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17話「俺達が天使様を奴の近くまで護衛する」


 二日後。

 要塞種が再び動き始めたのを合図に、要塞種迎撃作戦が発令された。

 私もミュゼスちゃんを抱え、第一壁へと向かう。


 ──この作戦で最も重要な点は、可能な限りアルファの魔力を温存した状態で要塞種の下へと送り届けることだ。


 ウェルギリウスさんの言葉が頭に浮かぶ。

 責任は重大だ。たくさんの人が私を支え、その想いを託している。



「……来たか。俺達が天使様を奴の近くまで護衛する。よろしく頼む」


 集合場所では、既に魔術鎧に身を包んだ人達が整列していた。

 完全装備で2mほどにもなる戦士たちが整然と並んでいる様子は、中々の圧巻だ。


「あの時は俺達が一方的に助けられた。今度はこっちの番だ」


「天使様……ああ、天使様……」


「我らには天使がついている! 異形がなんだ! 巨人がなんだ! 戦え、人類のためにぃ!!」


 聞くところによると今回共に行動する彼らは、私が出てきた時にその場所で戦っていた人達がほとんどらしい。

 救われなければ失っていた命だからと、進んで志願したそうだ。


 ……そう、志願だ。今回の作戦で私と共に戦う護衛は──ほぼ生還できない見込みだというのに。



 ドン、ドンというお腹の底に響く大きな音が鳴り始める。

 要塞種の生み出した強化異形の接近に伴い、砲撃が始まったのだ。

 例の赤黒い霧は要塞種の周囲に重点して展開されており、外縁部への攻撃は問題なく通っているようだ。

 爆炎が異形の数を減らしていくが……そのペースは早いとはいえない。相当数が勢いを落とすこと無く接近している。


「始まったか……俺たちも行くぞ! 天使様を中心に陣を組め! 前進ッ!!」


 緩やかに要塞種へ向けて進む。遥か前方では砲火をくぐり抜けた異形たちに、魔導装甲を身に纏う前衛部隊が対処している。

 第三紀(先端魔法)の時代の遺物であるそれは非常に強力で、数メートルはある武器を軽々と振り回し、次々と強化異形を引き裂いていた。 


「翼種が来る────速い!!」


 航空機もかくやというスピードで翼の異形が空を赤黒く染めて接近する。

 前線の魔導砲兵や砲撃型の魔導装甲はとうに迎撃を始めているが……この分だと、相当数が抜けて来るだろう。


「迎撃用意!」


 すぐに私たちの所にも翼種の群れが迫る。数多の影が空を覆い、低空から無数の触腕が振るわれる。

 それに対し戦士たちは、互いに互いを守るようにして触腕を弾き切り払う。

 大盾が触腕を受け止める音と、魔力の込められた矢が射られる音が周囲に満ちる。


「…………魔術障壁、展開準備完了!」


「よぉし! 押し返せッ!」


 私たちの頭上、異形の間に半透明の膜が現れた。

 複数名の魔術師により維持されるそれは、異形の攻撃を完璧に防ぐ。


「今から打ち上げる!!」


 通信担当者が魔石に怒鳴ると同時、膜が勢い良く垂直に打ち上がった。

 当然、群がっていた異形も共に打ち上がる。

 膜の端が捲れて異形を包み込み、翼種たちは空中で大きな暗赤色の球体へと纏められた。


 ──そこに、完璧なタイミングで街からの砲撃が命中する。

 連続した複数の爆発に、魔導砲台からの高出力砲撃。

 まともにこれを受けた異形はひとたまりもなく、その大部分が蒸発。残った一部も彼方へと飛ばされていった。



「本部より連絡! 右翼と左翼の遊撃部隊が、迂回する騎馬種を発見! 交戦状態に入った!」


「予想より早い……仕方ない、少々危険ではあるが前衛との合流を急ぐぞ!」


 強化異形の騎馬種の速度は非常に速く、迅速にこれを抑えなければたちどころに包囲されてしまうだろう。

 現時点では遊撃部隊が抑えているようだが……いつまで保つという保証がない以上作戦遂行を急いだほうがいい。

 前衛と私を含む要塞種攻撃隊を分けた理由は、強化異形と要塞種の攻撃を機動力と防御力のある魔導装甲部隊で見極めるためでもあったのだが、あまり悠長にもしていられないようだ。


