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8話

※内容を一部改変したました。


僕と柳生さんは申請書について話があると、九条先生と風魔先生の二人に生徒指導室へと連行されていた。

指導室の中は実に簡素で、真ん中にテーブルとパイプ椅子があるだけだ。

その内装から、生徒指導室と言うよりも刑務所の尋問室を連想させる。


おそらく、この生徒指導室に連続で呼ばれる新入生は僕が初めてではないだろうか?


「ほら、さっさと座れ」


九条先生に促され、パイプ椅子に座る僕ら。


「高山はそこじゃない。

お前はここだ」


椅子に座った僕に座る場所までわざわざ移動して、人差し指で教えてくれる九条先生。

その指の先は柳生さんよりも離れた場所にある床だった。


「……」


まあ、石沢が書いたとはいえ、あんな事が書いてある申請書を提出しようとした男子生徒に女子を近づけようとは思わないよね。

僕は渋々、先生の指示に従いパイプ椅子を持って移動を開始しようとする。


「まて、お前は正座だ」


僕は先生に逆らう事なく、指定された床に正座した。

床はひんやりしていて…とても硬かった。


「では、このふざけた申請書について質問する。

まずは柳生。刀はともかくとして命ってのは穏やかではないね……。

一体、どういう経緯でこうなった?」


「はい、この男が記入したと思われる項目を見て記入致しました」


「なるほど……私もお前さんよりもほんの少し(・・)年上だが同じ女だ。

気持ちは分かるよ」


「は?」


ほんの少し(・・)

柳生さんにウンウンと頷いている風魔先生だが、とんでもない鯖読みである。

九条先生も風魔先生の年齢を知っているのか、『マジかコイツ!?』と言わんばかりの表情をしている。

そして、次の瞬間。


ゴシャ!


九条先生は風魔先生に後頭部を掴まれた状態で、床に叩きつけられていた。

流石老齢の達人。後頭部を掴み、叩きつけるまでがまるで見えなかったよ。


「なんだ、高山?何か私に言いたい事があるのか?」


「すみません助けてください」


初めて会った時よりも優しい表情で問いかけてくる先生に僕は即座に土下座した。

僕の無様な土下座が効いたのだろうか?

ピクリとも動かない空手界の《破壊神》をそのままに、風魔先生の尋問が再開される。


「では高山、何故こんな……要求を?」


言い辛そうに話す風魔先生の質問は先生方の中では僕が書いた事になっている項目に変わった。

そこで僕はふと思った。


あれ?もしかしてここで、決闘を回避するためだと正直に話して柳生さんに謝れば、全てが丸く収まるのではないだろうか?

それに足の痺れもそろそろ限界に達しつつある。


早く謝って終わりにしよう。


そう思った僕は、二人と屍に説明する為に口を開いた。


「実は―――――」


「失礼するよ!」





僕のセリフに被せる様に入って来た、見覚えのある男性。


「いやいや、職員室で面白い話を聞いてね。

私も混ぜて貰えませんか?」


優しそうな表情と声で僕らに語り掛けてくるこの男性は天龍寺学園の学園長。

この学園の卒業生であり伊賀最強の忍び、第42代百地(ももち)丹波(たんば)

学園の噂だと、国際的に活躍していた元エージェントらしい。


「学園長…ここは私だけで充分なのですか?」


あ、さりげなく屍にした九条先生が外された。

それよりもそろそろ僕の話を聞いてもらえないだろうか?

脚が痺れを通り越して、痛いんです。


「いやぁ、だって彼は宗次郎君の息子でしょ?

僕が一度も勝てなかった級友の剣士生命を絶ち、その技を継承した将来有望な若者。

ぜひ、間近で見たかったんですよ!」


ニコニコと脚の痛みに耐える僕を見る学園長。

その表情は実に楽しそうだ。


「本当に宗次郎君にそっくりだ。

体格や身に纏う空気は、まさに本物の弱者。

でも、僕は知っているよ。それはあくまでもカモフラージュ……」


ああ!もう足が限界だ!!


「真の姿は伝説の古流剣術を扱う最後の侍……ってね」


パンッ!


「…え?」


僕が大勢を崩した瞬間、何の前触れもなく靴が僕の横を通り過ぎて、後ろの壁に激突した後にポトリと床に落ちた。


靴?


「丹波!興味本位で生徒に靴を投げるな!!

