9話
授業があらかた終了した昼放課。
生徒の誰もが楽しく食事をする時間に僕の所属する一年D組は食堂へと向かった柳生さんと他数名のクラスメイトを除いて、今までにないくらいに静まり返っていた。
『高山のヤツ……ホモじゃなくて両刀だったのか』
『ああ、ホモだけでも驚いたのに両刀なんてな……さすがに度肝を抜かれたぜ』
『石沢や服部だけでなく、我がクラスのアイドル柳生さんの貞操まで狙うとは……』
『高山が決闘に負ける事は確定していて、柳生さんとは未来永劫に無理だろうが……とんだ性欲お化けだぜ』
侮蔑と好奇心が交じり合った視線が飛び交う中、誰かが僕の席にパンと牛乳パックを持ってやって来た。
「よう、大丈夫か?」
来たのは、ゲッソリした表情の服部だった。
二次元嫁一筋の彼もこの噂には堪えているようだ。
しかし今、最もクラスで近寄りがたい地雷になんのようだろうか?
「分かっていると思うが、この噂はあの女子がSNSで画像を拡散した事が発端だ。
……見たくはないだろうが、これを見ろ」
「何こ――――ぐふぅ!?」
見せられたスマホには、有名なSNSの投稿サイトが映っており、僕が石沢に馬乗りの状態で服部に羽交い絞めにされると言う地獄のサンドイッチ画像と、備え付けの様にあった『僕達、結婚します』と言うコメントに吐き気を催した。
クラスメイト達の視線もさらに集中するが関係ない。
こんな酷い投稿をするなんて、投稿者には僕らに対する悪意を感じるよ……。
「まあ、このアカウントは俺が朝から色々と仕掛けをして閉鎖に追い込んだから、画像の拡散はない」
「ありがとう服部!!君は最高の友人だ!!」
服部の報告に諸手を上げて喜ぶ僕。
色々と言う彼の言葉に引っかかりを覚えるが、画像が抹消されてくれたのなら些細な問題である。
『おい、この状況でイチャイチャし始めたぞ……』
『アイツ等の心臓は化け物か?』
だが、クラスメイト達の内緒話が耳に入った事で、僕の喜びは一気に鎮火した。
画像が無くなっても噂は消えないからだ。
「……だが、見ての通りに噂の方はどうしようにもなかった」
「……うん、そうだよね」
でも、服部のお陰で諸悪の根源である画像が消えたのだ。
決闘に生き延びる事が出来たら、噂が消えるのを静かに待とう。
「しかし、高山。
そんな俺達に、一発逆転の策がある」
「え?一体どんな!?」
なんだろう、この絶望的な状況を好転させるいい方法があるのだろうか?
闇に染まった服部の瞳に一筋の光が灯り、僕は期待に胸を膨らませた。
「柳生との決闘に勝利して、デートをするんだ」
「服部、少し待ってもらっていいかな?
クラスメイト達が柳生さんとのデートという言葉を聞いて鋭く睨んでくるんだ」
流石は柳生さんだ、未来永劫あり得ない事柄でも男女関係なく凄まじい殺意で僕を睨んでくるよ。
視線だけで殺されそうな勢いだ。
「高山。お前がノーマルだと証明されれば、この噂はすぐに消えるんだ」
「まあ、それはそうだけど……」
確かに僕がノーマルだと証明されれば、僕のホモ疑惑は晴れるかも知れないけど服部達はどうするのだろうか?
「実はな……高山。
非常に言いにくいんだが……」
「なに?その歯切れの悪さと苦い表情。
凄く嫌な予感がするんだけど……」
歯切れの悪い服部をハラハラしながら見守っていると、彼は覚悟を決めた表情となって口を開いた。
「学園に居る連中はお前が、俺と石沢を襲ったと認識しているんだ――――って落ち着け!!
自分の机に頭突きをするな!!」
「放してよ、服部!!
僕は、この現実で生きていける気がしないんだ!!
ファンタジーな世界に転生してチートしながら、ハーレムを作ってやる!!!」
「だから落ち着けって!!お前の様なクソザコが転生した所で、ヒロインの靴下にもなれないぞ!!
転生できても、序盤でチート主人公に瞬殺されるゴブリンのパンツだ!!」
「ゴブリンのパンツ!?
僕はヒロインの靴下にすらなれないの!?」
羽交い絞めにして、僕の転生を邪魔する服部の言葉で本当に死にたくなった。
コイツは僕を助けるフリをして、さらに追い込もうとしているのではないだろうか?
「とりあえず、これを見ろ」
さめざめと泣く僕を無視して、何事もなかったかのように再度、僕にスマホを見せてくる服部。
今度は何を見せるつもりなのだろうか?
赤くなった額をさすりながら、スマホの画面を見る。
スマホ画面の左下に再生ボタンのマークがある事から、動画の様だけど……。
『皆!話を聞いてくれよ!!』
『何だよ石沢……ホモは発展場に帰ってくれ』
『頼むから関わらないでくれよ。
変な噂が立ったら俺達までハブにされるだろ』
映し出されたのは石沢とクラスメイトの男子生徒……佐々木君と竹林君。
どうやら、石沢がホモ疑惑を払拭しようと頑張っている動画の様だ。
彼の表情からは噂をどうにかしようという、必死さが伺える。
この動画が一体何なのだろうか?
