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08話『勿論です。最強魔砲の名に偽りはありません』


「行っけぇぇええええええ!!」


 転送完了と同時、瞬時に状況を認識した私は即座に砲撃した。

 障害物による転送事故を警戒したミュゼスちゃんが空中へと私を転送したため、射線を遮るものは何もない。


 腕にかかる強烈な反動。

 補助の衝撃吸収魔法は節約のために切ってある。地面に立っていればまだ受け流すことも出来るのだけれど、空中だとそれも難しい。


「…………っ!」


 それに加えて、急激に全身から魔力が枯渇していく。

 骨格が。筋肉が。血管が。神経が。いまにも崩れて解けそうと錯覚するほどに脆くなり、耐え難い痛みが脳髄を駆ける。


『ひとまずあの異形に囲まれていた人達は大丈夫ですね。……アルファちゃん。着地はこっちでやりますよ』


 ミュゼスちゃんの言葉に甘えて、全身から一切の力を抜き自由落下する。

 私が活動を最低限に抑えると、丈夫な人造ボディは即座に修復を始めた。これでどうにか着地までには、最低限動けるようになるだろう。



 トッ、という着地音を合図に再び全身に力を入れる。

 ────途端。全身を硝子で引き裂かれたような痛みを感じた。


 ……大丈夫。これくらいなら問題ない。

 私の身体が痛むのは、ただ痛いだけだ。魔力不足で一度崩れかけた身体が、その残響を響かせているだけ。実際に何か問題が起こっているわけではない。


 歯を食いしばって、痛みを無視する。

 前線で群れていた異形たちを頭上から吹き飛ばし、まさにその地点へと着地した私の目の前には、無数の半死半生の人たちが居た。

 全員が全員血に塗れ、腕や脚の無い人達も少なからず見受けられる。異形の触腕は、かするだけで人の四肢を軽くもぎ取るほどの威力があるのだ。私のようにミュゼス()ちゃんの()防御魔法()が無ければ五体満足で戦い続けるなんて不可能だ。


「あの人たちはあんなになるまで戦ってるんだから──私だけ、泣き言なんて言っていられない」


 小さく呟き、自らを鼓舞する。


『……一応。ミュゼスちゃんの推定では、普通にショック死してもおかしくない程度の激痛のはずなんですけどね。本当に、無理だけはしないでくださいよ?』


 ピカピカ光って私を気遣うミュゼスちゃんに、僅かに頷いて返答した。



 そのまま横へ視線を向けると、先程まで異形と交戦をしていた鎧姿の人達と目が合う。


「助太刀感謝する。……深い事情は訊かないほうがいいだろうか?」


 隊長格らしき人が声をかけてきた。彼の後ろでは「天使だ」「いや女神だ」「戦乙女だ」「万歳! 万歳!」などと聞こえる気もするけれど、気の所為ということにしておこう。


「馬鹿どもが申し訳ない。ああして元気よくしておかないと色々と保たなくてね」


 彼らは少なからず負傷し、疲れ、心身ともに消耗している。空元気でも出しておかねばやってられないということなのだろう。


「こっちは負傷者も多い。このまま撤退するが、君はどうする? 見たところ異形共は魔術爆撃で抑えきれているし、直に準備を整えた後続の味方も来るだろう」


「私は────」


 一瞬の迷い。

 現状の戦力だけで完全に防ぎきれるのなら、私は彼らとともに後方に下がって回復を優先させるべきだろうか。それとも、物資や人員の損耗を少しでも減らすために無理を押して戦うべきだろうか。


