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幻獣使いでも精霊使いでも無い令嬢は平穏に過ごしたいのです!  作者: 豪月 万紘
第一章 公爵令嬢の平穏
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精霊騎士団

 懇親会と言えど、言ってしまえば普通の会食。

お互いを知るために自己紹介をしたり、趣味や得意なことなど軽くスピーチをしながら夕食を取った。


 エミル殿下も私と似たような色のお召し物で、紫色のスカーフをポケットに入れフロリエンスを象徴していた。殿下は私のドレスに合わせて衣装を持ってきてくれたらしい。それを知った時、最初から私を婚約者として連れて行く気満々だったのかと頭を抱えた。


 着席した長テーブルにはゾロっと王族が並んでおり、私は食事の際お皿の音を鳴らさないようにするので手一杯だった。


 上座にはアグリジェント王、正面には側室の女性がお二人。第一側室のカミラ様と第二側室フレイア様がいらっしゃる。

正妃様は何年も前にお亡くなりになられているそうで、今はイザイア殿下のお母様であるカミラ様が女性の中で一番位が高くなったらしい。長く美しい黒髪は凛とした顔立ちにとても似合っているがそれが逆に冷たい印象を受けた。反対にフレイア様は誰にでも陽気にお話をして下さる自由な方という印象だ。


普通ならば側室のカミラ様が正妃の座に着くと思われたのだが、アグリジェント王は正妃様をとても愛していたらしく、現アグリジェント王が統治している間は正妃の席が空席になるそうだ。


それからシルヴァーノ様、と王子が位の高い順に着席されている。一番端には第三王子のエラルド様と第四王子のルーカ様が仲睦まじそうに話していた。小さい子は可愛らしくてついつい視線がそちらへ行ってしまう。

隣に座るエミル殿下に机の下で裾を引っ張られて視線を左へと戻す。


「フロリエンスでは食用の花をお菓子に入れるとは驚きだ…そんな物があったとは」


「はい、とても甘くてすぐ溶けてしまいますの」


「ふむ…今度購入してみるか」


「はい、是非」


よ、良かった。きちんとお茶会に参加していて。お母様が何故きちんとお茶会に参加しなさいと言っていたのはこのような機会のためだったのかもしれない。


世間話とて大事な印象付け。食事よりも交流を優先にしていた私は美味しそうな料理が少し食べてはすぐに下げられてしまう光景を何度も目にした。エミル殿下もあまり食べられていないようだった。


基本アグリジェント王とお話をしていたため、イザイア殿下やリアナ様とはなかなかお話が出来なかったけれどお二人はご婚約されているにも関わらず会話が無いように見えた。お二人の性格的に会話が少ないのも想像は出来るが、なんとも言えないぎこちなさが気になった。


 懇親会を終え、部屋へ戻った私は精神的にも体力的にもヘトヘトでそのまま客人用の大浴場へと向かった。リリアンナはアグリジェントのメイド長に案内され先に浴場内を見せて頂いたそうだが率直な感想、掃除が大変そうだと思った、らしい。リリアンナらしい感想だが、正直あまりイメージが掴めなかった。

しかし…これを目にするとリリアンナがそう思うのも納得だ。大理石の床に、泳げそうな程の広々とした浴槽。壁にも何やら絵が描かれていた。


「…個人で入るお風呂ではなさそうね」


「︎石鹸も何種類か用意してくださりました。お好きなものをお使い下さいとのことです」


「えぇ…」


バラやベルガモットなどの花からいちごやココナッツなどの幅広い香りの石鹸を見せられた。何種類かという表現の仕方は誤っていると思うが…。裸のまま何分か悩んで結局一番馴染み深い香りがするベルガモットの石鹸を選択し、私は滅多に味わえない大浴場を堪能した。お陰様で肌もツルツルだ。


 入浴を終え、部屋に戻る途中またあの噴水の前を通った。浴場へ向かう時も通ったのだがその時は疲れすぎて気にも止めていなかったが、ふわりと小さな光がまだ噴水の周りを漂っている。お昼に私を見ていた子たちかもしれない。


「リリアンナ、ちょっとここで待ってて」


「いいですけれど…湯冷めてしまいますよ」


「大丈夫、すぐ戻るから!」


森に囲まれた場所で育った私は今まで水の妖精と話す機会なんて私には今まで無かった。好奇心が私を燻る。森の妖精たちは穏やかな性格だが、水の妖精は違うのだろうか?好きな食べ物は?普段なにをしているの?聞きたいことが多すぎる!


