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五話 かつて見た赤と青

「お嬢様には、私と一緒に来ていただきます」

「残念だけれど、この場所でまだやることがあるの」


 普段であれば、従うふりをして正体を探るところだ。

 敵の敵なら、利用出来るかもしれない。


 しかし今は、戦いを選ぼう。

 この怒りを(しず)める方法が、他に見つからない。


「では、少々痛い思いをしていただかなければ」

 フリーデの手の平から、球体の水が吹き出た。


 一歩下がってそれを(かわ)した直後、石造りの床に穴が開く。

 避けなければ、足がなくなっていただろう。


 それにしても、この娘、歳の割になかなか見どころがある。

 杖なしで中級水魔法を発動させるだけの魔法技術、士官クラスであることは間違いない。


 もっとも、容姿が実年齢と合致するとは限らない。

 老化遅延魔法や、老化停止魔法があるからだ。

 だが、この年頃でそれらを習得したのなら、より稀有(けうな人材ということになる。


「運が良いのか、勘が良いのか、よく(かわ)しましたね。足が二本あるうちに、降伏しませんか?」

「いいえ」

「そうですか。残念です」


 フリーデは、先程より大きな水魔法を発動させる。

 直後に一瞬だけ炎が見えた。


 前回とほとんど同じ軌道で、水魔法が迫ってくる。

 だが、これは避けられない。

 直前で炎魔法が水魔法に追いついて、爆発を引き起こすからだ。


 その爆発は、私を避けるように滑り抜けた。

防壁魔法(マジック・ウォール)……!」

 水よりも透明度の高い魔法の壁は、滑り落ちる水滴によってのみ視認出来ている。


「お嬢様は、魔法が使えないと思っていました」

 フリーデがそう考えたのも当然だ。

 子供でも扱えるような初歩的な魔法すら、人前で使うのを控えてきた。


「だから、とても残念」

「残念?」


 首をかしげたフリーデに向け、頷きを返す。

「ええ。あなたを殺すしかなくなったもの」


「殺す? どうやって?」

 フリーデの手に再び生まれ始めた水魔法は、十分に膨れる前に弾けた。

 その反動で、彼女は後方へと転がり飛んでいく。


 私がゆっくりと歩み寄る間、フリーデは何度も起き上がろうとして、その度に床へと倒れ込んだ。

「無理よ。しばらくまともに動けないだけの、電撃を流したから」

「っく」


 睨みつけるように見上げてきたフリーデに問う。

「あなた、軍人でしょう? どこの国の所属?」


 二種の魔法を組み合わせ、爆発を起こす戦法は、軍特有のものだ。

 日常生活で積み重ねた利便のための魔法ではなく、戦場で鍛えられた殺しの方法。

 そんなものは、普通の生き方では身につかない。


「軍人ではない。この国を出たことすらない純粋なマナーレア国民だ」

「嘘が下手ね。攻撃魔法の習得が禁止されているこの国で、それだけの技術を得られるはずがない」


 攻撃魔法の習得、教示、使用は、戦後全面禁止となった。

 その後、工業における需要が高まったことで、規制緩和がなされた。

 とはいえ、厳格な免許制度で管理され、一部の工業技術者に特定の条件下で使用が許されているに過ぎない。


 国内での習得、教示は依然として禁止されており、国外で習得する以外の方法は原則として存在しない。

 あるとすれば、終戦以前に習得していた者か、非合法な形で習得した者だけだ。


「嘘ではない。魔法は、祖母が教えてくれた」

「孫に違法な攻撃魔法を教えたの? 危険なお祖母さんだこと」


「お祖母様を侮辱するな! ……祖母は自衛のために教えてくれたのだ」

「その自衛には、私の誘拐も含まれるというの?」


「これは復讐だ。祖母がずっと危惧(きぐ)していた通り、私の家族は、貴様の父の命令で皆殺しにされた」

「……なるほど。それで私を人質に、父の命を奪おうと?」

「そうだ」


「とても無謀な計画。もし成功しても、絶対に生き延びられない」

「復讐が叶うなら、命など惜しくない。私にはもう、何一つ残っていないのだから」


「それが聞けて良かった」

 フリーデは言葉の意味を取りかねたのか、疑問の表情を浮かべている。


 最小の痛みで死ねるよう、即死出来るだけの上級雷魔法を発動する。

 フリーデは、死を覚悟したように、天を仰ぎ見た。


「君の復讐は、私が背負おう。この命にかえても、必ず成す」


 雷をぶつける予定の胸元に、青い魔法結晶を見つけた直後、それが繋がれたチェーンを手繰(たぐ)り寄せる。

「これをどこで手に入れた!?」

 手繰り寄せたそれは、確かに見覚えのある物だ。


「祖母の形見だ」

「祖母だと……?」


 ひび割れた眼鏡から、かすかに魔力がもれ出ている。

 それを外すと、フリーデの黒だった瞳が、赤と青に変わった。

 左右どちらの目の色にも、見覚えがある。


「名は?」

「フリーデ・フラウエンロープ」


 彼女が名乗った姓もまた、聞き覚えのあるものだった。

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