彼が見た目通りだったら、顔面に直撃していたぞ!?」


「ハハハハ!殺気もなく自然に投げた心算だったんだけど、流石は彼の息子です。

これならば全く問題はありませんね」


激怒する風魔先生を爆笑しながら全く取り合わない学園長。

視線を学園長の足元に向けると、片方が靴下になっているのが確認できた。


学園長の行動は全てに問題があると思う。


「聞いておるのか丹波!!」


「あー、すみません風魔先生。

ちょっと、いろいろあって彼を試させてもらいました」


片足が靴下の色々とバイオレンスな学園長の弁明。

この人と父さんがどんな友人関係にあるのか、非常に気になる所だ。

そもそも、この人を学園長にしたこの国は色々とヤバい気がする。


「さて!申請書に書かれた要望については色々と修正してもらうけど、二人には決闘をしてもらいます。

これは決定事項です!」



どうしよう。学園のトップだけど、殴ってもいいような気がして来た。



「ハハハ!そう睨まないでください高山君。

宗次郎君の事を思い出して……色々と興奮しちゃうじゃないですか」


イラつきが顔に出てしまった僕をみて、ウットリとした表情で気色悪い事を言って来る学園長。

思わず、別の意味でも身の危険を感じてしまう。


「で?学園長。

この二人の決闘が決定事項とは一体どういう事か説明をしていただけますか?」


「いやー、例の動画のせいで学園と外に少し悪いイメージが広がっているんで、それを払拭したいんですよ。

つまり、学園公式で発表される動画によるイメージアップ目的のPV作成です。

この学園は国が運営していますからね、イメージダウンは避けたいのですよ」


風魔先生の言葉に表情を切り替えた学園長は僕と柳生さんが決闘をしなければならない理由を説明する。

なるほど、確かに学園長の言う通りだ。

国が運営している以上は、この学園のイメージダウンは国を運営するトップ達の支持率にも影響を及ぼす可能性もある。

故に、早急に悪いイメージを消したいのだろう。


でも……。


「…この二人でなくてもよいのでは?」


そう、風魔先生の言う通りだ。

僕等である必要性はない。

むしろ、上級生から模範的な生徒を選抜した方がいいのではないだろうか?


「剣術界の花である《柳生の姫》と表の世界に滅多に出ようとしない最強の流派を継承した少年。

上級生達にも火が付くかもしれないし、これ以上にワクワクする対戦カードはないと思いますけど?

それに…PVの作成には国のバックアップも入りますので下手な人材は選べないんですよ。

他の生徒では柳生さんに一撃ですからね」


「まあ、確かに他の生徒では柳生に一撃だな……」


学園長の言葉に反応しながらムクリと起き上がる九条先生。

あ、生きていたんですね。


「でもいいのか?柳生はともかく高山はブサイクだぞ。

学園のイメージにさらに傷がつかないか?」


「学園のイメージよりも先に、僕の心が傷ついたよゴリラ教師!!」


「よし、歯をくいしばれ」


「理不尽すぎる!?学園長、助けてください!!!」


せめてもの抵抗に言い返したら、九条先生に報復されそうになったので学園長に助けを求める。

バイオレンスでイカれた学園長ではあるが、それでも学園の長。

可愛い生徒を理不尽な暴力から救い出してくれるはずだ!!


「問題ありません、そこはメイクで何とかします。

何ならスタイリストを呼んでコーディネートしてもらいましょう」


「まさかの無視!?学園の長として他に言う事があるでしょう!?」


まさかの対応に度肝を抜かれたが、こちらも命が掛かっているのでもう一度、学園長に助けを求めた。

流石に今度は無視できないだろう。


「そうですね……九条先生。そこは、ブサイクではなくユニークな顔と言ってあげなさい」


「まさかのそっち!?アンタの耳と目は飾りか!?

って、九条先生!?その拳は本当に洒落にならな―――ブッ!?」


グーで拳骨をもらった僕は視界と膝で激しいビブラートを刻みながら床に倒れる。

もう、抗議の声を上げる事すら出来ない。


この学園が国が運営する進学校である事が、僕にはもう信じられないよ。


「ハハハ!宗次郎君といい君といい、本当に演技が上手ですね」


演技じゃねぇよ!!

僕の抗議の視線を受けても、嬉しそうに笑う学園長の笑顔が憎い。


「では、決闘の件はよろしくお願いしますね」


そう言って、学園長は素早い動きで壁際に落ちていた靴を履いた後、爽やかに去って行った。


あれ?もしかして僕の処刑が確定した???


「じゃあ、二人とも。

堤下先生と今やっている授業の先生には事情を話しておくから、サボらず授業に参加しろよ」


「では、私も総務の人間と決闘の打ち合わせがあるので、失礼する。

あと、申請書自体はこちらで受理をさせてもらうが、要望は後で私か九条先生に報告してほしい」


そう言って残り二人の教師も、指導室から去って行く。

ちょっとぉぉぉおおお!!僕の話を聞いてよ!!

もしくは、僕を保健室に運んでください!!


「高山宗助……決闘では手加減はしないから」


や、柳生さん!待って、僕を置いて行かないで!!

心の中で叫んだ僕の儚い願いは見事に砕け散り、彼女はスタスタと指導室を出て行った。


本当に…この学園は厳しすぎるよ。


この後、授業に大幅に遅れた僕は席を立った状態で授業を受けました。



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