そう息巻いていると身の危険を感じたのか段々妖精たちは私から離れていってしまった。これでは話をするどころか、近くにも寄ってきてくれなくなってしまう…。私は怖がらせないよう少し離れたベンチへと腰掛けた。


「大丈夫。私はあなたたちとお話がしたいだけなの」


すると疑いつつも少しずつ私に近づいてきてくれた。私の周りをぐるぐると飛び回り、観察している。私におかしな点が無かったのか、水の妖精たちは集合して会議を始めた。


『人間は私たちとは話せないはず』


『精霊とのハーフかと思ったけれど、この子からは魔力の魔の字も感じないわ』


「いや、あの、」


『どうせ言ってるだけで聞こえやしないわよ』


…どうやら水の妖精は割と性格がキツめらしい。言いたいことだけ言って私の話は聞いてくれない。友好的な森の妖精が恋しくなった。


「コホン。私隣国から参りました、ロレイン・フェタリナーツェと申します。私は貴女方の姿が見えますし、お話もできますので…その、全て聞こえておりますわ」


水の妖精だけに明鏡止水…いきなり静かだわ。それでも疑い深い彼らは自分たちが何を話していたのか、姿がどう見えているのかを質問してきた。全ての質問に答えると彼らは二度静まり、『面白い』 と笑った。どうやら疑いは晴れたようだ。


 そんなことをしているとあっという間に湯冷めした私は彼らと別れ、リリアンナに文句を言われながら部屋へ戻った。


「ロレイン様、私湯冷めしますよと言いましたよね?彼らと話し始めると私はそこに入っていいものなのか分からなくなるので程々にして頂けますか」


「ご、ごめん…」


「はぁ…ロレイン様がお話の間、誰も近くを通りませんでしたがあまり他所の国でそのお力を使うのは宜しくないと思います」


湯冷めした体をお茶で温めながら、リリアンナのお説教を聞く。私が悪いのだけれど…こうなると長い。一つ出ると二つ、二つ出ると三つ、とねずみ段式に増えていく。その記憶力には感嘆する。怒っている姿も可愛いなと思いながら聞いていたので話の内容は右から左だ。


「分かりましたか?」


「はい…」


「では、明日も早いのでお休み下さい」


切り替えも早いリリアンナ。私がベッドへ入ると明日のスケジュールを伝え、寝室から出て行った。リリアンナの部屋は私の隣の部屋で、部屋と部屋が直接繋がるような仕様になっている。

私は柔らかな肌触りのベッドに沈むように直ぐに深い眠りへと落ちた。明日は今日よりも食事を多く取れますように。



***


 翌日。


 部屋できちんと朝食を済ませた私は、晴れ晴れとした空の下、訪問の目的である精霊騎士の視察を行っていた。

エミル殿下にエスコートしていただくのは違和感であったが、致し方がないことだ。


不貞腐れたイザイア殿下の後に続き、城内の練習場へと向かった。その間チラチラとこちらの様子を伺うイザイア殿下と目が合う。本当によく合う。エミル殿下とお話がしたいのかと最初は思っていたのだが、その視線はどうやら私に向けたものだった。私…何かしてしまったのかしら…。


不安に思いながら歩いていると、小さな声でイザイア殿下が「着いた」と発した。


そこには多くの近衛騎士団が鍛錬に励んでおり、春の柔らかな温かさは彼らの額に汗を浮かばさせていた。体格の良い男性からまだ入ったばかりなのか細身で小柄な少年までおり、木刀の素振りや試合形式の練習を各自各々が所属する部隊で行っているらしい。その中でイザイア殿下が集合をかけ、何人かをこちらへ集合させた。一、ニ、三人…。恐らくこの三人が精霊騎士に所属となった方々なのだろう。