 そんなことを考えた瞬間。



「なんだ……あれは!」


「嘘だろ……夢だ、夢に決まってるッ!」


「ありえない、あれだけ潰したのに……っ」


「俺達が必死になって止めて、魔術爆撃を喰らい続けていたあいつらは──本隊じゃなかった(、、、、、、、、)って言うのかよ!?」


 遥か彼方、魔術爆撃の続けられている地点より更に後方で、数百の異形ミミズが一斉に現れていた。

 そこから湧き出る異形はもはや、数万数十万という単位。幾万もの赤黒い触腕の絡み合う光景は、悪夢そのもの。


 前回人類がクリフォトを使用するに至った襲撃と同規模、あるいはそれを上回らんとする異形の本格攻勢がその全貌を表したのだ。



 それを見た私は素早く反応した。

 右手に力を込め、相棒たる最強に訊く。


「ミュゼスちゃん、いけるよね?」


『勿論です。最強魔砲の名に偽りはありません』


 それは確認というよりは覚悟だった。

 ミュゼスちゃんに問題などあるはずもなく、真に不安視されるべきは私の方なのだから。


 ……大丈夫。本当に限界ギリギリまで踏み込んで一撃で決めれば、密集している今ならいけるはず。


「距離がある。射程が長くて範囲攻撃出来るやつ」


 端的な私のオーダーに答え、ミュゼスちゃんが変形を始める。

 より長く。より大きく。けれども美術品めいた美しさは失わずに。


形態(モード)、テルプシコラ迫撃砲──三倍起動(トリプルウェイク)


 現れる三本の長砲身。杖を握る手を、スッと上空に向ける。

 目にミュゼスちゃんの砲撃支援照準魔法が映る。擬似的な鷹の目。上空から触腕の海を俯瞰する。


『魔力子加速開始。魔力チャンバー加圧。弾種、広範囲魔力榴弾。長距離迫撃──スタンバイ』


 撃てば恐らく私は気を失うだろう。だから、事前にありとあらゆる設定を済ませておく。

 飛翔経路。着弾地点。地上殲滅用の子弾の分裂地点。

 最強の兵器であるミュゼスちゃんは、それらを事前に指定すれば魔力次第で何だって実現してくれる。


『対象異形の特性を考慮。魔法式の一部を変更します…………完了。命名、特殊貫通魔力榴弾(バンカーバスター)


 ミュゼスちゃんにありったけの魔力を注ぎ込む。視界が暗くなり、脚が震えるが、問題ない。

 ────この一撃で、終わらせる。



 カチリ。と引き金を引くように意識した瞬間──時が淀み、空間が歪んだ。

 時空にさえ影響を及ぼすほどの莫大な魔力が放たれる。


 大気を歪ませ、雲を破壊し、三発の赤い魔力弾が上空へと飛び出した。

 そのまま最高到達点までぐんぐんと上がっていくと、重力に従い、魔力を噴射し、なおもって速い速度で正確に落下していく。


 一発、二発が先に着弾。

 地中で爆発。地面が膨れ上がり、私の立っている地点までもがグラリと揺れた。

 二発のバンカーバスターの起こした衝撃で、異形の出現地点はもはや巨大な鋤で耕したかのような有様だ。既に地上に出ていた異形の群れもその大部分を損傷している。

 奴らにどれだけの思考能力があるのかはわからないが、突如として全体を乱暴にかき混ぜられ混乱しているようにも見えた。


 そこに、上空で幾千もの子弾に分裂した三発目が突き刺さる。

 降り注ぐ魔力榴弾の雨。その一つ一つが半径数十メートル単位で爆発し、残った異形たちを欠片も残さず殲滅していく。


 爆ぜ。光り。灼き。圧倒的な魔力がその存在を蹂躙し上書きする。



「夢でも見るのか、俺は……」


「異形共があんなに簡単に……それに、あの重圧。一体どれだけの魔力が──」


「天使……やっぱり、天使だ……!」


「神罰だ! 神罰の代行者に違いないっ! 見ろ! やはり神は俺達の味方だ!!」


 背後で上がる歓声もろくに耳に入ってこない。もはや私はミュゼスちゃんを杖にして辛うじて立っているだけだ。

 まだだ。まだ、結果を確認するまで、気を失うわけにはいかない。

 気力だけで意識を繋ぎ止める。



 静寂。

 激しく揺さぶられた空気が落ち着きを取り戻し、視界がクリアになる。

 彼方、視程の果てに見える光景は果たして────。



『走査中…………残存反応ゼロ。おめでとうございます、アルファちゃん。初めての防衛戦、大勝利です!』


 ミュゼスちゃんの明るい声と、静止した戦場の景色にひどく安心した私は、そのまま意識を失い崩れ落ちた。


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