第9話:どっか飛ばしてもらっちゃうぞ
「“はりじゅう”?どっかで聞いた事が・・・。あー、御堂筋沿いの・・・。えっ、あんなレストランみたいなトコですき焼きですか?隣が肉屋の?」
「おいおい、結城クンの知ってる“はり重”はそこだけなのかい?すまん、聞いた俺が悪かった。“はり重”には、西心斎橋のお座敷があるのさ」
結城は拗ねる処か、びっくりして、
「マジっすか?お座敷・・・。どっかの鍋屋さんかと思ってましたが」
「いやね、悩んだんだよ。最初は大阪天満宮前にある老舗料亭“相生楼”で懐石と思ったんりもしたんだが、若女将に聞いたら残念な事に、今日は予約で一杯だと言うじゃないか。で、急遽、“はり重”に問い合わせてみたのさ。そしたら、たまたま一座敷キャンセルが出たと・・・。慌てて押さえたよ」
食べ物の話になると喜屋武は、生き生きと話す。
結城は疑問を口にした。
「一つ聞いていいですか?いつの間に予約を?」
「気になるかい?俺がキミから離れたのは、関空で歓迎の紙を渡した後だけだぜ、あの間さ。携帯があるんだから、そんなにややこしい問題ではない。むしろややこしかったのは、イヴ捜査官を入国させる方かな。検疫の注射一本ぐらいでガタガタ言うから、結局、これも電話一本で片したんだけどね」
結城は首を傾げ、
《電話って、何処の誰に電話したんだろう?まぁ、聞かない方が身の為か。やっぱり、喜屋武さんは奥が深い・・・》
“はり重”に着いてからは、課長以下がキャサリン捜査官達に挨拶し、宴会になって・・・。
確かに、お座敷で食べたすき焼きはとてつもなく美味かった。
びっくりしたのは1時間程過ぎた頃、君塚本部長がふらっと手土産を持って挨拶に現れた事だ。
本部長を姿を見るなり、同僚の亜紀子は破顔して、
「パパぁ、今日は無理聞いてくれてありがとう~」
「いやいや、いいんだよ。楽しんでくれれば。でも、亜紀子君、皆んなの前では、パパじゃなく本部長でお願い出来るかな」
本部長は亜紀子を嗜めていた。
《そりゃそうだろ。誰だって、部下達の前で愛人に甘えられたくないよな。ましてや、接待の場所だったら尚更だ》
結城は何気に思った。
本部長はキャサリン捜査官達に挨拶をすると、
「私が居ると緊張するから、これにて失礼」
そそくさと行ってしまった。
亜紀子は立ち去る本部長の背中に、
「パパぁ、またご飯行こうね~」
本部長は、おうと言って出て行った。
課長達は亜紀子に注意しようとしないので、結城は亜紀子の側に寄り、
「亜紀子クン、本部長を皆んなが居る前で、パパと呼ぶのはどうかなぁ。本部長も立場ってもんがあるし」
亜紀子は肉を食べる手を止め、
「え~、だって、パパはパパだもん。そんな事言う結城君は、好きじゃないな~、それ以上言うとどっか飛ばしてもらっちゃうぞ。くすっ」