『俺は、高山のホモ野郎に襲われたんだ!!』
は?このゴミクズはなんて言った?
頭が真っ白になった数秒後、全てを理解した僕は教室で吠えた。
「い、石沢ぁぁぁああああああっ!!!」
あのクソ野郎!!被害者に成りすまして僕を売りやがった!!
憎いあん畜生の名前を叫んで、奴を探すが教室には見当たらない。
どうやら逃げられたようだ。
勘のいい奴めっ!!すぐに見つけ出して、屋上から捨ててやる!!
「待てよ、重要なのはここからだ」
「止めるな服部っ!僕はあのゲス野郎を処刑しないといけないんだ!!」
服部に肘を固められた上、机に取り押さえられてしまった僕は残念な事に石沢の処刑を遂行する事は出来ない。
くそ!!自分の非力が恨めしい!!
「つまり、加害者となっているお前が女子である柳生とデートして上手く行けば、お前は彼女持ちとなってホモではなくなり。
俺と石沢は被害者ではなくなるという事だ」
な、なるほど……現実になる確率は皆無だけど、そうなれば確かにこの噂は払しょくされ――――ん?
コイツは今なんていった?
服部の言葉から聞き逃せない単語を聞いた気がした僕は、頭をフル回転差せる僕。
【俺と石沢は被害者ではなくなるという事だ】
【俺】
っ!?
「貴様もかぁぁぁあああああああああっ!?」
机に抑え付けられながら本気で吼える。
コイツ、石沢の陰に隠れて僕を売っていやがった!!
僕の名誉がこれ以上の取り返しのつかない状態になる前に、この男を抹殺しなければ!!
「っち!高山のくせして気づきやがった!?」
「んだとゴラァ!!ぶっ殺してやる!!」
この日、僕等は初めて本気のケンカした。
そして、幸運にも常識あるクラスメイトの何人かは、僕らの関係に疑問を抱いてくれたようだった。
1
午後の授業が終了し、自宅に帰った僕はスマホを取り出して目的の人物の番号を呼び出す。
数秒の呼び出し音の後で目的の人物が電話に出た。
『何だ宗助?父さんは今、アメリカで忙しいんだが……』
「えっと、かなり切羽詰まっている状態なんだけど……無理かな?」
『…まあ、少しぐらいなら大丈夫だ』
厳格な喋りだった父さんと現在の父さんの喋りは未だに慣れない。
だが、僕の命が危機的状況にある以上、そんな事を気にしている暇はない。
僕は忙しいと言う父さんに自身が置かれている状況を説明した。
『我が息子ながら、なんて情けない……』
「申し訳ありません」
父さんの言葉に素直に謝罪した。
それ以上の事は言えません。
しかし、スピーカーからガサゴソと移動する音が聞こえて気になる……。
どうやら、移動中らしい。
『……父さんから言える事は少ないが、心して聞け』
「うん」
スピーカーから聞こえる真剣な父さんの声に耳を傾ける僕。
『《無明新陰流》の奥義書を読みなさい。
そこに全てが書かれている。
場所はお前が隠している、秘密の本の所だ』
「何故、僕のお宝の隠し場所を知っている!?」
この人は本当に僕が知っている父親なのだろうか?
実は偽物が入れ替わっているのではないかと疑ってしまう程の変わりようだ。
『そして、刀を肌身離さず持っていろ。
決して誰にも奪われるな。
アレさえ引き抜けば、お前の命だけは無事だし、必ず相手に勝たせてもらえる』
「勝たせてもらえるって誰に?確かに凄い刀らしいけど……。
それに命だけって、どういう意味!?」
中々に危険な香りがする話に動揺する僕。
あの刀には歴史的価値以外にも何かあるって事なのだろうか?
『すまんな、そろそろ奴が……』
『《|I found you 《見つけたぞ》|Sword master Takayama《ソードマスター高山》! !》』
『み、見つかった!?ま、待てジョン!!俺は本当に前の様に戦えな――――ッ!?』
「と、父さん!何があったの!?」
ガキィィン!という激しく金属が当たった様な音と共に切れる通話。
ツー、ツーと無機質な電子音が聞こえてくる。
怖くなった僕は無言のまま電話を切った後、自室へと向かった。
自分の部屋に入り、冬に出す事になるストーブや毛布、さらに大事な物が仕舞われている、押し入れを空ける。
そして、目的の場所にあると言う奥義書を求め、手前の物を外に出して奥へ奥へと掘り進んだ僕は目的の奥義書と思われる大学ノートを見つけた。
表紙に《無明新陰流・奥義書》と書いてあるが……これが奥義書?
正直、巻物や古書の様な物をイメージしていたので一瞬、何のノートなのか分からなかった。
まあ、父さん達が旅行へ行く前に、見せて貰った古書はミミズがのたうち回ったようなもので読む事は出来なかったからな……。
見た目も綺麗で最近の物の様に思えるし、父さんが気を使って書いてくれたのであろう。
父さんに感謝しながら、ノートを開いた僕は一ページ目に掛かれている一文目で、早くも眉を顰めた。
【このノートを読んだら、速やかに燃やしてくれ】
意味が分からない。
そして、次の日の朝。
内容を全て暗記した僕はノートを指示通りに燃やした。
???( ´ー`)「そろそろ俺の出番かな?」




