とローガンが顔を輝かせた。


「それはですね!ざっくり言うと合わないんです」


「というと?」


「魔力保持者は体内に自身の魔力を持っています。

"妖精"や"精霊"は超自然エネルギーで、自然界の力を扱います。自然界という外部エネルギーと同調し、使用するのが今回の実証実験の場合です。

基本魔力である体内の内部エネルギーと自然界の外部エネルギーは混ざり会うことはなく、お互いに反発してしまうのです。

魔力保持者が魔力を放出する際、"妖精"や"精霊"は吹き飛ばされてしまうので彼らは普段自ら魔力保持者に近づくことはありません」


魔力保持者は見えるだけで彼らを扱えないこととその理由…だから実験は非魔力保持者である精霊騎士の二人が選ばれたのかと納得がいった。


「魔力保持者は自身の魔力に限界はありますが、"妖精"や"精霊"には限界はありません。

水が近くにある限り、風が存在する限り彼らは力を振るうことが出来るのです」


「そうなのですね…だから先程火を用意されていたのですね」


「はい、今後はこの作業無しでどうにか出来れば良いのですが…今のところは難しいですね。まずは彼らと同調することに慣れなければ」


ローガンとリオの息ぴったりの説明でとても分かりやすかった。流石親戚だ。

精霊騎士団が設立されてから他国の視察は今回が初めてだという。フロリエンス以外の国では"戯言"などと言って相手にされていないらしい。リアナ様の予言は共有しているのだが、それにも不信感を抱いているそうだ。人間見えないものを信じろというのが難しい話。

しかしその話を唯一疑いなく視察を申し込んだのがフロリエンス王国だ。しかも第二王子と婚約者が"妖精"の見える能力持ちときた。アグリジェントにとって重要な協力国家であることは間違いない。


「それで、だ。フロリエンス王国のエミル殿下よ。君たちに頼みがある」


「残念ながらイザイア殿下。私どもは視察を行いにアグリジェントへ赴いただけ。お話は持ち帰ることは可能でありますがここで直ぐにお返事することは不可能でござます」


「…分かっている。私が頼みたいのは、この実証実験に君たちも参加して欲しいというところだ」


「そのお話も持ち帰らせていただきます」


「…良い返事を待っている」


イザイア殿下とエミル殿下の間でバチバチとした火花が見える気がする…。恐らくこの件に関して取引云々が出てくるのだろうが、国同士のいざこざに関与するのは勘弁だ。取引が破綻しようが何だろうが、私はなるべくなら実証実験には参加したくない。これでは王族との接触が増えてしまう。

平和な日常からどんどん離れていくのは嫌だ。そうと言ってもリアナ様の予言を無視することは出来ない。うーん。


「エミル殿下、ロレイン様。そろそろお時間です」


そっとウィル様が私たちに耳打ちをした。


「イザイア殿下、今回はとても有意義な視察をさせていただきありがとうございました」


「いや、こちらもフロリエンスには感謝している。また近々会えるのを楽しみにしている」


「…では、また」


アグリジェントを発つ時間が迫り、私たちはお茶会をお開きにすることとなった。リリアンナやウィル様は私たちが視察をしている間帰り支度をしていたらしい。私たちの準備が整い次第出発する。今日も途中の別荘で一泊し、フロリエンスへと帰る予定だ。

その前に…またアグリジェント王への挨拶だ。エミル殿下と私は謁見の間へと向かい、豪華な扉の前で待機している。


「もう流石にこれだけ王族と関われば緊張も減ったでしょ」


「はい…ほんの少しですが、最初よりは減りました」


そっと私に近づくと小さな声で「またの機会もよろしくね」とエミル殿下は囁いた。

それを断れるわけがないのに…はぁ、と溜め息が出そうなのを抑え、開いた扉の先へと足を進めた。


アグリジェント王へのご挨拶を済ませると馬車の用意が整っており、私たちはご挨拶したその足でそのまま馬車へと向かった。

イザイア殿下とリアナ様、ローガン、リオが私たちを見送りに馬車の前まで出向いて下さった。シルヴァーノ殿下とエリアーヌ王女は本日執務のため王城を空けており、昨日ご挨拶を済ませた。エリアーヌ様は久々に家族と会えたことが本当に嬉しかったようで、若干ホームシックになった、と仰っていた。