「はぁ…お前は違うだろ、ローガン」


「いやぁ、イザイア殿下がご来賓の方をご案内すると聞いたもので」


呆れた面持ちのイザイア殿下へ親しそうに話す男性。三人だと思っていたが、精霊騎士は二人だけみたいだ。黒髪に深い赤色の瞳を持つ彼は…イザイア殿下が嫌がっているのを分かっていて楽しんでいるようだった。

そんな二人にどうしたら良いのか分からず眺めていると、イザイア殿下が咳払いをし、彼の紹介を始めてくれた。


「…こいつはローガン。うちの専属魔法使いだ」


「お初にお目にかかります、フロリエンス王国の客人」


「お前も知っていると思うが、フロリエンス第二王子、エミル殿下とフェタリナーツェ公爵令嬢だ」


「もちろん存じております」


ローガンが細目で微笑み私と目が合うと、私をじっくりと眺めた。何かを考えるかのように、彼は顎に手を当てた。


「それで、この二人が現在精霊騎士団に所属する者たちなのだろうか」


エミル殿下が進まない話に口を挟む。ビシッと姿勢を崩さない大柄な男性と、気だるげに私たちの会話をまだ終わらないのかと待つ男性が痺れを切らして待っている。


「あぁ、今はこの二人だけだ」


「精霊騎士団設立!なんて謳ってますけど、全然人材が見つからないのが現状です」


「うるさいぞ、ローガン」


確かに…二人では騎士団とは呼べないだろう。せめて部隊…悪くいえばタックだ。そう簡単に精霊や妖精が見える者なんて居ないし、人材集めは骨が折れそう。

私はチラリとエミル殿下に目をやる。エミル殿下は彼らが見えるみたいだけれど…流石に他国の王族が騎士団に入団などしないだろう。それに精霊騎士のことをよく知らない。それを知るためにここへ来たのだから。


「では、精霊騎士発足の経緯とこの二人についてお話しますね」


「…はぁ…」


もうお前がやれ、とイザイア殿下はお話好きなローガンに職務を放り投げた。しめた、と言わんばかりにローガンは誇らしげに話し始める。


「精霊騎士というのはご存知の通り精霊や妖精が見える者のことです。何故精霊騎士団が設立されたかというと、昨日お顔を合わせたと思いますがリアナ様が神からのお告げを頂いたからです」


「リアナは…この世界で唯一神に選ばれた人物だ」


 リアナ様の話をするイザイア殿下は最初口元を緩めたのだが直ぐに悲しげな表情になった。


昨日の懇親会の様子からしてもお二人はあまり上手く行っていないように見える。イザイア殿下の表情からリアナ様への尊敬または好意は伺えると思うのだが、イザイア殿下とリアナ様の婚約は″神のお告げを頂ける特別な女の子″を手中にしておきたいという見え透いた中央の国らしい婚約でもある。


誰が見たって内部状況を知らない人間はそう思うだろう。そこには貴族もそうなのだが地位、名声、お金が必ず絡み、愛などない結婚が当たり前なのだ。もちろんいつかは私もそうなるのだろう。

だが今は話を戻そう。


「二月程前に″近々神聖なるものたちにより世界は救われるだろう″とお告げを頂いたそうです。そのお告げから私たちは″神聖なるものたち″を妖精や精霊と仮定し、この″精霊騎士団″を設立しました。普通人は見えないものを信じる、なんて浅はかではないのですけれど、まぁ…神のお告げを頂だける方もいらっしゃいますし、たまたま″妖精″が見える騎士も所属していたためアグリジェント王も決めざる負えなかったみたいです」


「そもそも仮定という体なのでこれが正しいとは分かりませんけどね」と付け足したローガンは本当によく喋る。設立された理由は分かりやすかったけれど苦笑いだ。細身の騎士はとうとう瞼を瞑っていた。


