二十八話 手のひらで踊る、小さな大男
「この度は大変なご迷惑をおかけいたし、申し訳ございませんでした!」
市長室の中央で、薄い頭を下げているのは、州騎士団の本部長を務める男だ。
「市行政の長として、私にも責任はございます。だからこそ、今回の件を大変重く考えております」
「我々騎士団も、今回の不祥事を発生させてしまった責任を、痛感しておる次第です」
「許可のないまま、違法兵器を保管していた。これは法的に言えば、騎士団が違法兵器を所持していたと解釈できます」
「はい、おっしゃる通りでございます」
「ことの経緯をご説明ください」
「例の兵器類に関しましては、先日押収したばかりのものでして、保管許可申請が遅延した状態でございました」
「登記上存在しない部屋に『隠すように置かれていた』ように見受けられましたが」
「建築確認申請書の図面が食い違っていた問題については、全く別件でして……」
「では、二つとも事務的なミスであって、他意は一切ないと?」
「はい、その通りでございます」
「それを信じよとおっしゃるのは、少々無理があるように感じます」
「登記図面の申請を担当していた者は、責任を認め、内々に退職の意志を示しております」
「申請については分かりました。しかし、実際の工事に際し、疑問を持つ方はいなかったのでしょうか? たとえば、建築会社など」
「それが、建築会社に問い合わせたところ『外部の建築士に委託した内容で工事をしただけなので、分からない』と」
「では、その建築士の方にお話を聞くべきでしょうね」
「いえ、それは出来かねます」
「何故ですか?」
「新庁舎建設後に、事故で亡くなっていますので……」
殺したのか。
連中のやりそうなことだ。
「問題の概要は認識出来ました。騎士団は今回の責任を、どのように取るお考えですか?」
「はい。依願退職を申し出ている者が二名、数ヶ月の減給が三名、その他の処分が五名となります」
「最も責任が重いはずの署長はどのような処分でしょうか?」
「あの者の処分については、まだ検討中でございますが、降格の上、地方への転属が妥当かと……」
「失礼を承知で申し上げますが、大変甘い処分と言わざるを得ません」
「しかし、単なる書類上のミスで、これ以上の処分というのは……」
「殺傷能力のある兵器が、法的な裏付けもなく、登記上存在しない部屋に置かれていた。これを『単なる書類上のミス』で片付けるおつもりですか?」
「申し訳ございません……」
「私は、この一件で我々が守るべき市民の生命と安全が脅かされたと考えております」
「……ごもっともなご意見です」
「捜査の障害とならないよう、公式の発言を控えていましたが、これでは記者会見を開かざるを得ません」
「お待ちください! ……どのような処分が妥当とお考えでしょうか?」
「署長の懲戒免職です」
「それは、あまりにも……」
「では、今回ご提示いただいた処分が適切かどうかは『国民が』判断するでしょう」
「……分かりました。どうか、署長の依願退職という形で、今回は収めていただけないでしょうか?」
「まだ甘すぎるとは思いますが、私もことを荒立てる気はありません」
「ありがとうございます! 私の責任において、必ず退職を決意させます。どうぞこれをお受け取りください」
本部長が差し出したのは、肩幅ほどの小包だ。
中身はおそらく、現金か貴金属か何かだろう。
「これは?」
「今回、市長にご迷惑をおかけした『お詫びの品』でございます」
「……何が入っているとしても、必要ありません。お持ち帰りください」
「しかし……!」
「それより、署長の『本日中の』依願退職を必ず実現させてください」
「ほ、本日中とは一言も……」
「それが、譲歩出来る最低の条件です。不可能であれば、記者会見を開きます」
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市役所内が騒がしくなったのは、本部長が立ち去ってから数時間が経過した頃だった。
「様子を見てきます」
そう言ってフリーデが立ち上がった直後に、市長室の扉が開く。
砕けた木片と共に入ってきたのは、鎧を纏った大男だ。
「何か御用ですか? 署長」
「そうだ」
「騎士団をお辞めになると聞きましたが、そのご挨拶にわざわざ?」
「違う。辞表は用意したが、まだ提出はしていない。これは、最後の仕事だ」
「どういったお仕事でしょうか?」
署長はフリーデを指差す。
「その秘書の逮捕だ!」
「秘書の人格はよく存じておりますが、彼女は犯罪を行うような人間ではありません」
「貴様も目撃しているはずだ! その女が、庁舎の部屋の鍵を、魔法で開けるのを!」
「あなたも、この部屋のドアを破壊してお入りになったように見えましたが」
「逮捕に必要な措置は違法ではない。そして、俺は蹴破っただけだからな。だが、その女は、免許が必要な魔法を使った!」
それは、第二種魔法技師免許だ。
「第二種魔法技師免許の取得記録がないのは確認済みだ。不法な魔法使用の罪状で逮捕する」
フリーデが、私の耳元でささやく。
「お約束通り、切り捨ててください」
同じようにして、言葉を返した。
「黙秘しろ」
頷いたあと、フリーデは連行されていく。
署長の高笑いが、市役所に響いた。
これだから、挫折を知らぬ強面の軍人というのは、操りやすい。