「リアナ様、この度はありがとうございました。リアナ様とお話が出来たこと、とても光栄でございます。楽しい時間はあっという間でした」


「ロレイン様…短い時間ではありましたが、私も楽しかったです。遠いところ御足労いただきありがとうございました。恐らくまた直ぐにお会いすることになりそうですから、その時はまたよろしくお願いいたします」


また…直ぐに会う…。それを聞いて私は自分の顔が引きつっていないか心配になった。リアナ様とお話するのが嫌という訳ではないので、そこは勘違いしないでほしい。私は普通の貴族で居たいのだ。普通の貴族はまた直ぐに王族と会う機会などない。


「…はい、では失礼致します」


私は来る時と同じく、エミル殿下に手をお借りし、フロリエンス王国の紋章が入った馬車へと乗り込んだ。馬車が走り出し皆様の姿が見えなくなってから、私はやっと開放感と脱力感を得た。しかしエミル殿下の手前、公爵令嬢としての振る舞いを忘れてはならず疲れは溜まって行く一方だった。これは酷く酔いそうだ。


「…」


「ロレイン、お疲れの様子だね。これを飲むといいよ、気分が安らぐ」


「…これって…」


アグリジェントへ向かう時に飲んだ睡眠薬入のお茶なのでは…?その確信しかないカップを渡され、私は…コクコクと渡されたお茶を飲みきった。まさか素直に飲むと思わなかったのか、エミル殿下は驚いている表情だった。これも私の吐き気のせいで行きと同様殿下にご迷惑をお掛けしないためだ。


「…ありがとう存じます」


「…ふふっ、君は面白いねロレイン」


「そんなことございませんわ」


「じゃあ、おやすみ。ゆっくり眠るといい」


「やはりそうなのですね…。本来殿下の前で…男性の前で眠る訳には参りませんが、今回は大目に見ていただけると幸いです」


「婚約者なのだし、気にしないでいいよ」


「婚約者のフリは終わりましたけれど」なんて言い返す気力もなく、私は暫くして馬車の中で意識を手放した。


目が覚める頃には日が落ちていた。

リリアンナに起こされ、私は重い身体を起こし別荘へと向かった。用意された部屋に入ると私はソファーに寝転んだ。お行儀が悪いとリリアンナに注意されたがもう疲労で指一本動かせる気がしない。


「リリアンナ…ヴァンちゃんは…?」


「こちらです」


「ヴァンちゃぁぁん」


久々のヴァンちゃんに私は泣きつく。

可愛い。ほんと疲れたよ。

ペットホテルとやらからリリアンナがアグリジェントを経つ前にヴァンちゃんを迎えに行ってくれた。ペットホテルでも静かに眠っていたそうだ。今思えばコウモリと似た種類のよく分からない動物も預かってくれるなんて。アグリジェント王国ならでわなのかもしれない。

私の激しいボディタッチでヴァンちゃんは少し目を開けると、私を見てまた眠りに落ちた。…迷惑そうな顔をしていた気がするのだが?


元気になったら外で一緒に遊べるかしら。

そうなると…カティの元に返さなければならないのか…。


「でも、やっぱり早く元気になってほしいな」


ヴァンちゃんを小さな頭を指で撫でる。このまま一緒に寝てしまおうか。


「ロレイン様、お疲れのところ申し訳ございませんが、本日は無事に視察を終えたということでエミル殿下がご夕食を共にしたいとのことです」


「…はぁ。分かったわ。あとひと踏ん張り…頑張りましょう」


私はソファーから立ち上がり、夕食へ向かうための支度を始めた。

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