『前方の駆逐が充分でないまま背後に輸送種が現れれば、機動力の低い私たちが取り残されて一気に危険になりますが』


 魔法による低空飛翔で高速移動できる魔導装甲と違い、私たちはあくまで生身の人間に毛が生えた程度の機動力しか無い。

 だからこそジリジリと進みながら前衛が道を作るのを待っていたのだけれど、慎重策を取りすぎて作戦自体が崩壊しては元も子もない。

 私たちの取りうる選択は、予定通り待って右翼か左翼が崩壊しないことを祈るか、先を急いで輸送種に挟み撃ちにされないよう祈るかのどちらかだ。


「……いや、行こう。何を選んでも危険なら、一秒でも早くあの巨人を倒すべきだよ」


『そうですか。アルファちゃんがそう言うのならば、ミュゼスちゃんは構いません。ですがお忘れなく、アルファちゃんの死は即ち人類の敗北。いざとなれば躊躇わず一人で逃げ出してください。それだけの能力はあります』



 ミュゼスちゃんの忠告に静かに頷き、そして迅速に前衛との合流を果たそうと足を早めた瞬間。

 はるか後方で土煙が上がり、複数の輸送種が地面から顔を出した。

 少しの間の後、異形を腹から吐き出す前に人類側の魔導砲撃と魔術爆撃が一斉に輸送種たちを叩いた。


『後ろ過ぎましたねえ。前回もそうですが、どうやら輸送種は距離感覚が弱いようです』


 すぐ後ろ、あるいはすぐ前に出現されていたら危なかった。

 もしそうであったのならば、私たちが居る以上安易に遠距離範囲攻撃をするわけにもいかず、苦戦を強いられたことだろう。



 街からの攻撃で抑えたとはいえ、輸送種の襲撃が始まったのは事実だ。

 私たちは予定を変更し可能な限り早く前衛との合流を果たした。

 予定では魔導装甲部隊が矢じりのような陣形で要塞種前方の強化異形たちをかき分け道を作るはずだったのだが、想定外が重なりまだそこまでは至っていなかった。


「おっと、装甲乗りのエース様たちはまだだったか。こりゃ気長に待つしか無いな」


『聞こえているぞ。誰に向かって物を言っている。──総員、魔導炉全力稼働。丁寧なエスコートは必要ないらしい。一気に行くぞ』


 誰かが叩いた軽口に、魔導装甲部隊の隊長が反応する。フオン、という独特な音が大きく響いた。

 異形殲滅のペースが上がる。体感では倍ほどにもなったのではないかというくらいの速度で異形を切り、突き、押している。

 目に見えてぐんぐんと異形たちが押されていき、徐々に要塞種へ向けての道が作られていく。



「──翼種、第二派! さっきより大きいぞ……!」


 視線の彼方で赤黒い雲が蠢いた。即座に迎撃が始まるが……巨体と高度、そしてその身に纏う霧が原因か、明らかに効きが薄い。

 人類の応戦虚しく巨大翼種たちは悠々と私たちの頭上にまで迫る。


 ドン、ドン、ドン、という連続した音。身体に伝わる軽い振動。同時に、近くの数名が崩れ落ちる。

 見ると、先程まで側に居た人が1mほどの巨大な針に貫かれ呻いている。中には当たりどころが悪く、即死している人も居るようだ。

 突然のことに呆然とする私の頭上には、ミュゼスちゃんが張った防御魔法が展開していた。


「針だ! 奴ら肉の針を撃ってきてやがるぞ!」


「魔術鎧を一撃で貫通……!? ありえない、ありえない……っ!!」


「ぼさっとするな! 隊列を立て直せ! 盾を頭上に、防御魔術急げ!」


 一斉に掲げた魔術盾が唸り共鳴し、簡易防護膜が私たちを包んだ。

 だがそれはあくまで簡易なもの。巨大翼種の撃ち出す肉針は軽々とそれを貫通している。


「……こいつは、厳しいな……っ! まだか! 魔術師!」


「後30……いえ、10秒ください!」


 今出来ている対応は、簡易防護膜により僅かに勢いの落ちた針を盾と剣で防ぐのみだ。

 戦闘中の10秒は長い。ほぼ全員がどうにか身を守れているが、それでも運の悪い数名が倒れた。


「障壁、展開っ!!」


 数名の魔術師たちにより魔術障壁が展開され、降り注ぐ肉の針を完全に遮断する。

 半透明の膜に当たり跳ねる様はまるで雨のようで、周囲に突き刺さり続ける針も相まって、景色がどんどんと禍々しく変わっていく。


「隊長……! これは、保ちません……!!」


 打ち続ける肉の針に、瞬く間に障壁がちらつき、歪む。

