第8話:向かった先は・・・
「そう、それが正解だ。只、これはたまたま都市名が共通の呼び方しているからであって、世の中には日本語と英語で違う言い方をする都市もあるのさ」
「そうなんですか?知らなかった」
「例えば、イタリアのフィレンツェがそうだ。英語だとフローレンスと呼ばれる。花の咲き誇る都だからね。結城クンも、もっともっと色々な事に興味を持ちたまえ。知識はキミを必ず助けるから」
「はぁ・・・、努力します」
結城はため息を吐き、
《あーあ、喜屋武さんと話すると、一定の間隔で凹むんだよな。自分はまだまだだって・・・》
喜屋武は凹んでいる結城を察したのか、
「気にするな結城クン。未熟さを感じて凹むって事は、キミにはまだ伸び代が在るって事だよ。成長出来る、素晴らしいじゃないか」
たまにそうやって、喜屋武は結城を諭す。
「そうだ、結城クン。この紙をキャサリン捜査官に」
喜屋武は、左手でごそこそとジャケットから何やらメモを取り出した。
結城は受け取り、後部座席のキャサリン捜査官に渡した。
もちろん、結城の事を庇うわけではないが、彼は正確なジャパニーズ・イングリッシュで、エクスキューズ・ミーとプリーズはちゃんと言った。
紙に目を通した途端、キャサリン捜査官は、ワオと叫び満面の笑顔になる。
結城は疑問に思い、
「何て書いてあったんですか?喜屋武さん」
喜屋武はフフンと笑い、
「知りたいかい?今から行く場所が書いてあったのさ。さすがにこんなに暗くなっては現場に行けないからね。遠路遥々来阪して頂いたんだ、歓迎会くらいしなくっちゃな。で、今から“すき焼き”を食いに行く」
「YES!Sukiyaki~! (そう!すき焼き~!)」
キャサリン捜査官もご機嫌に叫んだ。
「現地で課長や課の連中、それに九課の飯嶋クンと一課の相原クンも合流予定だ。もっとも、二人は通訳も兼ねてだけどな」
「美保先輩も来るんですか!」
相原美保先輩、捜査一課に居る結城の大学の先輩。
結城に言わせると刑事にしては綺麗なんだが、怒るととてつもなく怖いらしい。
《確かに国際事件を扱う九課じゃないけど、美保先輩は留学経験もあるから英語ペラペラだもんなぁ・・・。通訳は必要だよな》
結城はしみじみ思った。
「で、喜屋武さん、何処ですき焼き食べるんですか?」
結城の問い掛けに、喜屋武はニヤリとして、
「気になるかい?」
「そ、そりゃまぁ、一応・・・。予算もあるし・・・」
「安心したまえ、今日は全額本部持ちだ。結城クン、亜紀子クンに感謝するんだね。彼女が本部長にゴネ・・・、いや、ネゴってくれたんだから」
「うわっ、さすが本部長のコレ!」
結城は思わず左の小指を立てた。
喜屋武さんはため息を吐くと、
「まぁ、ビタ一文出さなくていい。で、だねぇ、行き先は“はり重”だ」