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二十四話 赤い魔石

 再開発工事を妨害し、違法な兵器を多数所持していた一団を皆殺しにしてから、半年が経った。

 その件に関する騎士団の発表は『魔法機器による不幸な事故が発生した』というものだった。

 繋がりのあるテロ集団の仲間割れか、あるいはそう見せかけた魔法使いによる殺害事件は、騎士団にとってよほど都合が悪かったらしい。


 私は、依然として市長だ。

 まだ、滅ぼされてはいない。


「市長さん! 市長さん! 今日のお菓子はなんだと思いますか!?」

 そして、不確定要素たるこの若い従士を、私はいまだ殺せずにいる。


「……さあ、分かりかねます。何をお持ちいただいたのですか? イルマさん」

「じゃじゃーん! アップルパイです! 今日は、フリーデさんの好みで買ってきました!」


 フリーデが抗議の声を上げる。

「そんなことを言った覚えはありません」


「ふっ、ふっ、ふ! 絶対好きな味ですよ! 私の目はごまかせませんからっ!」

「一体なんの根拠があって……っ、顔につくので近づけないでください」


「じゃあ、あーんしてください! あーん!」

「っく、卑怯な……」


 観念したように、アップルパイを食したフリーデの表情が、わずかに緩んだ。

「ほらっ! 今絶対『美味しい』って思った! ですよね!? 市長さん」

「……どうでしょう? そうかもしれません」


「っ! ……大体、イルマさんは、騎士団の職務は良いのですか? 毎日のように来ているじゃないですか」

「大丈夫です! 上司には『もう何もするな』って言われてますからっ!」

「それは、嫌味というものです。本当に言葉通り何もしなければ、解任されるでしょう」


「えええええ! そうなんですか!? 私クビですか? 市長さん!?」

「そうですね。その可能性はあるかと」

 イルマにとっては、腐りきった騎士団にいるより、いっそ解任された方が、良い結果になるだろう。


「どどどどうしよう!? 急に不安になってきました! 仕事に戻ります!」

「はい。お気をつけて」


 イルマが、どたばたとドアの方へと駆けていく。

 彼女は思い出したように振り返った。

「あ、そうだ! 最近、旧王都付近の再開発現場で、重機の誤作動が起きてるみたいです」


「以前のように、反対派の妨害ですか?」

 根絶やしにしたつもりだったが、まだ生き残りがいたのだろうか。

「いえ、それとはちょっと違うみたいです! じゃあ、また明日来ますねっ!」


 イルマが出ていった市長室は、一転して静まり返った。

「……結局、明日も来る気ですか」

 そう(つぶや)いたフリーデに、私は言葉を投げかける。


「もし今、イルマを殺せと命じたら、君は彼女を殺せるか?」

「……もちろんです」


 そんな命令を、フリーデに課す気はない。

 絶対の必要性が生じれば、私がこの手を汚す。


「そうか」

「……ですが、その必要はないかと。イルマさんは、ご自分のお兄さんにも伝えていないようですし」

「……だろうな」


 だが、半年と少し前の我々なら、そう考えただろうか?

 曖昧な主観で、危険を冒したか?


 あの無邪気な少女が、我々を弱くした。

 大多数の腐敗した正騎士と同じように、いっそ敵であれば良かった。

 そうであれば、我々は、我々の弱さを見つけることなく、復讐の道を、ただまっすぐに進めただろう。


「重機の誤作動の現場に行ってみるか」

「承知しました。馬車の用意をいたします」


 こうして私は、イルマの情報源としての価値を言い訳にして、いまだ捨てきれぬ己自身の弱さから、目を背け続けている。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 廃墟となった王都からほど近い平原。

 かつて魔法軍の訓練場があった場所だ。


 再開発に向けた整備の最前線となっているこの場所には、しかし一人の作業員もいない。

 日が落ちてから、かなりの時間が経過しているからだ。


「確認のために、重機を動かしましょうか? 誤作動が再現するかもしれません」

「それも良いが、その前に」


 目に魔力を集中させながら、詠唱を行う。

「その目の光は、感知魔法……黄色ということは、物体透視でしょうか?」

「そうだ。……地下に、空間があるな。かなりの大きさだ。フリーデ、飛行魔法は使えるか?」


「申し訳ございません。まだ、浮遊程度しか……」

「浮遊出来れば十分だ。少し下がれ」

「はい」


 破壊魔法を地下に向けて放つ。

 後ほど(ふさ)ぐ事を考えて、穴の直径は二人が通れる程度に抑えた。

 炎魔法で明かりを灯しながら、フリーデと共に地下を目指す。


 長い縦穴を抜けると、広い空間に出た。

 一人ならばこのまま飛行して様子を探るところだが、フリーデの消耗を考えて、空間内の底へと降り立つ。


 右手に発動させた炎魔法を、前方に向かって飛ばす。

 それは、小さくなるまで飛翔(ひしょう)を続け、やがて何かにぶつかって消えていった。


「上から見た予想より広そうだ」

「他の方角も確認いたします」


 我々は、最も直線上の距離があった方向へと進んだ。

 地上の地盤を支えるように上へと伸びた柱状の大岩の先で、足を止める。


「これは、一体……」

 そう、珍しく驚いたような声を上げたフリーデの視線の先には、赤く巨大な魔石が浮遊していた。

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