 それよりリアナ様が頂いたお告げ…″神聖なるものたち″というのは妖精や精霊のことなのか、という点だ。私が知っている限りでは彼らだけが対象ではない。いつもお茶会に参加してくるあのもふもふした名前も分からない生き物たちもそれに該当するのではないか、と思う。恐らくその可能性も考えたんだろうけれど、彼らは滅多に人前に出ることは無いし、架空の生物だと思われているため除外したのだろう。


「イザイア殿下やリアナ様、ローガン殿は″妖精″たちが見えるということなのでしょうか」


「はい。ノヴェイル王国は魔法使いの国であり、魔族に近い存在…と言っては気分を害する方々が多いのですがあえてそう言わせてもらいますね。魔力保持をする者は彼らに近い存在です。そのため″妖精″、″精霊″を見ることはできます」


″見ることは″という言葉に引っかかる。その先を話そうとしたローガンはそのまま前に倒れかかり、私は突然のことにビクッと体を揺らしてしまった。


「おい、ローガン。殿下の邪魔をするなとあれほど言っただろう」


 気がつくとローガンの背後に背丈が私たちに近い少年が片足を上げて立っていた。黒髪の、イザイア殿下やローガンより瞳が淡い赤色で、ローブを羽織っていた。恐らく彼に蹴り飛ばされたのだろう。その少年は分厚そうな本を手にしており、今度はその本でローガンを殴った。


「痛い、痛い。お客様の前だよ、リオ」


「お前が悪いんだろ。えーっと、…初めまして、リオです…」


私たちも彼に挨拶を返した。リオはローガンの従兄弟で、ノヴェイル王国出身。現在はアグリジェントの研究員として働いているそうだ。年は私たちと同じ14なのだが…経歴がえげつない。飛び級で魔法学院を卒業し、昨年博士号を取得したらしい。つまりは天才だ。


「俺は…じゃなくて、私は魔法生物学を研究対象としてまして、今は″妖精″、″精霊″を研究対象にしているのです。今回殿下に呼ばれて来たのですが…うちのローガンがご迷惑をお掛けしたみたいで、すみませんでした」


「いえいえ、ここまで丁寧に説明していただきました」


エミル殿下の言葉にリオはホッと息を吐いた。同時にイザイア殿下も安堵した様子だ。


「研究員に説明してもらった方が分かりやすいと思い呼んだのですが…コホン」


イザイア殿下の咳払いにハッとしたガタイのいい騎士は器用に立ちながら眠っていた細い騎士を肘でつつく。


「…話、終わりましたか…?」


「お前なぁ…待たせて悪かったが客人の前だぞ。弁えろ」


「失礼致しました」


王族相手にこれまた凄い肝が座った騎士も居るものだな、と驚いたのは確かだが確かに無愛想なイザイア殿下よりも失礼だ。


「お前ら自己紹介しろ」


「はい…えー、アグリジェント王国近衛兵第一部隊所属、アッシュ・ウェルスです。リッターオルデン出身で、力に自信はありませんが、戦略を考えるのは得意です。″妖精″は見えますけど正直チラチラされるのは嫌です、宜しくお願いします」


…戦場で戦えるのが騎士、っていうものじゃなかったのかな、と疑問を抱いたが彼に関しては例外なのかもしれない。第一部隊に居るということは実力があるのは確かということだ。


「アグリジェント王国近衛兵第二部隊所属!クリード・メイソンです!アグリジェント出身で、力だけは自信があります!″妖精″は俺が怖いのか逃げていくことが多いので、小さな声で話すよう心がけてます!よろしくお願いしますっ!!」


「よ、よろしくお願いします」


先程のウェルス様とは違い、メイソン様は大きな身体と声で圧倒される。でも…メイソン様が妖精と戯れている所を想像すると…


「っふ、…」


「ロレイン、我慢して」


エミル殿下に注意され、口元が緩まないよう堪える。失礼だもの。我慢するのよ、ロレイン。

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