 圧倒的物量の遠距離攻撃はこれまで人類の経験にない。

 相応に熟達しているはずの魔術師たちが、あっという間に額に脂汗を滲ませ苦悶の表情を浮かべていた。


 勿論その間にも巨大異形への砲撃は続けられているが、その成果は芳しくない。

 前衛の魔導装甲部隊も思わぬ攻撃に苦戦し、押し戻され始めている。

 このままでは要塞種に接近するどころか、5分と経たずに壊滅状態に陥ってしまうだろう。



『いけませんねこれは。……もはやクリフォトを使用して一気に焼き払うか、あるいは……』


「わかってる。お願い、ミュゼスちゃん」


 ここに状況を打破できる私という戦力が居る以上、クリフォトの使用だけはさせない。

 親しくなった人達にこれ以上の犠牲を強いるわけにもいかないし、その巫女であるベアトリーチェにも負担をかけたくない。


形態(モード)、ウラニア対空砲──展開(セット)


 静かにミュゼスちゃんが告げる。

 右手の砲撃杖の形が変化していき、同時に私の魔力()が吸い取られていく。


 照準を空に向ける。蠢く雲。赤黒く染まる空。

 ミュゼスちゃんに魔力を送る。加速。反射。圧縮。莫大な魔力が一点に集中し、魔力砲弾が形成される。


『弾種、高威力対空砲弾。長距離対空砲撃──スタンバイ』


 頭のなかでカチリとトリガーを引く。

 命令は即座に伝達され、魔力砲弾が轟音とともに発射された。


 桃色の魔力弾が時空を突き破りながら一直線に空へと上がっていく。迎撃しようと集中する異形の肉針は問題にもならない。

 そのまま数瞬で予定高度まで到達。そのまま遠隔操作で2、4、8、16と魔力を分割していく。


 回避しようとする動きが見えるが、遅い。

 僅かに体をひねる数体を呑み込みながら魔力弾は最適な位置へと到達し────。


 ────空に、一面の花畑が現れた。


 桃色の魔力はその爆発も同色で。終末の空を焼き尽くし、大地を明るく染め上げて。けれどもその破壊的な暴力を想像させないほどに美しい。


「なんて、きれいな────」


 誰かが呟いた。

 空の脅威はもはや存在しない。私の一撃で全てが消え去った。

 その事実に一瞬誰もが放心し……やがては大きな歓声へと変わっていく。


「ウォォォオオオオオオ!!」


「やったぞ! ざまあみろ!!」


「天使様! 天使様!」


 一気に士気を取り戻した人類は再びペースを上げ、要塞種への道を切り開き始めた。

 向こうの接近もあり、地上の異形たちの密度も大分上がってきているが……私の一撃が引き金となったのか、前衛の魔導装甲部隊も攻撃へと偏重しはじめ、むしろ今まで以上のペースで異形の波を押し返している。


「────はしゃぐな! ……天使様に、アルファに魔力を使わせたのは俺達の落ち度だ。これ以上は許されない 全員気を引き締めろ! 俺達が居るのは何のためだ? 彼女を奴の元へと万全の状態で送り届けるためだろう、違うか!」


「おう、その通りだ! 気合を入れろ!」


「突貫だ! 棒立ちのマヌケは木偶の坊って名乗れよ!」


「天使様の手を、これ以上煩わせはしない……!!」




 前衛部隊がすぐ後ろの私たちと共に深く敵陣へと食い込む。

 視界にはすでに要塞種が入っている。目と鼻の先。あと僅かに異形の群れをかき分けた向こうに、目標が居る。


『魔導装甲はここまでだ。これ以上は街の防衛に支障をきたす。──幸運を』



 短い通信と共に、前衛が割れた。裂け目からどっと飛び出してくる異形を、私の護衛部隊が受け止める。

 あっという間に周囲を異形に囲まれた。此処から先は360度が異形だ。こちらを殺す意思を持った荒海を、ただひたすら一直線に進むことになる。

 愚直にもすぎる作戦であったが、現時点で人類の持ちうる戦力ではこれが最善の等価交換だった。


 無限に強化異形を生み出す怪物を街に近づけるわけにはいかない。

 それを許せば、たとえ私が独力で巨人を倒そうとも全てが手遅れになってしまうだろう。


 だから、私は。

 彼らを盾として消耗しながら────彼らという生贄を消費しながら、私は進むのだ。


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