プロローグ
さっそくブックマークしてくれている方がいたので嬉しくなって頑張りました!!
ではどうぞ~~
俺はあの日を一生忘れることはないだろう。
今も後悔し続けているあの日を。
あの日にあった出来事を。
母の最後を。
◇
「ハァ…………ハァ…………ハァ…………!!」
雨が降る夜。
暗い森の中、3歳の俺の手を引きながら母は走る。俺も母に手を引かれながら必死に走る。
後ろからはガシャガシャという鎧の音。
「どっちに逃げた!」
「くまなく探せ!!絶対に逃がすな!!!」
そして、俺と母を探す軍達の叫び声。
母は後ろを振り返る。
母の顔には雨でべっとりと貼り付いた銀色の髪。左右にはドリルのように捻れた銀髪がある。
埃と血と、雨と土と草で汚れていなければ、とても綺麗であろうドリル銀髪。
そんな銀髪を持つ母は、必死の形相で周囲を見渡す。
どうやら、母は俺を隠す場所を探してるみたいだ。
「まま、はやくにげなきゃ」
「このままじゃ追い付かれちゃう。アル、あなたはここに隠れてなさい」
そういうと母は、大木の根が崖にはみ出ているところを見つけ、そこの空間に俺を隠す。
外からは草と大木の根が絡まって、夜の森の暗さもありあまり見えない。
「いい?アル、あなたはここで静かに隠れてて」
「ままはどうするの?」
「私はこのまま逃げて、アルが逃げる時間を稼ぐわ」
「…………っ!ままといっしょじゃなきゃいやだよぉ!!」
俺はこれからどうなるかを察して泣き出す。
「お願いアル、泣き止んで。何ももう会えない訳じゃないわ。必ず迎えにいくから」
そう言い残し母は去っていった。
俺は見逃さなかった。母は “ 死ににいく者 ” の顔をしていた。
自分の命をかけて、俺を逃がそうとしている。
俺はそれが嫌だった。
母にはずっとずっと傍に居て欲しかった。
今日まで耐えてこれたのも、母の存在のおかげだ。
ーーけど、追いかけることが出来なかった。
ーーー怖かった。何もかも。
ーーーー後に俺は、この日を一生後悔することになる。
◇
「いたぞーーー!!!母親の方だ!!!!!」
母が見つけた隠れ場で、三角座りをしてうずくまっていると、突然軍の叫び声が聞こえた。
その後に続いて、母の叫び声が雨降る夜の森に響き渡る。
その瞬間、バッとうずめていた顔をあげる。
ーーーーまま!!!!
身体が勝手に動いた。
母を失うのが怖かった。
大好きだった。
これでお別れなんて嫌だ。
俺は声のした方へ走る。3歳児の足で、必死に走る。
俺は、母のもとへ到着した。
してしまった。
母は背中を斬られ、血を流し、ぺたん座りをし、うつむいている。
雨で血は流され、母の周りは血溜まりができていた。
その周囲に、軍が15人いる。
軍一人が、母に近づき、剣をまっすぐ上に伸ばし、構える。
「やだよまま!!!ぼくをひとりにしないで!!!!!」
思わず叫ぶ。
しかし、叫ぶのと同時に、雷鳴が響き渡った。
あまりに大きい音だったので、軍達には俺の声が届いていなかった。
しかし、母には届いた。
愛の成せる技だ。
母はバッと顔をあげる。
俺の姿を見ると驚いた顔をしたが、目から涙がスーッと溢れた。
そして、母は口を動かした。
声は出ていなかった。
しかし、伝わった。
『ごめんね、アルテシア。逃げて、幸せになって。愛してるわ』
そして、母は微笑んだ。
それが、母の最後だった。
軍は、躊躇なく、母の首をはねた。
◇
母の首がはねられた直後、何が起こったのか理解できなかった。
いや、理解したくなかった。理解しようとしなかった。
しかし、母の首が地面にゴトリと落ち、母の目と俺の目が合った時、理解してしまった。
母は死んだと。
悲しみと怒りでいっぱいで、泣き叫んだ。
そのまま意識が途切れた。
気が付くと、夜は明けており、雨は止んでいた。
周囲には、母の亡骸と、軍15人全員の死体が転がっていた。